レスカ長編 Take my revolithion!!   作:湯乃屋

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 灰色に立ち並ぶ無機質なビルと、その間にまっすぐな道が続いている。振り返ると、今まで歩んで来た足跡が連々と、ホコリに覆われた舗装に異質な痕を残している。顔を廻らせれば所々に残る壁のラクガキ、片付ける者も無く隅に吹きだまるゴミクズすら、うっすらと灰一色。まるで古い写真でも見ているようだ。

 

 変わってないな。口には出さず、再び歩を進める足音だけが、誰もいない街にこだまする。ふと、僅かな気配に視線だけを動かして盗み見るも、肩の上のヘビメタコは未だフリーズしたまま。この場所に降り立った時から、ずっと。・・・いや?

 

 「こんなの、まるで・・・」

 

 ・・・・・・

 

 

 「気になりますか」

 

 声を掛けられてようやく、ダ・サイダーはいかにも重たそうに顔を戻すが。その瞳からはトレードマークとも言える燃えるような覇気が、すっかり消えてしまっている。

 

 ため息と同時にそこここから、グッタリと椅子の背もたれをきしませる音。これ見よがしな非難が何度繰り返されても一向に。再び、頬づえをついてはボンヤリと、窓の外に意識を飛ばしている。窓の外。耳を澄ませば、わずかにエンジン音が聞こえる。城の外れにあるエアポートからだろう。

 

 とんとん、と。場を取り繕うような音に、つい気もそぞろになっていた一同が慌てたように座り直す。とんとんとん、と手元の資料を揃える音が、締め切られた扉を背にしたマキアから。手元の資料から、顔を上げる。

 

 一夜明けて。

 

 眩しいくらいの好天に恵まれて、けれどこんな会議室なんかに詰めていては、それも関係無い。中央、部屋の大部分を占めるテーブルに揃っている、いずれもアララ国の重鎮と言って差し支えない面々。その誰もが判で押したような渋面を作っている中でただ一人。ダ・サイダーは窓を背に、大人しくと言うよりは気の抜けたようにボンヤリ座っている。

 

 「そんなに気になりますか。誰が旅に出るのか、何所へ行くのか。羨ましいですか?」

 

 抑えた、というよりは呆れたような声にようやく、ダ・サイダーは焦点を合わせる。勢いの無い視線、それでも一瞬だけ。ひるんだように揺れるが踏みとどまり、にらみ返して続ける。

 

 「もう一度確認します。あなたの担当した親衛隊記録、ナンバーコード070361。あなたは重大な発見をしながら、報告をしなかった。間違いないですか」

 

 「そう言う事になるな」

 

 「何故?」

 

 「・・・」

 

 また。

 

 窓の外に目を向ける、これで何度目だろう?何度同じ問答を繰り返しているだろう、その度に繰り返される黙秘、溜息、沈黙。とんとん、と。マキアは再び、視線を落として乱れてもいない書類をひたすらに整えようとしている。伸びた前髪に隠されているが、わずかに寄せられた眉根が言葉よりもよっぽど雄弁にモノを言っている。

 

 「おい」

 

 突然投げつけられた声に顔を上げたのはマキア一人では無かった。全員の視線が自身に集中している事を確認してから、ダ・サイダーはゆったりと。その長い脚をテーブルの上に乗せて、挑発的に口端を釣りあげる。

 

 「なぁ?サッサと済ませちまおうや、アンタらも暇じゃねぇだろ。コッチは処分でも追放でも、何だって喜んで受けてやろうってんだ、出血大サービスだぜ」

 

 対する反応は、ダ・サイダーの思ってもみないものだった。

 

 「何を言い出すかと思えば。全く、うわさ以上の愚か者じゃないか」

 

 「んだとコラ」

 

 「アララ国親衛隊長、ダ・サイダー殿。あなたはすべてを失ってもいいと言うのか」

 

 「・・・はぁ?」

 

 「カフェオレを愛しているかと聞いている」

 

 「な、んで今、そんな・・・関係ねーだろ」

 

