レスカ長編 Take my revolithion!! 作:湯乃屋
ミルクは顔を赤らめ目を潤ませて、その夢のような光景にウットリと酔いしれていた。
「ブタ丼、トンテキ、トンカツ矢場トン。ヒレにロースにリブにトン足!ヨダレが出ちゃうよレレレのレ~っと」
・・・あれ?
まぁ、出鼻をくじかれるのはいつもの事。でも一体、何を見ているのだ?ミルクは再び、今度は調子を付けて、ブタ丼、トンテキ・・・と繰り返している。爽やかに晴れ渡った紺碧の空の下、緑萌える牧草と共に優しい風に吹かれて、柵にもたれて牧歌的に。
「やっぱポークは牧場育ちに限るわよね」
途端に、寄り固まって震え上がるブタたち。そうポークではない、ピッグを眺めながらあらゆるブタ料理を妄想しているのだ。・・・全くこの娘は。
と言う世間一般の意見なんぞまさに馬耳東風、再び。冒頭の問題の多い歌も三週目に突入しようという時だった。
ひゅるるる・・・打ち上げ花火にも似た音?辺りに目を配らせた時だった。どすん!と派手な音はすぐに、ブタたちの悲鳴でかき消され、もうもうと湧きあがる砂煙が
せっかく視界いっぱいに広がっていた夢の光景(ブタ)を隠してしまう。一体何が?と目を凝らしていると。
「あ~危なかった!もう少しの所でブタ小屋にダイブする所だったジャン。あんな臭っい所に落ちたらウチ、とても乙女として生きて行けないジャン!」
「ヘビメタコ?どっから湧いたの」
いつの間にかすぐそこ、手すりに巻きついて一息付いているのは見間違えようもない。ヘビメタコは二、三度その大きな瞳をパチクリさせて。
「ミルク?って事は本当にアララ国に戻ってきたジャン?」
どういう意味、と口を開きかけた時。ひときわカン高い悲鳴に目をやると、ようやく薄れてきた砂埃から突然、人間の腕が生えてきた?
「あれは!もしや今の衝撃で怪奇、ブタ人間誕生の瞬間?」
「出た!ブタ女ジャン」
「アンタたち・・・ちったあ心配したらどうなの?てか臭っ!」
見るも無残なレスカはいきり立つなり。でもね、それはコッチの台詞。ミルクとヘビメタコは仲良く鼻をつまんで顔をしかめるのだった。
「あ~死ぬかと思った!」
乱暴に身を投げ出すと同時にイタタ、とオシリをさする羽目になる。無傷、まではいかなくともアザは出来てしまったらしい。革張りの豪奢な背もたれ椅子に深く腰掛け、顔をしかめながらも、ぎこちなくビールのプルトップに手を掛ける。
「おっ帰りなさい!クンクン、ちょっとはマシになったじゃない」
「念入りに洗ったからね」
「でも香水が強すぎ。ワケわかんない匂いになってる」
勝手に持ち込んだお菓子を年代物のテーブル一杯に広げて勝手にくつろいで、好き勝手。ミルクの歯に衣着せない言い方に苦笑しながらも一口含むとすぐに、体に染み渡る感覚に感嘆の声をあげて足を放り出して、湯上りそのままにようやくリラックス。天井を仰いで・・・やっぱ自分の部屋がイチバン!
「それで?どうしたって好き好んでブタ小屋なんかにノーパラシュート・スカイダイビングしようと思ったの」
「好き好んでな訳ないでしょ。でも本当、何だったのかしら」
壁を見ても、そこにはレスかが自身で選んだ淡いグラデーションの壁紙が見えるだけ。レスカは本当に、無事にアララ城へ帰って来たのだ。体重を掛けると、わずかにきしむ愛用の椅子。目の前で好き放題食べ散らかしているミルクなどに至っては、疑う余地もない。
あの後。攫われた割に、待遇は悪くなかった。食事も、清潔なベッドも捕虜にしては十分すぎるくらいに。そのうえ道中、誰もレスカの様子を見に来ようという者がいなかった事を幸いに、脱出を試みたのだが。その前に落とされたのが、さっきの話。
「ともかく、アイツを探さなきゃ。どんな手を使ってでも取り戻さないと」
「あらあら~お姉さまったら、落し物ですの~」
「ココアお姉さま?何よ、ノックも無しに入ってきて」
「ここはアタシの部屋よ」
「ココアはわたくしです~」
ずるりと椅子から滑り落ちる。ダ・サイダーがいないからと言って!
