【求む】カオス転生でダークサマナーが就職する方法   作:塵塚怪翁

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第53話 狂神アラミサキ

 

 

 第53話 狂神アラミサキ 

 

 

「天ヶ崎千早をさっさと出しなさいっ!

 私が話をしに来てあげたんだからさっさとしなさいっ!」

 

 

 そう女性の甲高い声が境内に響く。

 

 結界に激しい反応があり、山梨の異界に潜る時と同じ装備を手に取ると隆和は異界の入口のある本殿から飛び出し、途中でトモエやカーマと合流すると入口の方へと駆け出した。

 そこには、6月も末になり梅雨になった為か小降りの雨が降る午後の人通りも少ない中、乗って来た高級車を鳥居の前に停めたその女『幸原みずき』はヒステリックに叫んでいた。

 鳥居を挟んで向かい合うその姿はトレードマークらしい赤い高級そうなスーツも皺が目立ち、化粧も満足できていないのか目元に隈が目立つ怒りの表情で周囲を睨んでいる。

 

 隆和自身は以前、会合で顔を会わせたきりでこうやって直接に会うのは随分前だったように感じていた。

 しかし、隆和が注意を払うべきと感じているのは彼女自身ではなく、敷地の結界が激しく反応している彼女の持つバッグの中身だろう。

 ちらりと横目で周囲の人を遠ざけている神社の巫女たちや自分の横で手に持った太刀を構えて警戒しているトモエを見てから、鳥居の前に立ちこちらを睨みつけている幸原みずきに視線を向け近づいた。

 

 

「こうやって顔を合わすのは久しぶりだな、元副支部長」

 

「あなたはあの時の、……ああ、そうか。

 そういえば、あなたはあの女を情婦にしているんだったかしら。

 あの女はどこ? すぐに出しなさい」

 

「千早はここでは渉外を担当しているから、今日は出掛けているよ。

 うちの千早に何のようだ?」

 

「それなら、さっさと連絡してくれないかしら?

 彼女には、さんざん私の邪魔をした事を償って貰わないといけないわ」

 

 

 声を掛けた隆和に、少し落ち着いたのかそれに答える幸原みずき。

 天ヶ崎千早は今日はようやくこちらの交渉に応じた岸辺奏多の両親との話し合いのために、奏多自身と付き添いの夜刀神華にモリソバを護衛に出掛けていた。

 彼女が持つ肩にかけたバッグに時々視線をやりながら、隆和は話を続けた。

 

 

「どういうつもりだ?

 それと、彼女は情婦なんかじゃない。そういう言い方は止めてもらおうか」

 

「こっちでも把握しているのよ。

 あなた、複数の女性に手を出して子どもまで産ませているじゃないの。

 それとも、シングルマザーでなく内縁の妻とか愛人だとでも言うつもりかしら。

 まあ、あの女にお似合いと言えばお似合いの種馬ね」

 

「そういう議論をしに来た訳じゃないのだろう?

 とにかく、彼女はここにはいない。

 元は同じ黒札になったかもしれなかった誼だ。

 1度だけ警告するぞ。

 そのバックの中の危険物を置いて大人しくしろ」

 

 

 自分のバッグを指さしてそう言う隆和に、バッグを抱え込み後ずさると彼女は答えた。

 

 

「連絡しないばかりか、他人の物を奪おうと言うの!?

 この恥知らずっ!」

 

「人の話を聞け! 

 あんたが持っているそれは、うちの結界が強く反応するくらいやばいものなんだぞ!?」

 

「嫌よ!

 これは私が手に入れた大事な物なのよっ!

 あなた達みたいな相手を前にしてこれを捨てろとでも言うの!?

 これは唯一、化け物から私を守ってくれるのよ!」

 

「トモエ!」

 

「はい!」

 

「『箱』っ、私を助けなさいっ!

 アイツを超える力を寄越しなさいっ!」」

 

 

 トモエに声を掛けバッグを奪って彼女を取り押さえようと鳥居の先に飛び出した隆和を、彼女の叫びと共にバッグから吹き出した黒い煙が持ち主諸共に飲み込んでいった。

 

 

 

 

 気がつくと、隆和はどことも知れない場所に一人で立っていた。

 荒涼とした暗い夜の荒れ地であるその場所は、直径50mほどの広さで周囲を黒い炎の形の影のような物が取り囲んでいる。中の空気は、隆和が慣れ親しんだ異界のそれと同じである。

 そして隆和から少し離れた場所には、身長が2mは越える大きさの幸原みずきの顔をした人型の赤い服を纏った炎のような姿の悪魔がそこにいた。

 隆和の目にレベル34【狂神アラミサキ】と映るそれは、どこかエコーが掛かっているが陶然とした声で語りかけてきた。

 

