レスカ長編 Take my revolithion!! 作:湯乃屋
ワァッと、ひときわ大きな歓声が湧き上がる。 アララ城の片隅、兵士たちが大規模な演習などの際に使用しているチョットした広場はよく晴れて、今日も暖かくなりそうな、まだ日も早い時間だと言うのに。その場に集まった人の数と言ったら!そしてその人々の熱狂とも言える渦の中心をのぞくと。
大地にあおむけに、目を回している一人の大男。寝こけている訳ではモチロン無い。と言う事は。
「ぬわっはっはっは!アララ国イチの槍術使い、やってやったぜ!この程度、朝飯前!またまた快勝、それがオレ様の甲斐性。今日のモーニングメニューは貝(かい)の味噌汁?しょう(そう)・・・どーだ?面白れーだろ?」
期待を込めてギャラリーを振り返ると、応えるようにどよめき、さざめき・・・異常な光景だ。すると我らがダ・サイダーは、片手を高く掲げてピースサイン。格好良くクールに決めているつもりかもしれないが。口元がヒク付いて笑いを堪えているようでは。
だがそんな冷めたシンパは、あいにくその場には居合わせていなかったようで、さっきよりも熱狂的で強烈な嬌声が巻き起こるとさすがに、朝はローテンションなヘビメタコも黙ってはいられなかった様子。不機嫌もあらわに肩パットから顔を出すなり、
「おいこらブスたち!超音波みたいな奇声でダーリンはともかく。繊細なウチを再起不能にする気かジャン?」
「おうおう、ともかくとはズイブンな扱いだな。まァいい、それよか・・・オレ様のダジャレ、聞こえなかったか?」
「ギクギク!いえ~いダーリン、今日も朝飯前から絶好調!格好良すぎてウチ、もうっ」
「うぅ~んラヴリィなヤ・ツ」
だからぁ・・・。って、さっきからっ冷酷な対応のモニターの前のキサマ!フン、まぁよかろう。なぜならココに集まったオレ様のシンパの顔を見るがいい。
ハイハイ、改めまして。興奮冷めやらぬと言った顔で、十重二十重に取り囲む兵士たち、武官を始めに文官、とりわけ目に付くのは女官、侍女たち。彼女たちに至っては、その間を割って登場、いやさ到着した担架で運び出されて行く、対戦相手の大男などには目もくれず、未だに熱っぽい視線とハートを飛ばしまくっている。
無理もない。なにせあの大戦からまだ何カ月もたっていないのだから。
そう、世界は平和を勝ち取ったばかりなのだ。その勇者の、ナマ勇士なのだ。続いて殺到する、サインをせがむ大群にもダ・サイダーは面倒がらず、と言うか上々機嫌で対応している。と、ここまではいい。
「これで何人目だ?」
「全隊長を倒したら、親衛隊長を就任するってウワサ」
「いよいよ近くなってきたな!」
ならねぇよ。
聞こえてくる囁きに思わず指先に力が入りすぎて、字がブレる。ったく、消しても消しても追いつかないこのウワサ。どこから湧いて出てきたのか、判っているだけマシと言えばそうなんだが。サインを終えた色紙をにこやかに手渡して、その視線があらぬ方向を向いている?
見回すと、その一人だけじゃない。いつの間にかシンと、静まり返ったギャラリーが一点を見つめている。緊張をはらんだその先には・・・ノシノシと、音がしない事が不思議なくらいに大柄、と言うかむしろ野生の熊にも似たシワ深い老人がまっすぐ、こちらに向かって歩いて来る所だった。
はたと。取り囲むギャラリーに阻まれる形で立ち止まって、ぐるりを見渡して。一歩、二歩とあとずさる者が出てきたと思ったら・・・再び足を踏み出したとたんに、蜘蛛の子を散らしたようにギャラリーが四方八方、アッと言う間に見えなくなって。
とうとうダ・サイダーの目の前に。誰も居なくなった広場、こちらを見下ろすようにじっと、今にも襲いかからんという面相で睨み下ろしている。対するダ・サイダーは一回りも二回りも小さく、しかし鋭利な刃物を思わせる鋭い視線で一歩も引けを取っていない、とはいえ。
ニコぉっ
「いやはやお見事!まさに最強、これぞ完璧!槍の扱いは今日が初めてと聞こえましたが、天才というのは本当に居るものですな。わが輩、感動しすぎて久々に熱くなってしまいましたぞい」
「またアンタか、親衛隊長サマ」
「面倒な奴に捕まっちゃったジャン」
「面倒とはっ面妖な事をおっしゃる!・・・むふふ、いかかです?わが輩のダジャレ、特訓の程は」
ゴツい外見とは対照の位置にある、乙女のように。口に手を当てて頬を染める仕草に一気に萎える。明らさまに渋面を作って見せたのに、全く効果が無い。油断した、さっさと移送するべきだった。ダ・サイダーはこの、親衛隊長が苦手だった。しつこいと言うか、執念深いと言うか。なにしろココで生活するようになって以来ほとんど毎日、ダ・サイダーの元へ通っては、人目もはばからず猛烈アピールをしまくるものだから。いわく
「つきましては、わが輩ともゼヒ一戦、と言いたい所なんじゃが。せめてもう五十年若ければのう、残念じゃわい。その代わりと言っては何ですが、今日こそ是非とも我が職務、アララ国親衛隊長を継・・・」
「ヘビメタコ、今日は貝の味噌汁だぞ~」
「ダ・サイダー殿!」
