【求む】カオス転生でダークサマナーが就職する方法 作:塵塚怪翁
第32話 異界・菊水霊泉
さて、今回の異界の発生した場所は上流の養老の滝ではなく、今は一般人立入禁止になっている養老神社の境内にある菊水泉の方である。
泉の湧き水を採取するだけなら石段の下に取水場があるが、今は異界化の影響かこちらでは汲む事が出来ないでいる。
現地を見れば判ると思うが、本来なら泉のある池の真ん中に『菊水泉』と書かれた立て札があるはずなのだが、現在は水は全て無くなり黒い渦のような異界の入口がある状態である。
本来ならここの異界は、神社の祭神である菊理媛神とした数柱を戦後のメシア教の封印から解放する事で若返りの水を手に入れるのがガイア連合支部の予定であった。
だが、好事魔多しである。
ガイア連合の関心を買うのを成功した事に嫉妬し腹を立てたある近隣の別地元組織が、妨害と嫌がらせ目的で秘密裏にダークサマナーを雇って呪物の【白蛇石】を異界の中に捨ててこいと命じ、そいつがなまじ有能だった為にボーナス目的で呪物で呼び出した悪魔が想定より強い物に変異した為に今回の事態を引き起こす原因になったのだ。
だからこそ、今の事態になった原因の自分が生まれる元となった死んだ女ダークサマナーを、最奥のボス部屋の戦いの中で【妖精ルサールカ】は罵倒していた。
「あああっ、もう恨むわよ。あの女ぁ!」
「ええいっ! ごちゃごちゃ言わずにそなたも働け!
このままなら道連れにするぞよ? 死ねい、【ブフーラ】じゃ!」
「ちっ、分かったわよ! ええい、【ラクンダ】!」
『嗚呼嗚呼嗚呼』
「被害を受けた人は後退! 左手に隙があるわっ! 前進!」
「「「おうっ!」」」
自分を召喚したここのボスである全身が白一色の女悪魔の命令に舌打ちしながら、前衛代わりの悪霊共を盾にしながらルサールカは異界に攻め寄せている人間たちに範囲妨害魔法を放っていた。
†
隆和たちがボス部屋にたどり着いた時、現地人や転生者にシキガミの混成集団である参加者側と悪魔達の戦況は一進一退という状況になっていた。
その参加者の集団なのだが、シキガミを除くと生え際が気になったり夜の生活で駄目になり始める年頃の男性や、小じわが気になったり婚活市場で見向きされなくなる年頃の女性が大勢を占めているという集団だった。
なのはも気にしているのだろうかという疑問が浮かんだが、隆和は頭を振って消した。
「私は若さを取り戻すのよっ! 【ハマ】!」
「何が『若いほうがいい』よ、あのチャラ男がっ! 【アギ】!」
『ギィギィギィ』『ギャッギャッ』『ギィィ』
「ええい、どけっ。ガキ共! わしは髪を取り戻すんじゃあ! 【薙ぎ払い】!」
「『もう駄目なの?』などともう言わせんぞぉ! 【マハジオ】!」
『嗚呼嗚呼嗚呼』『こ…は我…のも…、【ムド】』
「くっ。イタコの連中が分けてくれないのが悪いのよっ!
悪霊が邪魔っ。施餓鬼米よ!」
「うわっ、危なっ! もうっ、【スクンダ】!」
「ええいっ、貴様らの事情など知ったことかっ!
