レスカ長編 Take my revolithion!! 作:湯乃屋
ガチャン、と身をかがめて箱の中を覗き込んだ途端に。ベッピーンの、整った顔立ちからニンマリと笑みがこぼれる、と言うよりは笑いが止まらない!と言った方が近いか。
「ああっ。何て美しいんでしょう。色々あったけどこの!遺跡からチョロまかしたお宝さえあれば・・・」
その時。
突然、現れた二つの大きな瞳?夢でも見ているのかしら??と思って目をパチクリ。何だ、ただ美少女がアタクシのお宝にかじり付いているだけ。
「って、えぇ~っ!?」
「ンだよ、うっせーな。ってありゃ?オマエ、ラムネスじゃねーか」
「ダ・サイダー?・・・どうなってるんだ、一体?」
お互いに、キョトンと目を丸くするばかりの一同。そのすぐ脇でベッピーンが・・・バッタリと仰向けに倒れた事は言うまでもない。
おさらいしよう。
ニャイルの遺跡からワープして来て、丁度、運良く、都合良く。通りがかった、アララ国境近くを飛行中だったベッピーン、ダ・サイダーの船に出現したラムネスとミルクと、タマQ。とにもかくにもミルクをベッピーンのベッドに寝かしつけて、再びコックピットに戻って来たラムネスとタマQは「事の成り行き」を話してはみたものの。
「ぶっはッ!そ、そう落ち込むなって。バッタモンだったんだろ?良かったじゃねーか。あ~腹痛ぇ。ホラ、笛でも吹いて元気出せよ、な?」
「あのなぁ。オレの話聞いてた?」
ラムネスが口を挟むとすかさず、ニヤリ。ギク!このパターンは。
「笛行く?フエイク?フェイク(バッタモン)!」
バキ!と、破壊音に思わず目を瞑って・・・そっと開けるとやっぱり。ダ・サイダーはひっくり返ってゴキブリのようにヒクヒクと痙攣して、ベッピーンは鼻息も荒く、まだ涙目の割に目じりが吊り上がって、怒っているのか悲しんでいるのか。
発端と言えば。出現した際にミルクが、いつも通りお腹が空いていたのだろう。思わず「お宝」にかじり付いて、金メッキがはがれた事なのだから。ラムネスは少なからず責任を感じているようだが、それ程の事でも無いとタマQは思う。
「良いワケないでしょ!ドコのどいつの仕業か知らないけど、コッチは大損だっての!」
「えーと、つまり?ニセモノとすり替えてホンモノを盗んで来たつもりが、ニセモノだった?う~訳がわからんミャ」
「悪い事はするモンじゃないって教訓でいいんじゃないか?」
この優等生が!と目顔で言う二人の視線も。根っからの優等生は気にせず気付かずニャハハと笑っている。何と言うか。
流石に。ダ・サイダーは慣れた様子で鼻から息を吐いて消化して。改めてラムネスに向き直る。
「しっかし。オマエまであのニャイルの遺跡に居たとはなぁ」
「って事はニャイル観光からのメールだったのかな?」
「さっき調べさせたが、そんな記録は残って無かった」
一体全体、何がどうなっているのだ?今日一日で何度目だろう、また同じ言葉を繰り返している。その度に互いの顔を見ては何か、糸口が無いものかと探して、天井を仰いでいる。
はァ~あ。
「ベッピーン、ついでに聞くが奴の連絡先は」
「ヤツって誰よ、満身創痍のアタクシにまだ何か?」
「偽物だよ。アイツの仕業としか思えねーだろ」
「ニセモノ?」
首を傾げるラムネスの質問は、らしくないくらいに苦り切った横顔で返されるのみ。
「ちょっと待って。だったらこの金メッキも?」
「それ以外の誰がやるんだよ」
あンの野郎!と猛然とタブレットを操作していたが・・・突然、舌打ちと共に手が止まって、その手を握り締め吐き捨てる。
「ヤラレたわ。メールボックスごとブロックされてる」
「手際のいい事で。でも、そうなると」
「手がかりナシね」
「それと・・・」
「ンだよ、まだ何かあるのか」
一旦言葉を引っ込めてタマQを見る。ラムネスが言い淀んでいるのは何も、ダ・サイダーの目つきがいつも以上に凶悪な為ではない。その、内容が。
