レスカ長編 Take my revolithion!! 作:湯乃屋
「どうする?」
最初は心の声かと思った、でもそれにしては。
惰性で首を廻らせるとマキアが、いつにも増して憤然とした目をココアに向けている、相変わらず縛られたまま。
「・・・あなた、置いて行かれたんですか」
「お互い様だろ」
子どものように頬を膨らませて悔しがっている。これは
「いい気味ですわ~」
「キミねぇ・・・で?どうすんの」
「もちろん!すぐ追いますわ」
「この状況で?」
そう!それが問題なのだ。
この縄をどうにかしなければ。改めて見下ろすと決してキツい訳ではない。かといって抜けられるとは到底思えない。だがレスカはココアの目の前で現実に、器用に抜けて見せたのだ、何かコツがあるハズなのだ。
試しに、ココアも力を入れてみるが、縄は当然のようにビクともしない。良く考えて、冷静に。・・・縛られているのは胸の下のみ、立ち上がるくらいは出来るけれど。もう一度、今度は力任せではなく腕全体を上下に動かしてみる。上か下に、せめて縄がズレれば。そう思って体をねじってみるも・・・疲れるだけ。無駄に息が上がって早速、汗で張り付いた前髪がうっとおしいが、手で払う事も出来ない。
それならば。結び目をどうにかして解いたのだろうか?今度は背中にある手首の上にの結び目を手探りで、指を伸ばして、どうにかして・・・クラっと、めまいがしてから気が付く。息を止めていたようだ。紅潮した顔を上げで深呼吸、胸に大きく息を吸い込んで、顔を戻して
「きゃぁぁ!」
深呼吸の勢いで物凄い悲鳴が出てしまう、無理も無い。
ココアの視線の先、斜め下に寝そべった、もとい倒れたままの体制で具体的にはスカートの中を覗き見ているのは、他でもない。さっきレスカに殴られKOしたハズの見張り役。の伸びきった鼻の下が、スケベそうな目と目が合って、思わず。慌てて正座に直して体ごと向きを変えると今度は。
「きゃあぁぁぁぁ!」
髪が逆立つ程驚くなんて、現実にはあり得ない現象だと信じていた、この時までは。いつの間に出来上がっていたのか黒山のたかり、スケベ顔のオンパレードに慌てて背中を向けると今度は今度は、困り果てた中にもわずかにニヤけたマキアの目の色をココアは見逃さない。
「代表して言わせてもらうと、今の悶絶あえぎっぷりはかなりの高得点だったと思うよ。でもそういうコトは時と場所を」
「妙な表現しないでください!」
耳まで熱くなって思わず前のめりになった途端。ぐえっと、潰れるような音に顔を向けるとマキアが、見上げるほどの大男に首根っこを掴まれて吊り下げられている?とても・・・険悪ムードなんて平和なモノじゃない。そう思った途端に芯から冷えて、早速オロオロと、ど、どうしましょう!
「出来れば。ボクとキミとの潔白な関係を証明してくれないかな、痛いのは苦手なんだ」
「え?はい。あの、その方はわたくしのイトコでいわば兄のような存在で、決してやましい間柄では、えっとその」
どさり、と尻から落ちたくせにバランスを崩して顔面激突しているけど、そんな事より。
未だヒリヒリと。一歩でも距離を縮めようものなら、なムードが痛いほど伝わって来る。マキアはようやく、苦労して改めて体を起してドロまみれ。ココアは汗だか涙だか判然としないモノを拭いたくても拭えない。
「ど、どうしましょう?囲まれて・・・わたくしの責任でしょうか」
「責任を感じてくれてるんなら、そうだな。お願いしてみたらどうだ?ナワを解いてくださいって」
「・・・はぁ?」
唐突かつ、あまりの意味不明に首をかしげた拍子に、メガネが半分ズレてしまう。良く見えなくなってしまった視界の中、こんな状況なのに笑っているのか?それとも今の衝撃でおかしくなってしまったのか。
万にひとつ・・・何かの作戦だろうか。今の視界では判断も出来ない。賭けだなんて、そんな不確定なモノに頼るのは嫌だったけど、なむさん!
