レスカ長編 Take my revolithion!! 作:湯乃屋
レスカが最初に意識したのは冷たい、頬に当たる石の固い感触だった。
重い瞼の後ろ側で飛び起きた、こうしちゃいられない!と焦る自分と。でもあと、もう少しだけ。そう思った瞬間だったろうか。
ひときわ。大きな音と共に何かがレスカの体にぶつかって来たのか?床にこすれるカユいような痛みと、のしかかる重み。いかんせんまだ瞼が重すぎる。だんだん・・・聴覚に続いて覚醒し始める触覚。手のひらに、脚に、腿に冷たい感触。意識、ここは?アタシは?
ガチャガチャと、金属がこすれ合う耳障りな音。遠ざかる足音。すぐそばで
「イテテ」
触れていたらしい。すっと離れて、風が当たると冷たく感じる右側、すぐそこで衣ずれが聞こえる。
「レスカ!・・・大丈夫かジャン?」
「ウムム~よし決めた!名付けてショック療法っ」
バチン!という音と衝撃、一体何が?考える間もなくバチン、ビタン、ビンタッ
「痛っいわね、何すんのよ!」
頬を真っ赤に腫らしたレスカが起きぬけに、振り上げた腕はまともにヒットして直後。対岸に大の字が描かれるなりガックリ。ブチあたった人物はずるずると、あっけなくノックダウン。
それよりも!ヘビメタコは急いで視線を戻すと、まだボンヤリと、しかし確かに意識は戻って来ているようだ。目をしぱたきながらもヘビメタコをとらえるなり、素っ頓狂な声を上げる。
「あれ?アンタ何してんの?」
「レスカ!良かった、気が付いたジャン」
それ以上は、声が出せなかった。目にいっぱいナミダを貯めて鼻をすすって・・・そんな変な顔で見るなジャン!レスカはゆるゆる、辺りを見渡して、記憶を思い起こして。
改めて気が付いたらしい、縄で拘束された両の手を持ち上げて、途端に瞳が荒む。置かれた状況を思いだしたのだ。
「チッ!アタシとした事が、油断したわ」
「それよりレスカ、」
「んだよぉ、せっかく助けてやったのに」
顔を向けると。後頭部をいたわりながらこちらを睨む姿に・・・ほんの小さく、ダ・サイダー?と口に出した声を聞いてしまった後では申し訳ないが。
「アンタ、え~と確か・・・クビョウ?ハ~ァ。懐かしいじゃないの、でもこんな所で何してんの」
「・・・もうちょっとクビョウが来るのが遅かったらレスカ、やばかったジャン」
へ?と気が抜けたような声で返されても、ヘビメタコには目線で教えるしか。
ヘビメタコの視線の先レスカ自身の脚、腿の半ばあたりまで開いたスカートのスリットから見えているショーツ、その意味。
一瞬だけ目線ががちあって、それ以上は見てはいけない。そう思ったからクビョウを見ると彼の方も、彼の方が一層バツが悪そうに背中を丸めてショボくれている。手持ちぶさたに耳の後ろを掻いて、ボソボソと、
「オレのパンチ、全然効かなかった。それどころか返り討ちなんて。ザマぁねぇよな・・・すんませんでしたっ!」
がばっと、と音が聞こえるくらいに上体を折り曲げて・・・ちらり。そっと目を上げた途端にギョっと、落着き無い。と、とにかく駆け寄って、どうにかして!
