レスカ長編 Take my revolithion!!   作:湯乃屋

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 刻一刻と。迫り来る時刻に追われるように慌ただしく、ごった返す城内をヘビメタコは、複雑な気持ちで見詰めていた。伝統と伝説の息づくアララ城。それに合わされた柔らかいオレンジの灯に、今夜ばかりは煌々としたスポットライトが、そこかしこに設置されて、場所によっては昼間のようで、顔を逸らす。眩しいよりも、明らさまな異常事態を巻き起こしてしまった事に、思わず。

 

 今も。普段はほとんど人の行き交う事もないここ、プライベートエリアにも先を急ぐ衛兵が駆けて行く。唯一の救いと言えば、どの顔もそれほど思いつめていない事くらい、ただ一人を除いて。

 

 はぁ~あ。振り仰ぐと、見慣れた背の高い扉が視界いっぱいに広がって、やっぱり後ろめたくて、すぐに逸らしてしまう。思わずと言うか何と言うか。依りにもよってダ・サイダーの部屋の前に、どうして来てしまったのだろう。いや、理由は分かっている、それにしたって!

 

 はぁ~あ。

 

 「ヘビメタコ、こっちはOKだぜ!姐御の指示通り、予告状全部で20通、バラ撒き完了!って、何だよ何だよ、お祭りはこれからだぜ?」

 

 「お祭りって・・・ウチもクビョウくらい神経が太かったら。はぁ~あ」

 

 「どーいう意味だよ!」

 

 「大臣はじめ文官、武官を集めた緊急対策会議があって、今は、見張り中を除いた全兵士を集めた警備計画会議の真っ最中。いくらなんでも・・・やりすぎジャン」

 

 「デッカくハデな方が良いって。姐御が言ってたの、聞いてたろ?」

 

 「聞いてたけど!」

 

 一時間ほど前だったか。恋しさ余って、物蔭から覗いたダ・サイダーの顔を思い出す。一目でも、そう思ったからこその、この場所なのだが。・・・ブルルと身震いをして、顔を上げる。クビョウは・・・言いたくないけど部外者だから、そんなにノホホンとしていられるんじゃないか。口には出さないけど、せめて思いっきりニラんでやると、眉をハの字に腰に手を当てる。

 

 「ったく、だらしないな。そんな事じゃ上手く行くモノも上手く行かない、後でレスカの姐御が・・・コワイぜぇ?」

 

 「レスカ?」

 

 「そ、海賊レスカの姐御・・・って、ん?」

 

 背後からの声、と言うより覆いかぶさるような長身の影に、振り返ったそこに居たのはモチロン。依然、険しい表情のまま。いや、より一層深く刻まれた眉間のしわも凛々しく格好良く、ダ・サイダーその人がクビョウと、ヘビメタコを交互に睨みつけ・・・ヘビメタコはヘビに睨まれたカエルよろしく一歩も動けない、その間にも足早に近づいて来て、腕を伸ばして。

 

 「ひえ~命ばかりはお助け!」

 

 「キサマが、なおも逃げようとするならば保障はせんぞ」

 

 思わずギュっと目を瞑った、のにアレ?・・・そうっと目を開けてみると、凶悪な中にも呆れと言うか、さっき見たよりもずっと柔らかい、でもニラまれて襟首を掴まれている。当のクビョウは必死に手をすり合わせて拝んでいる。

 

 「んん?キサマどっかで見たような顔だな」

 

 「ヘビメタコぉ、取り成してくれよ」

 

 「バカ!クビョウ、こっちに振るなジャン!」

 

 「んんん?そこに隠れてるのはオレ様のスウィートハートのヘビメタコか」

 

 ダーリン!とウットリ出来たのはほんの一瞬。胴を力任せに鷲づかみされて、グエェ・・・

 

 「思い出したぞ、キサマ確かカシャん所の臆病者だな。って事は本当にレスカの仕業なのか?ったくバカ野郎・・・何考えてやがんだ」

 

 「あ、姐御の悪口はこのオレが」

 

 「あぁ?」

 

 「ごにょごにょ・・・」

 

 情けないっ!と、言うヘビメタコ自身、グウの音も出ないのだから言えた事じゃ無いけど。

 

 「おいキサマ、いい事を教えてやろう。オレ様は今、警備計画会議の真っ最中をちょっとフケて来た所なんだが。ここで会ったが百年目、じゃなかった。ここで会ったのも何かの縁、特別に招待してやろう」

