レスカ長編 Take my revolithion!! 作:湯乃屋
「覚えてらっしゃ~い!!」
ひゅるる…と、高い音を立てながらスモークの中から現れたのはモチロン!我らがレスカ嬢とダ・サイダー&ヘビメタコ!
青い空はどこまでもさわやかに、その大部分を占めるのは真っ白な、真夏の昼下がりをも思わせる、ドクロにも似たキノコ雲……?
要するに。
レスカとダ・サイダー&ヘビメタコはドッカーーン!!と。ふた筋の弧を描きながら、吹っ飛んでいる最中なのである。日常の一コマって奴ですね。
「ンな訳無いでしょ!」
そりゃ失礼。
コホン。えー改めまして。まさか!この期に及んでこんな、ベタな悪役よろしく吹っ飛ばされる事になるなんて、誰が想像しただろう?そんな問答をしている間に、模範的な放物線を描いた三人はいよいよ、地面着陸…
期待どおり。音も高らかに、勢いをつけて顔面から着地した二人は揃って、ヒクヒクとケイレンなんかを起こしているのだから、大して心配することもないだろう。
対して。ちゃっかり、予想される衝撃を思って肩パットで身を固くしていたヘビメタコはようやくホッと一息、くるん、とパットの中で一周して異常ナシ、ばっちりOKジャン!それからようやくコソっと、頭で押し上げて伺い見た光景は。
「熱っーー!!アツ!あちち!だが助かった、砂丘、サ(ン)キュー!」
「砂丘と言うより砂漠、ジャン。えっと、現在気温50度、湿度20パーセント、砂の温度は約80度。30秒頃からやけどの症状が出始めるジャン」
「冷静に解説してんじゃないわよ!熱っ!」
「うむ、こう熱くてはかき氷でも食べてないとやってられないからな。サッキュー(早急)に露店を探し…ギャーーオバケ!」
言うなり、何を思ったのか猛然と砂を掘り返しては、その中に頭を突っ込むものだから、再び。
「熱っーー!!」
「ダーリン落ち着くジャン。そこの、口端が真っ赤で、パンダ目で、付けまつげがプラプラしてる、誰がど~う見たって砂の妖怪は、今朝一時間もかけて顔を作ったレスカのなれの果てジャン」
「さあ?ばく(ぼく)あんなオバサンしらない。…ってメタコ。いつもの『イエ~イダーリン!』な賛辞はどうした?三時にはまだ早いからか?と言うか今の状況がすでに惨事」
「イエ~イダーリ…グエッ」
「お黙り!」
それ以上言えなかった理由はモチロン、言葉と同時に飛び出した手がヘビメタコののど元を力任せに締め上げているせいで…ギュウ!
ギロ!と、安達が原も裸足に目を光らせては、お次のターゲットロックオン!
「や…ヤヤ!こ、これは丁度いい具合に天竜号が目の前に!」
正確には五十メートルほどは距離があったのだが。ともかく慌てて、とにかく目を合わせないように全力疾走!前側のサドルにスタンバってチリンチリン!とベルを鳴らして…ちら、と鬼婆、もといレスカをうかがい見ると。
ハァ~と、特大のため息を吐ききって、顔をあげる。腰に手を当てて、いつものヤル気のなさそうな、しょうがないわね、と顔が言っている。
「でも覚えてらっしゃい!オトメゴコロをコケにした罪は深いわよ!」
「くわばら、くわばら」
どうにか。レスカも後ろのサドルに不精ぶしょう。ま、少しは機嫌も直ったと見えて、二人プラス一匹は颯爽?と、チリンチリン~……格好悪。
「しっかし。今回の依頼は散々だったわ」
「紹介してもらう相手を間違えたな」
「相変わらずですこと」
突然。高い所から聞こえてきた高飛車な声に、あっー!と。揃って足が止まり、そうでなくとも車輪が取られる砂地での事。当然…ぱったりと、横倒しになって再び、熱い熱い砂で片面をコンガリ焼く羽目になったレスカとダ・サイダー。
だが。それを心配するでもなく、実際に高みから見下ろしてはフフンと鼻で笑うに済ませて。轟音と共に、わざわざ天竜号スレスレに着陸。開いたハッチから降りてくる姿は。
