【求む】カオス転生でダークサマナーが就職する方法   作:塵塚怪翁

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第56話 大天使の誤算 

 

 

 第56話 大天使の誤算 

 

 

「ハワード! ここを開けろ! 彼女は我々の至宝となる聖母なのだぞっ!」

 

「嫌だっ! もともと彼女は僕の伴侶にするべく創り出したんだ! 彼女は渡さないっ!」

 

「くそっ! 主の教えの素晴らしさも忘れた愚か者め!」

 

 

 アルゴンソフト大阪支社の地下にある元々は大型のサーバーが運び込まれるはずだった体育館並みの広さを持つ地下室の前にある分厚い金属製の扉の前で、この計画を押し進めていた賀来美知夫神父はマイクの横の机を叩き自らの誤算を怒っていた。

 そこへ、部下の信者たちが走り込んできた。

 

 

「神父様!」

 

「外の状況はどうだ!?」

 

「持ち込んだ御使い様方をお呼びする機械でとにかくたくさん呼ぶことで凌いでいますが、持ちこたえられそうにもありません!

 ビル街が異界となって、外からガイア連合の異能者たちが押し寄せています!」

 

「とにかくこの扉を開けて聖母様をお救いするまで妨害し続けろ!

 異教徒の日本人共は使い潰して構わん!」

 

「はっ、了解しました!」

 

 

 地上階の拠点では、のこのことここへ来た彼が資金源にしていた金上やこの地に入り込んだ者たちを材料に天使を呼び出しているのだが、マグネタイトが足りないためにアークエンジェル以上の上位の天使は呼べずにひたすらにエンジェルを呼び出す事で均衡を保っていた。

 

 指示を受けて外へと走り出した部下たちに舌打ちをしつつ、彼は背後を振り返った。

 そこには、銀行の金庫の扉によく似た扉をこじ開けようとしている彼に助力している【大天使ジェレミエル】の姿があった。力づくではどうにもならないと見るや、扉そのものに自らのスキルによる電撃や衝撃波をぶつけているが欧米で核シェルターにも使われているメーカーのそれは多少歪みこそしたがびくともしていなかった。

 

 

「おお、大天使よジェレミエルよ! 貴方のお力でも無理なのですか?」

 

「使徒賀来よ。案ずることはありません。

 主に教えに沿って正しきことを行なっている我々が負けるはずがありません。

 諦めてはなりません、試練に打ち勝つのです」

 

「貴方のお導きならばそうですね。解りました」

 

 

 天使の言葉に納得したのか、賀来神父は今度は扉を開くための端末のキーボードを叩き始めた。

 その様子を見てジェレミエルは土壇場におけるこの計画の誤算を思い、爪を噛みながら扉を睨みつけた。

 

 

 

 

 もともとこの計画は、メシア教過激派内の政治が大きく関与していた。

 

 過激派と言われてもガイア連合台頭初期の頃はまだ完全に一枚岩ではなく、その中は色々な司祭たちの派閥が混在していた。

 その派閥は主義主張の違いはあれど大きく分けて二つ、四大天使のミカエルとウリエル率いる天使たちに唯唯諾諾と従う派閥と面従腹背で利用するためだけに従うという派閥であった。

 後にクトゥルフが召喚される頃には、粛清や穏健派に合流するなどして後者の派閥は姿を消す事になるのだが。

 

 この計画を主導していたサチュリフ司教は後者の派閥に所属し、異教徒の利用はともかく同じ信徒の人間牧場を行なう天使たちに反感を持ち面従腹背を続けながら彼らに対抗できる存在を探し続けていた。そこへ、【デモノイド】と呼ばれる事になる人造悪魔の製造法を編み出した技術者である【ハワード・ヒューイック】を彼を守護していたジェレミエルが見出し、彼の愛弟子とも言うべき日本にいる賀来神父に彼を託す形で秘密裏に船に乗せて日本に逃した背景があった。

 

 賀来神父ことこの【賀来美知夫】も、とある沖縄諸島の離島でジェレミエルが見出しサチュリフが島から連れ出した孤児であった。

 彼がいた島には“MW”と呼ばれていた生物兵器の保管所が隠されており、それを島の住民で唯一探し出していたのが少年だった彼であった。

 優れた頭脳の高さと既に覚醒していた才能を彼は退屈極まりない島から脱出するための手段として、その生物兵器を探しに来たアメリカ軍の従軍司祭だったサチュリフに知らせたのが出会いの始まりだった。

