【求む】カオス転生でダークサマナーが就職する方法 作:塵塚怪翁
これで一応最後の新たなヒロインのはず。
第9話 過去が追いかけて来る
あれから、1ヶ月が経過し年の瀬の12月となった。
その後、あの事件は後始末のほうが大変な事になっていた。
事件を直接解決した隆和たちは報告書を上げるだけでよいが、それを受け取って後処理する方はそれからが大変だった。
出来たばかりのガイア連合関西支部から派遣された担当者と、文部省監督宗教法人「京都府神社庁」理事で京都周辺のオカルト関連を丸投げされる【一条麿呂】氏は揃って京都府内を走り回り、今回の件で勝ち馬に乗る形での勝手働きによる各家や各組織に沙汰や処分を決めてなんとか混乱を治める事が出来た。
特に鼻つまみ者が消えた京都土御門家では羅生門の封印の管理と一族の再編の関係で、関東の地元でメイドシキガミの『アイリ』を手に入れて順調に活躍していた転生者の【メイドスキーニキ】(本名:土御門姓)に義妹か京都の従姉妹と結婚して総代にと話が飛び火して、一騒動あったのだが隆和たちには関係ないので割愛する。
†
そんな天気は晴れたが冷たい風が透き通るように吹く大阪の郊外にある教会に、隆和の姿があった。
そこの教会は元は宗派に関係なく亡くなった一神教の関係者が葬られている慰霊碑がある場所で、今は日本では恨みを買っているメシア教の関係者が過激派天使抜きの死後の安寧を求めて葬られている墓所でもある。
そこに彼の姿があるのは、以前の事件で助け損ねたシスターの墓参りの要請の手紙の送り主の名にコレットが反応したためだった。
どうしても確かめたいと言う彼女の懇願を受け、隆和はスーツ姿で同じくスーツ姿のトモエと共に待ち合わせ場所の慰霊碑の前で花を供えながら待っていた。
しばらくすると、杖をついた体格のいい高齢の神父が付き添いのシスターと一緒に現れた。
彼はゆっくりとした速度で近くまで来ると、隆和に話しかけた。
「今日は来て頂きありがとうございます。安倍隆和さん。
儂は、ここの教会の管理人をしているクラトスと言います。
ガイア連合の方には我々は嫌われているものと思っていましたが、彼女も喜ぶでしょう」
「いえ、嫌っている人が多いのは確かですが、個人的にはそこまでではないので。
それに、亡くなった彼女もあいつの被害者ですから」
「あの娘は、信仰とは関係なくただ友人を探そうとしてこうなりました。
無事に彼女の亡骸も清めて渡して頂けましたし、仇も討って下さったと聞きました。
あなた方には本当に感謝しています」
神父はゆっくりと慰霊碑の横のたくさんの名前を刻みつけた黒い石碑の前に移動し、「マリア」と書かれた文字をなぞっている。
そこには、生年月日と亡くなった日に加え『享年17歳』と刻まれていた。
そうしながら、彼は懐かしそうに語り出す。
「彼女はね、儂の若い頃に失った信仰の姉妹の一人で『コレット』という少女とよく似ていたんですよ。
何にでも一生懸命で、友人を大切にして、そして少しおっちょこちょいな所があって。
容姿は違っても彼女を見ているようで孫のように見ていましたが、この娘も儂より先に逝ってしまった」
「その女性はどういう人だったのでしょう?」
「コレットかね?
そうだな、まず少し天然でおっちょこちょいで動物好きだったな。
料理下手で、台所に入るのも禁止されていたようだ。
幼馴染のロイドという少年を気にしているのに、それを隠そうとしていたのは本当に笑えました」
「他には?」
「ふむ、そうですな。
真面目な割には甘いもの好きで、つまみ食いをしてはよく叱られていました。
動物は好きでしたが、天使の加護があるので動物には逃げられていつも落ち込んでしました。
けれど、周りの人を大切にするいい子でしたよ」
「彼女は事故か何かで?」
「いいえ。
当時、京都のある寺院に部隊を派遣することが決まりましてね。
その中にそのロイドも含まれていましてね。
『心配だから付いていく。大天使様もいるから心配はない』と、そう言い残して。
けれど、彼らは帰ってこなかった。
異界と化したその場所は強固な封印があり、彼らの遺体すら回収できませんでしたよ」
「…………」
「儂は今でも思っています。
せめて、彼女だけでも引き止められれば、と。
あの娘まで死ぬことはなかった」
なかなかに興味深い話でトモエも聞き入っていたが、封魔管から、
『あああああああああ! やーめーてー! 昔の事は聞かないでー!!』
と、テレパシーで声がするのでそろそろ隆和は出して上げることにした。
「いいよ、コレット」
「やっと、出れた! 隆和、何を昔の事を聞き出そうとしているのかな??」
「弱みが聞けるかな、と」
「帰ったら覚えてらっしゃい」
こほんと咳をしてコレットは名前の石碑の前に立つと、驚き立ちすくむクラトス神父に微笑んで挨拶をする。
よく見ると彼女の後ろに彼女自身の名前があり、隆和にはそれが見えない位置にいる。
生年月日が『193◯年◯月~』とあるのを、彼に見られたくないのだ。
「クラトス神父。久し振り、かな?」
「本当にコレットなのか? 幻ではないのか?」
「私だよ。他の誰に見えるの?」
「お、おおおおお!」
クラトス神父は背をコレットを抱きかかえると泣き出してしまった。
身長差が20cm以上あるので仕方がない。
隆和は178cmなので彼より若干、差が小さい。
一しきり涙を流すと、コレットを下ろして視線を合わせて話しかけた。
「君はどうやってここに?
