【求む】カオス転生でダークサマナーが就職する方法 作:塵塚怪翁
第47話 異界? 大阪梅田地下街
「だから、この子たちが泣いてしまうのは、隆和の抱き上げ方に問題があるの。
こうやって片腕で頭を支えるようにして、もう片方はこう持つの」
「こうかな?
……うーん、なのはの抱き上げ方なら自信があるんだがなぁ」
「もう! 恥ずかしい事を言っていないでちゃんとして欲しいの。
お父さんなんだから」
「ああ、それは分かっているよ」
「隆和さま。花蓮も抱き上げて下さい」
「隆和さん。悟もですよ?」
『次のニュースです。
先日起きたエジプトにおける反政府武装組織による大規模なテロは、非常に大きなものであった事が公開された写真から少しずつ判明してきました。
世界的に有名な遺跡であるギザのピラミットやスフィンクス像が倒壊しており、近隣の都市においては毒ガス兵器の使用も確認された為に現地への出入りが禁止されており、被害者の総数や被害総額も判明していません。
この件に際して、アメリカ合衆国大統領は国連の安保理において「テロによる大量破壊兵器の使用は許されない」と演説しており……』
あの襲撃からしばらく経ち、年の瀬もすぐ近くとなった。
子どもたちと母親の定期検診から帰り隆和たちが神社内の屋敷で夕食を取っている時に、テレビでは連日のように中東で起きた事を盛大にほぼ全部のチャンネルで伝えていた。
表向きには“エジプトにおける反政府武装組織による大規模なテロ”とされているが、現地組織の支援や原油取引の商社関連で現地に赴いていた少数のガイア連合関係者によれば、メシア教と多神連合の激突はそれ以上に悲惨な状況らしいと掲示板にも情報が上げられていた。
ただ、『メシア教の新兵器』や『現地の連中がやらかした』などのいろいろな情報が飛び交うので、情報の精査のために山梨支部の上の方から年明けまで箝口令が敷かれ情報の収集を進めていると発表があって過熱ぶりは一時の収まりを見せていた。
これが終末の引き金になるのではと危惧して山梨支部で情報を集めていた千早も、すでにこちらに戻っていてその夕食後の席で分かった事を皆に改めて報告していた。
「襲撃を受けたからと聞いて慌てて戻ってきたら、こないな事になっとるとは驚いたわ。
でも、皆に被害が無くて安心したわ」
「千早もご苦労さま。
戻って来て早々に調査の方に協力もしてくれたみたいで、大阪府警のオカルト担当の人も感謝していたな」
「こういう事はうちの担当やさかい、ええんや。
子どもたちも問題ないみたいで安心やで。
中東の方も大混乱らしいわ」
「とりあえず、分かった事だけでも教えてくれないか?
子どもたちに聞かせるような話題じゃなければいいんだが」
その言葉を聞いた吉澤加奈と華門和が、自分の娘の桃子と食後のお茶を用意していたお付きのじゅりとまゆらに声を掛けた。
「桃子。
悟をお風呂に連れて行くから部屋の用意をしておいて」
「はーい。それじゃ、華ちゃんも行こう?」
「うん、分かった。
それじゃ、先生お休みなさい」
「じゅり、まゆら、子どもたちの入浴をするので手伝って下さい」
「「はい、和さま」」
「隆和さま、千早様、なのは様。
子どもたちはこちらで見ますので、話し合いの方をお続け下さい」
ばたばたと子どもたちを連れて皆が部屋を後にするのを見てテレビを消した隆和は、頭を仕事用に切り替えると同じように真面目な顔になったなのはと共に千早に話の続きを尋ねた。
「気を利かせて貰ったようだなぁ」
「最近、彼女も子供が出来てから神社の代表としての自信も付いてきたみたいなの。
会った当初はお人形みたいだったのに、千早に影響されてからどんどん変わったの」
「なのははん。
和はんはうちが教育したんやし、ええ方向になるに決まっとるんやで。
まあ、せっかくやし『うちら』だけには話しておくようにした方がええ内容やしな」
「それで、何があったんだ?」
「詳細は本当に判ってへんのよ。
遠方から監視していた人によると、前線のその場にいた連中は敵味方関係なく突然倒れてそれから溢れるように現れたミイラの大群に飲み込まれてしまったという事なんや。
そしてミイラが消えると、一緒にそこにいた人たちの遺体もその場から消えてしまったんよ。
その後はアメリカ軍がやって来て現場を封鎖したから、見ていた人も引き上げた言うんよ」
「たぶん、最初は呪殺のようだけど、ミイラが何なのか解らないな」
「…ミイラって、エジプトにしかいない悪魔だよね?