 

『ふううぅぅ、素晴らしいわ。

 まるで本当の自分に戻れたかのように素晴らしい気分だわ。

 さすが、不気味だったけどあの馬鹿な男から取り上げたこの像の成果ね。

 あの鳥居から先に何故か進めなかったけど、今なら通れる気がするわ』

 

「どういうつもりだ? 何をした?」

 

『どういうつもりも何も、あの女の吠え面が見たいだけ。

 あなただけここに連れ込めたのね。

 本当、この像に願い事をすると私は運が良くなるわ』

 

「あの箱の中身は素人が持っていい物じゃない。

 仮にもガイア連合の副支部長になっていたあんたが、それも分からないのか!?」

 

『うふふふ、私の役に立つのだからそんな事どうでもいいわ。

 この力があれば、あの女が大切にしているものを壊してしまうのが早いわね。

 だから、まずあなたから死んで頂戴』

 

「ちっ」 

 

 

 舌打ちし走り寄る隆和に、ニンマリと耳まで裂けるような笑みを浮かべるとアラミサキは周囲に鳴り響く【金切り声】を上げた。 

 

 

『キィアアアアアッ!!』

 

「なん…、デバフかっ」

 

 

 殴りかかった隆和の腕の力が抜け、アラミサキにいつもより力の抜けた一撃が突き刺さる。

 その一撃を嘲笑うと、アラミサキはお返しとばかりに腕を振るう。

 

 

『喰らいなさい、性犯罪者っ!』

 

「くうっ」

 

 

 【ヒステリービンタ】。

 スキルの乗った腕の一撃が振るわれ、攻撃を受けた隆和は両腕で防御したまま数m後ずさった。

 こちらを完全に見下し嘲笑うアラミサキの攻撃を防御しつつ、隆和はいつもならトモエと共に攻めながら行なうのだが今は注意深く見ながら攻略法を考えていた。

 

 

(威力はレベル相応か。

 力任せに腕を振るっている攻撃の仕方は素人丸出しだ)

 

「このっ!」

 

「ふっ」

 

 

 力任せに振るうアラミサキの攻撃を捌き、懐に飛び込むと肝臓や鳩尾に拳を叩き込む。

 痛痒も感じないのか逆に叩きつけるように振るってくるアラミサキの腕を、捌いて躱す隆和。

 それを2度、3度と繰り返す。

 

 

(耐性は、破魔無効と呪殺耐性で弱点はなし。

 さっきから攻撃に【黄金の指】を込めているが、魅了・至福・混乱のどれにも反応なしか。

 精神無効でも持っているのか?)

 

 

「このっ、ちょこまかとこれでも喰らいなさいっ! 【ブフダイン】!」

 

「ぐおっ」

 

 

 隆和が攻撃を躱すのに苛立ったアラミサキが、単体向けの氷結高位魔法を放ってきた。

 思わず隆和は身を反らしつつ後方に飛び退って躱すも、青白い強力な冷気の塊が身を掠めた。

 

 

(掠めただけでかなり持って行かれたぞ。

 スキルは、攻撃力を下げる金切り声と単体向けの物理スキルにこれか。

 あともう一つか二つあるか?

 如何せんこの攻撃力を半減させる効果がキツい上に、あれがな)

 

『ウフフフ、今のは効いたようね?』

 

「…………」

 

 

 攻撃が効いた事が嬉しいのか笑うアラミサキの背後に、隆和は視線をやっていた。

 アラミサキ自身は気づいていないようだが、外縁の壁の近くに6人の黒い影が立っていた。

 それらは皆、全身が立体的な黒い影だけの姿であったが、青白い顔だけはそこに浮かび瞳のない暗い穴だけがそこから隆和に向けて期待するようなアラミサキには憎悪を感じさせる視線を送っていた。

 隆和の目には【幽鬼シチニンミサキ】と映るそれらは、何かを彼に期待しているようだった。

 

 

 

 

 隆和はもちろん持ち主の幸原みずきも知る由もないが、彼女の持つ箱に入っていたのはとある四国の山中で祀られていた“願いを叶える仏像”であった。

 

 それは室町時代の頃、とある修験者が自らの寿命も込めて作り上げた“どんな願いをも叶える仏の像”であった。その像は『七人ミサキ』をなぞらえた呪術で出来ており、願いを叶える代わりに持ち主の近しい人物を病死や事故死という形で一人ずつ取り込み、7つ目の願いを叶えた後にその持ち主を取り込んで他の六人に冥府へと連れて行かれるというものだった。

