レスカ長編 Take my revolithion!!   作:湯乃屋

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 かちゃり、とロックが外れる音に続いて自動扉が横にスライドする。一歩、足を入れると再び、扉が閉まり、ロックがかかる。

 「クソったれ!」

 力任せにこぶしを壁にぶつけるも、しびれるくらいに痛いばかりで・・・ズルズルとその場にしゃがみ込んで、そのまま膝を抱える格好になってしまう。扉が閉まり、明かりも何も付いていない室内は真っ暗で、今のレスカには丁度いい。

 切れたのは堪忍袋の緒じゃない、アタシの緊張だ。

 ぼんやりと眺める部屋の中はすべてがシルエットで、時々、窓から射す星明かりが入ったり、出て行ったり。そうやって、徐々に目が慣れて来ると、気持ちが落ち着いてくると部屋の様子が見えて来る。

 「・・・バカじゃないの?」

 まるで豪華客船のスイートルームのような部屋。さっきのティーカップといい、そりゃアコガレだけど。いつかこんな船で優雅な旅がしてみたいって思ったけど。その夢も淡いアコガレも、今はで当たり前の日常になってしまった。

 子どもように足を投げ出して、ボンヤリと映す視界に星が、ハラハラワールドに良く似た形が小さく見える。

 アララ城は今頃大騒ぎだろう。なんたってカフェオレ姫は謹慎真っただ中なのだ。この期に!と思って構えていた者も多かったろう。次期女王陛下は忙しいのだ。継承式の日取りはもう決まっている、一秒だって惜しい、とさんざん言われていた事では夢のよう。いや、今の状況こそが夢なのだ。きっと、もう少しすれば侍女が半ば呆れた顔でカーテンを開けに来てくれる、今日の予定を聞かされながらウンザリ顔を作って一通りの文句を垂れるのだ。キライな訳じゃない、イヤな訳じゃないけど、文句くらいは言ってもいいじゃない?目を閉じて・・・

 再び開けた視界にはさっきよりもホンの少し、大きくなった星がまだ見えていた。仮縫い途中のドレスがそろそろ上がって来るだろうか。城下町の計画会議は明日、南方地区の視察はきっと今頃、村を挙げて準備してくれている、キャンセルだなんて。

 今のレスカには言い訳も、頭を下げる事すらも出来ない、すべてを中途半端なままに放り出して来たのだ。

 これで良かったの?自分の心には言い訳するくせに。だって、あの時は夢中だったんだもの。このチャンスを逃したらきっと、ゼッタイ一生後悔するって、そう思ったから。

 だから・・・すべてを裏切って、恩をあだで返してでも、もしかして全部デマだったとしても。もしそうなったら、とんだ笑い者だ!それで、アタシはノコノコ帰って、ヨッコーラやみんなに大目玉を喰らってめでたし、めでたし。

 ・・・・・・

 空調が効きすぎているのだろうか。再び膝を抱えても少しも変わりはしない、冷たくなったまま、ずっとそのまま。

 きっと、めでたしにはならない、予感がある。予感だなんて、ココアが聞いたら呆れるだろう。ミルクは?分かってくれるだろうか。あの子は将来、どちらの世界で生きるのだろう?まだそんな事考えても居ないかな、そんな気がする。最近ではしきりに、あちらで食べた珍しい料理をコック長に再現させる事にご執心のようだし。

 アタシは?

 レスカは、どうしたいのだろう。かつて暮らしていた懐かしい地を見て、何を思うのだろう。何がしたいのだろう。

 

 『ココに居る連中にも報告せねばならんし、こういう事は順序が大事だからな。実は・・・』

 

 勢い付けて顔を上げる。声が聞こえた。あの時!

 薄暗い室内、窓から見える星はいつの間に通り過ぎてしまっていたのか、今は真っ暗い、星さえ見えない。

 「バカは、アタシだ・・・」

 両の膝に頭を押し付けても、どんなに小さくなろうと、消えてしまいたいと願っても叶わない。いかにも、あのバカの考えそうな事じゃないか。何度、頭をこぶしで叩いた所でやり直しなんてきかない、あの日の自分をぶん殴ってやりたい。自分の事しか考えていなかったレスカを、ダ・サイダーの話を聞こうともしなかったガキの自分を。

 今のアタシはあの日のダ・サイダーと同じ事を考えている。このまま総てを捨ててしまってホイホイ城を拠点に冒険の日々だなんて、最高にワクワクするじゃないか。

 捨てる?イヤよ!

 じゃぁ?

