レスカ長編 Take my revolithion!!   作:湯乃屋

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「この奥にお宝が有るってか」

 「いかにもって感じジャン」

 「大昔のエライ人のお墓ですって」

 「サカイの商人じゃないか?おーはか(大阪)」

 今更、思い出して少しだけ笑ってしまう。

 東の空には月が、すっかり薄くなって、夜明けが近い事を実感する。確かあそこには人が住んでいなくて。ダ・サイダーとヘビメタコと訪れたのはいつだったか。

 砂漠の砂はまだ、氷のつぶてのように冷たく、頬をさらう風も刃物のように冷たく、痛い。目の前には、数日前に訪れた遺跡が、ぽっかりと昏い口を開けている。静かに、音もなく・・・

 何を隠してる?

 腕を掻き抱くと今でも。ほんの僅かな罪悪と、恐れと、今でも残っている、肩にのしかかる重み。凍えるほどに戦慄しているのか、今でも・・・あの熱を忘れたくないのか。

 「・・・分かってるわよ」

 あんなカタチでも。心配してくれたアイツに今更答えたかったのか。それとも、もの言いたげな視線を寄越している、隣に立つ偽物に言い訳したかったのか。腕をほどくと、弱い光がゆらゆらと壁を、遺跡の一部を白く切り抜く。進む道を定め、ヨシ!大股に、足を踏み入れ、先へ。

 矢でも鉄砲でも持ってこいってのよ!

 

 コツコツ、コツコツ・・・二人分の足音だけが耳に響く。道案内に先を行くレスカと、少し遅れて付いてくる偽物。人ひとりがようやく通れる程度の、石造りの通路はランタンの明かりが届く、少し先までしか見えない。どこへ向かっているのか、この先どうなってしまうのか。一度通ったのだから、それでも。

 襲いかかる不安を、意地と好奇心でもってレスカは何とか抑え込んでいる。

 ベッピーンがレスカの部屋を訪れたのは、まだ月が白く、煌々と眩しく見えた頃だったか。

 予定を変更して、夜明けまでにカタを付ける。

 それを伝えに来た本人は「遠慮するわ」と外で待っていると言い、それを指示した本人は、今はレスカのすぐ後ろに。

 ちらと、横眼で見る。こんな日の当たらない場所でもフードは被ったままに、それでも物珍しそうに壁を、時々触ったりしながら黙々と付いて来ている。

 コツコツ、黙々・・・音は無限に反響して、何人もの隊列を組んでいるようにさえ錯覚する。もっとも、他の音さえ聞こえれば話は違ってくると思うのだが。

 「って言うか。二人きりでこんな、暗くて陰気で寂しい迷路を行くってのに、ダンマリって」

 つい。声が出てしまって視線を感じて。慌てて手を顔の前で振り動かして取り繕う。揺れるランタンの光でも、口元で呆れているのが手に取るように。何でもないの、独り言!アハハハ・・・ハァ~~ぁ。

 疲れる!

 ドン!と力任せに壁を殴ると、ゴゴゴ・・・行き止まりになっていた壁がスライドして、新たな道が現れる。別に、話がしたい訳じゃない。いや、聞きたい事はあるし、言ってやりたいことも山ほどなんだけど。

 視界が完全に開けて改めて、行く先を照らす。と、目に飛び込んで来たのは少し先、うつぶせに、倒れて動かない男に一瞬目をそらし、急いで駆け付ける。

 「ちょっと!しっかりなさい・・・傷は大した事なさそうね。ったく、あんなに酒を飲まなきゃ、もっと軽く済んでたわよ」

 文句を言いながらも、テキパキと手当をして、仰向けに寝かせ直す。先行して向かったのが何人かいる、と言っていた一人なのだろう。

 じろり、と偽物を睨む。なのに相手は、そっぽを向いて熱心に壁を調べている。我関せず、ですって!?

 「ちょっとアンタ!どうして先に行かせたりしたのよ、アタシが案内するんじゃなかったの?そしたらこんな、無駄に犠牲を払うこと無かったのに。何とか言いなさいよ!」

 それ以上が、続かなかった。

 どうして自分が?とでも言いたいのか。口をあんぐり開けて心の底から不思議そうに、掴まれた自身の胸倉を見つめて。うつむいて・・・震えている?指先から震動が伝わる。思ったとたんに低く、声が漏れて来る。途切れ途切れに、痙攣したように。戸惑っているレスカの手を払い、そのまま口を手で押さえて嘲笑っている?くつくつ・・・ハァ~ぁ

