レスカ長編 Take my revolithion!! 作:湯乃屋
奥へ。
言われても誰も従う者はおらず、また人物も。それを当然の事と、目を細めて楽しんでいるようにすら見えた。
「どうぞ?」
繰り返されてようやく、ヘビメタコは顔を動かす事が出来た。レスカの肩越しに目ががち合う。
「どういう事よ?この・・・」
文様、たった一語がのどに引っ掛かっている。だって、これは。
応えるように人物がもう一度、文様に手を伸ばす。もう一度、触れた個所から。導火線を走る火花のようにそこに浮かび上がったモノは。
妖神ゴブーリキ。
レスカには見慣れ過ぎた、思い出すたびに苦く、そう思ってはいけないと分かっていても懐かしい、紋章。
「ちょっと待てよ。もしかしてこの奥って事なのか?」
「何をためらう事がある?今更」
「あ、当り前だろ?ミルク姫があんなに苦しそうだったんだ」
「彼女は聖なる三姉妹だからねぇ」
「だから!」
「馴染みのワープゲートなんだろ、アンタはその度に?」
レスカは一歩、踏み出して躊躇する事なく紋章に手を差し入れる。
「平気よ。アタシはミルクとは違うから」
満足そうに口端を吊り上げてその手を取り、奥へ。ワープゲートの光に呑まれて、溶けて・・・レスカの後ろ髪が完全に手の届かないどこかへ消えてしまうまで。クビョウは固まったまま、それからようやくヘビメタコの顔を見た。
額から、鼻筋に汗が流れれいる。ひとつ、頷くと喉のあたりがゴクン、と大きく動くのが見て取れる。大丈夫ジャン。と声を掛けてもまだ。瞠目して天を仰ぎ、それから。ナムサン!と勢いを付けて飛び込むと、再び。
主人を失った遺跡には静寂が、死んだように垂れこむのみだった。
◇◆◇
ホイホイ城の至る所にあったワープゲート。ドン・ハルマゲの元へ行く際には必ず必要だった。今の科学とは根本的に違う、いにしえの悪しき魔術で発動する装置。常人程度なら、
「クビョウ、もう済んだジャン?」
だって~と言いながらも、そうっと目を開ける。
「テンゴクかゴクラクか!・・・って、うわっ!怪獣?」
「誰が怪獣キングキドラジャン!って言うか。オマエの頭には花畑以外の発想は無いジャン?それを言うならジゴク、ジャン」
尻もちをつきながら、へらっと笑って誤魔化している、と言う事は大丈夫なんだな。とりあえずホッ。ヘビメタコは顔を上げて見回す。暗い、かび臭いガランとした屋内には人の気配どころか生活という言葉すら無く、割れた窓から射す夕日にホコリが、いつから溜まっているのかキラキラと、あれは・・・金?何でこんな所に?
「廃屋?何~か薄気味わるいトコロだな。って、それより姐御!」
ポンと肩を叩かれて今度こそ。飛びあがって逃げ出そうとするクビョウの襟首をつかんで、今度は頭を叩いて笑いをかみ殺しているのは。
「アタシよ、アンタの姐御のレスカ様」
ひらひらと手を振って笑っている。常人程度・・・常人よりも聖なる、善なる力が強いミルクには耐えられなかった、ワープゲート。改めて、窓から差し込む光に晒されたレスカは、いくつも小さい擦り傷をこさえて、泥にまみれて。しかしそれを気にするでもなく、微笑んでいる。
「そんな傷だらけに?姐御、やっぱり無理してんじゃないのか?」
「なに言ってんの。これはアンタがランタン持ったまま居なくなちゃったから」
面目ない、とショボくれるクビョウから、改めてレスカの腕に戻るヘビメタコ。わずかに・・・震えている?言葉がトゲとなって刺さっているのか。
「気づいていたか?あの時、アンタがお仲間とやり合ってる時。相手の勇者の方に纏っていた聖なる力」
靴音と共に。後ろからの声に明らかに、レスカの体温が下がる。ゆっくりと振り返る顔には今しかたの微笑みすら掻き消え、それでも相手の方は構わず、更なる棘を続ける。
「やっぱり違うな、さすが聖なる三姉妹だ。そりゃぁ、気絶するハズだ、あれだけの力ともなると。三人揃っていなくても、その気になれば他者を護るくらいは朝飯前」
それに比べてアンタは?・・・目は口ほどに。
対して、視線を外して口を引き絞る。言い返せない、レスカにはそんな力なんて無い。あの時は三人が心を重ねる事が出来たから。ココア、ミルクに上手く引き出されたからで・・・レスカ自身は聖なる力を自覚した事なんか無い。
