【求む】カオス転生でダークサマナーが就職する方法 作:塵塚怪翁
第52話 岸辺奏多
「先生、起きて。お願いがあるんだ」
「……ん? 華か、どうした? 支度するから少し待ってくれ」
淀神社からの依頼を果たした翌々日の朝。
前日まで後始末に協力し家に戻ってぐっすりと眠っていた隆和は、起きてすぐに夜刀神華に神社の社務所にある応接室に連れて来られていた。そこには華と同じくらいの年齢の男の子のような髪型の少女が倉庫の予備の巫女服を着て不安げに座っており、向かいには天ヶ崎千早がトモエと共に座っていた。
隆和たちが入って来たのを見ると千早がこちらに座るように手招きし、隆和がもう一つのソファに華がその少女の横に座ると彼女らに向けて話し始めた。
「さて、隆和はんも来たし貴女もここに泊まって疲れも取れたやろ?
もう一度、隆和はんに初めから話てもらえへんか?」
「先生、この子と一緒に戦って友だちになれたんだ。助けてあげて」
「僕と友達を助けてください。お願いします!」
「とりあえず、まずは詳しい話を聞かせてくれないか?」
「はい。僕の名前は【岸辺奏多】です。
最初は友だちと一緒に始めたゲームが原因だったんです」
彼女が語るには、最初の切っ掛けは友人である『姫川沙雪』と始めた携帯のアプリゲーが始まりだった。
そのゲームの名前は、『ヒロインズバトル~神々の黄昏』。
ダウンロード販売が今年の初めに始まったばかりのアプリで、内容はありがちなパズルRPGで主人公は現代に生きる普通の女の子が女神から加護を貰い異次元から来る侵略者の悪魔を倒す魔法少女物だという。ドット絵ながら主人公の姿をいくつもカスタマイズが可能で、彼女はお小遣いが足りなかったが課金をすればいろいろなアイテムが貰える仕組みらしい。
ストーリーは主人公の魔法少女ヒロインになって魔物を退治する現代ファンタジーで、女神マリアの加護により変身し異次元の侵略者『悪魔王デーモン』を最終的に打倒し願いを叶えるのが目的となっている。
彼女たちはゲーム内の通信対戦や攻略の競争でよく遊んでいたのだと奏多は語った。
「その日、僕は彼女の家で一緒に遊んでいたんです。
彼女は僕よりも先に始めたおかげで、最後のボスの所まで進めていたんです。
そして、何とか彼女は最高評価でボスを倒してエンディングになったんですけど、最後に女神様にこう聞かれたんです。
『この世界を救う新しい聖女となってみませんか?』って。
彼女が『はい』とボタンを押した途端、画面が光って意識を失って倒れたんです」
「それでその子はどうしたんだい?」
「沙雪は意識が戻らないまま病院に運ばれて入院したままです。
どうしてそうなったか判らなくて、お医者さんたちも困っているみたいなんです。
でも、僕にはあのゲームが原因だとしか思えなくて。
病院のロビーで僕も試してみましたけど、何も起こらなくてそのまま終わってしまって。
何度も何度も繰り返して、最後のボスを倒した時に僕にもあの選択肢が出たんです」
「それで貴女も『はい』と入れてみた。そうやね?」
「はい。
入れた途端、画面が光ってどこかに吸い寄せられるような感覚がしたんです。
でも、このままじゃいけないと何故かそう思って抵抗していたら気を失いました。
気がついた時には病室のベッドでした。
そして、看護師のおばちゃんにこう聞かれたんです。
『お嬢ちゃん、名前は何て言うんだい?』って」
「…? 女の子だよね、君?」
「今はこうですけど、僕は男でしたよ」
「んん?」
とても困った顔でこう答えた彼女に、隆和は固まってしまった。
†
一旦、昼食をと言うことになり、隆和は千早やトモエと共になのはの作った残りご飯の炒飯で4人で食事を取っていた。
この場にはいない奏多と名乗る少女は、華と共に吉沢加奈や華門和がいる敷地内の屋敷で子どもたちと一緒に昼食を食べているようだ。
食事が終わると、4人は彼女の事をどうするかで話しあいを始めた。
「なあ、なのは。
あの【TS魔人ニキ】のように手術を受けたわけでもないのに、性別が変わるなんて事がそうそうに起こるものかな?」
「覚醒した結果、悪魔の姿に変わる人は見たことがあるからそれだと思うの。
わたしが知ってる『ピチピチギャルになりたい』が口癖だった中年男性は、ショタオジの覚醒訓練で覚醒した時にリリムの姿になって大喜びしていたの」
「…その人、今は?」
「山梨でリリムの姿のままで青春を謳歌しているはずなの」
「そんな極端な人と一緒にするのは可哀想や、なのははん。
樫原はんやファレンガーはんも、悪魔変身能力者やないかと見ているわ。
たぶん、覚醒した際に今の姿のままになったんやないかちゅう見立てや」
「それで彼女はどうやって華と知り合ったんだ?」
「淀神社からいくつか仕事を受けたやんか。
彼女はその時に金を稼ぐために松平総司郎っちゅう馬鹿に護衛役として雇われたらしいんや。
