レスカ長編 Take my revolithion!!   作:湯乃屋

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 脚は肩幅、腰に手を当てて、さながら仁王のようにいかめし・・・くは無い。キリリと目元を引き絞った怒ったような顔はどちらかと言うと可愛らしく、本人としては不本意かもしれないが。

 「そこまでですわ!」

 凛と響く声に合わせてキュン、と。音が聞こえないのが不思議なくらいに、敵も味方もひっくるめて男たちの頬がバラ色に染まるのをヘビメタコは見てしまった。

 「オエ。・・・ココア、アンタねぇ」

 はぁ~あ。と盛大に息を吐いて、というか深呼吸?身の内に新鮮な空気を取り込んで、斜に構えて呆れたように腰に手を当てて。うんざりと持ち上げた顔はいつものレスカ。

 はん、と顎を反らせて、完全に座った眼光は鋭く、ココアの後ろに親衛隊のごとく居並んだボーダー連中を目測で数えているのか。

 「へぇ?面白い事してくれるじゃない。アタシの部下を取り込んだってワケ」

 「口実、考えてくださいました?」

 途端に「ケ」の形のまま、不敵な表情もそのままに固まってしまっている。すっかり忘れていた事がこれではバレバレじゃないか。呆れ顔のままココアの方を見るとやっぱり。しっかりバッチリ伝わったようでコチラは、ふふん、とふんぞり返って・・・煽っているのか?

 と思ったら、バチバチ!・・・突然散った火花に飛び上がって慌てて、火の粉が飛ん来ない安全地帯まで。改めて見るとレスカの方も、目元を真っ赤に湯気を立てている。まだチカチカする目をしぱたいていたら頭上から声が降って来る、マキアだ。

 「盛況みたいだな」

 「てか何事ジャン?」

 「見ての通り。ココア姫の魅力に当てられた連中はいまや、海賊レスカの配下と数を二分するまでに膨れ上がりました、とさ」

 「そんで、それぞれのボスがいがみ合って、抗争が今まさに始まらんとしているぅ!」

 一人、テンションMaxでこぶしを振り上げるクビョウは空気を読まない事はなはだしいが、状況としてはまさにその通りで。

 「なに考えてるジャン?」

 「どっちが勝つと思う?」

 「どっちが勝つとか負けるとか、そんな問題じゃないジャン?」

 「そんな問題なんじゃないかなぁ?もうココまで来たらさ」

 見上げる、半分あきらめたような顔。カラカラに乾いた声。そんなに、置いて行かれた事を根に持っているのか?ヤケを起こして、いっそ楽しめとでも言うのか。いずれにせよ真面目なヘビメタコはとてもそんな気持ちにはなれない。でも

 「あの二人の間に入って仲裁するってのも。バカバカしくてやってらんないジャン」

 「そうそう。怪我したくなかったら関わらない事がイチバン」

 「オマエはどっちが勝つと思ってるジャン?」

 「得票数を争うタイプかな?どちらが多くの支持者を集められるか。勝者に贈られる景品はココア姫所有の小型船。どう思う?」

 口端を引きつらせて見下ろすマキア。そんな事聞かれなくても、そりゃぁ

 「約束です。お姉さまが、かの地に向かう理由は『勇者のお勤め』。それともやっぱり、わたくしと一緒に国に帰ってただけますか」

 それ以外の答えは認めないと言わんばかりの語勢に、視線に一瞬だけ気押される。すっかり忘れていた本題の痛手が響いているのか、言葉にいつもの勢いが無いレスカ。だがそれしきで手を緩めるココアでは無かった。

 「それに、その大所帯では、わたくしの小型船ではとても無理ですわ」

 「チッ!それを言うなら、アンタの方だって似たり寄ったりでしょう」

 現在、海賊レスカの一味対ココア親衛隊はほぼ同数、50:50。

 「ご心配なく。わたくしの方は、国に電話一本で大型船を向かわせて貰えばいいだけの話ですわ」

 「護送船を?はぁ~可愛そうに。アンタら親衛隊を気取ってるけど、電話一本で通報、ブタ箱直行便ですって、判ってる?」

 オーバーリアクションで憐れむのはゼスチャー。その証拠に目は、獲物に狙いを定めた猛獣のようにギラギラと、隙が無い。その作戦が功を為したのか、どよどよと声が聞こえたのはココア親衛隊の方。小動物のようにおびえて、端の方から崩れて・・・

 レスカ対ココア80:20。形成一気に不利?安心しきっていたココア、これにはアセる!