ふえぇぇ・・・、と。言葉にもならない音を出しながら、レスカはクビョウに体重を預ける。流れる涙を、悔しさよりも恐怖を洗い流そうとしている。ヘビメタコは、役に立たない自分はせめて目を逸らしていよう。
「あ~・・・貸しが出来ちゃったわね、いつか返すわ」
まだ、目の周りを赤く腫らしてそっぽを向いているが、どうにか調子を取り戻す事は出来たらしい。と言うか、どちらかと言うとクビョウの方が。
「レスカの姐御!大丈夫っす!オレがまもるっすー!!」
「そう言う事は先ず、縄を解いてから言いなさい?ったく、どんだけ時間掛かってんのよ」
だって~!と、今度はクビョウの方に泣きが入る。それでも必死に、不器用に格闘してくれているその姿にふっと頬が緩んで。ヘビメタコの視線に気が付いてまた、顔を隠す。だがそれは逆に・・・頬に痛々しく残る痕がヘビメタコに、クビョウに良く見えてまた目を伏せる。
あの時も。アララ国境近くの繁華街でレスカはみぞおちに、ヘビメタコの目にはその時、気を失ったように見えたが、そうでは無かったのかもしれない。抵抗した痕なのだろう。薄明かりに見えている口の端もあれはルージュではないし、擦り傷もいくつか。
ダ・サイダーに頼まれているのに。いや、ヘビメタコ自身が力になりたいと思っているのに、今も。
結局クビョウもヘビメタコも、牢屋そうろうに鍵を掛けられてこうして、まとめて捕まってしまった。窓のない、閉塞した空間は暗く、格子の向こうに頼りなく揺らめいているランタンの明かりだけでは今が昼なのか、夜なのか。いつか、それすらも分らなくなるだろう。そうなる前に
「でもさ。アンタ本当、何たってこんな所にいるのよ。ココ、一体どこなの?まさかアンタまでアタシを追ってきたって訳じゃないでしょう」
「うん、オレここでバイトしてるんだ。あれ?してた、かな。なぁ姐御、オレ、クビになるのか」
「何でアタシに聞くのよ」
知らないわよ、とトンガった口の動きを見て目をパチパチと、再起動でも試みようとしているのか、クビョウは首をかしげて
「海賊レスカ一味の求人広告を見て、ココに来てるんだけど。姐御がボスなんだろ?っと、外れた!」
なんて、澄んだ目で。・・・流石に、これにはヘビメタコも、痕になってしまっている手首をさすりながらのレスカと顔を見合わせる。
「クビョウ?おさらいするジャン。ウチは攫われたレスカを追って、ココに来たんジャン」
「そう!便所掃除の合間にサボってたらさ、何~か見たことある顔がウロついてるなと思って」
「イキナリ鷲掴みにされて、殺されるかと思ったジャン」
「そりゃコッチのセリフだよ。オレ、毒蛇に咬まれて死んだ!って思ったもん」
「牢屋はどこにあるかって」
「よく分かんないけど、尋常じゃない感じがしたからさ。で、来てみたら、居るじゃん。もしかしてオレ騙されてるんじゃないかって疑ってたんだけど、やっぱりレスカの姐御の一味だったんだ」
バカ!!と、シンクロした二人の声にクビョウが縮みあがる。レスカははぁ~と頭を抱えて、盛大な溜息を落として。
「どこに!ボスを牢屋に縛って転がしておく海賊団があるジャン?」
「もしかしなくてもニセ者レスカの一味よ、ココは!」
「・・・ああ!」
なーんだ、と独りで納得して、なぜか大笑いしているクビョウを横目に、レスカは目を伏せて、くちびるを噛む。・・・思い出しているのか、あの男の事を。気を許してしまった事を、後悔しているのか。
「このまま、ココで寛いでいる訳にも行かないわよね」
「逃げるジャン?」
「じゃ、オレはそろそろ便所掃除に戻らないと」
再び。ノーテンキな笑顔に揃ってガックリする。
「何言ってるジャン?こうなったらクビョウも一蓮托生ジャン」
「大丈夫じゃないか~?ついさっきまで味方だったんだし、謝ったら許してくれるだろ」
「偽レスカは!・・・こういう奴なのよ。アンタもさっき見張り番を殴っちゃったんでしょ」