「えっと~扉の外に行列が出来ていましたので~わたくしが代表して様子を見に来たのですが~」
シャレに対する反応は期待していないのか、早速。ココアはテーブルの上のミルクの持ってきたお菓子の山を押しのけて、書類を並べている。
「ちょっとココアお姉さま、割り込まないでよ。もう少しでカフェオレお姉さまの嬉し恥し初体験&失敗談を根掘り葉掘り吐かせようってトコなのに」
「あらあら~それは聞き捨てなりませんね~ムフフ」
「ってコラ!黙って聞いてれば。だ~れ~が失敗ですって?おあいにく様そんな事実は」
「でもでも、カフェオレお姉さま一人で帰って来たって事は」
「だから!・・・ちょっとワケアリで、別々に帰って来たってだけよ。今ヘビメタコが連絡付けてるトコロ。アイツ、怪我でもしてなきゃいいけど」
その様子をじっと、じ~っと見付めて、顔を見合わせて。
「本当に~何にも無かったみたいですわね~」
「え~!詰まんないの」
途端に、興味が無くなった様子。呆れるココアとレスカなど気にぜず、詰まんない、つまんない!と愚痴りながら勝手にレスカの部屋を物色し始める。いつもの事なので手の届く範囲に滅多なものは置かないようにしているが。この行儀の悪い癖は直させた方がいいなと、ココアの顔を見たその先。
肩越しに見えた、ミルクが明け放った扉の向こう、本当に!並んでいた大臣たちと目が合ってしまった。あちゃーと天を仰いでいる間にドヤドヤと、今こそチャンスと入室を許してしまうなんて。
「カフェオレ姫!伏せっているとお伺いしていましたが。むむ?何か匂いますな」
「あーそれね。傑作なのよ、さっき・・・モガ!」
とっさに、テーブルにあったリンゴをミルクの口に投げ入れて、何とか。バラされてたまるもんですか。
「で?大挙してお見舞いにでも来たの」
「ハイ実はですね」
「わたくしから説明いたしますわ~」
せっかく、額のを汗を拭いてスタンバイしたのに固まってしまった、可哀そうに。対するココアは気にするでもなく、待ってましたとばかりにメガネを光らせる。
「えっと~。お姉さまが先月提案した、アララ城観光計画について。まだ漠然としていますけれど留守の間、起こりうる問題点を協議しました」
「アンタ、とたんにペースアップしたわね」
「仕事ですから~。そこでわたくしからの提案なんですけど、まずは入口。何といっても国の中枢機関ですのでセキュリティを万全にする事が必須。絶好の機会なので研究中の生体エネルギー認証システムを導入します!そこから続く経路はまだ検討中ですが迷子および不法侵入を防ぐためにも動く歩道を!総工費はこのくらいで。そして各施設の案内はモチロン立体ホログラフ!今こそっ古くてかび臭いアララ国のイメージを払拭して最先端の科学の髄を極めたフルオートマチック・・・」
こつん、と空になった缶ビールで小突くと、メガネがずり落ちる。その隙に手にしていた資料をひったくって目を通すと、これはまた。
「お姉さま~!痛いじゃありませんかぁ~」
「イタいのはアンタの頭、ちったあ冷やしなさい。全然違うじゃないの」
笑顔で誤魔化しているが、そんなモノが通用するのは、あまりの暴走っぷりにオロオロしていた大臣たちだけだっつうの。
「ふうん。問題点、第一にどこまでを公開するか。プライベートな部分はもちろん非公開。それ以前に広い意味では、このアララ城居城のみを対象とするのか、近隣の議会場、教会、公園など。どこまでを公開対象とするか。料金、公開日、警備兵、・・・結構あるわね」
「最先端技術も~アピールを~」
「アンタの案は飛躍しすぎ。これからイチから作ってくのよ?まずは地に足を付けた計画。プロフェッサーココアの知恵、頼りにしてるんだから。しっかりしてよね」
「えぇ?うふふ~そこまで言われたら~協力してあげても構いませんことよ~」
「それじゃ、ココア姫さまにもドレスをご用意しなくちゃ、ですね」
割って入って来たのは馴染みの仕立て屋だった。ココアは途端に顔をゆがめて、早速追い出される大臣たちにまぎれて退出を試みるのだが。続く弟子たちにつかまって壁際に追いやられている。それを横目で笑いながら、レスカの方は身ぐるみはがされて補正下着を締めあげ・・・アイタタ。
「姫さま、痩せましたね?」
「分かる?」
「今回は許しましょう。でも仕立てに入ったら肉でもケーキでも!食べさせて元のサイズに戻しますよ」
「じ、冗談よね?」
目が恐い。
「いいな~お姉さまたち。あたしも新しいドレス欲しい!そうか、あたしもその計画に参加すれば」
「名案ですわ~それじゃミルク、後よろしく~」
「何バカ言ってんの。それにミルクはもうすぐ試験でしょ?」
「そうなのよ~二年生になってから、そればっか。来年はもっと多いって言うし、もうイヤ!」
言うなり、みたらし団子を五個一気にほおばる。ココアと目を合わせて、あ~これは面倒な事になったな、食糧危機に陥る前になんとかしないと。でもどうやって気を逸らす?
