【求む】カオス転生でダークサマナーが就職する方法 作:塵塚怪翁
※「猿佛村」は「さるぶつむら」と読みます。
第33話 地方巡業・猿佛村 前編
菊水霊泉の異界攻略で若返りの水の入手に失敗して、自棄酒して泥酔したなのはとそのままトモエも一緒にホテルにしけ込んで朝帰りし、隆和が希留耶に事前に連絡しろと説教された日から2週間が経過した。
先日、急ピッチで進んでいた神社の施設工事も終了し、千早たちに招待されて隆和はなのはやトモエと一緒に様子を見に行く事になった。
現状としては、こうなっていた。
表のこちら側で目立つのは、増改築されて立派になった社務所と入口横に建てられた外来者の宿泊用の2階建て10部屋のワンルームアパートだろうか。基本的に、派出所としての受付や事務はこの二つの建物で行なうとの事だ。
そして、奥の本殿を通り抜けた先にある異界の方はこうなっている。
名称は、【華門島(仮)】。
最終的に島の大きさは約500m四方ほどの広さになり、入江と砂浜のある西側に本屋敷と入口のお堂に避難時用のプレハブの長屋が並んでいる。東側は、切り立った高さの山を中心に林が広がっていた。
気候は過ごしやすい初夏の海に近く昼と夜も擬似的にちゃんとあり、天気もランダムで変化するという優れものであった。
現在、この異界に逃げ込む予定なのは、人間側が隆和たちと管理者権限のある華門和と天ヶ崎千早、モリソバこと田中菲都、樫原蔵六翁と神社所属15名の巫女たちがおり、悪魔側はアプサラスとルサルカにマーメイドの4人だと隆和たちは千早に説明された。
これに、常時は異界の林の中を自由に漂っている山林の管理のために千早が手に入れて来た、【地霊スダマ】が2体と【地霊コダマ】の2体が追加される。
昼過ぎになって見学が一通り終わり、本屋敷の広間で休憩を取ることになった。
ガスや水道がないのでルサルカやアプサラスの家になっている裏手の泉から水を汲んで来て、備え付けの薪の竈で沸かした湯で和が入れたお茶を皆で飲んでいた。一息ついた所で、千早が隆和たちに現状について説明を始めた。
「これで説明と見学は大体終わった訳やけど、どないや隆和はん?」
「いや、すごいよ。これだけの物を用意して作り上げるのは並大抵じゃない」
「へへ、褒めてくれてありがとな。隆和はん。
それで、なのははんの方はどうや?」
「確かにすごいの。
わたしだけでは、絶対に無理なの。
でも、ここに逃げ込むかは待って欲しいの」
「どうしてや?」
「希留耶ちゃんの事があるの。
隆和くんは自分用の山梨のシェルターに入れるつもりらしいけど、何処に入るかは希留耶ちゃんの意思で決めた方がいいと思うの。
ここに逃げ込むにしろ、うちの実家で預かるにしろね?」
「そうだな。
それは聞いた方がいいな。
そこまで考えていなかったよ、ごめん。
トモエと和は……そうだな」
二人とも、答えは決まっているので聞かずとも良いという顔で隆和を見ている。
それを隆和が確認して頷くのを見て、千早が話を続ける。
「まあ、そういう訳でな。
ここはまだ出来たばかりで収入が出るようになるのはまだ先や。
そこでな、管理悪魔の収集もやけど、うちが仲介する仕事を隆和はんにお願いしたいんや。
どうやろ?」
「異界の攻略なら望む所だ。なのははどうする?」
「わたしはこの事について希留耶ちゃんに聞いてみるの。
同じ女性の方が話しやすいかもしれないの」
「ああ、そうか。そうだな。
それじゃ、トモエと俺たちだけで行くとするか。
どんな依頼なんだ?」
「それがやな……」
†
それから、今年も暑い夏になった数日後。
隆和たちは、その受けた依頼の場所の山村に新調した中古の軽自動車で向かっていた。
千早から受けた依頼の書類にはこう書かれていた。
場所は、奈良県と和歌山県の県境に近い山奥の集落である『猿佛村』。