無意識か、長く伸ばした髪をギュッと握りしめる。一度はバッサリ切ったものの・・・伸ばしているのは、何も結い上げる為だけでは無い事を、ヘビメタコは知っている。力が、確かな証拠が欲しい。レスカが紛う事なき聖なる三姉妹であるという、カフェオレであるという自信が。
くだらない!・・・分かっている。
「アタシは、慣れてるから」
ふん、といかにも詰まらなさそうに鼻を鳴らす。期待するような反応が返って来なかったのか。それもすぐに、いかにも平べったい愛想笑いにすり替わる。
「こちら側の出口は不安定なんだ。おかげで、勇者ラムネスとミルク姫と、がち合わずに済んでるけど」
「知られちゃマズいのかよ?」
「そりゃヒミツの話だから、ね」
言いながら、手に持っていたカップを差し出す。
「要らないわ」
そう言わずに、と苦笑いを浮かべながら自ら一口。即効性の毒では無さそうだ、でも。
「オレが貰う」
「知らないわよ?」
「それよかココ、どこなんだ?何かジメジメしてる」
「アララ国でしょ」
思わず、噴き出したクビョウに二人揃って半身をよじって避ける。
「アンタね。毒味してくれるのは嬉しいんだけど、もう残ってないじゃない?」
「嫌だなぁ、毒なんて。でもいい反応だったな。ご名答!ここはアララ国の端」
「でもってアンタらのアジト、でいいかしら?」
「でも、だったら・・・姐御、ふわ~ぁ・・・・・・」
言い終わるより早く。急にレスカに寄りかかって来て、どうしたかと見たら。ズルズルと座り込んでそのまま・・・眠ってしまった?
「やっぱり仕込んでたジャン」
「これは失敬、いつもの癖で。でもアンタも、聞かれたくないから止めなかったんだろ?」
は~ぁ。とため息を吐く。やっぱりバレていたか。レスカは改めて、腕を組んで睨みつける。
「で?アンタ何者、偽レスカの手下よね。何で・・・この場所を知ってるの」
「この場所?何か、特別な場所なのかな、ただの廃墟に見えるけど」
言いながら、いかにもわざとらしく金の置物に首を巡らせて、戻す。この部屋に来てすぐに目に付いた、いかにも場違いなシロモノだ。ニャイル調の、嫌でもあの遺跡を思い出す。婉曲な言い回し、大仰な立ち回り、全然違う顔なのに。
日が傾き、明かりもない室内。半分以上が暗に隠れている所為か。この場所、アララ城の地下の秘密通路の終着で、目の前の男にマキアの幻覚を見るだなんて。
「アンタの・・・ボスは」
「ボスって、コレの事かな?」
待ってました、とばかりに取り出したタブレットをレスカの方に、良く見えるように掲げる。そこには。
「念願叶う!宝石商の粘り勝ち、カフェオレ姫との交渉・・・アイツ、レスカに化けて、勝手に!コレが目的だったジャン?」
「交渉、決裂したそうだ」
「それなら。って、どゆこと?」
「実は」
声をひそめて、屈み込む。
「給料が未払いなんだ」
・・・・・・
そんな事!?顔を見ると一変して、いかにも困り果てた顔を作ってお手上げポーズ。
「さるお貴族サマが海賊を使ってニャイルの宝物庫を襲わせたんだ。だけどそこのお宝は全部ニセモノで」
「ち、ちょっと待つジャン、その話」
「受けた以来は二つ。ひとつは宝物庫を襲って騒ぎを起こす事。もう一つは」
指を立てたまま、たっぷりと。間を持たせてじらしている、コチラがしびれを切らすまで。そんな手に乗るものか。そう思っても、逸り出してしまった気持ちは抑えられない。
「もしかして、居座るってトコロまで依頼だったジャン?でも何で・・・ダーリンの足留め?」
「ダ・サイダーの居ない間にこのアタシに接触しようって?でもだったら何で。ココなら、アンタらがアタシを襲った場所のすぐ近くじゃない」
「久しぶりのワープゲート、楽しいい方がいいじゃないか?」
ざわり、と瞳が揺れている。握り締めたこぶしが震える。
それを見てまた、煽るように笑みが顔いっぱいに広がる。この男はこれから一体、何を言い出そうというのだ?レスカには予感があるのか。
「やっぱり、アンタこそボスに相応しい」
「冗談!お断りよ」
「それは受け入れられないな。だってそのバングル」
指されて、レスカは目の前に良く見えるように掲げると、しゃらん、と鈴にも似た音が耳に心地いい。
「内側に小さい、黒い石がはめ込まれているだろ?我々の求めているモノこそが、その石だ。それがあるから彼に付いて来た、それだけの理由。だったら、アンタの手にある今は、アンタに付くのが道理だろ」