 「バッカねぇ~そんなコトが聞きたかったの、アンタ?違うでしょ。あるんじゃないの、もっと。このアタシに聞きたいコトが、さ」

 声

 耳がおかしくなったのか?それとも

 「アンタ、何者?」

 「それはこっちのセリフよ!」

 くつくつと、なおも押し殺して笑う、声。

 それとも・・・頭がヘンになってしまっているのだろうか?この閉ざされた空間のせいで。だって、レスカの耳に聞こえた声は

 アタシに似ている。

 「顔かたちに多少なりとも類似点があれば、そりゃ多少は似てくるだろうさ。それよりも・・・しゃべり方とか、イントネーション、しぐさだったり、癖なんかも。アンタに似てるって錯覚させる為にはさ、そういうコトの方が有効なのよねぇ?」

 「何が目的なの」

 「この奥で、ある王族の秘宝を頂戴する。それよりいいのか?こんな所でグズグズしてると、また怪我人が増えると思うんだけど」

 「・・・行くわよ」

 再び。

 だが、さっきまでとは明らかに違う。偽物はもうダンマリは止めにしたようで、相変わらず壁を触っては、時々感嘆が漏れ聞こえて来る。レスカの方から話し掛けてくるのを待っているのか、時々視線を感じるものの・・・聞きたい事があった、話してみたいと思っていたのに。

 気味が悪い。話し掛けたら、またあの声で答えられると思ったら。くつくつ・・・時々、聞こえてくる。レスカの事を挑発しているのか、小心を嘲笑っているのか。

 今も。

 時々に出くわす、先行の部下たち。侵入者を襲う仕掛けに負傷して、その都度レスカは手当をして回る一方。いつだって、偽物は見ているだけだった。退屈そうに、嘲笑いながら。

 気味が悪い。

 「そこ。段になってる所。踏むと落ちるわよ」

 「ご親切にどうも」

 「逆の事を言って貶めるつもりかもって、思わないの」

 「アンタはそんな女じゃないよ」

 「はん!アタシの何が分かるってのよ」

 「海賊レスカの素情、とか?」

 ばっと振り返り、羽根手裏剣を偽物の眉間に合わせる。あと、ほんの数ミリ。ほんの少し指を動かせば間違いなく、それでも。脅しが効いたのはほんの数秒。偽物は口端だけで笑ってまた、一歩引いて、

 「そっちこそ。あのニャイル女使って調べさせてるじゃないか。こっちはさ、ただアンタとお近づきになりたいって思ってるだけなのに」

 「どういう事」

 「当然だろう。海賊どもはみんなアンタを狙ってる。この宇宙のどこでも無い、誰も知らない場所にあるという。その石さえ手に入れる事が出来たなら、どんな望みも思いのまま!唯一・・・」

 「この奥にあるって?」

 「・・・もしかして、知らないのか?」

 突然。それまでの狂言めいた熱から一気に醒めてじっと。突っ立ったまま。探るように、レスカの目の奥を、その答えがそこにあるとでも言うようにじっと覗き込んでいたが、その時。

 ゴゴゴ・・・地響きに天井からバラバラと、石つぶてが降ってくる。とっさに頭を低く、一体どうしたのかと見上げた瞬間。

 ドーン!と爆音と共に、立っていられないほどの衝撃と熱風が、遺跡のさらに奥から襲いかかってくる。

 「ちょ、もしかして」

 「以前アンタたちが吹っ飛ばされた奴かな」

 「誰か巻き込まれたんだわ、急がなきゃ」

 「いま行くと怪我するだけだ、もう少し待った方がいい」

 「だったらアンタはそこに居な!」

 言うが早いか、レスカは駈け出していた。さっきの衝撃で所々、足場がもろくなっているが、これくらい!ガラガラと崩れる音にまぎれて足音が、少し遅れて追いかけて来ている。が、振り返っている暇なんかない。幸い、道は覚えていた、確か・・・あと少しだ。

 

 やっぱり。だが今度ばかりは的中して欲しくなかった。

 肩で息をしながら思わず背けた目をもう一度、まっすぐ向ける。吹き飛ばされたのだろう、数人の男たちが壁ぎわに横たわり、体を折り曲げ苦しそうにうずくまっている。

 数日前にレスカたちが行き着いた、そして爆破に巻き込まれた場所。それまでの、石作りの細く暗い通路とは一変して明るく、天井に空いた大穴から、場違いなくらい、しらじらと明け始めた薄青い空と、はかなく溶けてなくなりそうな星がわずかに、瞬いている。