「そうでした~!ミルク、今日は~ラムネスとお出かけなんでしょう?」
「そうなの!二人っきりの旅行なのっ。お姉さまたち、ミルクが帰ってきてオトナになってても許してね」
うまく行った。手と口はピッタリと止まって、今はシナを作ってウインクするのに夢中になっているが。口のまわりにタレをべったり付けている様子では。
「タマQも一緒ですし、心配するような事は起こり得ないですわね~」
「そこ!本当、気が利かないんだから。でもま、今回は許すって言うか」
「どうしたの、珍しく歯切れ悪いじゃない?」
「あたし、勉強頑張る。高校もラムネスと一緒じゃなきゃ嫌だからさ。大変だけど、頑張んないと」
「ミルク~わたくし今、猛烈に感動いたしましたわ~!ようやく学ぶ楽しさに目覚めてくれたなんて。そういう事でしたら全面協力させていただきますわっ手始めに超スパルタ家庭教師ロボを」
「ちょ?だ、大丈夫!ラムネスがいるから。ちゃんと、エッチな事考えずに真面目に教えてもらうから!って、あ」
あぁ~あ。分かりやすくバンザイして、ソファに倒れ込む。本当はそれなりの下心があったのだろうに、自分で抑制宣言したものだから、自棄を起こしてしまった。
「だからさ~カフェオレお姉さまたちにはしっかり、て言うか順調に行ってて欲しいの。あたしが先にママになっちゃったら、流石に世間体が悪いじゃない?せめて、一年後の継承式までには何とか。あれれ?そういえば、国宝は?杓杖も試作品、出来てるんでしょ」
寝そべったまま目を輝かせてにじり寄って来るられても・・・逃げるか?でもまだ動けない。硬直したまま首だけを動かして、なんて、言い訳したら
「お姉さまは~仮縫いの予定があったので~邪魔になるだろうと外していらっしゃるのですわ~。杓杖は~・・・」
「だよね~まさか酔っ払ってどっかに置き忘れたとか。洒落になんないもんね。キャハハ!」
「まさか~。ちなみにその場合~すべての権利をはく奪の上、国外追放は免れませんわね~」
ぽんと肩を叩かれて飛びあがると、いつの間にか終わっていたらしい。ついでに着替えにヘアセットまで。話が話だったので全然気がつ付かなかった。一礼して、仕立て屋が出て行ってもまだ、レスカは上手く動けない。ぎくしゃくと椅子に戻り、震える手で水差しに手を伸ばす。頭使って、その前に酔いを醒まさなきゃ。
「でも~そういう事でしたら~無理に行かなくても構いませんのよ?勇者のお勤め」
かつん、と爪がグラスにぶつかる。
「ちょっとやめてよ!せっかく息抜き出来るって楽しみにしてるんだから。それにね、こないだアッチでその話になったの。そしたらラムネスったらね『オレも行きたい』ってスネちゃって、カワイイのっ」
ミルク一人の妄想トークは留まる所を知らず。ココアは面倒なのだろう、いい加減に相槌を打って、レスカは。グラスを寄せて、中に満たされた水面に映る自身の顔を見つめる。
「勇者の勤め、ね」
「ハイ。あの~お姉さま?」
かの大戦で傷つき、疲弊した町と、人の心を勇気付けるために。そういう名目で呼ばれた事が何度かあったが、そのどれもが四人そろっての事だった。ココア、ミルクは生まれた時からアララ国の姫だ。ダ・サイダーはカリカリワールドでの成果から、ゴブーリキの負の遺産の処理を依頼される事が時々。レスカには・・・
あれから、五年の月日が経った。日が経つにつれ、時が過ぎるにつれ、レスカ自身、記憶が思い出になりつつあるのを感じる。いいことだと思う、そうやって前に向かって進んでいくのだから。でも。
ふいに、夢だったんじゃないかと思う事がある。朝起きて、豪奢な絹に包まれて。どうして自分がこんな所に?そう思う時がある。すぐに、日常という現実に流され、忘れてしまう事ではあるが。
あれは、まぐれだったんじゃないかと思う。
聖なる力。あれ以来、何度手のひらを見詰めた事か。そこに映っているのは、幼い頃から何も変わらない、悪に染まっていた時と寸分違わないのに。それこそがレスカをカフェオレたらしめているモノであり、この城での存在意義。
アタシは、本当に聖なる三姉妹?・・・決まってんじゃない。でも
本当に、アタシの中に秘めているの?いつか目覚めるって、五年も経てるのに?