 

 「ひええ~それだけは!なヘ、ビメタコ?オレ、どうすればいい?ココでゲロった方が良くないかな」

 

 「あ、後でレスカにって、自分で言ったんジャン?」

 

 「それとも、ヘビメタコが教えてくれんのか?あぁ?」

 

 「う、ウチだって大ピンチ~ジャン!」

 

 「えーいこうなったら奥義!」

 

 言うなり、ダ・サイダーの腕を振り払って、間合いを取って。重心を落として小さく構えて。

 

 「計画の概要はですね、ゴニョゴニョ・・・」

 

 ウンと背伸びをしてダ・サイダーの耳元で暴露。・・・ハァ?

 

 「目先の圧力には絶対服従!後の事は後で考える」

 

 「オマエ、長生きするぜ。それにしても・・・ったく。やり方なんて他にいくらでも在っただろうに、バカが」

 

 

 「この城でニャイルの秘宝と言ったら、コレしか思い付かなかったのじゃが。本当にコレで合っとるじゃろうか。アリャリャ心配じゃ」

 

 アララ城ホール。城の中でも1、2を争う広い場所の片隅に鎮座する巨大な金の壺。その前でヨッコーラは、いつも以上にオロオロと右往左往していた。周りにはダ・サイダーを始めとする先鋭部隊が取り囲み、それなりに物々しくも張り詰めた雰囲気だと言うのに。

 

 「王様よぉ、ココまで来ちゃまったんだ、どーんと構えようや。会議ん時の威勢はどうしたんだよ」

 

 「おぬしは・・・なんだか楽しそうじゃの?」

 

 「っと、警備配置の確認中だった」

 

 それ以上、何かを言われる前に。そそくさと場所を離れるダ・サイダーは・・・仕方ないので本当に、警備の配置がてら改めて、ホールに集まった面々を、大時計に目を向ける。

 

 11時半、いよいよ近づく「予告」時刻に対して、実に様々な表情が見て取れた。ヨッコーラを筆頭に不安、疑問。期待、浮かれの一番は妹たちだろうか、壺が良く見える、いわゆるS席で既に宴会の相を呈している。カゴを下げて菓子やらドリンクやらをを配っているメイドなんかを見ると本当に、まるで今からお芝居でも始まるような期待が、一番多いだろうか。

 

 しかし。一体どこからこれほどの人数が集まって来たのだ?噂を聞きつけて城中の人間が集まって居るのだろうが、それにしても。

 

 「親衛隊長サマ、差し入れですわ」

 

 ああ、と適当にヨソ見をしながらグラス受け取って、口を付ける・・・吹きそうになる衝動を必死にこらえて顔を向けると、更に驚く事になった。カゴを下げたメイドの格好はしているものの。

 

 「あら~親衛隊長サマには物足りなかったかしら?お酒」

 

 「ベッピーン?キサマ、どうやって」

 

 侵入した?と言おうとした言葉に先回って親指をたてて、自身の背後を指さす。

 

 「警備に問題アリね。この格好でウロついてたら、アナタも手伝って、ですって」

 

 ったく、どいつもこいつも。そう思ってか、一気にあおると今度はベッピーンが目を丸く、それもすぐに呆れたような微笑みに変わる。

 

 「いやにご機嫌じゃないの」

 

 まぁな。の一言ではぐらかすと予想通り、ベッピーンは睨むような目でその先を促す、が。溜息一つで諦めたのか、興味がないのか。自身も持っていたグラスを一気にあおっては、ぐるり見回す。

 

 「何でも?レスカか面白い事やってくれるって言うじゃない。参加しなきゃソンよね」

 

 「ま、お手並み拝見と行こうじゃねーか」

 

 「・・・もしかして。アナタも一枚噛んでるの?」

 

 何の事ですかぁ?と空っとぼけた所で。ざわり、と場内が揺れて、にわかに色めき立つ。入口の方角だろうか。誰か来たらしい、倣って首を伸ばすと。数人の警備兵に埋もれる形で見えないが、良く通る声がここまで届いて来る。あれは。

 

 「狙われているのは奥の、ニャイルから寄贈された壺だって?フゥン、まだ確かにあるな。いいか、警備を怠るなよ、ボクの提案は?・・・あぁ、ちゃんとロウソク照明に切り替えてくれたな。万一、電気系統でも狙われたらひとたまりもないからね」