それで仕事先で華ちゃんと協力して切り抜けたのが出会いやと言っとったで。
まあ、あの馬鹿の仕出かした事についてはウシジマはんにも連絡をして追い詰めるつもりや」
千早が関西支部から取り寄せた資料と彼女から聞き出した話によると、『岸辺奏多』についてはこうであった。
『彼』は大阪の一般家庭の子に生まれ、霊能としての血筋に関しては調査の時間が不足して不明。
中学2年生の彼が女性化したのが、約2ヶ月前。
この一件において、元より両親が共働きで親子の仲が希薄だった事が災いして女性化による自己の証明を失敗。
両親や警察に事の経緯を説明するも一笑に付されて、警察により児童福祉施設に送致。
そこの施設長に懇意でよく出入りするメシア教の神父に強い危機感を抱き、脱走。
市井の異能者からガイア連合の事を聞き助けを求めるも、誰かの紹介も無ければ依頼のためのお金も無いために頓挫。
そこを件の馬鹿男に高額の報酬を提示されて雇われたのが現在までの経歴になる。
「彼女が逃げ出したんは、正解やと思うわ。
資料によると、この辺の警察の本部長クラスはメシア教の接待漬けでズブズブなんやと。
さらに、この辺のそういう施設はたいていメシア教の紐付きやからね。
よくその施設に出入りしているのも大阪の教会の神父やて。
ほら、隆和はんも会った事がある『賀来』て名前の神父らしいで?」
「その賀来神父の動きは?」
「あの神父、各地の施設で有能な子どもをスカウトするのが仕事みたいなんや。
例の『勇者くん』もその時に【保護】したみたいや。
ほんで、全国を飛び回っているせいか詳しい行方は判っとらんそうや。
それで隆和はん、あの子も助けるん?」
「『袖すり合うも他生の縁』と言うしな、助けよう。
このまま彼女を放り出す訳にもいかないしな。
何より、あのメシア教が絡んでいる一件なら無視は不味い気がする」
「分かったわ。
ほな、うちは彼女らを置いて逃げた馬鹿の始末もあるからウシジマはんのところに行くわ。
あの子の事も伝えてくるから、何か他に判ったら連絡してや?」
「ああ、そっちは頼む」
「それじゃ、あの子を呼んでくるの」
千早となのはが席を立ち、側で静かに片付けをしていたトモエも食器類を持ち部屋を出て行った。
しばらくして、なのはに連れられて華と不安げな表情の奏多が部屋に入って来た。
期待の眼差しでこちらを見る華の頭を撫でると、隆和は彼女にこう答えた。
「あの……」
「岸辺さんだったね?
ここの皆で助ける事にするから、安心していいよ」
「ほらね? 先生は私の事も助け出してくれたんだよ。
強くて優しい先生なら、奏多だって助けてくれるんだよ!」
「うん、うん。ありがとうございます」
「ただし、……」
ポロポロと泣き始めた彼女に、隆和はニコニコと笑顔のなのはの顔を見てからこう続ける。
「ただし?」
「この件が解決するまではここで暮らしなさい。
今のままだと泊まる場所や替えの服とかいろいろ困るだろう?
戸籍とか親御さんとの事もいろいろある。
その辺も含めて今後もうちの華と友だちになって、一緒にいてやってくれ」
「はい!」
「やった! これからもよろしくね、奏多!」
「うん。いろいろとよろしくね?」
「それじゃまずは服と下着を買いに行くの。
あの着た切り雀みたいなボロボロの服は処分するから。
さ、早速行くの」
「ええ~!」
二人に引っ張られる形で部屋を出て行く彼女を見送ると、隆和も動き出すべく準備をするために部屋を出て行った。
†
『ヒロインズバトル~神々の黄昏』
今年の初めにダウンロードが開始され、関東ローカルテレビ局の『極亜(きょくあ)テレビ』を中心にCMも流されて現在までに総ダウンロード数がもうすぐで8桁に達するそこそこ人気のあるソフトとなっている。
ただ、ガイア連合のメンバーや一部のオタクからはシステムとキャラはなかなかいいが、ストーリーがメシア教に忖度している部分が多くて遊ぶ気になれないと酷評されていた。
千早が調査したところ、開発した会社は尼崎市のビジネス街にあるビルに事務所を構える新進企業の『テウ・ゲームス』であり、メインバンクは大阪の『極亜信用組合』で会社のホームページの協賛団体には『ウーマンライツ・ナウ』の名前が記されていた。
その団体は、しつこく嫌がらせを続ける千早が最も疎んでいる相手である幸原みずきが代表を務めている団体である。
その事でも千早は、関西支部で副支部長のウシジマニキと話し合っていた。
「松平とか言うあの男の処分はこれでええとして、こっちの件なんやけど…」
「お嬢、その二人が組んでいるとすると厄介なトラブルにしかならないと思うぞ。
幸原みずきもそうだが、極亜信用組合の社長の『金上金作』も碌でもないやつだ。
父親の会社の『金上建設』を、船事故で両親と兄弟を死なせて乗っ取ったという噂がある。
それに、俺が隆和と組んで仕事をしていた頃から佐川の親父も警戒していた」
「ほなら、両方とも排除してもええような連中なんやね?