 後に異教徒の居る海外の居住地で使用されることになる“MW”を発見し持ち帰ったことにより、サチュリフは司教位に出世する契機ともなった。

 

 また、上意下達の厳しい階級社会の天使の中も決して一枚岩ではない。

 そのやり方が不快なミカエルとウリエルを掣肘しえる存在を求めていたジェレミエルにとって、今では声も聞こえない主や救世主に召喚を拒否しているガブリエル、彼らに賛同するラファエルに行方の知れないメタトロンを除けば後は【女神マリア】の降臨を望むまで彼は追い詰められ、わざわざアメリカからハワードと共に日本に来てまで計画を進めていたのだ。

 

 ハワードが乗って来た船から秘密裏に機材を運び出し、ここでの協力者である金上の建設会社に大金を渡すことでこのビルの地下に研究施設を造らせた。賀来が見つけてきたとても霊的素質の高い肉体を持つ少年の広野勇気と、大天使の加護を引き受けうる素質を持つシスターのマーテル、“受肉したマリア”を作り出せる技術を持ったハワードが揃った。

 そして、天使へとその身を変えたマーテルと広野勇気を不安定な悪魔合体を成功させて天使人間とすることで『マリア』の肉体に最も相応しい状態にし、欧州にあった『マリアのイコン』や『マグダラのマリアの遺骸の一部』すらも手に入れて召喚術式に組み込んでその肉体に“マリア”は降臨し計画は成功しているはずなのだ。

 

 しかし、この土壇場になってジェレミエルからするとハワードが気でも狂ったかのような事を言い始めた。

 

『彼女は僕の伴侶にするんだ!

 初めて教会で彼女の絵を見た時から僕は彼女に恋をしていたんだ!

 そして、彼女はここにこうして来てくれたんだ!

 それを認めて僕との結婚式を挙げるまでは彼女は絶対に渡さない!』 

 

 マリアが眠る金属ポッドに抱きつき、そう叫びながら入り口の扉を閉めるあのボサボサ髪で痩せぎすのメガネを掛けた如何にもナードな容姿の白人男のハワードの顔を憎々しげに思い出しながらふと疑問に思った。

 

 そもそも全て秘密裏に上手く進んでいたのに何故、大っぴらに異界化などする事になって周囲にバレてしまったのか?

 そこまで考えた時、上階の方で大きな地響きがして建物全体が揺れる事となった。

 

 

 

 

 強化されていたらしいガラスの扉を突き破り横付けでデモニカーは停まった。隆和たちの周囲は、どうやらビルの1階にあるロビーのフロアのようだった。

 

 元は大きい会社のロビーだけあって2階まで吹き抜けの構造になっている広いもので、正面中央に受付になるらしい床に固定されたテーブル類があってそこにのめり込むようにしてデモニカーは停まっていた。正面入口から見て左右に上階へと続く階段と回廊があり、フロアの一番奥にはエレベーターと階段の前にバリケードで囲まれた場所があった。

 そこには外から持ち込んだらしい大型の装置とPCに、その周辺にはその装置と繋がったコードの先に電極の付いたヘッドギアを付けられた十数人の男達がソファやシュラフの上に白目をむいて寝転されている。近くには数人の白衣や神父服を着た男達が呆然とこちらを見ていた。

 お互いの視線が交差し、ハッと気がついたその場のリーダーらしい男が叫ぶ。

 

 

「侵入者だ! 御使さま達を早く呼べ!」

 

「…はっ、はい!」

 

 

 ブゥンと作動音がすると、倒れていた男達が痙攣を始め彼らの周囲に天使たちが現れた。

 それを見て車から巫女服霊装と刀を持ったトモエに自前の弓を持ったカーマと、いつもの作業着霊装で武装した隆和がなのはに声をかけて飛び出した。

 

 

「俺たちは奥に突入する! 外の天使が入ってこないように入り口の確保は任せた、なのは!」

 

「判ったの! デモニカーは動けないから、華ちゃんと奏多ちゃんは前衛をお願い!」

 

「はい!」

 

「うん、分かりました!」

 

 

 お互いに3人と3人に分かれ隆和たちはバリケードを組んだ奥の一団の方へと、なのはたちは吹き飛ばした入り口から入り込もうとする天使たちに目掛けて、悔しそうにエンジン音を鳴らすデモニカーからそれぞれ飛び出し駆け出した。