ここの水は全部、妾のものにするのだ! 【まどろみの渦】!」
そこは異界全体と等しく足元が水浸しになった鍾乳洞の広間で、時々足を取られて転んでいる人が出ているほど濡れて突起物も多い床となっていた。
隆和が戦況を確認すると、ボスらしい髪や肌に着ている着物まで全て白色なのに両目だけが赤い女悪魔と、浮遊した緑色の肌で白いワンピースを着た赤い髪の少女の姿の悪魔、それに大量に湧いて来ている悪霊やガキの群れが邪魔をして近づかせないようにする事で悪魔側がやや有利な状況を作っていた。
隆和のアナライズには、白いのがボスのレベル27【邪竜ハクジョウシ】で赤い髪の娘がレベル18【妖精ルサールカ】と映っており、後はいつもよく見る悪霊やガキ達の群れであった。それを見て取った隆和は、ルサールカの確保を思いついた。
何しろ華門和と「探す」と約束はしたものの、コレという悪魔には隆和は見つけられていなかった。
あの異界に合わせた条件が、【レベルがそこそこで比較的善良な水に関係した悪魔】が望ましいとしていたからだ。それに、一番条件に合致する水場に関係する悪魔のいわゆる『水妖』は、溺死を起源として考えられた者が多いからかとにかく溺れさせて人を喰う性質の悪魔が多すぎるためでもあった。
それだったら、もうマーメイドもいるし水辺で男を誘うくらいなら許容範囲である。
人の肉を喰うのでなく精気を吸い取るタイプまで妥協しないと、いつまでたっても集められないだろう。
そこまで決めた隆和は、広範囲の状態異常魔法で能力差による攻撃が止まり戦線が停滞しかけているその場へ、なのはたちに声を掛けた後に左手に重さ4kgの電子ジャーを持ったまま走り込んだ。
「トモエは、あのほぼ同レベルのハクジョウシを斬るんだ。
火炎弱点で破魔と呪殺は無効、物理耐性はないから存分に殺れ。
なのはは、範囲魔法で悪霊たちを薙ぎ払って皆の撤退の援護を。
カーマは自分の判断で援護だ」
「隆和くんは?」
「あのルサールカをあそこの異界用に確保する。行くぞっ!」
「あ、ちょっと……もう! 【メギドラ】!」
「参ります! 【マハンマ】!」
「おのれっ……くっ」
「【魅了突き】。貴女は邪魔をしないで下さいねー?」
状態異常で進軍の止まった隙に参加者たちを襲おうとしていた前にいた悪霊の群れは、なのはとトモエの範囲魔法で薙ぎ払われて開いたその場所を通って隆和が駆けて行く。それを邪魔しようとしたハクジョウシの動きをカーマが制した。
そして、それを見て思わず逃げようとしたルサールカに、走り込んで来た隆和は大きな声でこう告げた。
「ルサールカ、俺は(異界の労働者として)貴女が欲しい!」
「……え? 私が(恋人として)欲しい!?
……突然、そんな事を言われても……」
「ここで君が死ぬのは駄目だ。
貴女は(人食い悪魔より比較的ちょうど良く)素晴らしいのだから」
「え? (女性的に)素晴らしい?」
「そうだ。
貴女の事を、(今回の件について)もっとよく知りたい」
「……そ、そんなに(女性として)知りたいだなんて、初めてで……」
「いやそもそも、そこのハクジョウシに義理立てする必要があるのか?」
「え? それは……」
ちらっと伺うように、ルサールカはハクジョウシを見る。
思わず、周囲も戦闘を止めて隆和とルサールカに注目している。
はっと気が付いたハクジョウシは眦を上げ指を差して、頬を赤らめているルサールカに怒鳴り返す。
「戦っている最中に何を言っておる!
そなたは妾の配下なのだぞ!