 「関係あるから聞いている」

 

 呆れ?失望?その割にまっすぐ見返して来る面々に今や、テーブルにかじり付かんばかり前のめりのダ・サイダーに、改めて。マキアはとうとう額に手を当てて、深く息を吐く。

 

 頭を抱えた手の隙間から目玉だけを動かして、面々を睨み付ける。と、誰もが焦ったように逸らして、隣と顔を見合わせて、ダ・サイダーとがち合うなりやっぱり逸らして、せわしない。・・・何だと言うのだ?すっと。ただ一人顔を上げたマキアと目がmぶつかり合う。静かに息を吸って、吐き出す。

 

 「何で誰も話していないんだ?彼自身の事でしょう、一生隠しておける話でもないでしょうに」

 

 「マキア殿!」

 

 「何の話だ」

 

 抑え付けた声に再び。今度は張り詰めた空気が、音がしない事が不思議なくらいに引き絞られ、標的を決めかねてさまよっている。右も、左も顔が見えない。ただ一人、対岸のマキアだけが

 

 ピピピ・・・

 

 と、突然。場違いなくらい呑気に電子アラームが鳴る。ダ・サイダーすらもが、あっけに取られる中。マキアは、思い出したと言わんばかりの顔で当然のように腕時計を確認して、ダ・サイダーを見上げる顔はいっそ清々しく、声も。

 

 「丁度、答えを知っている大臣方が揃っているじゃないか。気になるなら聞けばいい。ボクはもう疲れた、先に失礼させてもらうよ」

 

 「待てよ!」

 

 「良いのか?ボクなんかに構ってて」

 

 肩に置かれていた手を軽い動作で払い落す。その反動でもあるまいにダ・サイダーはよろけるように、たった今までマキアが座っていた椅子に沈み込んで、再び。一同の顔が順繰りに凍り付いた所を見ると、一体どれほど険悪な顔を見せたのか。

 

 そこまで見届けて。フンと鼻を鳴らすとマキアは、一切に構う事なく振り返りもせず、ドアノブに手を掛ける。

 

 ボクには関係ない。そう聞こえた。

 

 

◇◆◇

 

 

 扉を閉めた途端、だった。

 

 「どういう事」

 

 「・・・愚か者がもう一人」

 

 待ち伏せた顔を確認するでも無く。マキアは大仰に眉をハの字に天井を仰いで、首を戻しては脇目も振らずスタスタと。自然、レスカはその半歩後ろに付いて行く形になった。

 

 「どうしてキミがこんな所にいるんだ?昨夜の一件で、しばらくは自室で謹慎中って聞いてたんだけど」

 

 「だったら見張りの一人でも付けるべきだったわね」

 

 「甘いなぁ、王様は」

 

 嘲笑するような声で数歩。ようやく、気が付いて足を止めて振り返ると、離れた場所にレスカが立ち止まっている、うつむいている。怒ったように、悲しむように、こぶしを震わせて。

 

 レスカにだって!・・・わかってる、失敗だった。最悪のタイミングと言ってもいい。じゃあ、もうしばらく黙っていた方が良かった?そう言って、みんなが忘れてしまう「いつか」まで待つつもりだったのか?それは・・・ダメだ。

 

 丁度いい機会だったのに、読みが甘かった。レスカは今回の件で想像以上に多くの人に迷惑を掛けている。もっと上手く立ち回る事だって出来だだろうに。

 

 「こんなつもりじゃ無かった、て顔だな」

 

 読めた筈なのに。

 

 ダ・サイダーの事。もろもろ計画する前に聞いていたのに、信じたくない一心から、目をそらして、猛進した、結果がコレだ。

 

 「ダ・サイダーは?どうなるの」

 

 急に、レスカから目をそらしては足早になる。

 

 「振った男が気になる?」

 

 「ぶったのよ」

 

 「グーで行ったんだから、それを言うなら殴った、だろ」

 

 マキアからは見えない、レスカは涼しくなった左の薬指を痛そうに、胸に抱く。

 

