レスカ長編 Take my revolithion!!   作:湯乃屋

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 「だって」

 あまりにも、彼女に抱いていた印象とかけ離れていたのでココアはほんの一瞬。思考が停止したうえ耳を疑って思わず、不躾なくらいにマジマジと覗き込んでしまった。

 目が合うと、わずかに紅潮した頬を隠すようにそっぽを向いて。何かを掴もうと二度三度、空をかいた手はぐっと、堪えるようにこぶしを握る、それから。意を決したように勢いを付けて振り仰いだ顔は、目は。くちびるを噛みしめて乱暴に放り投げるように飛び出した言葉は。

 「だってアタシ!今まで散々悪い事して来たのよ?それなのに、せ・・・聖なる力なんて」

 言葉を忘れる、という体験をしたのはこの時が初めてだった。思考が追いつかない、割り切れない、理に適ってない、だって?

 「あーもう!だってもへったくれも無いっでしょ?」

 突然。裾を掴まれてビックリして見ると妹が。焦れたような、それでいて有無を言わせない目で見上げている。続けて裾を引っ張って促されて、ようやく、やっと頭が働いて来る。そうだ、ボンヤリしている場合じゃなかった。でもまだ・・・アイドリングと言った感じだろうか。ほとんど反射で「ハイ」と言った途端に。

 「決っまり。そんじゃ、ソーメンと善は急げ!」

 「だぁてぇぇぇっ!」

 言うが早いか。強引に彼女の長手袋、腕をひっつかむなり、まだ心の準備も出来ていないだろうがお構いなし!の全力疾走。って事は、あれ?

 「お、置いてかないでください~」

 ココアも慌てて、後を追う事はいいとして。

 こんな、デタラメな事が現実に発生するなんて。彼女の言を借りるなら、あの悪党が?マジで言ってんの?

 ・・・全く、この人は!

 

◇◆◇

 

 「いや~助かったよ。偶然通りがかったのがキミの船で、本当に運が良かった」

 「ソーメンは急げって~、意味判ります?」

 は?と。呆けたまま固まってしまうマキアを眺めていたのはホンの少し。その顔が可笑しかったというよりは思い出し笑いを隠すように再び顔を背けて、作業を続行する。

 着陸、とは言い難い様子で落下する大型船を何とか助ける事が出来てほっと一息ついたのもつかの間。乱暴としか言いようの無い運転に、マシンに代わって文句の一つでも、と思ったのだが。

 コクピットの操縦席、一面に広がるコントロールパネルの上蓋を開けると熱気が、ココアのメガネを曇らせる。でも良かった、心配していた程のダメ―ジは無さそうだ。あんな無茶を強いられた機体、コンピューターに不具合が出ていないか、心配だったけれど安心して良さそうだ。早速、精密ドライバー片手に調子を見ていると

 「メンテは非常に有り難いんだけど。少しくらい、ボクの方も心配もしてくれてもいいんじゃない?」

 「一刻を争うかもしれないマシンを前にして~何をおっしゃってるんです?あなたの方は少しくらい放っておいたって平気でしょう?」

 「それはそうだけどさぁ」

 ちょっとは気遣ってくれてもいいのに。と愚痴めいた事を聞えよがしに、ようやく。自力で簀巻きから脱出成功したマキアは、赤く跡の残る腕を大げさに労わりながら愚痴って来る。・・・こっちの切りが付いたら助けるつもりだったのだが、まぁ手間が省けた。

 「もしかして、怒ってる?」

 当然、そう思われても仕方ない。あきらめ半分、振り返って見上げた顔はしたり、と緩んで。対するココアは頬の筋肉が引きつる。

 「怒ってなんかいませんわ~・・・腹を立てているだけです」

 「同じじゃないか?いやちょっと待って、検索っと」

 いわく、怒る、とは腹を立てる事。対して腹を立てる、は我慢の限界を超えて怒る事。ご丁寧に調べてくださって。

 ブー!と。警告音と共に表示されるエラー画面。ココアを代弁して文句を言ってくれているのか、それとも気持ちが散漫になっているのか。そんな事、後者に決まっていると判っているのに。

 ブー!と再び。見無くても判る、だなんて理論整然とは言い難いけど。ニヤニヤ笑いを堪えるえている、絶対。今まで意識した事なんて無かったけど、この男・・・苦手だ。

 ブー!