 中途半端、何もかも。残してきた仕事だけじゃない、気持ちだけじゃない。レスカに成りきれない、かと言ってカフェオレにも成りきれないアタシという存在そのものが、中途半端なのだ。絶望に顔を掻きむしると今度は、指が見える。手袋で隠していても関係ない、分かる。指輪が無い。それなのに。

 しゃらん、と鈴のような音に目を向けると右の腕には2連のバングルが、その代わりとばかりに輝いている。好きなハズの男からの指輪を外して、別の男からのバングルをはめて。これじゃ

 「サイッテーの尻軽女ジャン!」

 

 いきなり!

 目の前に現れた黄色いタマゴ型のどアップにディスられたらまぁ当然。

 「きゃあぁぁぁ!」

 その間にヘビメタコはシュルン、と着地する。と同時にパっと明かりが付けられ、改めて露わになった室内をぐるり見回して、改めましてゲンナリ。

 「本当。マキアって奴は、どうしようもないバカジャン」

 「何で?オレ結構好きだぜ、こういう部屋」

 「贅を凝らした豪華客船のスイートルームでバカンス~じゃないんだから。宇宙船ってのは必要最低限を効率よく、が常識ジャン?こんな無駄に広い部屋も、装飾も、重量かさんで燃料喰うだけジャン」

 と、そろそろかな?横目でチラ見するとワナワナと震えてこちらを指さすなり

 「へ、ヘビメタコぉ?」

 「あーんど!姐御のイチの子分、クビョウ美少年華麗に参上!」

 ニカっとピースサインに慌てて、赤くなった目をこすっている。幸い、クビョウは気が付いていないようだから気付かない振りで、ギロリ!睨みあげて反撃モード!

 「は~?美少年?聞いて呆れるジャン。クビョウの家の鏡は残らず歪んでるジャン」

 「ヘビメタコはヘビだから美的感覚が違うんだよ。だってそうだろ?あの勇者サマが格好いいとか!ぶはっウケる!」

 「な~!暴言ジャン、今すぐ撤回するジャン!レスカも何とか言うジャン?」

 音がするほどかぶりを振って。四つの目が集中して一瞬身構え!・・・え~コホン。続けて2つ3つ咳払いで情けなくブレブレの声の調子を取り戻して、ようやく。やっと、腰に手を当ててふんぞり返る。

 「も、もう!入る時はノックくらいしなさいよね。てか、どこから侵入ったのよ」

 「いい加減、離陸寸前の船に飛び乗るのが板に付いて来たジャン」

 「ここで華麗なる話題のすり替えかよ!」

 そこは無視して。

 「それにクビョウまで。危険を冒してまでアタシに会いに来てくれるなんて。嬉しい事してくれるじゃなぁい?」

 「本当だよ~後で奢ってくれよな。コレを預かって来ただけなのに、何でオレ、こんな所まで来ちゃったんだ?」

 「アタシの服?てか何で懐から出て来るのよ」

 「まぁオレの愛のぬくもりだ」

 「・・・預かったって言ったわね、誰から?」

 「そりゃ、姐御を応援してる奴もいるって事だ、ナハハ!」

 微妙にズレた答えに不服満面、仕方なしとヘビメタコの方に視線を移すが、もちろん慌てて逸らす!・・・逸らしたものの横顔が痛い。でもそれ以上の追及は無かった。流石のレスカも、今回ばかりは。受け取った服、真っ赤で派手な「レスカの外出着」に目を落としたまま黙りこくっていたが。

 「うん、助かったわ。ドレスのままじゃ動きにくくってさ」

 えらいえらい。と頭を撫でて労うレスカの、その手を心の底からの不満に顔をゆがめたクビョウが払いのけると、レスカが笑う。笑いながら、嫌がるクビョウを羽交い締めにして、また笑う。どうやら、本格的に調子を取り戻したようだ。ヘビメタコはそれがたとえ表面上だけだったとしても、クビョウを引っ張ってきて良かった。

 「それはいいとしてレスカ!ど~いうつもりジャン?」

 はえ?と気の抜けた声に、ハア~とため息も付きたくなるというもの。

 「レスカ、本当にいいのかジャン?いくらマキアにそそのかされたからって」

 「アタシが脅してこの船を乗っ取ったのよ」

 レスカ!と窘める声ももう届かない。意を決したように、反して柔らかく微笑む笑顔は清々しい程に美しい。

 「今更・・・罪状がいっこ増えた所で変わりゃしないわよ。アタシはね、この目で見て確かめたい」

 無意識か、左の薬指に添えられた手に力がこもっている。何があるのか、どうしたいのか。本当に・・・無我夢中で今日まで走って来ただろうカフェオレという道を捨ててまで選んだ、今この場所に後悔は無いのか。

 「分かったジャン、ココまで来たら腐れ縁、付き合ってやるジャン」

 「さっすが!愛してるわ、ヘビメタコ!」

 と、いい感じに〆ようと思った矢先だった。

 突然、けたたましく鳴り響く緊急のアラーム音に応えるように、足元からひっくりかえるような感覚。機体が急に大きく傾いた?