主の御下に行ったと思っていたのだが?」
「色々あって、彼と契約してリャナンシーをしているの」
「そうか。
元気にしているというのは変だな。
その様子だと、幸せそうだな。コレット。
リャナンシー、アイルランドの『妖精の恋人』か。そうか」
「何か言いたそうね?」
「いや。
色々と思うところはあるが、儂が言うべきではないな。
とにかく、また会えて嬉しいぞ。コレット」
「私もよ。クラトス神父」
クラトスは内心、
『あの生真面目で博愛溢れる純粋な聖女だった妹分の彼女が、数十年前の姿そのままで知らない男に古女房じみた雰囲気で女の顔をしているのを見るのは、いろいろとかなり辛い』
と、考えたが、賢明にも口に出すことはなかった。
その後、隆和とトモエに付き添いのシスターは少し離れた場所で、数十分ほど彼らだけで楽しげに話し合うのを見届けるとその日は別れる事となった。
帰り際、コレットはまた彼と話したいとは言っていたが、これが彼らの今生の別れとなった。
数日後、起こしに来たシスターがベッドの中で眠るように亡くなっているクラトス神父の姿を発見した。
その顔は穏やかに微笑んでおり、彼女宛の手紙には『信仰ではなく自分の為に幸せになれ』とだけ書かれていたとコレットには知らされた。
そして、彼の墓参りをしてから数日は、やけに隆和に甘える姿が仕事場でも見られたという。
†
あの悪魔人事件の被害者で言えば、あの死亡したシスターもそうだが今はガイア大阪で隆和が預かっている【百々地希留耶】、普段は派出所内で生活している彼女の状況にもこの数ヶ月で変化があった。
まずは彼女の保護者関連であるが、あの事件で保護してからガイア連合の弁護士を立てて交渉すると7桁の提示で同意し、あっさりと親権を実の両親から隆和に正式に移せた。
わずか1ヶ月で完了して彼女は書類上は養女の『安倍希留耶』となった。
問題となったのは、彼女が通っていた中学校だった。
そこは私立ではなく公立ではあったが、元担当の教諭と彼女を擁護する女性の教頭の考え方が彼女に関する交渉を滞らせた。
彼女ら曰く、担当教諭の行動は生徒たちの自主性と自由を尊重したものであり間違った行動ではないにも関わらず、そちらの弁護士が元担当教諭の処分を求め校長が職員会議を通さずに決定したのは不遜極まる行為で学校教育に干渉するなど不届きである。
保護者が変わったのなら親子共々、こちらに挨拶をしに来て生徒を通わせるようにするのが親の務めである。そうでなければ、『高槻方式』を採用する我が校ではこちらで指定する高校への入学の手続きや推薦は出来なくなるがいいのか、と。
要は、頭を下げて今まで通り何もなかったとして通わせないなら、市内での彼女の高校進学は出来ないぞと言いたいらしい。
もっとも、学校内で『彼女は援助交際をしていた』、『彼女は不良達に強◯された』、『彼女はカルトの親に引き取られた』と言う噂があるような場所へ隆和は希留耶を行かせるつもりはなかったので、交渉を打ち切りさっさとガイア連合の息の掛かった市外の別の学校に転校させた。
そういう事なので、クラトス神父の墓参りから数日後に見学がてら保護者として希留耶と一緒に面談する運びになった。
その前の学校とは違いまともな教師のおかげで面談自体はすぐに終了した。
その帰り際、隆和に見覚えのある女性と校内ですれ違ったのが次の波乱の切っ掛けだった。
†
その日の夕方、ホテルの受付でたまたま当番だった隆和は窮地に陥っていた。
ダラダラと冷や汗を流す彼の目の前には、宿泊を希望する若い女性が困惑顔のウシジマニキを連れて立っている。
ロビーの離れた方には、冷たい視線の希留耶、興味深そうに覗いている他の面々がいた。
そして、彼の隣には引きつった笑みを浮かべる魔王ネキが立っていた。
時間を数分前に巻き戻してみよう。
その女性が入ってきた時、隆和はとても不思議な気分になった。
後ろに彼女を守るようにウシジマニキが居て、自分を見たどこかで見た覚えのあるその女性は花が咲くような笑みを浮かべて近付いてきた。
「いらっしゃいませ。
お泊りでしたら、ガイア連合の身分証を提示して下さい。
ウシジマさんも泊まるんです?」
「いや、俺は…」
「ウシジマさんは今はうちの護衛ですけど、どうします?」
「お嬢の護衛だから俺も頼む」
「お嬢?」
「お久しぶりです、安倍はん。【天ヶ崎千早】です。
6年ぶりになりますねぇ?」
「…………おお。あの、千早ちゃんかい?
