レスカ長編 Take my revolithion!!   作:湯乃屋

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 「来たジャン」

 ドアベルが鳴るとレスカはすっと、背筋をのばして口端を吊り上げる。ひとり、ふたり・・・店内の照明が(あらかた破壊されて)暗いせいで顔は見えないが、さっき片付けた大男共に比べると一回りも、ふたまわりも小さく見える。

 ちらと、店内に目を配らせる。大急ぎで片付けはしたが不自然なくらいにテーブルが少ないし、うず高く積み上げられたガレキの山のせいで、足場は半分も残っていない。そして問題の男たち。

 「酔いつぶれてるように見せかける~って。満身創痍で白目向いて、テーブルに8人も10人もスシ詰めにしてたら」

 「シッ!突っ込み無用って言ったでしょ。い、いらっしゃいませぇ~って、ベッピーン!何で?」

 「言わなかったジャン?」

 聞いてないわ!と、途端に目を三角に吊り上げては、ヘビメタコを睨み付ける。続いてベッピーンの方に凶悪光線の矛先を移すなり

 「ち、ちょい待ち!ちょっとヘビメタコ、どういう事?チャンと賞金首の話したんでしょうね。このタイミングで鉢合わせたら、アタクシの命が・・・と思って身を切る、いいえ!私財を投げ打つ断腸の思いで教えたのよ?何で、金の亡者のレスカがまだココに居るのよ」

 「あら~アタシは会いたかったわぁ、元気してた、心配してたのよ?」

 「そ、そんな愛想いいことコト言いながら包丁光らせないで!」

 言いながら後ずさったものだから、後ろにいた人物とぶつかってしまう。と、思い出した!という顔で取り繕った声は

 「あ、えっと、彼女も現地スタッフですわ、今は調理の真っ最中!ほほほ」

 ワントーン上の接客声にレスカとヘビメタコは思わず顔を見合わせ、当の本人はと言うとノーリアクション。それを見ては、気の抜けた顔で額の汗をぬぐっている?

 「誰?」

 「海賊レスカ」

 「・・・ハァ?」

 あわてふためいてフロアの端へ!半ば引きずるようにして口に人差し指を当てて、首だけで振り返ってはへらへらと、「海賊レスカ」に取り繕っている、が。

 幸い?相手の方はこちらを見もしないで、興味がないのか、ないふりを装っているのか。ベッピーンの口から特大の安堵の息が漏れる。

 「本物、なの?どうやって」

 「そんなジロジロ見なさんな。ただの観光案内よ、アタクシの本業」

  そうは言っても。

  体全体をすっぽり覆うマントに、フードを目深にかぶっている。ごく一般的、この砂漠地帯では標準的な服装という事は分かっているのだが、今はそれすら、もどかしい!

 「それより何ですの、この惨状。ダンナの仕業でしょう、姿が見えないけど」

 「繊細なダーリンのおなかにココの料理は合わなかったんジャン」

 「嫌だわ!聞くんじゃなかった。でも困ったわね、護衛というか、あれだけ集めておけばワナに一人ずつブチ込んでもお宝までたどり着けるかな~って思ったんだけど」

 と、その言葉に反応する男が一人。

 「ワナって・・・アンタまさか」

 「お気づき?先日、アナタたちに依頼したトラップ駆除の本題よ。あの丘の上の遺跡の宝物庫を狙ってんの、この人」

 もう一人。よく見るとそこここで、ゆるゆる動き始めている者もいる。

 「でも自分は危ない目に遭いたくないからって、ウチたちを捨て駒にするつもりだったジャン?」

 「いい作戦でしょ?その代り、狙いのお宝さえゲットできれば、後は好きにしていいって条件付き」

 「アタシぁ聞いてないわよ」

 「そうだったかしら?アタクシってばうっかりさん♪」

 「後ろの人たちにも、話してないジャン?」

 バン!と、一瞬後には紫煙が揺らめき、銃口に口づけるように息を吹きかける。と同時に男が一人。派手にホコリを巻き上げながらガレキの山に倒れ込む。

 「ワタクシ、このテの心の狭~い人ってキライだわぁ。あ、御心配なく、麻酔銃だから」

 ニッコリと余裕のピースサイン。が、それもベッピーンを覆うように怒りをあらわに近づく大男の影ですぐ見えなくなってしまう。

 それどころか、さっきまで目を回していた男たちがいつの間にか彼女、と隣に立っていたレスカとを取り囲むように、その血走った目が何よりも雄弁に語っている。

 「か弱い美女二人に対してこの人数?情っけないこと!」

 「ってちょっと!何でアタシまで」

 「立ち位置がマズかったジャン。おまけに、話の途中から起き出した連中は事情を知らないし、さっきコテンパンにノした前科も利いてるジャン」

 「思い出すわぁ、女学校時代。アタクシが危なくなるとアナタはいつも、身を呈して闘ってくれたわ」

 「火に油を注ぐな!」

 「ってな訳で。今日もヨロシク!」

 ドン!と、足元めがけて何かを投げつけた、と同時に大量の煙が噴き出して、フロアにいた全員が一瞬、視界から消え失せる。これは、煙幕?目鼻を覆っても入り込んでくる煙にむせながら時間としてはそう長くなかっただろうが、ようやく。煙が引いて視界が晴れた時には、やっぱり。