 「そ、そんな事は致しません!ちゃんと一人ひとり、わたくしが直接お話を聞いて、正しい道を提示させていただきます」

 「要するに、ココアと一対一で密室個人面談か」

 ごそっと音がする勢いで10:90、形勢一気に逆転!

 ぼそりと落ちたマキアの、外野からの野次にレスカは射るような目を投げつけるも、どこ吹く風。フイとそっぽを向いて、一体どちらの見方のつもりなのか。見ているヘビメタコの方が落ち着かない。

 「それならコッチは最高のトレジャーハント!アンタらもそれなりの気概で海賊名乗ってんだろ?海賊は海賊らしく!・・・ソンはさせないわよ?」

 色っぽくバングルに口づける、ドレスが清楚かれんなノーブルホワイトである事が惜しい!それでも、ゾクゾクするほどの妖艶な笑みに、うっかり忘れかけていた芳醇なお宝の匂いに誘われて70:30。

 海賊の海賊たる所以を狙った視点が功を奏したのだ。お色気は?・・・さあさ、次!

 「そうはさせません!み皆さんせっかく改心したのですから、これからは判で押したような定時出社、ルーティンワーク、規則正しい社会生活を送っていただきますわ」

 これ以上ないくらいに目を輝かせて、清浄なマイナスイオンを振りまいて。言ってる内容がコレじゃ無ければ良かったのに。モチロン逆効果、85:15。

 「え、え!?どうしてです?」

 「それが嫌だからオレら、裏稼業にひかれるんじゃないか?」

 クビョウにだけは言われたくなかった!しかもいつになく真剣な顔で余計に・・・流石のココアの頬がヒク付いているのが離れた場所からでも良く見える。それでも笑顔を崩さない辺りは何と言うか。

 対するレスカは愉快痛快を隠そうともしない。

 「そうそ。そうやって自分を抑え付けてストレス貯めて。なぁにが楽しいってのよ、ねぇ?男だったらやっぱり、一攫千金!人生楽しまなくっちゃ損ソン!」

 おぉ~と、雄たけびと共に盛り上がって来た!あとひと押しの90:10。

 ふふん、とふんぞり返るレスカに、目元を真っ赤に湯気を立てているココア。ほんのさっきまでは逆の立場だったのに。このまま、終わってしまうのか?ココアは何も、ぐうの音すら出せず負けてしまうのか?

 そもそも、争点のズレにズレこんで場外乱闘を起こしているこんな茶番に意味など無いから、さっさと戻せというモニターの前の皆さまの正論は、もうしばらく無視して。

 「さっすが姐御!これで決まりだな。でも太っ腹とはこの事だよな、これだけの人数全員を雇おうってんだろ?しかも姐御はお姫様!って事は王室お抱えの騎士団!将来絶対安泰!」

 一層大きなどよめきとともに全員の目の色が変わった事は言うまでも無い。もちろんレスカ一人だけはマイナスの意味で。途端に顔色を失い、言葉を探してか酸素を求めてか口をぱくぱくさせるが、勢いに乗ったクビョウは止まらない。