ゲームだと、高レベルのアンデッドなの」
「それやと、エジプトの神さんたちが何かやらかしたんかな?」
うーんと3人で考え込むも情報が足りなくて、やはり彼らには分からなかった。
考え込むのは諦めた隆和は、彼女らに声を掛けた。
「近いうちに山梨の方から掲示板に発表があるだろうし、とりあえずそれを待とう。
どうもこれで核ミサイルがどうこうにはならなさそうだし」
「そうやね。
これ以上うちらが考えても意味が無さそうや。
ああ、そうや。
隆和はんを指名して仕事の依頼が来とるで?」
「仕事?」
「数日後のクリスマスにやる毎年恒例の例の仕事や。
『去年は休んだのだから今年は出ろ』て、ウシジマはんからも言伝あるで」
「いや、皆と過ごしたかったんだがなぁ」
「それなら久しぶりやし、代わりに今日はうちとなのははんを可愛がってや?」
「え!?」
「よし、それなら異界の中に行くの」
「あの、ちょっと!?」
隆和はそう言って意気投合したなのはと千早に両腕を同時に両脇から組まれ、傍に控えていたトモエに先導されながらそのまま異界の入り口である本殿の中へと消えて行った。
†
そして、数日後のクリスマスイブの夜になった。
隆和はいつもの作業着の霊装の姿で、一人だけでネオンが消えて人の気配が消えた指定された現場に立っていた。
そこは、白い大理石のようなヨーロッパの観光地にあるような噴水のある泉が広場に設置されている大阪の地下街の一角、待ち合わせ場所としても有名な『泉の広場』であった。
『大阪梅田地下街』。
そこは大阪を代表する繁華街である梅田に位置する地下街であり、他の2つの地下街にも直結している上に隣接ビル地下にある商業施設群と、曽根崎通り以南の四つ橋筋の地下にある地下街とも他の地下道を介して結合しており、それらも合わせて日本有数の規模の地下街を形成している。
その規模は東西南北に数キロの広さがあり、延床面積は5万平方メートル以上で地下三階層、店舗数は二百以上、最寄りの沿線駅は六個ほどもある1日に利用する人数は数十万を数える地元の人も迷う大きさだ。
地元の人間も迷うのには理由がある。曰く、
『歩いていると、いつの間にか地下1階のつもりが2階や3階だった』
『分岐が直角でないため、2~3回曲がると方向が分からなくなる』
『数ヶ月ごとのリニューアルで、通路が増えたり消えたりする』
『駅名が統一されておらず、最寄りに大阪と梅田駅が複数ある』
『どの改札口から出るかで、全く違う場所や行き先に出る』
『あるエスカレーターに何気なく乗ると、地上2階から地下1階に直行する』
などなど、このような大きさと複雑さからテレビや雑誌により全国的にも【梅田地下ダンジョン】としても有名になっているが、この有名になった事が梅田に建設された関西支部の足元に問題を産む事になる原因となった。
通常であるならジュネスを建造する事により、一帯の地脈の安定化と異界や悪魔の発生を防止する強固な結界が出来て付近の霊的な安全は担保されるのだが、梅田の場合は有名になった事で全国からも大勢の人の「何か出るんじゃないか?」というそれらの感情や関心がマグネタイトとなって、かえって地下の結界の隙間を縫うようにして悪魔が発生しやすくなる悪循環を産むという問題となっていた。
そこで関西支部では定期的に広大な地下街の【異界偵察】を行っているのだが、年に数回はお盆などの特定の期間は人の出入りが増えて特に異界まで発生しやすくなっているために、閉店後の地下街を始発の時間まで大勢を動員して徹底的に【魔虫】を祓う霊的清掃をするのが毎年恒例の仕事となっている。
そして、今日はテレビでは山下達郎や広瀬香美の歌が流れる恋人が寄り添うCMがたくさん流れているクリスマスである。
だからこそ、こういう悪魔の出現もあり得るのである。
「り~あ~じゅう~、死~す~べ~し!」
そこに現れたのは、赤いブラウスを着た黒のロングヘアをざんばら髪にした美女であった。
現れた彼女は自分の思いの丈を述べると、思ったより真っ暗な事に気づいて白目のない黒一色の瞳でキョロキョロと周囲を見回した。
そして、広場の隅に隆和が立っているのを見ると悲鳴を上げた。
「よう、アキちゃん」
「ぎゃああああっ! 去年はいなかったのに何でいるのぉ!?」
「去年は嫁さんたちと仲良くしていたからなぁ」
「お前もリア充だったのかっ! …おい、待て。『達』って何だ?」
「ああ俺、嫁さんが複数いて子どもも生まれたんだ。
幸せだぞ、家族が出来るって。
お前さんもこんな事はもう辞めて成仏したら?」
「きいぃぃぃっ! うるせぇぇぇっ!」
「本当にお前さんも変なふうになったよなぁ」
大阪には、梅田の地下街の『泉の広場』には人を憑り殺す赤い服の女が出現するという都市伝説がある。
広場でその女と目が合うと動けなくされてそのまま殺されると言われ、その女の正体は男に振られて自殺した女性ともされている内容だった。実際、その噂から誕生した彼女はレベル10にもなる強さの怪異として多くの犠牲者を出す悪魔であり、地下街に異界を作り出すボス悪魔の最有力候補でもあった。
しかし、ガイア連合の関西支部が作られてジュネス建造による結界の始動により、某駅前ホテルの308号室の幽霊が消えたように彼女も変容した。
始動直後に結界の圧力で身動きできない所を狩られて以降、ほぼ毎年復活しては結界に潰されたり標的として狩られる事を繰り返しているうちに、男なら誰彼構わず襲う通り魔からカップルの男性を嫉妬から襲おうとする変な怪異へと劣化しながら変貌していた。
そして前に数度、どこぞの女郎蜘蛛のように快楽に蕩けた顔を大勢に晒しながら倒された経験を持つ彼女からとても恐れられていた隆和は、ジリジリと外への出口側へと回り込みながら彼女に話しかけた。
「復活するたびに狩りに来るお前らもお前らだ!