 

 テキパキと指示を出しながら丁度、会場の中心あたりで足を止める。さすがに女装は終了したらしいマキアの姿にベッピーンは、呆のように口をまん丸く開けたまま、ダ・サイダーの腕を取って、揺さぶっているのか、震えているのか。こっちも・・・見ていたら面白いだろうなと思ったのだろう、ニヤける顔を必死でこらえて、引き締めて。ご登場とあらば出迎えない訳にはいけない、よなぁ。とばかりに。

 

 とうとう、シビレを切らしたベッピーンが見上げる頃には横顔はキリリと、思わず息を呑むほど。ダ・サイダーは仇敵、マキアを睨みつけたまま、空のグラスを押し付けるなりスタスタと。相手の方も気が付いてか、わずかに眉根を寄せて、合わせて取り巻きたちが一歩、下がる。

 

 「いよぉ。待ち合わせは12時じゃなかったのかよ、ずいぶん優等生じゃねーか」

 

 「・・・キミに関ずらわってるほどボクは暇でも無いんだけど」

 

 「釣れねぇ事言うなよ・・・なぁ!」

 

 ベッピーンの「バカ!」という叫びは、激しくぶつかり合う金属の音でかき消されてしまった。ダ・サイダーの下げていた、儀礼用とは言え長剣が流れるようにマキアの鼻先目がけて・・・それを体中の力を込めた、持っていたペン一本で防いでいる?

 

 ぎりぎりと、耳をふさぎたくなる音に誰もが固唾を呑んでいる。一体、どういう事なのだ?ダ・サイダーは体をほんの少し前に、体重を掛けるとペンが、更に悲鳴を上げる。

 

 「へぇ?ちったぁヤるようになったじゃねーか」

 

 「はん!そう思うんなら少しは手加減してくれてもいいんじゃないかしら?」

 

 「おいおい、地がでてるせ、カフェオレ姫サマよ」

 

 ぱん!と軽い音を立ててとうとう、ペンが真っ二つに割れる。あわや!・・・いや?一瞬遅れて音もなく、地に倒れ込んだのは外套のみ。一体、何が?衆目の思いが集中するダ・サイダーは返す手で長剣を鞘に仕舞い、それに肘を掛けて振り仰ぐ視線の先。

 

 舌打ちをして腕を組んで見下ろしている。いつの間に上がったのか、会場をぐるりと取り囲むバルコニーの真っ白い桟の上、背後の藍の空、満天に輝く星々に縁取られたシルエットは。

 

 「つっまんないオトコね、親衛隊長サマは」

 

 軽く手を上げる合図で、スポットライトに浮かび上がる。予告通りにハデな演出で真打登場!けだるそうな、眠たそうな目で睨みつけながらも、紅潮した頬がイチバンの感情を雄弁に物語っている。レスカだ!

 

 「もうちょっと付き合ってくれてもいいじゃない?で・も。おあいにく様、アタシはレスカ。カフェオレ?誰の事かしら~?ど~うして間違えたりするのかしらぁ?第一、アンタらのカフェオレつったら・・・コイツの事なんでしょ?」

 

 指した場所に再び。スポットライトで浮かび上がるのは、今度こそ本物のマキア。レスカに輪をかけて面倒くさそうな、今にも居眠りでもしそうな様子は、未だ女装姿のまま、晒し者にされている不服からか。後ろ手に、縛られているのか組んでいるだけか。

 

 更に。レスカ、マキア両人に覆い被さるように記事が、拡大投影される。ダ・サイダーは目を細めて、そこに踊る字を辿るが、その必要も無さそうだ。会場中に通る、アルトの声が読み上げる。

 

 「なになに?アララニューストピック。カフェオレ姫ついに宝石商と対談!ご丁寧に写真付きの記事、イイネリツイートどっちも4ケタ。国中の多くの人が知ってるって証拠ね。でも実は、このカフェオレ姫はニセモノでした~とか。今さら無いわよねぇ?」

 

 「レスカお前、自分より美人だからって妬んでんのか」

 

 「な!バカ言ってんじゃないわよっ!」

 

 「事実だ、諦めるんだな」

 

 「どいつもこいつも!・・・も~ブチ切れた!!」

 

 大きく振りかぶって対岸を指す。と、誰もが釣られて動かした視線の先、会場の片隅に鎮座していたハズの、見逃しようもないニャイルの壺が・・・無い!?