ええ加減、あの女がこちらに絡んで来るのにも我慢の限界やったんや。
そこで、藤野はんにも連絡してまずやって欲しい事があるんやけど」
「お嬢、具体的には?」
千早はニッコリと笑うと、その説明を始めた。
†
翌月の月末、急遽、『ヒロインズバトル~神々の黄昏』の販売が停止される事態となった。
日本でも有数の企業グループであるガイアグループから、このソフトが強く発光する演出がありそれによって緊急搬送された人物が複数いるとの発表があったからだが、こうして政府の動きが早いのも、少し前に某テレビアニメで一部視聴者が光過敏性発作等を起こし救急搬送された放送事故があったのも関係していた。
新聞や週刊誌のみならずテレビのワイドショーでも格好の話題だと飛びつかれた事で、被害者だと思われる少女たちが全国で4桁に届く人数がいると報道されて政府の有識者会議が招集されていた。
急遽出された業務停止命令では、このアプリが関係して緊急搬送された人物が複数確認されたために安全が確認されるまで販売を停止し改善を要求するとの事だった。
これはこのソフトの拡散をとにかく止めようと、千早の提案で関西支部や藤野を通して富豪や政治家の俺たちから働きかけをしてもらった成果であった。
そして、この結果に激怒する事になる人物がいた。
『いいか!
とにかく我々は被害者であり、ガイアグループが虚偽の報告をしたおかげで我々は損害を被っているとだけ連中には伝えろ!
原因は何とかしないのか、だと!?
馬鹿野郎、余計な意見はするな!
あれのプログラムは大事なこの計画の出資者から渡されたものだ!
俺はこれから出資者の方と協議してくる。
とにかくその事だけを連中には言い続けろ!』
それだけを言い残して消えた金上に対応を丸投げされた各会社の重役たちは、何とかしてくれと一人の人物に縋り付いていた。各企業の顧問弁護士をしていて、それぞれの企業から団体に多額の寄付を受けていた事態から逃げ遅れた幸原みずきにである。
四六時中鳴り響く電話と来客に追われて追い詰められていた彼女のもとに、関西支部の内部から金と引き換えに彼女に情報を流していた男から連絡があった。
『よう。ひどい目に合っていると聞いたぞ?』
「何っ!? 今は忙しいんだけど!?」
『用件は簡単だ。
情報を流すのはこれで最後にするからお別れだ』
「どういう事!?」
『このアルバイトの事が身内の黒札様にバレて追放されんだよ。
それと、今のあんたのこの一件、言い出したのはあんたを追い出したあの女だとよ。
今までそれなりに貰えたからな。じゃあな』
言うだけ言って切れた通話に呆然としていた彼女は込み上げる怒りに受話器を叩きつけると、ヒステリックに叫んだ。
「あの女、あの女、あのクソ女ァァァッ!
どこまで私の将来の邪魔をすればいいと思っているのよっ!
あんたみたいな女は、私のようなエリートに頭を下げていればいいのよっ!
いいわ。直接、話をつけてやろうじゃないっ!」
「所長! これからまだ来客が……」
「うるさいっ!
少し出掛けてくるから、ここは貴女が何とかしなさい!」
そう言うと彼女は上着とバッグを取り、事務所の奥の金庫の中にあった札を貼られた古い木の箱をバッグに入れると事務所を出て自分の車で出発した。
そして、華門神社の正門から車のままで敷地内の参道まで乗り入れると、車を降りてこう叫んだ。
「天ヶ崎千早をさっさと出しなさいっ!
私が話をしにやって来てあげたんだからさっさとしなさいっ!」
後書きと設定解説
・関係者
名前:岸辺奏多(きしべかなた)
性別:男性→女性
識別:異能者(悪魔変身者)・14歳
職業:中学2年生
ステータス:レベル15・アタック型
耐性:氷結弱点・破魔無効・毒無効・魅了耐性
スキル:限定的悪魔召喚(両手持ちの大剣)
渾身の一撃(敵単体・中威力の物理攻撃・必ずクリティカルする)
火龍撃(敵単体・力依存の中威力の火炎属性攻撃)
薙ぎ払い(敵全体・小威力の物理攻撃)
詳細:
ゲーム「ヒロインズバトル」で覚醒して男に戻れなくなった中学生
意識不明になった親友の少女を助けるためにこうなった
胸と尻の大きいスタイル抜群の美少女に変わり困惑している
変身先が悪魔の「邪竜ヴィーヴィル」の為、興奮すると角と尾が生える
親友の少女(姫川沙雪)は意識不明で入院中
容姿は『魔法少女育成計画』の「ラ・ピュセル」
次は、早めに。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。