「その、紋章なんだけど。チラと見えただけだから間違ってえるかもだけど」
もう一度。タマQを見て、息を吸い込む。
「ドン・ハルマゲのマークに見えた」
さすがにコレには。と思ったも割に、タマQが予想したほどの反応は無く、妙な肩透かしを食らった気分でラムネスと顔を見合わせる。対するダ・サイダーとベッピーンの方は渋面までハモって顔を見合せて、はァ~あ。
「どう思う?」
「どうって、それ以外に?」
「だよなぁ」
ハテナ顔のラムネスとタマQを置いてけぼりに、ダ・サイダーは長い体を更に伸ばして、シートに深く沈み込む。
「こりゃ。トンデもねー土産が出来ちまったな」
自動操縦の船はドンドン進む。アララ城まで、もうあと少し。
◇◆◇
いつもだったら。
正面ゲートから派手派手しく、甲板に勇士を見せつけながら格好良く、親衛隊長らしく勇者らしく!・・・と行きたい所だったが、今日ばっかりは。細い簡素な橋から繋がる日の当たらない裏口からコッソリと、まっすぐにミルクの部屋へ。誰にも見咎められないように。
意識を失っているにも関わらず、目の前のモノにかじり付く程度には回復しているのだ、いたずらに大ゴトにする事は無いと父ヨッコーラ、姉のココアにだけ伝えて、今はラムネスと共に見舞っている。対するコッチは所在のない待ちぼうけ。
「ダ・サイダーはいいのかミャ?」
「オマエこそ」
「これだからオトコって奴らは。そんなに見舞たいなら、さっさと行けばいいのよ」
言われて思わず。背中の、ミルクの自室の扉を振り返る、が。ダ・サイダーは顎を逸らして、戻して。踏ん切りを付けるように歩き出したものだから、ベッピーンも一歩遅れて付いて来る。
「バァカ。オレ様が居て何か変わるのかってんだよ。それに、一週間も留守にしたんだ、仕事があんだよ、オシゴトが」
そこへ
「親衛隊長!・・・探しました」
「ホラな」
「じゃ。アタクシはこの辺でおいとましようかしら」
その一言で明らかに、ホッとした表情を作る衛兵。悪気は無いのだろうが、アララのお国柄というか、素直すぎると言うか。幸い、ベッピーンの方も気に障ったふうも無く、手をふって見送ってくれる。
気にな掛からないでもないが・・・こちらです、と言われて先導されて。辿り着いた場所はダ・サイダーの、後ろ髪を断ち切るには十分過ぎた。
広い部屋ではない。重厚な机を主としてその脇に二人、そのうちの一人は。
「レスカの執務室、に王様?いいのか、ミルクは」
「ウン。今はよく眠っておるよ」
ニコリと笑顔を作ってはいるが。タマQが出かける前に挨拶をした時よりもずっと、憔悴して見えるヨッコーラ。本当はもっと、ミルクの傍に居たいだろうに、寄りにもよってこんな、人目をはばかるような場所を選ぶなんて。
「・・・何かあったんだな」
応えたのはドレス姿の人物。」侍女?にしては着ている服装がこの城の制服とは異なっている。一枚のカードをダ・サイダーの目の前、重厚な机の中央に差し出す。そこには
本日深夜十二時、アララ城にニャイルの秘宝を頂戴に参ります。海賊レスカ
「昼前、カフェオレとは町で出会いました。その際に、どうしても外せない用があるから、と言っていましたが」
内容もさることながら、どう聞いても男の声にびっくりして思わず見上げると、ダ・サイダーも同じく。いや、この表情はもっと・・・
予告状に気を取られていたがようやく気が付いたのだ。ヨッコーラと、もう一人の人物が偽レスカ、マキアである事に。
「本当に、カフェオレじゃろうか」
「そうでない事を祈るしかないですね」
マキアはダ・サイダーの方を見ようともしない。いっぺんにコトが起こり過ぎたヨッコーラには抱えきれないのか、気づいた様子も無い。タマQには。ジリジリと焼け付くような殺気が
ガシャン!