呼び出してやった恩を忘れるのかえ!?」
「俺とここを出て、(次の職場という)新天地へ一緒に行こう? さあ!」
「……あ、私は……」
この異界に入り若返りの水をあわよくば、等と考えていた女ダークサマナーを元にして生まれた彼女である。
今までにこういう経験がなく、まともに男性から口説かれるのに慣れていなかった。
もうひと押しだと思った隆和は、決め顔で近づき逡巡するルサールカに囁いた。
「ルサールカ、(出入りする異界の従業員として)契約して俺のものになってくれ」
「……はい♡」
頬を赤らめたルサールカは、笑顔で隆和が蓋を開けた電子ジャーの中に入って行った。
しっかりと蓋を閉めた隆和は、多少勘違いしているようだがまあ大丈夫だろうと思いハクジョウシに向き直った。
ポカンとしている参加者たち、白い目で隆和を見るなのは、ジリジリとハクジョウシに斬りかかるタイミングを図るトモエ、蹲って下を向き痙攣しながらバンバンと床を叩いているカーマ、目の色と同じくらい顔を紅潮させ叫び出したハクジョウシに隆和は笑顔で告げた。
「お、おの、おのれぇぇっ! 馬鹿にしおってぇぇ!!」
「彼女を呼び出してくれてありがとう。じゃあ、死のうか?」
「隙あり! 【黒点撃】!」
「本当にもう。【コンセントレイト】【フレイダイン】!」
「~~~~~~~~!!!」
「じゃあな。【チャージ】【地獄突き】!」
「今だーーっ! あいつは火炎に弱いぞっ! 【アギ】!」
「【アギ】!」「【マハラギ】!」「アギストーンを喰らえ!」
「ぐおおおっ、こ、こんな殺られ方は嫌じゃーーーーっ!」
攻撃を始めた隆和たちを見た状態異常から回復したり我に返った参加者たちの総攻撃がとどめとなり、ハクジョウシは悲鳴を上げながら消滅し異界の攻略は成功したのだった。
なお、ハクジョウシが消滅するまで、カーマは腹筋地獄から生還してくる事はなかった。
†
さて、その後の事である。
無事にあの後、ここの神社で祀られていた祭神としてのキクリヒメの分霊は解放された。
ただ、残念ながら『若返りの水』としての霊泉の効能は、充分に時間が経って祭神の力が戻ってからでないと効能が発揮できないという結果が出てしまった。
そのため、今回の参加者たちは参加賞の報酬を受け取り肩を落として帰って行ったが、養老神社を守ってきた地元組織は効能の復帰を早めるために継続的にガイア連合から大きな支援が貰えるとなって大喜びだった。
また、今回の件を引き起こす事になった近隣の別組織だが、生前が元ダークサマナーだったルサールカの証言が元になり、裏で煽っていた祭神もろくでもない代物だったので今回で不利益を被った転生者たちに殴り飛ばされ、霊地諸々も買い叩かれて養老神社側の監視下になる結果になったと隆和たちはしばらく経ってから千早から聞かされる事になった。
†
そして、隆和たちに持ち帰られる事になった妖精ルサールカであるが、
「あ゛あ゛~っ。ここは、極楽だわぁ~~」
わりと華門神社の異界での暮らしを自堕落に満喫していた。
最初は思っていたのと違うと憤慨した。しかし、かなり縛りのキツい契約を結ばされ、泣く泣くここで暮らし始めたがその気持ちはどんどん失せていった。
なにせ、異界の管理というノルマはあるが自分たちが住む場所の片付けや掃除のようなもので他にも複数人いるのでそれほど大変ではない、強制されて命じられる事はないのに逆に要望はある程度聞いてくれる、攻めて来られる事も今のところ無い上に何かあったらあのとても強い人間たちが飛んでくる、なによりマグネタイトに不安はないどころか、時々褒美として出される人の食べる甘いものや美味しいものが出ると彼女には魅力的であった。
そのルサールカこと呼びにくいと『ルサルカ』と呼ばれている彼女は、人間たちが持ち込んだビーチチェアと大型パラソルをさして浜辺でマーメイドたちと横になりながらぼけーっとしていた。
異界の中は、初夏の過ごしやすい頃の瀬戸内海を想定した環境のため昼寝にはちょうどいい状態だった。
今日は人間は誰もいないためルサルカはボケッとしながらも、隣で寝ていた先輩のマーメイドのエイプリルに話しかけた。
「ねえ、エイプリル」
「な~に~?」
「海の中、どう?」
「ん~、異常なし?