メガネを振り落として。
「あの~どなたかこの縄を解いてくれませんでしょうか~?」
丁度、風が吹いて張り付いていた前髪がふわりと上がって、気持ちいいな。と思った次の瞬間には。
突然の物凄い喧騒に飛び上がって戸惑っていると、大丈夫、大丈夫!とマキアの声はするけれど、一体何が起こっているのだ?メガネ無しでは何が何だか。すると。
ココアの手に何かが触れた?と思ったら途端に縄が緩んで、良かった!ようやく落としたメガネを拾うと視界が戻る。振り返ると。
「まぁ~ありがとうございます!さっきお姉さまに殴られた方ですわね?大丈夫ですか、まだ痛みますか?」
いえいえそれほどでm~という声は最後まで言う前に引きずられ、見えなくなって・・・視線を上げると大きな土ぼこりが右に左に、時々こぶしやら足やらが飛び出して見える。
「あの~これは一体?」
「噂には聞いていたけど、まさかこれほどとは!キミ、自覚ないって設定じゃなかったっけ?さ、ナワを解いてくれ」
「はぁ~理由は不明ですが~、メガネを外すと決まってラッキーが発生するんです。それより、チャンス到来ですわ!」
怪訝な顔を向けているマキアに向かって、勢い付けて両手を広げて。
「見てくださいこの人数!お姉さまの一味の戦力、半分はそげたと思いません?」
「キミは何を言ってるんだ?」
「この調子で行けば、形勢逆転も可能ですわ!」
「もしかして計算づくなのか?いや、それ以前に目的を見失っていないか」
そうと決まれば!もう、マキアの理論整然のツッコミも縄も無視ムシ。直観のままに、メガネを外して手でメガホンを作って。
「みなさぁん、わたくしに付いて来てくれますかぁ~?」
ピタっと止まった喧騒、土ぼこりが止むと姿を現す、おのおの腕を振り上げ胸倉を掴みあった体制のまま。
オォ~!と、一瞬後には揃って仲良く肩を組んで、獣の咆哮のような野太いに合わせて即席ダンス!?それに満面の笑みで応えるココアの姿はまるで電気街の一角のようで・・・
「それじゃ改めまして。出発進~行!」
やっぱり、計算なのかな?
◇◆◇
一方レスカの目の前には・・・
「ルビー、サファイヤ、でぇやもんど!はぁ~ステキ!」
目を¥の形に輝かせて、見てくだけは乙女のようにウットリため息を付いている、いつものパターン。まぁ慣れたといえば慣れたけど。はぁ~あ。
「ナンダ何だヘビメタコ、テンション低いぞぉ?」
クビョウの浮かれた声に、こいつもか、と。重い頭をもたげで目を向けると・・・心臓が止まるかと思った!眼前に突如として現れたのは、異常なまでにに大きい双眼?思わず叫びそうに、大きく息を吸い込んだその時、件の怪物の脇からひょっこり。
「なぁな、ヘビメタコぉ。この黄金の招き猫とか、良くないか?女の子ってこういうキャラもん好きだろ?」
「・・・じ、冗談じゃないジャン!てかクビョウ、オマエいいとこのボンボンだったんじゃ無かったジャン?」
レスカは判るけど。大して長い付き合いでも無いが、成り金趣味なんて聞いてない。それには、早速お宝の山にダイブしては身につけられるだけ飾り立てて目がイッちゃっているレスカを指さして、心底不思議そうな顔を作るなり
「女の子ってみんなあんなモンじゃないのか?うちのハニーも金銀財宝なら何でもって感じだけど」
「そーいう事。でもそれなら盗品をかすめ取るよりまっとうにバイトして稼いだお金で勝った方が」
と、言い終わる前にすかさず何かが飛んで来て。な、な?殺す気かジャン!?・・・そういや、クビョウだけ、偽レスカの一味で働いた分が未払いだっけ。ケチは昔からだけど、最近は何と言うか。
「クビョウ、そっちのティアラにしときな。ったく、そんな気持ち悪い招き猫、溶かして延べ棒にする意外どうしろってのよ」
「だったらまっすぐクビョウに投げろジャン」
「ホホホ、つい手元が狂ちゃって」
「ったく、元気になった途端にこれかよ?」
ギョッとして思わず上げるとガッチリ目が合って、ニカっと笑う。何と言うかクビョウは。底抜けの馬鹿だと思えばホンの時々、的を得た事を言ったり、その三秒後にはまた素っ頓狂な事をほざいたり。やっぱり今度も、ヘビメタコに刺さったままのティアラを受け取るなりデレっとスケベ顔をつくりなり
「あ~ココア姫ってTVで見るより断然、美人だったな~。オレやっぱアッチに残れば良かったかな」
「カフェオレファンクラブって言って無かったジャン?」
「オレもガキだったんだな~見た目にダマされるなんて。その点ココア姫は外見内面ともに清楚可憐!大和撫子!姐御なんかと比べたらバチがあたる」
「そこはウチも同感。月とスッポン!」
「はたまたブタに真珠!」
「上手い!違うけど言い得て妙ジャン」