「ごきげんよう、レスカ。と、そこの美しくない人」
「ベッピーン!」
「ま、立ち話も何ですし、お乗りなさいな」
◇◆◇
「っかーサッッパリした!この風呂上りの牛乳の美味しいことったら!」
「嫌だわ~アタクシってば、間違えてオッサンを拾っちゃったのかしら」
「ムカ!……いいわ。助けてもらっちゃったしね、聞き逃したげる」
口ではああ言っているが、現に。厚手の牛乳ビンにピシ!と、ヒビが入った音をヘビメタコは確かに聞いてしまった。
改めまして。窮地?ミジメーに二人乗り自転車をえっちらおっちら、やっていた所を運良く?悪友ベッピーンに助けられたレスカとダ・サイダー。
ちなみに、ダ・サイダーは今まさに、入浴中…
「そこの!今チョット期待したブス!そうは問屋が卸さないジャン!ダーリンのテイソーはウチが絶対ゼーッタイに!守るジャン!」
「ヘビメタコ?アンタだれと話してんの?」
「何でもないジャン」
まーそんな事で、カメラはさっさと美女3人に戻して。
「で?どういう事よ。アンタの紹介の仕事で今回、こんな砂漠くんだりまで出てきたってのに。お宝にはありつけないわ、バクハツで散々な目に合うわ」
「あら~ごめんなさい、ガセネタだったみたいね。そうじゃないかな~って思ってアタクシも、様子を見に来たんだけど。一足遅かったみたいね」
「その顔、わざとジャン?」
「あらあら。ポっと出のクソヘビにアタクシたちの、一朝一夕では語り切れない篤い友情を語られたくありませんわ」
「アンタが言うか」
「いいのかしら?アタクシにそんな口を聞いて」
「はん!何様のつもり…もしかして?」
「ヘビメタコに話して?」
「構わないわ」
「じゃ、調査結果」
ふっと、薄く笑うなり、タブレットを充電器から外して起動させる。部屋の照明を何段階か落とすとボウっと、LEDの光がベッピーンの、一転真剣な顔ばかりを照らして…科学の先端のはずなのに、黒いマントと相まって一種、魔術めいた雰囲気すら感じられる。
「調査結果、と言うより中間報告になったわ。やっこさん、なかなかシッポを出しやがらないんですもの」
「諸悪に通じるベッピーン様、じゃなかったの?」
「ホホホ。アタクシの株もずいぶん上がったものね」
「何の話ジャン?」
ベッピーンはレスカを伺い、レスカは、牛乳からビールに持ち替えた手元を見つめている。が、一向に口が開く様子もなく、ようやく。と思ったらプルトップを開けて、やけ気味に一気にあおる。どっかりと、わざとらしくソファの背もたれに深く倒れ込んで、
拍子に、首から下げていたネックレスがバスローブの胸元からすべりおちる。十センチほどはあろうか、オパール型の透明な宝石に目が留る。革紐でくくってあるだけのずいぶん…不審を隠そうともせずにベッピーンはレスカの顔と、見比べている。
「アタシの趣味じゃないって?ま、ね。これは特別」
「ノロケなら聞かないわよ」
「な!何でそこでダ・サイダーが出てくるのよ」
「ベッピーンはダーリンの名前なんて出してないジャン」
「ゆうべはおさかんでしたね、なんて?」
「おさ!そんな!あ、アタシと!ダ・サイダーは、まだ……」
「まだ?……ちょ、ちょっと待って。本気?え~ちょっと!天下のレスカ様が?まだ喰ってないとか」
「喰う!…なんて。だって!」
「あ~ハイハイ、ストップ!ごめんアタクシが悪かったわ。それ以上はやめて、聞きたくない。鳥肌立っちゃう」
「どーいう意味よ!」
「で?その大仰な宝石は?」
再び。まゆ根もキリリと真剣な顔に戻ったベッピーンに、まだ顔を真っ赤にこぶしを握り締めたまま、全然言い訳足りない!レスカだが。とはいえ、これ以上続けられても困ると言うか、何と言うか。…面倒くさい女ジャン。
「ハァ~これね。、これは現王アリャリャ・コリャリャ・ヨッコーラ三世の錫杖にハメこまれていたもので、この間アタシが」
「盗んだの?」