 「地震か?」

 「ンな訳無いジャン!これは・・・あわわ!運転操作ミス、とんだへっぽこ、どこのどいつジャン?」

 「いよっし、オレにまかせろ」

 「クビョウ、操縦できるジャン?」

 「まさか!ノリだよ、こういう時は勢いが肝心!んじゃ、付いて来い、野郎共!」

 こぶしを振り上げてノリノリで突っ走って行く後ろ姿を・・・しばしキョトン、と目見合わせたレスカとヘビメタコの反応は至極まっとうなモノであるとして、それよか!

 「ウチたちも急ぐジャン!」

 「ヘビメタコ、お願い!」

 再びキョトン、ポカーン・・・えぇ!?

 拝んだ両腕の隙間から視線ががち合った途端、だってぇ!と気色悪く、モジモジとしきりに指を組み合わせて、レスカらしからず歯切れも悪い。コレハ何事?

 「だって、今運転してるのマキアなのよ?嫌よぉ、顔合わせたくないわ」

 「その顔、まさかko」

 「止めてよ冗談じゃない!」

 「じゃぁ何さ?」

 「だって!アイツと話していると変なの、調子狂うの、アタシがアタシで居られなくなるって言うか」

 「そんな理由で?さっきの決意はどうしたジャン?見直してソンしたジャン」

 「だーかーら!」

 突然、伸びて来た両の手はヘビメタコの首をギュウギュウ、ぐええ・・・

 「アタシにも何が何だか分かんねぇからムカ付くって!言ってんだろ」

 い、いつも通りのレスカじゃん。

 その時、再びガクン!と船体が大きく揺れて、コレが無かったら殺されてたジャン。流石のレスカも手を離して、赤やら青やらめまぐるしく顔色を変えながら逡巡していた時。

 「姐御、偽物見付けたぞ!操縦席でくたばってた。それと、そこの窓から見えるデッカイ手漕ぎボートみたいなの、何だ?」

 「あれはガレー船って言うんジャン、宇宙を航海するすべての船舶に義務付けられている緊急脱出脱出用、これくらいの大型船だったら丁度あのくらい」

 「って、あの三下連中!あーもう、だから言わんこっちゃない、こういうのは信頼関係がイチバンだってのに!!」

 「って、あ~!れ、レスカ?落ち着いて聞くジャン。ウチ、緊急アラームの原因が分かっちゃったジャン」

 「何だ、突然のナゾトキ展開か?」

 「そこに見えてる星」

 「どんどんデカくなってるな」

 「ってチョット待って。もしかして?」

 「そう!この船、落ちてるジャン!!」

 言うが早いか。ガクン!と大きく揺れたかと思ったら無重力?いや、物凄いスピードで落ちて行く!

 「うわぁぁ!あ、姐御がオレをかばって壁に激突、気絶エンド?」

 「ウチの目にはレスカを盾にしたように見えたジャン」

 「ヘビメタコぉ、オレたちどうなるんだ?」

 「そんなの、ウチに聞くなジャン!」

 と。ヘビメタコとクビョウの漫才が盛り上がった所で再び突然、けたたましく鳴り響く緊急のアラーム音!

 「この音は・・・敵襲?こんな時に!」

 とは言え、今の二人には為すすべもなく、とうとう!

 ひゅん、と音を立てて飛んできたモノは大型船の横っ面に直撃して・・・直撃?いや。

最初の一つが船体に接触、もっと正確に言うと吸着したかと思ったら続いて二つ三つ・・・合計十余りに及ぶ吸盤のようなモノは互いに話し合いでもしたのか、一斉に音を立てて花開いたかと思うとそれらは。

 ガクン!と一つ衝撃を最後に十余りのパラシュートに速度を急速に削がれて、ゆっくり、ゆっくり・・・

 船はその大きさと同じ、特大の水しぶきを盛大に上げて無事、無傷のまま胴体着陸を成功させた。間一髪で助けられたのだ、でも一体誰が・・・?

 フワフワと、遅ればせながら近付く小型の宇宙船は心配そうにぐるり、レスカたちの大型船の周りを一周するとその脇に静かに。その大きさと同じ小さくしぶきを上げて着陸をした。ハッチが開くと波紋が、陽光にきらきらと反射する。それに負けじとか、中から出てきた人物も。

  空色の髪をふわりと風に遊ばせて、ココアは巨大な船体に眩しそうに見上げた。

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