「って、いい加減にせい!・・・んもう、そこまで言わなくてもいいじゃない?」
「可愛コぶっても似合わないぞ、姐御」
ボカ、とゲンコ一発。じ、冗談の通じない女ジャン。
「ったくアンタら、このお宝の山を前にしてソレ?」
「何があったか聞いて欲しいんジャン?」
見上げた途端に固まってしまう。水を向けてほしそうだったから、そう思ったのに。ヘビメタコは早速後悔し始めていると言うのに当のレスカは。急にしおらしく、いやクネクネと気色悪く身をよじらせて。
「って言うかぁ」
「んじゃ聞かない」
「そんなぁ、ヘビメタコちゃぁん!」
うざい。
「何て言うかぁ、グズグズ言ってる場合じゃないって言うか」
「そうそう。そっちのオヒメサマは判ってるじゃねーか」
そうそう。突然飛んできた、と言うよりは焦れに焦れてとうとう我慢できなくなって口を挟んで来たのは、件のボーダー男のひとり。堪忍袋の緒もそろそろ限界なのだろうか、頬の辺りを震わせながらこちらを睨みつける。
さらにその後ろには、同じようなボーダーが十重二十重に、レスカたち二人と一匹にニラみを効かせている。さっきから、ずっと。実は。
「俺たちを無視して、いい度胸じゃねーか」
レスカの方は、せっかく気持ちよく金貨の海でバカンスを楽しんでいた所に水を差されたのだ、一気に興ざめた様子で、視線を引き絞って睨みつける。
「助けたお礼に好きなモンを好きなだけ、おかしい事かしら?」
「それにしちゃ、ちょっと強欲すぎるんじゃないか?」
「このアタシにただ働きさせようっての?」
「いや、俺たちは海賊だからな」
言いながらギラリ、と湾刀を向ける。と、それに続いて十重二十重のボーダーたちもそれぞれに武器を構えて、一気に!?
「あわわ、形勢不利!?レスカの姐御ぉ、どうなってるんだよ、ボスなんだろ」
「ったく、何ビビってんのよ。言うまでも無く!アタシは海賊レスカ、本家本元純度100%!それがどういう事か・・・そんな力、使えなくったってアタシの所為じゃないけど。我が力、見るがいいわ!」
そういう事じゃなくて!というクビョウの心の声も空しく。レスカはコレそ主役!とばかりにキメキメに格好を付けて腕を高く上げる!連なったバングルが勢いでしゃらん、と耳に心地いい。内側に埋め込まれた石の力で・・・アレ?
「無反応ジャン?」
「おっかしいわねぇ?確か、こう腕を高く掲げて、そしたらパーって。アタシ、何か間違った事してる?」
にじり、と一歩、距離が詰まる。
「電池切れジャン?」
にじり・・・
「そんなオチ?え~!せっかく格好良くキメようと思ったのに」
にじりじり・・・
「んな事やってる場合じゃないだろ!姐御、自分で言ったばっかりなのに」
言ってる傍から早速、レスカの背中に隠れるクビョウ。ボーダー連中はすでに目前に、大きく腕を振り上げて・・・危ない!
ごん、と鈍い音がして続けて、膝から崩れ落ちる。クビョウが未練たらしく抱えていた招き猫を、腕を上げたために無防備になったみぞおちに力任せに叩きつけてやったのだ。はぁ~あ、と嘆きをタップリ込めて、腰に手を当ててツンとあごを上げて。
「ったく。コレだから海賊って連中は。ちったぁ空気読みなさいよ」
「レスカに言われたくないジャン」
「アタシはいいの!なんたってボス様なんだから」
軽口を叩いている間にも二撃、三撃目と襲ってくる刃をヒラリヒラリと踊るようにかわしながら。しかし足は確実に後ろに、押されている。余裕の笑顔を保ちつつも眼光だけは忙しく走らせて、とうとう。
ヒールが宝箱に当たって思わずよろける。クビョウは・・・ちらと視界の端っこで囲まれて、直ぐにはどうにかなる感じじゃなさそう、多分。
改めて、目を向けるまでも無く右も、左も・・・今やレスカの身は宝の山に埋もれる形で、唯一開かれた正面には巨大な湾刀が鼻先三寸。もう一歩も引く事も出来ない。仕方無く。
顔の横で手を上げてホールドアップすると、対するは顔一杯の笑顔。毛並みの美しいウサギを追い詰めたハイエナのように、悦に入っている顔がとにかく鼻に付く。
「今日は思わぬ収穫だったなぁ」
「恩は仇で。あくまで海賊の流儀を通すって訳ね。そんじゃさ、もしアタシが勝ったら?」
追い詰められたウサギの無邪気なまでの質問に、逆に高揚感でも襲ってきたのか。あり得ねぇ!と割れたように笑って、上機嫌で湾刀を肩に担ぎ直して。
「そん時ぁオヒメサマに絶対服従でも、なんでも誓ってやるよ」
「言ったわね、聞いたわよ」
言うなり、右手のすぐ下にあった刀を反動を付けて叩きつける!油断し切っていたのか、あんな勢いで振り回されたら大怪我どころじゃないと思ったのか。だが、とっさに庇った太い腕にマトモにぶつかった刀は、その瞬間に砕けて散って。理解が追いつく前にもう一発!