 

 

 

 

「『アヴェ・マリア』違う、『マルヤム』違う、『サルヴェ・レジーナ(元后あわれみの母)』これも違う。

 くそっ、パスワードは絶対に彼女関連なんだ。ハワードめ!」

 

「使徒賀来、暗号はまだ解けませんか? 1階の様子が不穏です。急ぎなさい」

 

「はい。『聖女マリア』『生神女マリヤ』、これも違うのか。

 そうだ、これなら『パナギア(至聖女)』! よし、これだ、……うおっ!」

 

 

 その頃、賀来神父はハワードが秘密裏に変更していた扉の端末の解錠パスワードを見つけるべくキーボードを叩き続けていた。

 

 普通、異界の内部ではPCや電子部品は動かないはずだが、アメリカのメシア教の内部に研究室を持っていた優秀な技術者だったハワードはそれを回避する手段を手に入れていた。それは、過激派内部でコンピュータ技術者としても頭角を現し始めていた【ナイ神父】から天使召喚のためのプログラム解析を依頼された際に、周囲には黙ってプログラムのコピーを自分のものにしていたのだ。

 そして、病的なまでにマリア信仰を捧げるハワードの内面を見抜く権能のある天使の告発により、ハワードはジェレミエル一派の手引きにより船に乗って日本にまで逃げ出すことになっていた。

 

 もっとも連れ出した際に彼の真意を見抜けずにこのような事態になってしまったのは、彼らの不幸でもあり落ち度でもあった。

 それは扉を開くパスコードを入力し開き始めたところに、地下の入口を固めていた部下や天使たちがトモエとカーマの範囲攻撃で薙ぎ払われ隆和たちが踏み込んで来るという状態になって彼らに襲いかかっていた。

 

 

「【疾風斬】! どきなさい、メシアン共!」

 

「【天扇弓】! 消えてくれるかしら、害鳥は」

 

「「があああっ!」」

 

「よう、久しぶりだな賀来神父。と、お仲間の上級天使さまもいるのか。

 さて、こんな場所で何をしているのか吐いてもらおうか」

 

 

 背後で大型金庫のように複雑なロック機構が解除しながら開く扉を背に、追い詰められていた賀来とジェレミエルは隆和たちと相対した。

 隆和たちに向かって賀来がジェレミエルに目配せして話しかけようとした所で、扉の横に備え付けてあったスピーカーから男の声が響き始めた。

 

 

『やあやあやあ、初めまして。ガイア連合の人たちかな?

 僕の名前はハワード・ヒューイック。

 メシア教のはびこるアメリカから逃げて来た技術者さ。

 頼みがあるんだが、僕の伴侶と一緒に亡命させてくれないか?』

 

「つまらない冗談は止めろ、ハワード!」

 

「何を言っているのです、ヒューイック!

 あなたの技術とその成果は我々に還元されるべきものでしょう!

 許される事ではありません!」

 

『ここまで連れてきてもらった上に、彼女をこの世に誕生させる準備をして頂いたことには感謝していますよ。

 でも大天使様、それは聞けませんよ。

 すみませんがガイア連合の方々、今回の件のデータは全て渡すので僕らを彼らから助けて貰えませんかね?』

 

 

 ハワードの言い出したことに叫び返すジェレミエルだが、彼はその意見は聞かずに隆和たちに話しかけている。

 それに対して、隆和はこう返した。

 

 

「つまり、今回のやらかしの原因のあのアプリやこの異界もお前の仕業だというのか?」

 

『もちろん。

 異界化するほどマグネタイトを集めたのも、君らに気づいてもらうためだからね。

 これで僕の優秀さは理解してもらえたかな?

 それに、あのアプリの仕組みもなかなかのものだろう?』

 

「それじゃ、意識不明で昏睡したままのあのアプリの被害者もその結果か?」

 

『? 何を怒っているんだい?

 彼女が降臨するための礎になれるんだよ。

 カラードで未覚醒の彼女らにはとても栄誉のある捧げ方じゃないか』

 

 

 純粋に訳が分からないと返すハワードの言葉に、舌打ちをして隆和は返す。

 

 

「ちっ。やっぱり、本場のメシアンに交渉なんて時間の無駄だった。

 お前ら全員叩きのめしてやる」

 

『何を怒っているんだい、君は!