 

 ココアがこちらの船のコクピットに入った時、マキアは見事な簀巻き状態でイモムシのように地べたに這いつくばって、どうにか解けないものかと苦戦していた。何かがあった事は一目瞭然、だがそんな事より。てっきり、レスカも一緒に居るものと思っていたのに見当たらないので、そのまま無視して、船内を捜しに行こうと思った矢先。

 後ろ髪を引っ張るように鳴ったコンピューターの警告音に、つい・・・マキア自身も何か言っていた気もするが、ともかくで、今に至る。ぱちん、と上蓋をロックして再起動。視界いっぱいに点滅する歓喜に思わず、ほっと一息。

 それにしても

 「他のクルーの姿も見えませんけど~。まさか、おひとりで出かけている訳じゃありませんでしょう?こんな大きな船で」

 「カフェオレの事?そんなに心配なんだ。避けられてるのがそんなにショック?・・・って悪かったよ、そんな顔しないでくれ」

 どんな顔だと言うのだ。嫌味一転、申し訳なさそうに眉毛をハの字に垂らして、窓の外に顔を向けるなり、目を細めて眩しそうにする。

 「逃げられましたの?」

 「あのね!・・・まだ船内にいるんじゃないかな」

 だったら窓の外には何が?意味が分からず戸惑っているのを察したのか、

 「ここは美しい星だね」

 柔らかく微笑む横顔、深い意味は無いらしい。理解に苦しむ。

 ココアはさっさと確認作業に戻り・・・メインの修理はバッチリ完了、お次は。とも思ったがココアも、マキアの物言いたげな視線に感化された訳ではないが、ほんの気まぐれに窓の外に目を向ける。

 海かと思った水面は大きな湖だった。船体が錆びてしまったら大変なので、それは着陸してすぐ確認した事だが。その丁度真ん中あたりに浮かんで見える小さな島、その面積一杯に建てられた古い、石造りの居城。

 かつては見事なものだったろうに今は見る影もなく、災禍に見舞われた傷跡だろう、上半分が無残にも崩れ落ちて、苔むして。廃城と成り果てているというのに、それすらも調和が取れていて。俗に言う、理屈を超えた美しさという奴か。

 と、また。見透かしたような例のにやにや笑いをこちらに向けていたので、苛立ちを悟られる前に。

 シュン、と自動扉抜けて、逃げる。いわゆる”美しい景色”は苦手だ。嫌いな訳ではないが、計算機で割り切れないモノは。そう思って出たのに今度は。

 「お気に召さない?」

 「旅客船じゃあるまいし。廊下にまで壁紙は必要ですか?」

 「せっかく旅に出るんだ、住環境が整っているに越したことは無いだろう?それより。あてずっぽうに歩き回るつもり?」

 「だったら案内してくださいまし」

 喜んで。と騎士のように恭しくかしずかれる。ココアは当然、その隣をすり抜けて早速、作業開始。手を伸ばしてドライバーを差し込んで、回収して一通り。無駄を排して、これこそが美徳、だと言うのに!聞えよがしなため息に、チラと見るとまた。期待が外れて面白くないのかタブレットを操作して、まるで中毒患者だ。

 「でもどうして、キミがこんな所に居るんだ?そんな予定は無かったハズだけど。それとも・・・そんなに心配?お姉さまがこのまま戻って来なかったら、せっかくパス出来た王位継承権がまた戻ってきちゃうって?」

 「そんな事!」

 「噂は本当だったんだ?」

 値踏みするように細める目から逃げるように、作業に没頭する。・・・本当ですとも。ネジと一緒にパーツがごろり、と。手のひらに落ちて来る。こんなもんじゃ無い、もっともっと重いものだった。 

 ココアは生まれた時から次期女王として、正確には物心つく頃には既に第一位の王位継承者だった。

 姉がいることは聞かされていた。だが一向に手がかりすら見つからない事と、いつまでも宙に浮いたままにしてはおけないという理由で、「王位継承権」とかいうご大層な看板は自然、幼いココアの背に乗せられる事になった。

 冗談じゃない!ずっとそう思っていた。

 パチン、と配線を切る手に思わず力がこもる。ココアはずっと、為政者として国の頂点に立つ事なんかよりも、もっと。未来の進歩の為に出来る事があるはずだと思っていた。何でもいい、研究者になりたかった。

 希望というよりは決意に近かった。だから、国に王がいなくても機能するだけの仕組みに作り替えたらさっさと、家出でも何でもするつもりだった。それが

 ココアにとってカフェオレという姉の存在は、まさに渡りに船だった。不安要素は大きいものの、馬鹿ではないし、ああ見えて努力家だし、なにより本人が強く女王になる事を望んでいた。