 「っか~!!いいなぁ、オレも最後尾に並んじゃおうかな、最後尾プレートはどこだ?」

 「国としてはそのような非正規な採用枠は認められないな」

 「そうですわね~筋を通すなら、お姉さま個人との契約になりますか~。ポケットマネーですべて賄うとおっしゃるならば~お好きなように~」

 「そんな!・・・お金なんてある訳無いじゃない」

 これに関してはレスカ史上最大の読み違いだったのだが、「お姫様」ならびに王家というモノは一切合財を税金で賄ってもらっている=ゴージャスな生活、物品こそが働いた給料であって。世間一般に出回っている、レスカの大好きな貨幣で支払われる事は無い=ある意味無給生活、が現実だったのだ。

 なんて面白みのない!だから趣味も兼ねた海賊稼業で小遣い稼ぎをしているのだが、それだって仕事の合間、一大財産には程遠い訳で。そんな、脳内ソロバンを猛スピードで弾きながら、真っ青になって訴えるレスカは気が付いていないが、再び一層大きなどよめきが起こった事は言うまでも無い、もちろんマイナスの方向性で。

 「んじゃ、どうするジャン?」

 「どうもこうも。そもそも彼女を慕うそこな部下たちを、彼女自身がジャマに思ってるんだから」

 「終身雇用は口先三寸、勝負に勝ちさえすれば全員この場で解雇か?さっすが姐御、えげつないにも程があるな」

 その一言で。ざざ、と粉塵を巻き起こしながら01:99

 一人、残ったサトリ世代クビョウまでもが慌てて、ココア側に走ろうとしたのをヘビメタコが襟首掴んで引きとめて、何とか。とは言えこれは

 「決まりましたわね」

 「そうね、ココまでハッキリ差を付けられちゃぁ、アタシも認めるしかないわねぇ?・・・クビョウ!」

 「ほいな!」

 調子良く、本当にお調子良く取り出したのは

 「わたくしの船のカギ!?」

 「ココアさぁ?わざわざ大型船を呼ぶより、そこの大型船で一気に移動した方が効率いいって判ってるんでしょ。対するこっちは、この少人数。理に適ってると思わない?」

 「そうですけどっ」

 けど・・・言葉に詰まる。感情に任せるには理知が過ぎるココアの事だ、最初から判って、こうなる事も判って、それでも心が抵抗しようとしていたのかもしれない。

 もちろんレスカも。クビョウが手配しに行った小型船が近付いて来る音を、心地よさそうに耳を傾けていたが。やりと悪い顔を見せつけるなり

 「それが口実」

 「納得できません!」

 そんな理に適った言葉が聞きたかった訳じゃない。

 しっかりと、半面ごく控えめに裾を、幼い子どものようにレスカのドレスの端を握りしめている。呆気に取られたレスカの目と、我に返って慌てて逸らして・・・再び、意を決したようにまっすぐ見つめる口は真一文字に、心は決まているようだ。

 もちろんレスカも・・・察しては居ただろう。あのココアが全力で茶番に付き合ってくれていた理由なんて、一つしかない。察していながら

 ショボン、と眉尻と耳の先が下がる。情けないような顔を作ってココアの顔を窺って・・・はぁ~あ。この世の終わりでも予言されたかのような息を落として。

 するり、と柔らかい衣擦れに気が付いたのはココアだけだったろう。小型船のエンジン音はいよいよ大きく、風が強くなってきた。

 「いい船ねぇ、貸してもらうわよ。・・・しばらく留守にするけどさ、アンタに頼んだ」

 見ると、いつの間にかココアの手にはもぬけの殻だけ。中身のレスカ本人は下着姿のまま堂々と。最初にココアが抱いた印象そのままに、恥という言葉を知らない、いかにもレスカらしく気だるそうに。

 「知らないままなら良かったんだろうけど。でも知っちまった以上は、さ」

 まっすぐ、ココアの目を見る。

 「アタシは、こんな気持ちでカフェオレ女王になんかなれない」

 そうか、コレが本心。・・・だからさ、そんな顔しなさんな、いつもの事じゃない。

 「だからさ、いっちょケリ付けて来るわ」

 からりと笑う顔はいつもの、ちょっと出かける時と何も変わらない。かの地を、海賊たちに知られてしまった以上。悪用される前に一刻も早く、誰よりも先に何とかしなければいけない。