左手でやっぱり反動を付けて今度はさびた鈍器。ぐわん、とドラのような音を立ててへこんで、ようやく相手の手から湾刀が滑り落ちる。もちろんすかさず拾う。
「ぶ、ぶった切るつもりかとビビったジャン」
「バカねぇ、装飾用の刀なんかで切れる訳ないでしょ」
言いながら早速。自身のドレスに突きたてるなりビリビリ・・・膝の辺りのミディアム丈に切り裂くと、現れたのはスラリと伸びた脚。海賊連中はと言えば突然始まったストリップまがいに呆気に、いや。釘づけになって、その隙に。
手首のスナップを利かせて湾刀を、クビョウに向かってまっすぐ。顔のすぐ横の壁に突きささって顔面蒼白になっているか。ソレで何とかしな。
「レスカは?またタガー出すジャン?」
「んん?アタシ?そりゃモッチロン」
腿の辺り、バンドで止めてあった羽手裏剣を構えるなり。ヒュン、と音がして天井の隅に刺さる。と、それが合図となった。我に返った海賊連中は一気にレスカに押し寄せて、それよりわずかに早くレスカは地を蹴って、バク宙でもって危機脱出!見事着地した背中で頭から宝物に突っ込む騒音を聞きながら、改めて構える!
クビョウも慌てて湾刀を引きぬくなり、どうにかこうにか。となるとやっぱりレスカ頼み?いや、防戦一方だ。さっきまでよりもずっと動きやすくなったとはいえ限界があるのか。右に左に、避けながらキョロキョロとせわしなく視線を走らせている。その所為でかスカートの裾が、腕に赤い線が幾筋も走っている。だが。
「もう一丁!」
気にしているようにも、追い詰められているようにも見えない。また別の角に羽手裏剣を突きさして、何かを狙っているというのか。
「レスカ、後ろ!」
ついお留守になっていた後ろに顔を向けた途端に迫って来る閃撃、動けないで居るレスカに代わって横から、捨て身のタックル!?敵もろともフッ飛んで行ったのは。
「姐御ぉ、しっかりしてくれよ」
「さっすがクビョウ!頼りになるわぁ」
「おだててコキ使おうって魂胆だろ」
「色男ってのは文句言わないモノよ?」
イテテと立ち上がり、戻ってきて背中を合わせてくれる。まぁ、ちいとばかし頼りない事はこの際しょうがないとして。レスカは改めて集中して、三か所目!
「もう保たないよ!」
「踏ん張りな、これで・・・ラスト!」
四か所目、天井の四か所すべてに羽手裏剣が命中した途端に。ゴゴゴ、と音を立てて天井が
「お、落ちて来るジャン!?」
「ハイハイ危ないから一歩、二歩下がって」
慌てふためくも部屋は広く、出口は一か所。気付いた者から殺到するも、すぐに渋滞を起こして、その間に。ドーン!と、ホコリをもうもうと上げている。無事逃げおおせた者もいるだろう。別に、全員狙う必要はないのだ、こちらが上という事さえ分からせる事が出来たならば。
「天井、落ちたハズなのにまだ天井?」
埃が引いた頃合いにクビョウがしゃがみ込んで、落ちてきたせいぜい一センチ程度のタイルをつまんで検分している。押しつぶされた、正確には落ちてきたタイルに頭をぶつけて伸びている連中はうめきながらも早々に、そこここで復活を始めている。
「何枚か層になってて、四ツ角を狙ってやると一枚ずつ落ちて来る、とかじゃないかしら」
「良く知ってるジャン?」
「ま、アタシが本気せばこんなもんよ」
「ヤマ勘だろ」
絶句。という事は本当に?そんな危ない賭けに付き合わされていたのか。
「結果オーライ!運も実力の内ってね。んじゃ改めまして。ここのボスはアタシ、文句のある奴は?」
「そこまでですわ」
わずかに尾を引くホコリをたなびかせながら・・・入口に立ちはだかったココアはニッコリと、極上の笑顔で文句を付けて来た。