 タナボタもいい所だった。でも

 「デマもいいとこですわ、どこで聞いた事です?」

 他人に言った覚えは無い。

 「人の口に戸は立てられない。それともキミに取っては、今回は第一位の王位継承者に返り咲くチャンス?」

 「ご冗談を。わたくしなんかより、お姉さまの方がよっぽど向いている事。ご存じでしょう?」

 「向き不向きは関係無いだろ、生まれた順番なんだから」

 じろり、と。しゃがみ込んでいたから自然、ニラみ上げる形になってしまう。マキアはコメディアンのように両手を顔の横にホールドアップして、降参の意を表している。それなのにその顔に張り付いた薄笑いはいっそう胡散臭く、どちらが本意かなど子どもでも判る。

 「実際、わたくしなど居なくても、国の業務に支障など出たりしませんわ」

 「彼女の場合は?」

 思わず、取り落としたドライバーが転がる。目で追って、マキアの足元まで転がったそれは恭しく拾われ、手渡してくれる。ふふん、と鼻を鳴らすオプションと、バカ丁寧に手を添えるサービス付き。

 その通り。ひったくるように受け取るとまた、続行。アララ国は今まさに上を下への大騒ぎで、一刻も早い解決はカフェオレの帰還でしかない。・・・そんな訳ないのに、ほとんどのニンゲンがそうだと思って疑わない。全然理にかなっていない、そんな脆弱な国に生まれた覚えは無い。

 「キミは、勝手な都合で職場放棄したカフェオレに腹を立てている」

 「・・・あなたの所為でしょう」

 ココアはとうとう、と言うしかない。集中出来ない。手を止めて、体ごと向き直る。

 「あなたが、カフェオレお姉さまを連れ出したからでしょう?」

 「ボクが彼女に脅されて、とは思わなかったの?」

 「こんな、ダ・サイダーさんの目を盗んでの千載一遇のチャンス、見逃す手は無いでしょう」

 「・・・何の話かな」

 声音が変わった。マキアは急に落ち着きなく耳を、金色の髪の隙間でキラキラ瞬くあれは、イヤリングだろうか。指で弄んでいる。

 「あなたがお姉さまの事」

 「見逃してくれないか」

 「それはこの船の事ですか?それとも」

 途端に。熱を失い鋭く砥ぎ澄まされた視線はココアを容赦なく突く。突いたつもりかもしれないが、効きやしない、おあいにくさま。

 「おあいにく様。何らかの理由で突然、留守にした程度でどうにかならないように。四年がかりで組み上げたシステムがありますから。・・・今はちょっとパニックになっていますけど。お姉さまには本当、大したものですわ」

 「やけに肩を持つじゃないか。腹を立てていたんじゃなかったのか」

 「あなたこそ。いいんですか、そんな余裕で」

 お返しに、ココアなりにトゲを含ませてみたのだが。そろりと窺い見ると予想以上、ちょっと気の毒なくらい。痛みを堪えるように苦しそうに顔を歪めて、そう見える。・・・チョットやりすぎたかしら。

 「あの~今頃・・・こちらを目指していると思いますけど」

 「アルミホエール号って言ったっけ?あんな小型船じゃ、追いつける訳ない」

 「でもそれをやってのけてしまうのが~ダ・サイダーさんですから。わたくしフォロー出来ませんわよ」

 「いいよ、カフェオレに庇ってもらう」

 「その可能勢はゼロですわ」

 「やっぱり、そう思う?」

 「ですから~。お姉さまにはここで、わたくしと一緒にアララ国に戻っていただきますから」

 ふと。

 振り返るとココアが進んだ数歩ぶん後ろに突っ立ったまま、呆のように口を半開きにしたままのマキアがこちらを見ている。コレにはさすがに、呆れた様子も露わに息を吐いて、

 「何の為に~わたくしがココまで来ていると思っているのです?あなたはどうぞ、お一人で調査でも何でも進めてください。船もチャンと修理して~必ずお返ししますから」

 「それ、は困るかな」

 「元はといえば~・・・あなたが始めたコトでしょう」

 すっと、背筋を伸ばして改まる。手を軽く正面で合わせて、顎を引いて。

 「キャラメル・マキアート。あなたは何故、わたくしたち姉妹に仇なそうとするのです」

 「キミたち姉妹に?」

 一つ頷き、一歩ぶん間を詰める。手を伸ばして顔に、まだ付いて来れていないマキアの頬に近づけて

 察して、一歩引いてはまた、イヤリングを手で覆う。顔を引き締め、それを確認してから、息を整えて。

 「アイスクイーンを手に入れて、どうしようと言うのです?」

 「驚いた!意識があったのか」

 「何故!・・・あんな事」

 胸を強く、抑えでもしないと潰れてしまいそう。いや、声はそのせいで潰れてしまっている。妙にかすれて、まるで他の誰かが言っているよう。何かひどく思い物を飲み込み、抑え込んでようやく顔を上げる。対するは、心の底から楽しむように目を輝かせて鼻で笑って。