 

 一気にさざめく会場内に、オーホッホッホ!と。一転して得意満面、腰に手を当てて高笑いのレスカだが。今回ばかりは悪役、そうは問屋が卸さないのが世の常だったりする。ダ・サイダーは落ち着いた、と言うより浮足立つのを必死で抑え込んで、壺の在ったハズの場所まで歩み寄ると、

 

 「何~んだコリャ」

 

 言うなり、端から空間を引き裂いて・・・ンな訳ない。ダ・サイダーが手を掛けた場所から剝がれたのは巨大な写真、壺の四方を取り囲むようにして張られていたその中にはチャンと現物が。

 

 「現れたって事は。ボクの推理によるとこれは、四方をカラッポの写真で覆っておいて、いかにも盗みましたってトリックだな。今の茶番の間にみんなの視線を集中させておいてその隙に」

 

 「バナナの皮じゃあるめーし、こんな子供だまし」

 

 「そこがミソなんだ。彼女はわざわざ理由を付けてまでロウソク照明にこだわった。なぜなら、電気照明に比べて視界が通り難いから」

 

 「そりゃアンタはずーっと見てたんだから!・・・何よ、タップリ堪能してから格好良く種明かししようって楽しみにしてたのにっ!」

 

 「そりゃ悪かったなぁ?お騒がせマジックショーを邪魔しちまって。で?オシマイか」

 

 「まだよ!」

 

 涙目になりながらも、さっと取り出したのは、豪奢な金細工の置物?これにはダ・サイダーも眉根を寄せていぶかしむ。コレは・・・聞いてないぞ?そう言いたげな視線をスポットライトを操っていたクビョウに投げ付けるも、さっと目を逸らされる。あの時、すべてはバラした訳では無かったという事か。流石と言うか、抜け目ないと言うか。

 

 と、その間にもクビョウはしれっと働いている。今度はベッピーンにライトを向けると、どうしたと言うのだ?場内の誰にも覚えがなく、一様にいぶかしんでいる中でただ一人、愕然と、震える指を向けながら。

 

 「あ、アナタ・・・面白い余興をやるからコレを持って来いって」

 

 「あら!そこに見えるはニャイル観光案内嬢サマ。あらら?その手に持っているモノは、もしかして」

 

 近付いて良く見なければ分らないが、ミルクの歯型が付いたソレは、レスカの手にあるモノと全く同じ、金細工の置物。同じものが二つ?

 

 「あららら?って事はコレ、ニセモノなのかしら?どう思います、キャラメル侯爵令嬢サマ」

 

 「そんな事より。いいのか?今顔色を変えた奴らの顔を覚えておかなくて」

 

 隣に立っているレスカにだけ聞こえる程度の小声で。見ると顎を、衆目の方を指している。「共犯者。けっこう面白かったお礼だ」更に抑えた声に、慌てて視線を飛ばすと、ひいふう・・・マキアに視線を戻すと、にいっと、依りによって仇敵に助け船を出されるなんて!

 

 レスカが歯咬みしている間に、すうっと息を吸い込んで声を張る。

 

 「ニャイルの観光案内嬢が持ってるなら、そっちがホンモノなんだろ、普通」

 

 「じ、じゃあ・・・アタシが頂戴しても?」

 

 「ソレで良ければ」

 

 「そンじゃ、遠慮なく」

 

 コレにて一見落着!・・・ってちょっと?アタクシの一人損じゃない。というベッピーンの訴えも、満場の大盛況に乗じて無視して。咲き乱れる拍手の花に手を振りながら「ま、こんなモンでしょ」とでも言っているのか、ヘビメタコの位置からは遠すぎて聞こえないけれど。

 

 折り良く、大時計が十二時の鐘を鳴らす。誰もが一瞬だけそちらに目を向け、そして再び目を戻した時。ひらりと飛んで上がって来たダ・サイダーがレスカの、気分よく振っていた手を握り、思わず上げた視線と、視線がぶつかり合う。

 

 シンと、誰もが息を呑んで見守る中。淡い星明かりに浮かび上がるのは、美しき女賊を捕らえなければならない悲しみと、捕まらなければならない喜び。まるで物語のワンシーンのような・・・

 

 ふっと、目元を緩めて意地悪な顔を作ったのは、捕える方。

 

 「逃げようったって、もう魔法は時間切れだぜ?城の奴らを引っかき回した罪、言い訳があるなら聞いてやる、何しろ夜はこれからだからな、ご主人サマよ」

 