 「彼の犯した罪は残念だけど、とても重い。本来なら、すべての権利をはく奪したうえ、永久に国外追放でも甘いくらい。ところがアララ国としてはそうは簡単に決められない」

 

 判るか?とでも言うように首を巡らせるとすぐ隣に、レスカの怒ったような、理解できないと言う顔が見えて。顎をそらして更に得意げに論じる。

 

 「アララ国は、小さくて弱い国だ。聖なる三姉妹と勇者ダ・サイダーという存在はキミが思っているよりずっと、重くて強いものなんだよ。その一端であるダ・サイダーを失ったら?理由はどうあれ、彼を追放したと広まったら?・・・今スグにどうなるって事ではない。でも将来、未来はどうなる?」

 

 「でも、だからって無かった事になんか」

 

 「出来ない、もちろん。だから彼に確認しようとしているんだ、なにも裁判をしようって訳じゃない。キミは、対応が異常に早いと思わなかったか?諸外国に知れる前に内々に処理してしまうつもりなんだよ、国としては」

 

 そう。あの会議はダ・サイダーを裁く為のモノではない。もしかしたら、万に一つ、全くのデタラメである可能性だってあるのだから。・・・後で分った事だが。あの時マキアが持ってきた告発状は穴だらけだった。なんの確証もないままに、あの場でダ・サイダーがアッサリ認めたから、こうなったものの。

 

 だが、天はマキアに味方した。

 

 レスカに味方は居ない。ふと。マキアが目を向けるとそこには。すっかり摩耗してしまった面持ちのまま、付いて来ていると言うよりは惰性で足を動かしているように見える。さすがに苦い顔を作って逡巡するが、それでも。

 

 「もう一つ。ダ・サイダー殿が親衛隊長に任命された理由。確かに、実力、実績ともに申し分ない。でも、それ以外の思惑もあったとしたら?」

 

 おも、わく?と感情の付いて来ていない声にうなずき返す。

 

「次期女王、アララ・カフェオレに釣り合うだけの役職として。これ以上のものもない」

 

「アタシに、釣り合う?」

 

「あいにく、この国はいくら伝説の勇者だからと言って、出自も分らない無位の人間を王家に迎え入れるほどのキャパシティは無・・・」

 

 ガン!と。鈍い音を立ててマキアの背中が、重厚な鉄の扉に押しつけられる。こぶしを握り締めて胸倉をつかんで・・・睨み据えるも、続けられない。震えて、緩んで。すがるような両手にマキアは、自身の手を重ねる。

 

「アタシは!・・・」

 

「お放しください、アララ・カフェオレ次期女王陛下」

 

 それが、事実だ。

 

 だらん、と弛緩した腕に解放されたマキアは乱れた襟元を直して、改めて。うつむいたレスカの、見えない顔を見る。

 

 

 アタシは・・・

 

 レスカだ。でもアタシはカフェオレだ。レスカである以前に、カフェオレである以前に、アタシっていうただの女。そうじゃないって言うのか?

 

 アタシはレスカ。そう言ってツッパっていても、アタシはカフェオレ。そう言って澄ましていても、どっちもアタシなのに。レスカとカフェオレ。二つの名を持って、二つの生を自由に行き来して。・・・その自由が、周りの無数の人間の努力の上にようやく成り立っている?

 

 アタシはそんなに面倒くさい女だったの?お付き合いする前に身分と出自をいちいち確かめなきゃいけない?バッカじゃない!

 

 ただ体を重ねれば。・・・それだけの事じゃないの?