「ダメージゼロだったけど」
「アンタも」
言って、手を伸ばす。レスカを守ろうと、頬に出来た痣をいたわるように柔らかく、微笑んで。
「今は絆創膏くらいしかないんだけど。・・・ありがとうね」
「レスカ・・・これを期にクビョウに乗り換えるジャン?って事はダーリンは、ウチだけのダーリンジャン!」
「でぇ?それは困る!オレにはカシャっていう若くてみずみずしいカノジョが」
「だ・れ・が!年喰ってパサパサですって!って、そうなのよぉ、さっきから何~か乾燥してるのよね」
「流石!小ジワの気になる年頃のレスカは鋭いジャン」
何ですって!とキバ剥いて威嚇してくる姿は無視して。
「レスカ、落ち付いて聞くジャン。ここはニャイルの遺跡、一週間前に居た、あの場所ジャン」
・・・
「・・・何バカな事言ってるのよ、そりゃ確かに暑いけどさ」
「アララ国からニャイルまで、最短の空のルートを高速船で飛んでも五~六時間」
「そうよ?アタシが気い失っちゃったのはこの牢に入って、イキナリ殴られたからで、それまでは起きてたし、時計は見なかったけど。そんなに長い時間じゃ無かった、あり得ないわ」
「ワープゲート」
ふふん、と得意顔を作るクビョウに弾かれたように、首を向ける。顔は正面からとらえているのにレスカの目は、何も映していない。ヘビメタコ自身も、つい数十分前に耳を疑った。それと同時にここに来た時。
ほんの一瞬、宙に投げ出されるような、体が浮くような独特の感覚。もう忘れてしまったと思っていたのに、その単語を聞いた途端に体が、心が確信を持ってしまう。
こんな所に、どうして?
レスカは頭を振って、イヤな連想をふるい落とすようにして。それでも何かが引っ掛かる喉を、慎重に、言葉を探している。
「ねぇクビョウ?アンタ、バイトしてたんなら、知ってるんじゃない?ココの奴らの目当てって」
「ナントカって石を探してるって言ってたかな。それさえ手に入れれば、一獲千金!ん~何だったかな」
「妖石、ジャン?」
「そう、それ!」
最悪、ジャン。ダーリンに何て説明したら。
と、頬に突き刺さる視線を感じ、恐る恐る顔を上げると・・・やっぱり。レスカが色のない、のっぺりとした顔でヘビメタコをただ見ている。アンタ、もしかして
「アイツ、何か知ってるの?知ってて」
「隠してる訳じゃないジャン!・・・まだ情報が足りないから」
レスカは勘付いている。さもあらん、これだけ揃ってしまっては。でも・・・今はまだ目をそらしているように映る。必死に、見ないように、ホラ。
ヘビメタコの真っすぐな視線に耐えかねてか、さっと、目をそらす。
「後で聞かせてもらうわ。今はココから脱出する事が先だから。それに、国の方も心配だし」
「クニ?・・・ああ、分かった!姐御はクニに残してきた家族を養うために海賊稼業に身をやつしてるって奴だな!うんうん、わかるぜ、貧乏って、悲しいよな」
三度、顔を見合せて。
「アタシ、アララ・カフェオレってんだけど?」
「その発言はっ!たとえ姐御と言えど許せないぜ?何を隠そうこのオレ、カフェオレ姫さまFC会員ナンバー228!ビミョーな数字だけど。ともかく!ドキドキスペースいちの美貌!清楚にして可憐!かと思えば、過去の災禍を乗り越える芯の強さ!・・・って、アレ?妖神ゴブーリキに洗脳されていた過去があって、名前は、確か」
改めて。クビョウはマジマジと見上げている。レスカはレスカで、そんな面と向かって露骨に誉めちぎられた事なんて初めてなのだろう。クネクネと気色悪く、だらしない顔で続く言葉を期待している。更なる絶賛を、感涙にむせび泣く姿を?それはどうだろう、ホラ。
「はぁ~オレの心のマドンナはたった今死んだ。知りたくなかった、そんな現実!さめさめ・・・」
ぷつん、とレスカから音が聞こえて・・・その先は、まぁご想像にお任せするジャン。