 「ベッピーン!逃げんじゃないわよ!」

 「遅いジャン」

  やっぱり。更に怒りでアツくなった男たちの殺気は、レスカ一人に集中することとなって

 「ひえぇぇぇぇっ」

 しゃらん、と音がする。

 一瞬、だれもが固まり、見ると。例の偽物が軽く、手をあげている。その腕に重なったバングルが鳴ったのだ。でも、何の?・・・その答えはすぐに顕れた。

 それを合図に、いきり立っていた連中から熱が奪われたのだ。舌うちする者、刺すような視線を投げてくるものは有るものの、それでも一様にこぶしを下ろし、文句言いたげに偽物の後ろにゾロゾロと控える。

 「あ、ありがと」

 フイと、そっぽを向いた瞬間。

 隙間から見えた金色の髪は、この地方の人間でないことを雄弁に語っていた。

 

 夜も更けて。何だかんだで店は本来のにぎわいを取り戻し、伸びていた男たちも意識を取り戻して今は酒盛りの真っ最中。そもそも椅子があろうが無かろうがお構いなしの連中だ、酒さえ呑めれば上機嫌になるのだから、単純というか何というか。

 「同感。いくら雇われてるからって、アタクシもあーんな単細胞連中、頼まれたってご免だわ」

 「ベッピーン!アンタよくもまぁ・・・ったく!」

 「アタクシにも一本くださる?珍しいじゃない、アナタが一服だなんて」

 口端から吐き出したのは煙だったか、ため息だったか。店の外、人の来ない裏手なら、と思ったのだが。レスカは腕を組んで、星を仰ぐ。

 「マキアって名前に聞き覚えは?」

 「ん~・・・ダメだ、全然聞き覚えないわ。他には?」

 「狙うのは決まって稀少な宝石やらレアメタル。いかにもアナタが好きそうな獲物を狙って、要領良く海賊レスカの悪名を広めているわ」

 「狙われてる自覚なんて全然だけど。他には?」

 「そんだけ」

 顔の横で両の手の平を見せるお手上げポーズに、レスカも思わず真似せずにはいられない。

 「まぁさ、明日になればもう少し何か分かるでしょ。あんだけ表に出なかったやっこさんが、満を期してアナタに接触しようってんですもの」

 「やっぱ危ない、わよね」

 「ダ・サイダーがいるから平気じゃない」

 「これはアタシの問題。アタシが面白半分で始めた事、捲いた種だもの。・・・アイツには話してない」

 「レスカあなた・・・変なトコで意地張るの、悪い癖よ」

 「分かってる。それでも」

 「ハイハイ。それじゃ、せいぜい安全なTPOを提供させていただくわ、観光案内嬢として」

 「現地スタッフとしてお願いする・・・ってソレも!アンタ知ってたんなら、もっと早く教えなさいよ。それ以前にアタシたちがこんな所で働かされる理由なんて、まるでなかったんじゃない」

 「それは。アナタたちへの積りにつもった恨みですもの、当然の報いですわ」

 「本当、嫌な女だな!」

 どういたしまして、と。

 澄ますベッピーンとは対照に途端に固まって、顔が引きつったまま一歩も動けなくなる。

 さく、さくと草を踏みしめる音がいやに耳に付く。まだ姿は見えない、暗いせい?だんだん大きく・・・ひときわ音を立ててすぐそこで止まった。

 「キサマ、何を企んでる」

 「それは。アナタに思う所があっての質問かしら?ダ・サイダー」

 じゃあね、と。それきり。ベッピーンの足音はレスカの望みとは裏腹に遠ざかって。そんな!声にも出せず思わず一歩。足を出した所にマトモに、ダ・サイダーとぶつかってしまう。

 一歩、身引くがそれより早く。

のっそりと、肩に腕を回されて重みがかかり、反対の手はレスカのくわえていたタバコを取り上げる。長くなった灰を落として、口端で弄んでは深く肺に入れて、吐き出す。ほんの一息の間。赤く、暗闇に浮かぶ目は嬉々と、獲物に狙いを定めたケモノにも似て

 「ったく参ったぜ、だがおかげでスッキリ快腸だ」

 「よ、ヨカッタじゃない?」

 「レスカお前、オレ様に何を隠してる?」

 その声は、反して優しい。

 髪が、レスカの首を撫でる。耳に、ダ・サイダーのくちびるが僅かに・・・感じる。こんな時に!思っても、指先が一気に熱を持つ、抑制が利かない。ただ一つ、助かった事は、喉が震えるばかりで声にならない。

 「明日、お前はここに残れ、いいな」

 ふっと、肩が軽くなって。ダ・サイダーの体が離れた事で風が触れて、とたんに肌が粟立つ。と同時にずるずると、その場にへたり込んでしまう。

 風が、ぺったり髪が張り付いたレスカの頭を冷やしてくれる。目の前の位置に来た膝は、ちょっと面白いくらいに震えている。と、すぐ近くからどっと、笑い声が聞こえて来る。そうだ、すぐ壁の向こうではあの連中が酒盛りの真っ最中なのだ。

 なんの変哲もない、平和な日常風景。すぐそこに確かにあるのに。それなのに、そのハズなのにここだけがぽっかりと、開いた穴に落ちてしまったような静寂。

 指先にかつん、と何か堅い物がぶつかる。持ち上げて星明かりに晒して見ると、それは手のひらに収まるほどの小さな、真っ暗い艶やかな石。そこには、レスカの顔がひしゃけて、それなのに、血の気が失せてしまっている事は火を見るより明らかで。

 それを握りつぶすようにして、ヨシ!と気合いを入れて立ち上がって・・・よろけて。

 「あ~もう!」

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