大人の女性になって、立派になったねぇ」
隆和は思い出した。
6年前、本格的になのはと組んで異界に潜りだした頃、ウシジマニキの依頼で異界に潜った人たちの救助をした時に唯一助け出したのが彼女だった。
その頃は15、6の小さい女の子だったのが、今では立派に大人の女性になっているのは何か感慨深い思いをしていた。本当に立派になっている、胸部的にも。
嬉しくなった隆和は、事務室にいるなのはにも声を掛けた。
「なのはさん、なのはさん」
「なに、隆和くん。トラブル?」
「ほら、6年前に助けた娘が来ましたよ。
市内の公園の異界で一人だけ助けられた子がいましたよね?」
「……んーと、ああ。あの、小さな子!
久し振りなの。元気そう良かった」
なのはの『小さな子』に顔が引き攣ったが、努めて笑顔に戻し彼女はこう告げた。
「うちもあれから転生者や、つう事が分かってな。
ショタオジのオフ会にも参加して、今はちひろさんの下で働いとるんや。
仕事柄、【いろいろと】情報にも精通していてな?
魔王ネキや誰とも結婚してへんみたいやし、うちが養おうかと思てな。
どうや、安倍はん。うちでは駄目やろか?」
「え?」
「は"あ”!?」
なのはが彼女の言葉にドスの利いた声を出した所で、時間が戻る。
渋面のウシジマニキに、隆和が救助依頼の視線を向けるも逸らされる。
彼の視線をこちらに戻すために、スカートを太腿までたくし上げる千早。
「ここの支払いはこれでどうです?」
「……2名様ですね。こちらが鍵になります。
女性の方は、個室をどうぞ」
「安倍はん、何かありませんのん?」
「一応、今は仕事中だからね。そういうのはちょっと」
「小娘だった頃より、色々と成長したんよ、うち。
確かめてみいひん?」
「お部屋へどうぞ、お客様。
ウシジマさん、頼む」
なのはの圧のある視線と希留耶の氷の視線、周囲の好奇心の視線に負けそうになり隆和は彼に直接助けを求めた。
渋々とそれに答えるウシジマニキ。
「あー、彼女は佐川の親父の溺愛してる義娘でな。
ケツ持ちして貰っている恩がある以上、俺からは彼女に強く言えねえ。
とりあえず、お嬢。ここは人目があるからな、抑えてくれ」
「しょうがないなぁ。ウシジマはんにも世話になっとるしな。
ほな、安倍はん。待っとるからな?」
千早は隆和の耳元で壮絶な色気のある声で囁くと、個室の鍵を貰ってウシジマと奥の階段へと歩いて行った。
ボーっとそれを見送る隆和の肩をポンと叩き、なのはは彼ににこやかにこう告げる。
「ちょっと顔を貸せなの。話があるの」
後書きと設定解説
・関係者
名前:一条麿呂
性別:男性
識別:異能者・46歳
職業:文部省監督宗教法人「京都府神社庁」理事
ステータス:レベル3 破魔無効
スキル:霊視・見鬼・占術など
装備:呪殺や状態異常を防ぐ護符や札×多数
詳細:
京都府内の霊能関係者のオカルト方面の相談役
京都府内の霊能組織の要請を何とかする役所の担当者とも言う
最近はガイア連合への要請をまとめる調整役でもある
名前:クラトス神父
性別:男性
識別:異能者・76歳
職業:メシア教穏健派神父
ステータス:レベル9 破魔無効
スキル:ディア(味方単体・HP小回復)
ハマオン(敵単体・中確率で即死効果)
スラッシュ(敵単体・小威力の物理攻撃)
詳細:
メシア教穏健派の教会の【墓標教会】を統括している神父
コレットと共に死亡したロイドの友人で兄貴分だった
かつて司祭を狙えたが機会を捨てて、今の教会も絶望して諦めている
次回も、過去からの続き。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。