現在では村の者は二十戸ほどの村長の一族の人達が暮らしており、本家の【夜刀神家】に付き従って祭神の眠る異界に湧いて溢れ出てくる悪魔達を退治しているという地方にはよくある霊能組織だ。
そこから、組織の人間だけでは対処しきれなくなってきたので誰か送って欲しいとの依頼が来ていた。
内容も、里の者と共に異界の間引きを手伝って欲しいという物だった。
ただし、この依頼は塩漬けになりかかっており、隆和が派遣されるのが三人目だという事だった。
それは何故かというと、依頼主の本家の長が追い返したからだという。
一人目は、ごく一般的な若い転生者だった。
彼の理由は、【俺たちの基準でごく一般的な個人的趣味丸出しの服】を着た女性シキガミを連れていたからだった。
着いて早々に彼は、依頼主と思われる中年男性に生理的嫌悪をあからさまにして彼女を酷く侮辱されたので、憤慨してすぐに引き返し依頼の受領をキャンセルした。
二人目は、少年で正義感の強い人物だった。
彼の理由は、当主のやり方に異議を唱えたからだ。
彼はいざ異界の攻略を始めた時に、地元の人間が一人の少女を追い立てるように一人だけでやらせているのを見たからだった。彼女に同情した彼は当主にやり方を変えるように言ったらしいが、「若僧で余所者のお前に何が判る!」と激しく口論となり激高した末にある程度間引いただけで引き返したそうだ。
その後、彼は支部に村長から届いた『役立たず』と罵る慇懃無礼なクレームを聞き二度と引き受けなかった。
このため、異界は放置できないが対処に困る案件のために隆和に回ってきたのだそうだ。
隆和はこの仕事を受けるために幾つか準備して現地に向かった。
服装は、隆和はいつもの青のツナギの霊装だがトモエは緋袴を履いた巫女服の霊装を着用し、当主対策の品をいくつか携えて向かったのだった。
†
事前に連絡しておいた昼すぎの時刻に、隆和たちは到着した。
歩いている内に眺めた村の中は、棚田と畑が広がる中にまばらに建っている家など山間にある典型的な農村の集落だった。
屋敷近くの空き地を利用したらしい駐車場で車から荷物を持って降りた隆和たちは、屋敷の入口で呼び鈴を押した。そこは本家と言うだけあって、植木屋が出入りするような木も生えた庭があるらしく周りの家よりもかなり大きく塀で囲まれていた。
ビーッと音がして暫く経つと、家の中から農家の作業着の格好をした中年男性が出て来て、ジロジロと眺めた上で隆和に尋ねてきた。
「……見ない顔だが、どちらさんで?」
「依頼を受けて来たガイア連合の者です。
ご当主に面会を希望していたはずですが?」
「ああ、あの都会の。
……まあ、こっちに来な。案内する」
無言で付いてくるトモエと共にその男性に案内されると、応接間らしい広間に通されここで待つように言われその男は去って行った。しばらく座布団に座って待っていると、さっきの男性が付き添うようにして厳ついがやや太った中年男性が現れた。その男は上座に用意された座布団に座ると、ジロジロと隆和とトモエを眺めた後に話しかけて来た。
「……ふん。それで、あんたが今度のやつか?」
「今回の仕事を請ける事になります安倍隆和と言います。
こちらは助手のトモエです。
あと、こちらが紹介状と菓子折りになります。どうぞ」
「ほう。前の連中よりは年齢が上なだけあって礼儀は解っているようだな。
どれどれ。…………ほう、神社庁の方のほうほう」
少しお高めの菓子折りと一緒に渡したのは、神社庁の理事である一条氏に一筆したためて貰った紹介状である。とかく、こういう田舎の名家の人間は、自分の価値観で判る権威を有り難がる傾向があるらしいと千早に聞き、念のために忙しい彼に隆和が無理を言って頼んだものである。一条氏自身は、隆和に恩はあるし悪用はしないと思っていたのですぐに書いてくれたのだが。
そして、先程までとは違い、上機嫌になったこの男には効果があったようである。
「いやいや、あの土御門の血筋の方がいらっしゃるとは!