 きっと今、このタイミングだからこそ強く惹かれて止まない。長い時間を掛けてあきらめ切れたと思っていた気持ちの整理が、かの地を見れば・・・付くかもしれないし、付かないかもしれない。ココアにはああ言ったが、もしかしたらもう、戻る事は無いかもしれない。

 どうしたいのか判らない。ただ、かの地に行かなければという強い思いだけ。もちろん、こんな理屈にもなっていない事をアララの民が納得するハズが無い。それでも

 「後で・・・奢ってくださいます?」

 ふわりと浮かぶ控えめな笑みに、思わずレスカも。心地のいいような、ムズかゆい何かが込み上げて来るから、誤魔化そうと、わざと大げさにため息をついて。

 「あんまり高いモノじゃ無ければ」

 「は、はい!ミルクとも良く相談しておきますわ」

 「今のは聞こえなかった!・・・マキア!アンタも付いて来たいんならサッサとしな」

 言うだけ言って、確認もしないでさっさと背を向けたから。マキアがたっぷり一拍も呆けていた事も、やっと意識が追いつくなり、顔を思いっきり歪めた事もレスカは知らない。ただ

 「・・・ったく、行き先も知らないくせに」

 「目も当てられないくらいに顔が緩んでいますわよ?」

 「五、千載一遇だからねぇ」

 するすると降りて来る梯子。逸る気持ちか、早速昇って行こうとするレスカの足首にヘビメタコもシッカリ巻きついて、準備OK!マキアも、小走りに梯子に捕まるのを待って、再びするすると、収納されて行く。

 

 完全に蓋が閉まると一つ、大きな音と共に点滅して、それから音も無く上昇して行く。雲一つない真っ青い空は眩しく、手でひさしを作っても目を細めてもココアには眩しすぎて。愛おしすぎて。

 「お待ちしておりますわ、カフェオレお姉さま」

 全く、世話の焼けるお姉さまですこと!

 

◇◆◇

 

 グズグズ言ってる場合じゃありません事よ!

 ・・・・・・

 力を合わせてくださいレスカさん、いえ、カフェオレお姉さま。

 

 「力つったって」

 特大のため息を落とした後は、お決まりのポーズ。眠たそうなのは振りだけ、目の奥はココアたちをあざ笑うように赤く、踊って見える。

 「仮に?アタシが?ホントにアンタらの姉だってとしてもよ?」

 あざ笑う、よりもいっそ、可哀想な動物を憐れむ声音で。

 「マジで言ってんの?」

 「ちょっと、あんたねぇ!」

 「恐いですか」

 一瞬だけ目を丸く、次の瞬間には胸倉を掴まれて、獣のような視線に射られて、息が止まる。

 射られながら。コレで良かったのか、本当は間違ってたんじゃないか。今更・・・何を迷う?そんな軽い気持ちでココまで来た訳じゃない。自信が持てない?このわたくしが?最善だと思って選んだ道じゃないか。だったら。

 背後で、ミルクが息をのむ気配が判る。身長差の分だけ引き絞られた喉元が苦しい。けど、大丈夫、落ち着いて。

 「わ、わたくしたちだって・・・もうコレしか無いんです。あなたに賭けるしか、方法が」

 ふっと。

 手が緩められて、離れる。それと同時に伏せられた彼女の目が、今は揺れているのか?迷っている?ちら、と窺うように投げられた視線に手を伸ばせば、それはまるで幼い少女のようで。

 だって?ぽつりとこぼれた言葉は両の手で慎重に受けなければ消えてしまいそうなくらい儚くて。

 「だってアタシ、今まで散々悪い事して来たのよ?それなのに・・・」

 それなのに、イザその時には真っ先に聖なる力に目覚めて。大きく出た分だけココアとしては、驚きよりも焦りを覚えた事は・・・悔しいから未だにナイショだったりする。

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