お前がいなかった去年なんか、筋肉の集団に襲われたんだぞ!」
「ああ、関西支部長の仲間の【シックスバッグレディーズ】の人たちか。
筋肉の腹筋と女性用バッグのブランドの名前を掛けているらしいなぁ。
そういや、レスラーニキたちも他の場所で新人の引率をしているぞ」
「やめろっ! 呼ぶなよっ!
あっ、今年もまたお前ら、私を狩るつもりかっ!?」
「人を襲うのを辞めないのが悪い。じゃあ、恒例の選択肢だ。
対策済みの新人の彼らに倒されるか、前みたいに俺に倒されるか選んでくれ。さあ!」
「あんな顔で倒されるのは、もう嫌ぁぁぁっ!」
そう叫ぶと【怪異アカイフクノオンナ】は、悲鳴と共に地下街の通路の奥の方へと駆け出して行った。
隆和も途中の分かれ道に待機していたトモエやカーマと落ち合うと、その後を追うように彼女を追う勢子の役目を果たすべく通路の方へと小走りで走り出した。
†
「【ハマ】! よっし、MVPゲット!!」
「あああっ! リア充共に災いあれーっ、がはっ!」
そして、数時間後の明け方近くまで地下街を逃げ回った赤い服の彼女は、無事に地下街を探索中だった新人たちによって討伐された。
それを見届けて帰ろうと支度を始めた隆和に、いい感じに走り回って湯気を出しているレスラーニキが話しかけてきた。
「おう、お疲れさん。アーッニキ、ご苦労さんだったな」
「ああ、レスラーニキ。そっちも大変だったようだな」
「うむ。年々、地下街のあちこちでも【瘴気】が濃い場所が増えとるからなぁ。
このままなら2、3ヶ月に一度の割合も増やした方がいいかもしれん」
「新人の研修にはちょうどいいんだけどな。
それと、赤い服のアキちゃん、レベル6まで劣化していたが次の復活はあると思うか?」
「徐々に結界の方も強化が進んでいるから、今回か次で終わりだろうな。
ああ、そうそう。今回の報酬を渡しておくぞ」
そう言うと、レスラーニキはカバンからある品物を取り出した。
それは、赤い激しく怒った男を象った木製の仮面であった。
「レスラーニキ、それは?」
「ああ、今日はクリスマスだろう?
これは【嫉妬する者たちのマスク】と言ってな。
特に効果はないが、防具としての頑丈さは一級品だぞ。ほら」
「ああ、ありがとう。
これって、白いプロレスマスクだったような気がするんだが?」
「それは今、雑誌で連載中の元ネタの方だな。
とにかく、子どもも生まれたばかりなのに呼び出して済まなかったな」
「いいや、いいさ。
これから帰って仮眠したら、家族と過ごすさ。
じゃあ、良いお年をってな」
「ああ、またな。アーッニキ」
そう言ってレスラーニキと別れ仮面をカバンにしまった隆和は、ジュネスに寄ってクリスマスケーキとトモエが注文していた特製霊薬の【ライジング・レッドマムシ】を買うと帰路についたのだった。
後書きと設定解説
・アイテム
【嫉妬する者たちのマスク】
赤い怒れる男の顔を象った木製の仮面
特に効果はないが、頑丈さだけは超級の逸品
試しに砕こうとしたショタオジが少し本気を出すのが必要なほどだった
・敵対者
【怪異アカイフクノオンナ】
レベル6 耐性:破魔弱点・呪殺耐性
スキル:パララアイ(敵単体・中確率で緊縛付与)
デスタッチ(敵単体・小威力の万能属性のHP吸収)
詳細:
梅田駅地下街の『泉の広場』に出没するという噂のある女性の姿の怪異
男性を襲ってその生命を吸い取る赤い服の女という都市伝説が生まれ
昔の容姿は、流行の赤い服を着て黒色だけの目をした黒のロングヘアの美女
今の容姿は、ボサボサ髪で洗濯もしてない赤い服の化粧もしてない喪女
名前は「アキ」とも言われているが本人も憶えていない
自分は過去、新宿駅や横浜駅でも迷いましたので梅田には行きたくないです。
次回は、近いうちに。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。