 霊能組織ならこんな事は普通にするだろう!?』

 

「俺らをお前らと一緒にするんじゃねぇ!」

 

「使徒賀来!」

 

 

 隆和の言葉に反応して、ジェレミエルがいち早く叫んだ。

 

 

「中に入ってあの男を始末なさい!

 ここは私が引き受けます!」

 

「分かりました、ジェレミエル様! 神のご加護を!」

 

「待て!」

 

「さあ、日本人の異能者よ。

 ここを通りたければ主のご意思に従うのです! 【マハザンマ】!」

 

 

 一番扉に近い場所にいた賀来がその言葉で扉の中に走り込むと、ジェレミエルが翼を広げて立ち塞がると襲い掛かって来た。

 相手の放った範囲攻撃の衝撃波が隆和たちを襲って全員それなりの負傷を負うが、相手を自らのスキルでアナライズしながら叫ぶ隆和を先頭に駆け出した。

 

 

「レベル27、物理耐性、破魔無効、呪殺耐性だ。

 カーマは援護を、トモエはムラサマ起動!」

 

「一番手、行きます! ムラサマ起動、【黒点撃】!」

 

「ぐぬぅっ!」

 

「状態異常はどうかしら? 【魅了突き】!」

 

「ぐうっ、我が信仰は揺らがぬっ!」

 

 

 【攻撃の心得】【ミナゴロシの愉悦】【物理ハイブースタ】の乗ったトモエの【黒点撃】が、物理耐性を無効化する【準物理貫通】を付与された『名刀ムラサマ』の赤化した刃によってジェレミエルの急所に叩き込まれ大ダメージを与えた。そこへ追い打ちとばかりに、袈裟斬りに叩き込まれたその傷にカーマが【魅了突き】の矢を打ち込む。

 魅了は抵抗したようだが、かなりの深手を負ってしまい膝をついたジェレミエルは叫んだ。

 

 

「馬鹿な、馬鹿な。

 過去あれだけ異能者共を根絶やしにしたのに!

 何故、日本にこのような強い異能者が存在するのだっ!?」

 

「日本のことは知らないんだな。ガイア連合が例外というだけだよ。

 死ね、【地獄突き】!」

 

「がぼっ!」

 

 

 隆和の物理耐性を貫通する一撃の乗った拳がジェレミエルの顔面の人中に叩き込まれ、上の歯の部分を粉砕されながらジェレミエルは数メートル程吹き飛び重い金属製の扉に当たるとそのままズルズルと座り込んだ。

 とどめを刺すつもりで近づいて来る隆和たちを見ながら、ジェレミエルはぼんやりと考えていた。

 

 

(私は何か間違っていたのだろうか?

 ただ、あの二柱を掣肘出来る存在を求めただけだというのに。

 私の役目は『神の慈悲』。

 信徒たちに主の慈悲を与えるのが役目だったはず。

 それがこんな東洋の端で目論見の全てを失うことになるとは。

 ああ、主よ。使徒賀来よ。すみませ……)

 

 

 その彼の思考はとどめとばかりに刺し込まれたトモエの刃と隆和に顔面を蹴り潰される事で、最後まで考えることは出来ずにマグネタイトの霧となって消えていった。




後書きと設定解説


・敵対者

【大天使ジェレミエル】
レベル27 耐性:物理耐性・破魔無効・呪殺耐性
スキル:ジオンガ(敵単体・中威力の電撃属性攻撃)
    マハンマ(敵全体・低確率で即死付与)
    マハザンマ(敵全体・中威力の衝撃属性攻撃)
    メパトラ(味方全体・状態異常回復)
詳細: 
 エノクの書における7大天使の一人で『神の慈悲』の名を持つ大天使 
 人生の節目に現れ道を示す赦しの天使とも言われている
 容姿は透き通るような空の青色の服を纏った紫色の髪をした細身の男性
 聖母降臨を目指すため賀来神父を導き助力している


彼らが使用している『天使召喚機』は、小型化も出来ていない最初期にナイ神父の手で試作されたいくつかをそのまま船に積んで持ち込んだものです。
契約や悪魔会話とかそういう部分は全部削ぎ落として、脳内麻薬を過剰分泌させてMAGを生成し天使を召喚するだけの機械です。
なお、アークエンジェル以上の天使を召喚する際は通常の倍以上のMAGが必要な欠陥がわざと仕込まれている代物です。


次回は早めに。
読んでくださった方がいるならありがとうございます。
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