ようやくまともな人間を寄越すのですからなぁ、全く新参の組織は常識がない。
ああ、名乗りが遅れてすみませんな。夜刀神家の当主の剛造です。
まずは、部屋を用意させますのでそちらで休憩を」
「まあ、そういう事なら。後で異界への案内役を頼みます」
「はい、それはもう重々に。おい!」
「はい」
剛造が付き添っていた男に声を掛けると、その男性は隆和たちに恭しく一礼をすると「ご案内します」と言い隆和たちを客間へと案内していった。
隆和たちが離れるのを確認すると、剛造は室外に声を掛けた。
「おい、華。いるか?」
「ここにいます」
返事があって襖が開くと、ポニーテールをした若い娘が反対側の廊下で正座をして座っていた。
彼女は一礼すると、恐る恐る剛造に話しかけた。
「何でしょう、お父様」
「華。お前が彼をご案内しろ。
お前の仕事を見てくださるんだ。粗相の無いようにしろよ?
実力の程を確かめて報告するんだ。いいな?」
「……分かりました」
「いいか。お前のような化け物の娘を今まで飼ってやっていたんだ。
上手くやれよ?」
「はい」
「愚図愚図するな! さっさと行け!」
一礼した彼女が部屋を出ていくのを見て、剛造が仏壇に視線をやりポツリともらした。
「まったく、あいつもあいつだ。
あんな誰の種とも知れない化け物を産んでくたばるんだからな」
†
隆和たちが案内されたのは、庭の横にある離れの一室だった。
周りに人が居ないのを確認すると、トモエは隆和に尋ねた。
「主様。何故、このような面倒な手続きを踏んでまで下手に出るんです?」
「余計な面倒を避けるためだよ。
拝み屋やってた頃をコレットの記憶で思い出してごらんよ。
ああいう連中は、自分の価値観で立場が下だと判断すると七面倒じゃないか」
「……ああ、いましたねぇ。
本物だったのを除霊したのに、『そんなモノは居なかった』って報酬ゴネた人。
地主だか知りませんけど、『詐欺師の拝み屋風情が生意気に』とか」
「俺は【ジャイブトーク】で、普通は会話不能な幽霊とでも話せるからな。
背中に憑いていた女に話を聞いて、質問した時のあの顔は今でも傑作だよ」
「あれは可笑しかったですね。
結局、捕まったんでしたっけ? あの男」
「ああ。
彼女、あいつに殺されていたんで遺体の場所を聞いて匿名の通報でね」
話題の男は、痴情のもつれの殺人がバレて懲役刑になり今は塀の中である。
そう歓談していた隆和たちに、外から女性の声が掛けられた。
「すみませんが、入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「失礼します」
そう答えると、若い少女と言ってもいい年齢の女性が室内に入って来た。
一礼した彼女は、隆和たちにこう告げた。
「初めまして、私はこの家で異界の駆逐を任されています【夜刀神華】と申します。
案内役も勤めさせて頂きますのでよろしくお願いします」
そう告げる彼女の瞳は、蛇のように細長い縦の瞳孔と金色に光っていた。
後書きと設定解説
・異界
名称:華門島(仮)
大きさ:約500m四方の島と周囲を囲む海
(東京ネズミーランドとほぼ大きさの島)
形状:西側に入江の砂浜と平野部
東側は切り立った標高の高い山と林
周囲は入江以外は砂浜は無く林になっている
気候:初夏の瀬戸内海とほぼ同じ想定・天気変化ランダム・昼夜あり
建築物:厳◯神社風の主屋敷と出入り口のお堂
異界避難時用プレハブ長屋
※ガス・水道は無く、電気は小型発電機のみ
※煮炊きと明かりは主に薪の竈とランプ使用
次は、後編。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。