 

 

 「ボクは必ず妖石を手に入れる」

 

 顔を上げるとレスカの目の前で、重厚な鉄の扉が開く所だった。

 

 まばゆい光に思わず目を細めると同時に突風が、レスカの金の髪を乱す。耳には低く、唸りを上げるエンジン音、視界いっぱいを占めるほどの巨大な宇宙船。いつの間に、こんな所まで来ていたのか。すっかりシルエットになってしまったマキアの誓いが、轟音の隙間からレスカに届く。

 

 「アララ・カフェオレ。今は海賊問題で謹慎処分中だが、王位継承の日取りも決まっているし、それに向かって国を興しての準備が着々と進められている。理解ある両親、妹たち。節度ある部下たち、キミを愛するすべての国民の期待を背負っている・・・次期女王付き補佐官として申し上げます。我々はあなたを失う訳には行かない」

 

 裏腹に、手を差し出す。

 

 今から向かう場所なんて、言わなくても分かっている。国としては、絶対にカフェオレをあの場所へ向かわせたくはない。そんな事を許したら・・・。呆然としていた瞳に炎が、赤い瞳が燃えあがる。レスカはマキアの手を、しっかりと掴む、二度と無いチャンスを。

 

 「すべてを裏切る事になっても?」

 

 「それでも!・・・掴みたいモノがあるのよ」

 

 

◇◆◇

 

 

 「ふざけるな!」

 

 力任せに叩いた反動でグラスがいくつか転がって、テーブルに染みを作る。

 

 「ですから、貴殿が親衛隊長に選ばれたのは実力と功績で」

 

 「だったら爵位なんざ要らねぇだろ、就任の時にも言ったハズだ」

 

 「それは」

 

 「オレ様が親衛隊長を引き受けたのは、アイツを支えてやりてぇって思ったからだ。アイツが姫だから?王になるから?ンな事知るかよ!関係ねぇだろ。そんな、身分を振りかざして選り好みするような女なら、こっちから願い下げだッ!!」

 

 テーブルの端を蹴り上げると、再び。見るからに縮みあがる大臣たちを目の当たりにすると流石のダ・サイダーも、頭が冷える。反面とても冷静ではいられない。歯を食いしばり、そうでもしていないと爆発しそうで、自身のつま先を見詰めて、必死で堪えている。視界の端に、手に巻かれた白い包帯の端が、垂れて見える・・・そうだ、あの時も。

 

 目を閉じて、深呼吸。乱暴に落してしまった言葉を、気持ちを探さなければ。アイツは、はすっぱで、乱暴者で。でも、品が良くって、しおらしくて。でもやっぱりレスカで。

 

 「アイツは・・・」

 

 「大変です、カフェオレ姫が」

 

 突然飛び込んで来た衛兵が言いかけたと同時だった。ドドド、とエンジン音にガラスが振動して、一瞬誰もがそちらに気を取られる。

 

 「今出航した、マキア様の船を占拠して例の場所に向かったとか」

 

 「ダ・サイダー殿!」

 

 気が付いたら駈け出していた。走って、走って、走って。もう、出航してしまったのだ、間に合うハズなんか無いと分かっていても、息を切らせて、愛機の元へ。

 

 常日頃から、いつ急に言われても出航できるようにと言いつけている、クジラ型宇宙船、アルミホエール号。その脇でタバコをふかしていた元仕置きロボが飛び上がって仰天しているが、知ったことか!慌てる手でコックピットのシートベルトを締めた所で転げるように、再び顔を覗かせる。

 

 「出るぞ!今行った船を追い掛ける」

 

 「え、大将?いいんですか、だって確か、今」

 

 「うるせぇ!」

 

 あのエンジン音、あの場所へ向かったって事は大型の、ワープ搭載型だろう。対するコッチにはそんなモン無い。ガキでも分かる、追い付けるハズなんか無い、それでも。主電源を入れるとパネルが、色とりどりにダ・サイダーの顔を照らす。

 

 ぐっと、操舵を持ち上げるとグラリと、揺れて背後で派手に転んだ音が聞こえる。フロントガラスからは見慣れたアララ城のエアポートに、追い掛けて来た数人が逆風を手で覆って見上げている。

 

 「あの・・・バカ野郎」

 

 エンジンが逆噴射を始めると一気に高度が上がる。目的地はナンバーコード・・・いや。

 

 ホイホイ城。

 

 

 To be continued・・・

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