肩を掴まれて仕方なく振り返った、とたんに。がち合った双眼が凍りつくのが判った。おっといけねぇ。目元を緩めつつも判り易く、いかにも面倒臭そうに腰に手を当てて、ため息。察してくれる?オレ様の心境。
「だからよ、いつも言ってるだろ?オレ様なんかよりよっぽど向いてる奴なんざ、いくらでも居るだろ。例えば、今担架で運ばれてった奴とか」
「アイツ、次期親衛隊長はオレだ~って、絡んで来たジャン」
「それをものの数分で片付ける腕を」
「腕だけは、な」
言葉に詰まっている間に、練習用の槍をヒョイと担いで弄ぶ。思い出しているのだろう、以前一度だけ演習を見てやった事があった。どういう意図だったかは知らないし、興味もないが結果は。・・・スパルタすぎて最終的に立っているのがダ・サイダー一人と言う伝説を残すことになった。ちなみにワザとだ。だって
「だってそうだろ?考えてもみろ。このオレ様の腕!頭脳っそして美貌をだ。こ~んなチンケな城に縛っておく事の方が罪!大罪と呼ぶにふさわしいと思わんか?」
それに。
脳裏をよぎる。灰色に立ち並ぶ無機質なビル、その間に続くまっすぐな道。変わらず残っていた壁のラクガキ、吹き溜まりのゴミクズ。記憶のままの街並み、残っているハズもないと思っていた、懐かしい場所。そこで思い描いた夢、隣にいたのは
「チンケな城で悪かったわね」
割って入る声に揃って顔を向ける。「カフェオレ姫」と呼ばれたほんの一瞬、眉がヒク付いた事を、この大柄な老人は気づいたろうか。今いま思い描いた人物はカツカツとヒールを鳴らしながら、ようやく見慣れてきたばかりのスーツ姿、なのに相変わらずの斜な立ち姿に、思いっきり深い眉間のシワはどういう意味だ。
「こっちから願い下げだっつうの。こんなバカにこの国を任せる?冗談じゃないよ。それだったら、そこらへんの鼻タレたクソ餓鬼にでもやらせた方がよーっぽどマシ!」
「テメエ言ってくれるじゃねーか、え?」
「はん!バカって認めたわね大バカ」
「大バカって言う方がテラバカじゃん、どブス!」
「何だって?このクソヘビ」
途端にバチバチ!と火花を蹴散らす、いつものパターン。それを仲裁するのも、以下同文。のハズなのにどうしたというのだ?ダ・サイダーは知らぬ存ぜぬでそっぽを向いて、口笛まで鳴らす始末。と、なると当然。二人の美女の口げんかはますますヒートアップ!いいぞもっとヤレやれ。そして遂には・・・ゼェゼェと、息を切らしてネタ切れ、グッタリ。と、なるとナルト。
「その、わ、わが輩急用を思い立ちましたゆえ!」
冷や汗を拭いながら、ようやく廻って来た口を挟むタイミングに飛びついた親衛隊長は、狙い通り!そそくさと走り去ると二人と一匹、いつものメンツが残る訳だ。
普通の神経をしている者なら、一刻も早く逃げ出したい他人の修羅場作戦。さっさと帰ってほしい相手にはこのとおり効果抜群。ハイタッチするレスカとヘビメタコ。ダ・サイダーには、ニンマリと嫌な笑いを寄越して、
「貸しにしといたげるわ」
「そういや。先週、酒場で酔いツブれたのをバレないように、部屋まで運んでやったっけなァ?チャラにしといてやるよ」
ダ・サイダーも負けじとニンマリ。レスカは、聞こえよがしに舌打ちで対抗するが。ったく、もう少しオシトヤカにしてれば、十分美人なのに。でも、ま。
「何ニヤけてんのよ、嫌な奴!」
「今夜。まさか忘れて無ぇよな?」
レスカは一転して妖艶に微笑んで、モチロンと応える。
今夜。
昔の、ドン・ハルマゲ部下時代の仲間に誘われて、小さな盗賊一味に参加させてもらう約束をしていたのだ。ダ・サイダーとしては、聞く限りど~うにも物足りなさから乗り気になれなかったのだが、レスカが。
「そっちこそ。大~丈夫だって、ウマく抜け出せばいいんでしょ」
今も、目をキラキラさせて頬を紅潮させて、ガキのようにピースサインを寄越してくる。俄然やる気と言うか、窮屈な慣れない生活のうっぷん晴らしと言うか。その為にここ数日は、ダ・サイダーから見ても多忙を極めていて、声を掛ける事すらためらわれたくらいで。
・・・?
「何だ?それ手紙か」
レスカの手の中、ワクワクに握り締めたこぶし、にクシャクシャになり果てた手紙?を指すと、思い出した!とでも言いたげな顔で広げて、見せてくれる。キカイで出力した個性のない文字、そこに這う文面に思わず眉をひそめて、それを見たレスカも、はぁ。とため息を落とす。
「見ての通り、脅迫文。一切の権利を放棄してこの城を出て行かないと、近いうちに実力行使、だってさ」
「手の込んだラブレターじゃねぇの?カケオチのお誘い」
「・・・ハァ?」
「そうかソーカ。キサマはこの宇宙いち!格好いいオレ様に首ったけで、でもどうしよう、こんなモノ貰ってしかもチョッピリ浮かれちゃったなんて。ダ・サイダー様に知られたらアタシ生きていけない!とか思ったんだな。うんうん、カワイイとこあるじゃねーか。でも大丈夫だ、気にするな?オレ様はオマエの事なんて何とも思って・・・ぐほぉっ!」
レスカ渾身の右ストレートが華麗に鼻っ面に決まって・・・大きく弧を描いて地面にぶっ倒れる。じ、重心を込めたいいパンチだった。て、言おうと思ったけどちょっとムリ。
「言ってろ、カス!」
そのまま肩を怒らせてプリプリ湯気を立てながら・・・冗談なのに。