「へ理屈ジャン」
「それに、アンタの方が何かと都合がいい。・・・いい加減、気づいているんだろ?ソレが何なのか」
夜が近いのか。いつからか、相手の顔のほとんどは闇に呑まれ、それなのに歪められた口元だけがハッキリ、嘲笑うように蠢いているのが良く見える。
「この宇宙のどこでも無い、誰も知らない場所にあるという。その石さえ手に入れることができたなら、どんな野望も思いのまま。
・・・もっとハッキリ言おうか。
ホイホイ城に残されたゴブーリキの遺産、彼の身に付けていた、彼の妖力を秘めた宝石こそが、我々の目的」
謳うように、自身に酔いしれている。思いどおりのシナリオ、思いどおりの反応が嬉しくてたまらないのか。
「その噂が立ち始めたのはつい、ひと月ほど前の事。ちょうどアンタが長旅から帰って、海賊を休止したのと入れ違いだ」
「・・・だから?」
とうとう、立っている事にも耐え切れなくなったのか。壁にもたれて、深く息を吐く。
「知らないわよ、そんな事。でも・・・たとえ噂でも、聞いちゃったからには放っておけない。ヘビメタコ、ダ・サイダーの居場所、分かるかしら」
「教えるまでも無いんじゃないか?」
ニヤニヤ笑いはヘビメタコに向けられている。まさか?でも、それ以上に・・・頬を突き刺す視線、レスカの戸惑ったような、非難しているような。まともに顔も見られない。
「聖都アララ国の親衛隊長、まして救世の勇者ともあろうお方だ」
「アララ国の次期女王にして聖なる三姉妹のアタシの耳には入っていないわ」
「そうでした」
「・・・アンタの言葉は信用しない。直接、聞けば・・・分かるわ」
動揺を、内にくすぶる想いを燃えるような紅い瞳に抑え込んだのか。こぶしを固く握りしめて、両の足で踏ん張っていないといけないのか。
「それで?何か掴んでるだろうアタシを仲間に引き込んで、たった一個のワープゲートを足掛かりにホイホイ城を見つけ出そうって?でもって、首尾良く妖石を手に入れる。・・・はん!バッカじゃないの」
「どうしてそう言い切れる?」
「よく見付けたと思うわ。でも故障してるじゃない」
「故障?」
「だってそうでしょ?ワープゲートって言ったら、どちらか一方はホイホイ城メインに繋がって・・・」
「レスカ!」
そこでようやく。
ヘビメタコの顔を見て、ようやく熱から覚める。だがもう遅い。相手はうつむいて、言葉を噛みしめるように呟いた後にレスカに、極上の微笑みを投げ掛ける。
「やっぱり!アンタを当たって正解だった」
「・・・知ってると思ったのよ」
ホイホイ城は、あの目玉型のメインと、無数のワープゲートで繋がった、どことも知れない小さな星、あるいは衛星群の総称。レスカたち配下が普段生活していた場所だって、その中の一つだ。だってそうだろう?あそこはとうてい、人間の住める環境ではない。だから・・・
レスカはヒョイと顔を上げて、ヘビメタコに視点を合わせる。
と言う事は、ホイホイ城の一部はこの宇宙のどこかに今も存在している?イヤ、無理だ。たった一個のワープゲートが見付かったからと言って、この無限とも言える宇宙でそれを探すなんて、砂浜でたった一枚の貝殻を探すようなもの。だから・・・諦められていたのに。
「でも、たとえ知ってても、アンタらみたいな連中には死んでも教えられないわね」
「わざわざ教えて貰わなくても。アンタに付いて行けばいいだけの話だろ」
「行くなんて!」
「行くだろ?アンタは知ってしまったんだ、だったら行動は決まってる。さて、海賊レスカの姐御は、ここで我々の誘いを断って、狙われて跡を附けられる危険な道を選ぶか。それとも華々しくボスの座に付いて、安全に大人しく凱旋するか」
これこそが、目的。知らないなら教えてやればいい。知ってしまった以上、選択肢などない。それでもダメなら。
「・・・気に入らないわね」
「じゃ、力尽くでも」
「で・も!・・・さるお貴族サマの件ってのは放っておけないわねぇ?なにしろこのアタシをコケにしたんだから」
ふふん、と身を逸らすと、相手も。目を見張っていたがニヤリと、嬉しそうに応える。
「タダでボスに迎えようなんて、下が黙っちゃいないだろ。見せてやろうじゃない?ホンモノの、海賊レスカ様のお手並みって奴をさ!」