 「それはボクのイトコの姉妹として?それとも聖なる三姉妹として?」

 「同じ事です」

 「道理だ」のらりくらり、言葉どおりに踊るように向きを変えて、楽しそうに。再び、ココアと視線を交わした時には大仰に芝居がかった、見ぶり手ぶり上機嫌で、ひどく・・・胸クソ悪い。

 「仇なんてとんでもない!ボクはただ、未来の女王陛下にお知らせしておいた方がいいと判断したまでの事。・・・お気にさわりましたのならお詫びします、申し訳ありませんでした、アララ・ココア王女陛下?」

 「あなたのそういう所、反吐が出ますわ」

 「お褒めにあずかり光栄です。でも・・・変わりましたねぇ?以前の貴女ならこんな事、思っても絶対口にしないタイプだと思っていましたけど」

 「姉の影響ですわ」

 器用に片眉を吊り上げる顔。対するココア自身はどういう顔をしていたのだろう?少なくとも、この嫌味な男のお目がねには叶ったようで更に上機嫌に、わずかに落ち着いた様子を見せて。

 「ボク一人の仕事じゃない」

 「知っています」

 「だったら尚更!国を空けてこんな所で油を売っていていいのかい?キミだってアララの要の一人だろうに」

 「何を言って・・・まさか!?」

 ハイ。と、満面の笑顔で手渡されるタブレット、罠だ。

 他人のモバイルに重要なパスワードを入力するなんて。そう思ったけれど、今はそんな事を言っている場合じゃない。ニュース、SNS、個人フォルダ、パスワード付きのフォルダ。猛然と。タップするたびに次々映し出される画面、どこにも・・・

 「彼女の事を良く思っていないニンゲンは、キミが思っているよりもずっと多いんだよ。いや、『彼女』じゃないな、レスカだな」

 調べても、何も出てこない。まだ何も起こっていない、なんの証拠も出てこない。悔しくて・・・またイヤリングを触っている。キラキラと蛍光灯に反射するのは目くらましか、誰の目をくらまそうとしているのか。

 「おかしな話だよね。レスカだってカフェオレだって、彼女を呼称するただの呼び名なのに。まるでソレ自体が本体みたいにさ、分けて考えるなんて。彼女は彼女でしかないのに」

 蛍光灯の所為だろうか。眩しそうに目を細める横顔は・・・どうしてそんな顔をしている?どうしてそんな・・・。

 もしかするとこの場にココアを呼び出したのはマキアじゃないのかもしれない。直観だ、そんなの理に適っていない。でも・・・ いや、未だ判断するのは早い。そう、今は。

 すっと、ココア自身の耳を指して出来る限りの笑顔を作る。

 「そう言う事は、本人に面と向かってお言いなさいな」

 「でもなぁ、ボクは彼女に嫌われてるからな、メチャクチャ。実はまだ、彼女にマトモに名前を呼ばれた事すらない」

 「それもあなたの所為でしょう」

 「そう、全~部。彼女の所為」

 また。道化のように楽しそうに一つ。指を立てて小首をかしげて見せる。

 「もと悪役が国のトップに立とうって言うんだ、逆風が吹かない訳がないだろう。だったら」

 二つ。

 「今のうちにスッキリさせておいた方がいいと思わないか?」

 「こんな程度でツブれてしまうくらいなら、この機会に辞めてしまえとおっしゃるのですか」

 「それがキミの本音?」

 三つ、と指を増やして。正解を言い当てた生徒を褒める教師ような顔を作る。

 「キミだって」

 とっさに、掴みかかって腕を伸ばすがマキアはさらりと避けて、代わりに空を掴まされ、壁にぶつかる。マキアは更に嬉しそうに、声高らかに、謳うように。

 「キミだって、カフェオレの事を良く思っていない一人じゃなかったかな?ココア姫」

 一枚の重厚な扉を背に、楽しそうに・・・ふっと、今度は出来の悪い生徒を憐れむように。

 「キミは何がしたいの?何をしにココに来た?カフェオレを連れ戻したいの?このまま辞めてしまえって思ってるのに?キミの本音はどこにあるのかな」

 「わたくしは!」

 「カフェオレ!聞こえてるんだろ?キミの妹姫はこの通り、随分キミに腹をたてているようだぜ」

 直後。音も無く扉が開いたかと思うとレスカが、カフェオレが。

 「な~に言ってんのよ。腹を立てられているのはアンタの方でしょ」

 ココアは息をのむ。・・・大丈夫、落ち着いて、微笑んで。

 「いいえ、両方ですわ」

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