 その修験者は故郷の村を滅ぼしたその地の領主にその像を献上し、領主たちが死ぬのを見届けると自分も死んだという逸話が後の祟りを恐れた人々によって祀られたその地に残されていた。

 

 ところが、戦後のメシア教の介入で没落した名家となっていたその子孫は扱いに困ったこの像をダークサマナーに売り払い、そのダークサマナーが後に離婚争議で嫁側の弁護をした幸原みずきが手に入れたのが持ち主になった経緯だった。

 

 願いを叶えるたびに彼女が代表をしている団体の関係者の女性が不審死を遂げていたが、彼女はそんな事はただの偶然だと片付けてガイア連合からの調査の妨害などに使い続けていた。

 そして今、彼女は7つ目の力を求める願いを叶えて、隆和をこの場に引きずり込み悪魔の姿と化していた。

 

 

 

 

『この変な場所もこの男を殺したら出られるのかしら?

 そうだ。殺してから氷漬けにして、あの女の前で粉々に砕いてあげましょう。

 そうね。それがいいわ。

 ついでに、あの神社も全部壊したら気分も晴れるかもしれないわ』 

 

 

 殴りかかって来ないのをもういつでも殺せると思ったのか殺した後の事をニヤニヤとしながら算段し始めているアラミサキを前に、魔石で回復している隆和は手の内も粗方知れたこの悪魔の戯れ言を止めるためにそろそろ倒そうと走り出した。

 

 

『大人しく死ぬ気はないのね!? 【ブフダイン】!』

 

「そらよっ、点火!」

 

 

 飛んで来る冷気の塊にマハラギストーンをぶつける隆和。

 火炎と冷気がぶつかり広がる火炎でアラミサキの視界が途切れた隙に、弱まったがまだ強力な冷気の塊をその体に受けた隆和は今側にいる唯一の仲魔に向かって叫んだ。

 

 

「がっ、カーマ!」

 

「まかせて、マスター! 喰らえ、【魅了突き】!」

 

『がっ、あああああ!!!』

 

 

 今まで封魔管に潜み姿を隠していたカーマが隆和の背後から現れ、アラミサキに矢を放った。

 その矢は炎を突き抜け、アラミサキの左目を正確に射抜く。

 絶叫を上げ、目を押さえて仰け反るアラミサキの懐に隆和は飛び込むと左側に回り込んだ。

 最初の金切り声からおよそ10分、攻撃力の戻ったその右の拳を身体を回転させながら振り抜き背中から腎臓の辺りに叩き込んだ。

 

 

「【地獄突き】!」

 

『ゲゴォ!』

 

「ほらほら、どこを見ているんですっ!? 【魅了突き】!」

 

『ゲオッ!』

 

 

 背後から攻撃を加えた隆和に振り向こうとしたアラミサキの喉元にカーマの矢が刺さる。

 なまじ人の体からそのまま悪魔化したために、マグネタイトのみの構造の悪魔と違い肉体があったのが痛みや人体の急所への攻撃がよく効くようになったという彼女の弱点となったのだろう。

 激しい痛みと怒りで状況の判断がつかなくなったアラミサキは、とにかく手近にいた隆和を叩き潰そうと振り向き右腕を振り上げたがその時には隆和の準備はもう済んでいた。

 

 

「これでくたばれっ! 【チャージ】【地獄突き】!」

 

『死になさ、…ガボォッ!!』

 

 

 大振りのスキルの乗った隆和の拳がアラミサキに当たり、そのまま鳩尾を突くと勢いのまま身体を貫いた。

 血かマグネタイトかは分からないが真っ赤に染まった隆和が腕を引き抜くと、そのままアラミサキは崩れ落ちるように倒れ伏した。隆和が数歩離れて見ているとアラミサキの姿が崩れ、自らの血で真っ赤になった元の幸原みずきの姿に戻っていった。

 まだ息のあった彼女はふらふらと隆和に手を伸ばす。

 

 

「これ…は…何か…の…間違い…なの…よ。…助け…て…」

 

「馬鹿なんじゃないですか? 何が間違いなんだか」

 

「もう遅い。それにお前を待っているのは彼女らだ」

 

「あ…あ、…何…で…ここ…に…居るの…。あ、…ああ、止め…て」

 

 

 隆和とカーマが離れた場所で見下ろす先で、我先にと寄って来た6人の女性の幽鬼たちは皆一様に笑みを浮かべながら掴んで押さえ込んだ彼女と共にコールタールのような黒い地面の中へと消えて行った。

 そして彼女ら全てが完全に消えると、その場所も色を失い崩壊し元の景色に戻るのだった。

 