 当然。耳まで真っ赤にうつむいてしまうレスカに純粋に、キョトン?と首を傾げた途端。ヒューヒュー!と野次が飛んできても、なおも気付かないダ・サイダーに、ようやく追いついたヘビメタコは、仕方ないから説明してあげたら、こっちも。

 

 「ち、ちげーよ!そんな事よりホラ、散った散った!!」

 

 そんなに真っ赤になってちゃ、ゼンゼン説得力無いジャン。

 

 

 三々五々。ようやく人がまばらになて、ようやくコッチも落ち付いた。物理的に、顔のほてりも落ち付いて来て、改めまして、向かい合うレスカとダ・サイダー。ほんの一週間の事なのに、長い長い間に思えてならない。具体的にはまる4か月くらい。何から話したらいいのか・・・そんな、迷ってるくらいなら!

 

 「ダーリン!逢いたかったジャン、ウチ、ウチ・・・」

 

 グズグズしてるんだったら先を越してやるジャン!さっき(冒頭)は色々あって出来なかったけど、今度こそ。ダ・サイダーの首にグルグルと、愛情の分だけ巻き付いて。

 

 「ぐ、ぐるじい・・・」

 

 「ご、ごめんジャン、つい嬉しくって」

 

 「おいおい~ヘビメタコ駄目だろ?これからシケ込もうって二人の邪魔なんかしたら、馬に蹴られるぜ?イヒヒ」

 

 と、ニヤニヤ笑いながらタブレット録画モードのクビョウにすかさず反応したのはレスカ。

 

 「クビョウ!アンタ・・・バラしたわね、分かってんでしょうね、え?」

 

 「ゲゲ!一気に形勢逆転、逃げるが勝ち!」

 

 言葉の割に。追い掛ける気も無かったのだろう、顔を見合せては笑い合っている。ダ・サイダーと、レスカと、ヘビメタコ。ようやく取り戻した三人の、騒々しい日常・・・だったのに。

 

 音もなく割り込んで来る影があった。

 

 「ご挨拶をしそびれていましたね、ボクはマキアート。初めまして、ダ・サイダー殿」

 

 途端に気温が下がるのが分かる。ダ・サイダーの目が鋭く研ぎ澄まされ、だがそれも一瞬。続けて差し出された文書に目を落とすなり、かつもくしてマキアと交互に見比べている。

 

 「この件について」

 

 続く言葉は、たっぷりの間に消されたのか。ダ・サイダーと、レスカのちょうどまん中に差し出された文書は、当然レスカからも良く見えて。マキアの顔を見て、ダ・サイダーを見上げる。・・・どういう事?

 

 「アララ国親衛隊長、ダ・サイダー殿。国家反逆の罪で告訴します」

 

 ・・・異存は?

 

 「ねぇよ」

 

 すぐそこで、レスカの息が止まる。わっと、僅かに居残っていた人々の間から笑いが漏れ聞こえて来る。こちらの声が届かなかったのだろう、まだ穏やかな余韻が場違いなくらいに・・・いや、場違いはこっちか。ここだけが切り取られたように、季節外れに凍り付いている。

 

 レスカは俯いたまま、動かない。

 

 「ヘビメタコ、持ってな」

 

 呼ばれて顔を向けると何かが飛んできて、慌ててキャッチする。見るとそれは指輪で・・・他でもない、去年の誕生日にダ・サイダーから贈られた、誓いのしるしではないか。目を疑って、顔を上げた瞬間だった。

 

バキ!

 

 と、耳までも痛くなる音にダ・サイダーがよろける。だが、それだけ。顔を背けたまま、体をよじる気配すら無い。

 

 レスカも。たった今振り上げたこぶしを抱き込むように、俯いて、見えなくなる。

 

 「カフェオレ」

 

 かすれた声の方を向くただの反射。だが呼んだマキアの方はとたんに蒼白に、息も出来ない顔からは想像しか出来ない。今のヘビメタコには見えない、レスカの心。

 

 ふっと、顔を背けてそのまま。誰にも目もくれずに独り、行ってしまう。

 

 会場には再び、さざめきが起こっている。さすがにあれだけの音がしたのだ、誰もが気が付いて、注視していたのだろう。さっきまでのお祭りとは全然ちがう、どよめきが起こっている。

 

 そしてその誰もが、レスカの後を追う事が出来なかった。

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