この間、スイゾクカンてところから持って来た魚を大量に放した時は大変だったけど、もう落ち着いたし」
「結構すごかったもんねぇ。
車とかで運び込めないからって、総出の人力で水槽抱えて運び込んでいたし」
「それがあたしには大仕事だったわけですけど~」
「だけど、こっちは魚が増え過ぎたり、悪魔化しない様に海の中を見張るのも私たちの仕事だよ?」
「それは分かっているわよ。それと、今日の分は終わったの?」
「後は、クリスにお任せで」
それを聞いたルサルカは、プラスチック製のトランプと金属の缶で封をされている焼き菓子の詰め合わせを持ち出すとニヤリと笑ってマーメイドたちに話しかけた。
「勝負しない?
一番勝ったものが、一番多く食べられるの」
「「「乗った!」」」
後でアプサラスやすっ飛んで戻って来たマーメイドのクリスも加わり、トランプ大会は日暮れまで続いていたという。
華門神社の異界は、とても平和であった。
後書きと設定解説
・関係者
名前:魔王ネキ(高橋なのは)
性別:女性
識別:転生者(ガイア連合)・28→29歳
職業:ガイア連合大阪派出所の契約社員
ステータス:レベル26→29・マジック型
耐性:破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:メギドラ(敵全体・大威力の万能属性攻撃)
フレイダイン(敵単体・大威力の核熱属性攻撃)
コンセントレイト(使用後の次の魔法攻撃の威力が一度だけ2倍になる)
万能ハイブースタ(万能属性攻撃のダメージが25%上昇)
魔導の才能(全属性の魔法攻撃力が25%上昇)
三段の賢魔(ステータスの魔が15増加)
大虐殺者(全体およびランダム攻撃スキルで与えるダメージが20%増加)
装備:呪殺無効の金の指輪 new!
魔女のタリスマン(ステータスの魔に+2)
霊木製の魔術師風の杖(鈍器)
ナノハ・バリアジャケット(魔法少女衣装の専用霊装)
詳細:
身長160cm、B:88(E)・W:60・ H:89
隆和の正妻を主張する魔法火力の権化の魔王ネキ
栗色の髪のサイドテールが目立つスタイルの良い家庭的な技能も万全な美女
絡み酒の酒癖とストレスが溜まると魔法をぶっ放す習慣があった
6年以上友人としていたがある契機に思い詰めそのまま恋人に突入した
もういい年なので隆和との結婚等いろいろと予定を立てたいと考えていた
片親の母親は山梨の結界周辺の都市で喫茶店を経営している
名前:ルサルカ
性別:女性
識別:妖精ルサールカ
ステータス:レベル18
耐性:火炎弱点・電撃反射・破魔弱点
スキル:マリンカリン(敵単体・中確率で魅了付与)
タルンダ(敵全体・攻撃力を1段階低下させる)
スクンダ(敵全体・命中、回避率を1段階低下させる)
デカジャ(敵全体・能力上昇効果を消去する)
詳細:
スラヴ神話の水神、または水妖とされる赤い髪の女性悪魔
若くして死んだ花嫁や水難事故で死亡した女性がなるとされる
他人の邪魔をするのが得意な白い服を着た緑の肌の美少女の容姿
・敵対者
【邪竜ハクジョウシ】(ボス)
レベル27 耐性:火炎弱点・氷結耐性・破魔無効・呪殺無効
スキル:ブフーラ(敵単体・中威力の氷結属性攻撃)
夢見針(敵単体・小威力の銃属性攻撃。低確率で睡眠付与)
メディア(味方全体・HP小回復)
まどろみの渦(敵全体・中確率で睡眠、幻惑付与)
詳細:
中国に伝わる物語「西湖三塔記」に登場する白蛇の精の女性悪魔
呪物として良質だった「白蛇石」と周囲の若さへの執念が強い悪魔を呼び出した
この異界の地にある若返りの霊水の独占を狙っている
※ボス補正によりHPとMPは増大し、破魔・呪殺は無効化、状態異常も耐性がある
配下の悪魔は、レベル4~12の【悪霊レギオン】【悪霊ディブク】【幽鬼ガキ】
人間側参加者は、レベル3~20ぐらいまで雑多だったと想定
次は、新しい事件。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。