さすがに、派手にひっくり返る。ベッピーンの方は、そもそも冗談のつもりだったらしく、レスカなんて放っておいて早速、タブレットを操作して
「錫杖ねぇ、そんなの持ってたかしら?…あ、画像みっけ」
「アンタ、アタシを何だと思ってるの?いい?これはアタシが」
「へぇ!国宝じゃない。なになに?錫杖は式典などの際に用いられるが、普段は城の奥深くに厳重に保管されている。要するに極秘ね。ま、そんな重要機密、公開しようものなら、盗んでくださいって言ってるような物よね!でも」
ちら、とレスカの目を見る。いいの?その重要機密をアタクシなんかに話したりして。
「王位の継承が決まったら、その一年前に現王の錫杖からこの宝玉が取り外される。非公開だけど正式な式典よ。それで、それから一年の間、次王は肌身離さず身につける。そして一年の後、継承式の場で正式に、新王の錫杖に収められる。ほら、ウチって巫女つうか、神職の家系じゃない?一種のアミュレットらしいのよ。この宝玉サマに次のご主人を教え込ませる、みたいな?」
「書いてあるわね。で、折々の式典で王の錫杖に宝玉が無い事を見て、民は継承が近い事を知る」
「正式発表が先になる事がほとんどよ、式典なんてタイミングですもの」
意外。
ベッピーンとしては、もっと…。こんなにスンナリ受け入れていたとは。グラスに移したきり口も付けていなかったビールをようやく含み、炭酸も何もかも抜けたぬるい水分は喉をうるおすのみで、ちっとも酔わせてはくれない。
誇らしげ、と言うよりは少し照れたように語る親友をじっと見つめるベッピーン。バスローブ一枚で行儀悪く足を組んで、髪にはトレードマークのメッシュが、あの頃と変わらず流れている。
お互いに、そりゃ少しは落ち着いたかもしれないけれど、本質は変わっていない。抑えつけられる事が何より嫌いで、自由に、気ままに好き勝手やっていた、あの頃から。
「あのレスカが、ねぇ」
「それよりさ。アンタの方はどうなのよ。相変らすアコギやってるんでしょ」
「現に今回も一杯喰わされたジャン」
「だって~ナイルの観光だけじゃ全然足りないんですもの!でもね、今回みたいなカスも多いのよね」
そこら辺は仕方ないんだけどさ、と言ったあたりだった。
あ、と思いついたような顔になったレスカはモゾモゾと、ビールの缶をもてあそんで…ヘビメタコには思い当たる事があった、レスカがアララ国に入ってからこっち、日を追う、年を追うごとに気にかけていた事。
「…その事なんだけど、元ハルマゲ軍団が結構流れてるって本当ジャン?」
「へぇ?気になるんだ!…そうね、結構いるわよ。ま、ほとんどが同世代だし?そんな札付きの犯罪者ってのはさすがに」
「まさか、アンタはヤバい事に首突っ込んだりしてないでしょうね」
「まっさか~命あってのモノダネって言うじゃない。ちょいちょいよ、小遣い稼ぎ程度。だってせっかく培ったスキルですもの、活用しなきゃソンソン」
それは、分かるんだけど、さ。
勇者として、姫として。その生活が長くなるにつれ、慣れるにつれ、何とも言えない気持ち悪さがレスカを襲う。悪いことはいけないこと。頭では分かっているけれど、どうしても…流れてしまう気持ちが他ならぬレスカ自身にもある。いや、きっと誰より強いのだから。だから
「なによ、さっきからクネクネ気持ち悪いわね。アンタはその筆頭、天下の大海賊レスカ様じゃないの」
「いやアレは、知らない間に何かスゴイ事になってて、アタシもびっくりって言うか」
「でしょうね。八割方ってとこよ。アナタがやった世直し事件二割、あとの残りの悪事はぜーんぶ」
言いながら、タブレットをレスカによく見えるように掲げる。ヘビメタコも遅れじと、二人の間に顔を突っ込む。
「さっきの話の続きよ、メタコちゃん」
含みを持たせて口端を吊り上げて。トン、とクリックをすると画面が切り替わり、一枚の画像が表示される。の、だが…?