 

 

 

 隆和とカーマが周りを見ると、すでに周囲は夜へと変わっており幸原みずきの車もどこかに移動されていた。

 ふと気がつくと、地面には落とした際に壊れた木箱とその中に砕けた仏像らしき欠片が転がっていた。

 隆和がそれを拾っていると誰かが走り寄る音がして、振り向いた隆和に千早が抱きついた。

 

 

「何時間もどこに消えとったん、うちたち心配しとったんやで!」

 

「昼間訪ねてきたあの女が、不可思議なアイテムで悪魔に変わって異界に引きずり込まれたんだ。

 彼女一人だったし、もう倒したから心配はもう無いよ」

 

「それじゃ、あの女は完全に死んでしまったんやな。

 嫌いやったけど、死んで欲しいとまでは思ってへんかったんや。

 あの女もうちらと同じだったんやし」

 

 

 そう言うと複雑な表情の千早の後ろから、なのはとトモエが走って来た。

 近寄って来たトモエがボロボロと泣きながら頭を下げた。

 

 

「申し訳ありません、主様。

 主様の身を何があろうとお守りするのが私の役目でしたのに」

 

「あれは不可抗力だったからな。

 それにカーマがいてくれたから大丈夫だったぞ」

 

「ふふん」

 

「…………」

 

 

 ドヤ顔のカーマとそれを無言で涙目のまま睨むトモエを横に、なのはが苦笑いをしながら話しかけてきた。

 

 

「二人ともその辺にするの。

 千早も、うちの旦那さまは絶対にわたし達の所に帰って来るから信じて待つの。

 それと、隆和くん。山梨から連絡があったの」

 

「何かあったのか?」

 

「例のソフトの解析が出来たらしいの。

 意識不明になった娘達の行き先は、大阪湾の埋立地にある国際情報都市建設跡地らしいの」




後書きと設定解説


・アイテム

【シチニンミサキの像】
詳細:
 昔、とある修験者が作り上げて祠に封印されていた願いを叶える像
 7人ミサキに擬えた呪術で複数回持ち主の願いを叶えるようにした
 願いを叶える代わりに生贄となる人物を殺し取り込んでいる
 7回まで願いを叶える事が出来、願いを叶え切るまでは持ち主は守る
 最後に7人目に死んだ持ち主を道連れに地獄へと赴くと眠る仕組み

【幽鬼シチニンミサキ】
詳細:
 呪いの像に捧げられていた女性の怨霊が6人集まっている幽鬼
 女性の姿の黒い影が複数立っていて足元の影から無数の女性の腕が生えている
 今の彼女らは像を持つ幸原の団体に関係していた女性たちの成れの果て
 力を与えた幸原みずきが思いの外、霊的才能があったので殺せずにいた

・敵対者

名前:幸原みずき
性別:女性
識別:転生者(ガイア連合)・38歳
職業:ガイア連合関西支部副支部長→反ガイア連合派弁護士
ステータス:レベル4
耐性:破魔無効
スキル:金切り声(雄叫び)(敵全体・攻撃の威力を2段階下げる)
    説得、脅し、恐喝、根回し
詳細:
 政界に見切りをつけガイア連合関西支部に潜り込んでいた転生者
 ヒステリックで煽る言動が多い性格でキツい印象の容姿の美女
 上昇志向が強く、フェミニストを標榜する独善的な理想主義者
 左遷人事に納得いかず、支部の職員を退職していた
 現在、反ガイアグループの関係訴訟を引き受ける弁護士として活動中
 手足となる女性人権団体『ウーマンライツ・ナウ』を再開していた

【狂神アラミサキ】
レベル34 耐性:破魔無効・呪殺耐性
スキル:ブフダイン(敵単体・大威力の氷結属性攻撃)
    ヒステリービンタ(敵単体・中威力の物理攻撃)
    金切り声(雄叫び)(敵全体・攻撃の威力を2段階下げる)
    捧魂の法(自身・自分のHPを1にする。
         自身の攻撃・防御・命中・回避を最大まで上げる)
    精神異常無効
詳細:
 嫉妬深く、人の仲を離す神、男女の仲を引き裂く荒御魂の女神
 赤い日本の古代の服を纏った燃え盛る人型の炎の姿をしている
 幸原が手に入れたある願いを叶える呪いの仏像で姿を変えた

最近の作品では、カジャ系やンダ系の効果時間は3行動または3ターンとされているものが多いです。
実際にはどれくらいの時間かについてですが、「女神転生IMAGINE」において【カジャ系は味方に10分間】とあったのでそれに準拠しています。


次は、早めに。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。
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