・・・パラパラと、追って崩れる破片は場違いなくらいに軽い音を立てている。その場にいた誰もが凍り付いたように一点を、粉々に砕かれた鏡を、鋭利な破片を伝う血から、目が離せない。
「何なんだよ・・・レスカも、ワープゲートも!」
「ダ・サイダー?」
急に。
夢から醒めたようにタマQを見返す。だらりと腕を垂らして、その先からもまだ血が、絨毯に小さな染みを作る。作るたびに、ダ・サイダーの顔からは血の気が引いてゆく。
「アリャリャ、と、とにかく手当を」
「おい、オマエ」
「・・・コード070361」
確かにその時、顔色が急変した。今にも倒れそうな蒼白。あのダ・サイダーが?マキアは慌てて、隠すように口を手で覆う。じり、と後ずさりして・・・飛び出して行く。
すがるように伸ばされた手。反して、沼に取られたように重く言う事を聞かない足。あっけないなくらいに平穏なヨッコーラの心配顔など、ダ・サイダーの目には映っていないのか。
その目には・・・乱暴に開けられたままの扉の向こうに残る残像にいつまでも、いつまでも。釘付けられたように動かせないようだった。
◇◆◇
乱暴にファイルを開くと、ポッカリと丸く切り取られた明かりの中で埃が、まるでスノードームのように踊り出す。
やっぱり、知ってるんじゃないか!
抑えきれない高揚感で震える指を繰り、目的のページを探し当てる。
「親衛隊記録、ナンバーコード070361
四年前、三月某日。ドキドキスペース上方××光年区画に微弱なエネルギー反応。
某日、ダ・サイダーが調査に向かう。
某日帰還。廃墟を発見、しかし生物の確認は出来ず。
某日再確認、エネルギー反応ナシ。誤作動の可能性」
震える手で、隠すように口を覆う。そうでもしないと声が出そうで、馬鹿みたいに笑い出してしまいそうになる衝動を必死に堪える。
誤作動?ありえない!
当時、大戦の直後。被害状況を調べる為に飛ばされた無数の衛星。それを元に各地に派遣された兵士たち。どこも人手不足だった。更に追って調査をする人員も、時間すら無かった事を理由に、埋められた記録。
報告を聞いた時、気に入らない!そう思った。もう一度調べ直してくれとも頼んだ、良く覚えている。もう一度、アクセス出来るだろうか?バッテリーを考えると無謀としか思えないが。
生きていた!あの時と同じに、微弱なエネルギー反応が切れ切れに・・・慌ててアドレスを記録した所でプッツリと、とうとう切れてしまった。
じりじりと、白熱灯の燃える音だけが耳に付く。
ダ・サイダーはワープゲートの存在を知っている。この件のコードを暗記していた。そして何よりあの顔!
誤作動?ありえない。だって、この衛星を設計したのはこのボクだ!
調査対象区画は暗黒大彗星、ホイホイ城があったとされる場所。もしそれが事実だったとしたら?
ダ・サイダーは四年も前にホイホイ城、最重要危険因子の正確な位置を把握しながら、捨てきれない悪に惹かれる気持ちを優先して事実を隠し、誰にも知られまいと嘘の報告をしていたとしたら。
・・・・・・
カタン、と音がして我に返る。そう言えば・・・どれほどの時間が経過した?机につっぱたままの腕がしびれている。振り返る動きも、まるで自分の体じゃないみたいにぎこちない。
丸く切り取られた明かりの外で、シルエットが囁く。
「あんたがマキアートか?姐御、レスカがお呼びだ」
「・・・いいねぇ、面白くなって来た」
最高の気分だ!