そこに映っていたのは思わず、首をかしげたくなるようなシロモノだった。一人、二人、三人…かろうじて人物は確認できるものの、横顔ではいかんせん。それ以前にこんな、前時代的な荒い、ブレた白黒静止画像だなんて。
「こんなんでも苦労したのよ?右端が、自称海賊レスカご本人。仲間内にもあんまり顔を見せない、と言うか、あんまり現場に出てこないってお話。だから、写真も少なけりゃ、本人を見た人間はもっと少ない」
「狙うのは決まって稀少な宝石やらレアメタル。ご丁寧に予告状を提出して時間どおりキッチリ来て、キッチリ盗む、ジャン?」
「ご承知の通り。酔狂の極みよね。探偵小説の読みすぎなんじゃないかしら。それでねアタクシ、試算してみたのよ?例しに前回の、宝石商のダイヤが盗まれた事件。そしたら経費なんと!」
声に出さず、手ぶりと口の動きでニヤニヤと伝えてみせるペッピーン。
「…そんなに?そしたら儲けなんてほとんど出ないジャン?何考えてるジャン」
「何考えてんのかしらねー」
ニヤニヤ笑からすっと、目を細めて、試すような色を見せるベッピーン。もはや、レスカの方は完全に色を無くして固まっていると言うのに悠々と、なぶるようにビールを、口の中で十分に転がしてから口を開く。
「こんな金のかかることを、やっこさんは何度も何度も繰り返してる。しかも未だ捕まらないって事は、警察各所にも相当バラまくか、バラまく必要が無いか。ししゃくせんじゃないかって噂もあるのよ。誰か、とても名前を出せないような尊いお人が後ろにいるんじゃないかって」
「いいわ、ハッキリ言って」
「じゃ、遠慮なく。アララ王家というパトロンから金を出させて海賊レスカは好き勝手やっている。って噂も」
「…最悪!」
「で、でも!それだったらレスカが火遊びを止めて清廉潔白に姫をやってれば、自然と下火になる事ジャン?」
「そこなのよね。レスカ、アナタ普段の、お城での生活はどうなのよ?」
「いたって平穏、こともなし。カフェオレ姫は順調に継承に向かっています。…やっぱアンタも気がついたのね」
とうとう、頭を抱えてうずくまってしまう。
最悪、か。無理もない。ちょっと聞いたばかりのヘビメタコでも想像が付く。
・自由に使える財産があり、かつ警察等、中枢機関に顔が利く。
・レスカ=カフェオレという事を知っている。
・レスカが海賊の扮装をしてお忍びで遊んでいる事を知っている。
・それを利用してカフェオレを陥れようと企んでいる可能性がある。
・ただ、今のところカフェオレ自身には一切何の凶事もない。
と来れば道はただ一つ。
「どこの誰かは知らないけど、一刻も早く探し出して、ツブしておきたい。じゃ、調査は継続でいいわね」
「報酬は弾むわ。デッカイ畑でも何でも。なにしろ新王の名誉にかかってんだから」
「畑?」
「あら?見渡す限りのお花畑が夢じゃなかったかしら?」
少し、目を見張ってしぱしぱと、瞬きを繰り返す。と、見る間に頬が赤く…急いでタブレットに視線を落とす。
「いつだったかしら?アンタ、あんまりにも女の子っぽい事言うもんだからさ」
「フ、フン!お言葉を返しますわ。アタクシはいつだって女性らしく、美しくありたいと願っていますの!ですから」
「ハイハイ」
レスカが言葉を被せてきたものだから、ベッピーンの口は中途半端に開いたままに、
まだ頬は赤みを残して、そのまま子供のように膨れてしまう。そうするとまた、レスカの方もふんわりとほほ笑む。また、それを見たベッピーンがむきになったように鼻息荒くなるものだから…ヘビメタコにはそれが少しだけ眩しく感じる。
「で、も。ソレはコッチに置いておいて。今回の調査費と、今後の経費を」
ギブミーマネー。
前言撤回、ぜんぜん眩しくない。手のひらを差し出されたとたんに、つい今しかた聖女のごとくほほ笑んでいたあのレスカは一体どこに!?とたんに愛想笑いで言葉少なく…ベッピーンはもう一度、特大のため息を吐く。
「仕方ないわね、アタクシとアナタの仲ですもの」
「まけてくれるの?」
すっと、返事の代わりの差し出したのは…黒ひげ危機一髪?
…
……
…… ……
「いや~いい風呂だったぜ!…イテっ!って、何だ、黒ひげ?むむ、お前ら懐かしい遊びしてるな。なんだなんだ?その様子だと、レスカの負けか」
「ダ、ダ・サイダー、ごめん」
「今週の格言。金の切れ目が縁の切れ目~ポチッとな♪」
言うなり、ベッピーンがタブレットをクリックすると、レスカとダ・サイダーの足元がポッカリ開いて…
三十分ほど後。ある業者が回収に向かったコンテナの中からは若い男女の叫び声、いやさ。罵詈荘厳が漏れ聞こえていたという。