 奥には美しい装飾が印象的な、石の大扉が控えて、それに触れた瞬間、だったハズだ。 

 もっと、先を急いでいれば。そう、くちびるを噛みしめた時だった。

 レスカの脇をすり抜け、大扉に。

 「ち、ちょっと!それに触ったら爆発・・・」

 「しばらくは大丈夫さ」

 息が上がっている。それとも、興奮しているのか。紅潮した頬で大扉を見上げては、大きく息を付く。すり抜けざまに奪ったランタンを高く、掲げ持つと所々に、ちりばめられた宝石が輝く。煩わしそうにフードを肩に落とすと、金の髪が薄闇に、歓喜に震えて見える。

 だがその逢瀬も。早々にランタンを足元に追いやると、とたんに闇に紛れる。再び、浮かび上がった光はいっそう明るい、タブレットを取り出して起動したのだろう。一瞬、氷のような顔をするがすぐに。手際よく操作しては、画面上を縦横無尽に、視線を滑らせている。

 深く、目を閉じて。ゆっくり・・・宝石に触れる。

 危ない!と目を背けるが、一向に。何の衝撃も感じす、再び目を開けると、そこには。偽物が、大扉の所々の宝石を次々に触れている?縦横無尽に、視線を滑らせて、鬼気迫るほどの勢いで。さっき、タブレットで確認していたのはこの動作だったのだ。何か所も、何十か所も。ようやく・・・遂に最後の一か所。深く息を吐いて一歩、後ずさる。

 「このボクが。何の下調べもせずに、こんな所まで来ると思う?」

 ゴゴゴ、と重い石を引きずる音にかすかに、ゼンマイがきしむ音が混じって聞こえる。

 「ココが宝物庫。決められた順番に正確に開錠しないと爆発するし、その爆発も一度きりじゃない。ただし、一度爆発したらそれから約半日。火薬を貯める仕掛けが完了するまでの間限定、爆破トラップが無効になる。そこを狙ったってワケ」

 開き切った時。そこからあふれるまばゆい光は、中に納められていた金銀財宝がいかに尊いものかを雄弁に語っていた。それは思わず、さっきまでグッタリと倒れていた男たちが思わず顔をあげ、次々に吸い寄せられるほどに。

 「本当はさ、アンタたちがトラップ解除してくれたすぐ後に行きたかったんだけど。ちょっと都合が付かなかったんだ。でもなきゃ、誰が付き合うんだよ、こんな野蛮な連中。見ろよ、さっきまでくたばってたクセに、目の色変えて飛んで行きやがった」

 「アンタは?目当ての秘宝とやらを確保しなくても?」

 「ボクの目当ては、あの中じゃ無い」

 言いながら、マントの下から取り出した水筒でのどを潤した瞬間だった。

 宝物庫から煙のようなものが・・・噴き出して来る?火事!と身構えたものの、熱さは無く、庫内も静まり返って誰も騒ぐ様子もない。それじゃ、一体?大扉に手を掛け、おそるおそる中を覗き込むと。

 「倒れてるんじゃない?みんな。だってこれ毒ガスだもの。でも安心して、死にはしないから、ちょっと麻痺するくらい。ただね~、麻痺してる間に扉が閉まって、中に閉じ込められるって寸法なんだよね」

 「知ってれ、あ、れ・・・」

 「だからさ、うかつに近づかない方がいいよって、もう遅いか。あ、ボクは平気だよ?さっき水筒で飲んだから、毒消し。チャンと調べて来たからね~。さて。ココに毒消しの水がまだまだ残ってます。優しいレスカの姉御は、縁もゆかりもない海賊たちを助けるために、どこまで身を切れるでしょう~か?」

 どうにか。扉にしがみついていたが、もう・・・膝から落ちる、ろれつが回らない。それでも、しびれる指で何とか。身につけていたバングルを、右のリングを、装飾という装飾をを足元に投げ捨て、言葉が出ないならと精一杯の睨みを利かせる。

 「さっすが!やっぱり後ろ盾があると違うね。でもね、ボクが欲しいのはそんなガラクタじゃない」

 すっと、首筋に手が伸びる。指が、首を伝いネックレスの紐に・・・レスカの目の前でみるみる伸びて、とうとう

 するりと抜け、とっさに!飛びかかるもののバランス感覚を完全に失った現状ではどうする事も出来ない。偽物はそれを満足そうに見下ろし、くつくつと、アララの国宝とレスカとを見比べている。

 「ある王族の秘宝、遺跡の奥で確かに頂戴したよ」

 「アンタ、なにも・・・の」

 「すぐに分かるよ、カフェオレ姫」

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