カフェオレらしく振る舞っていれば、次期女王として完璧にこなしていれば。水面に映るのは、あの頃とはまるで別人のような自分。本物にするために、しゃにむに頑張ってきた、少しは背伸びもしてる。あの時、王になると言った言葉に後悔は無い。それでも
「これが本当に、アタシの欲しかったモノなのかな」
「それでですね~僭越ながらわたくしから・・・って、え?も、もしかして~気に入りませんでした?」
「気に入る奴がいたら見てみたいわよ。カフェオレお姉さまには合ってるけど」
気が付くと、ココアがこの世の終わりのような顔をしている?レスカのせい?ミルクを見ると非難の目でドーナツをほおばっている。
え、え?慌てふためきながら、ようやく。あらかた食い尽くされたテーブルに異様な存在感を醸しているモノに目が留る。でも何で?だってコレ、どう見たって
「釘バッド?」
「さすがに、これを新王の杓杖って言い張ったら、アララ国の信用問題でしょ」
思わずココアの顔を見る。恥ずかしそうに、うつむいて照れている。まさか本気?
「便利ボタン満載の自信作なんですけど~。分かりました、明日にでも細工職人さんたちに意見を聞いてみますわ~」
「そうそう。って、ココアお姉さまも、そういう所とか変わったわよね。ちょっと前じゃ考えられなかったのに。だって昔は、誰が何を言おうと自分の思ったことを強行突破!だったじゃない」
「そんな事ありませんわよ~?」
「ありますよ~」
そういう話題だったのか。ニヤニヤしながら、なおも口真似を続けるミルクと、頬をふくらませて対抗しているココア。いつだって直球勝負のミルクと、オブラートで穏便に済ませたいココア。二人とも、相変わらずかと思えばチャンと成長している、レスカを受け入れてくれている。初めの頃は・・・どう対応したらいいのか分らなかった。それが二人に伝わって、嫌われていた頃も今なら懐かしい。
「でも!一番変わったのはカフェオレお姉さまよね」
「ダ・サイダーさんとは~結局ドコまで?」
「本当の事教えてくれないと、あたしたちココから立ち退かないから」
ねーと顔を突き合わせては、にじり寄ってくる。こう言うところは・・・変わってない!はぁ~ため息しか出ない。
「知らないわよ。アッチはどう思ってんだか」
予想しうる質問攻めに身構えた時だった。
突然、警報が城中に鳴り響く。急いで窓の外を確認、見ると兵士たちがあわただしく右往左往して、文官、侍女たちは所々に固まって一様に空を、上空を見上げている。
一体どうしたと言うのだ?レスカたちもそれに倣って見上げてみると。
「武装宇宙船?どういう事ですの~」
「衛兵は何やってるの!」
「親衛隊も~ダ・サイダーさんがいなくては~」
「何よそれ!緊急事態なのよ」
「とにかく~お父様から副隊長に勅令を出してもらって~」
「アタシが行くわ」
二人分の視線がレスカに刺さる。姉の身を案じる、不安そうな目だ。でも
「アタシをここまで運んで来た奴だわ、だからアレはアタシの客。・・・何よ、シケた顔するんじゃないの。大丈夫よ、何とかする気だったらとっくに何とかなってる。大丈夫だから」
たぶん、ね。
中庭に降り立つと一斉に視線が集中し、そのどれもが安堵にほころぶのが分かる。文官、侍女たちは祈るように手を組み、右往左往するばかりだった衛兵もようやく、規律を取り戻し始める。ただ姿を見せただけなのに。それだけの期待を本当に、背負えるのか?レスカは自身の無力さにめまいがする。
上空を見上げると暗い陰りを落としながら時折、不気味に陽光を反射している。それはもう今は、アララ城の突端に触れんばかりにまで降下している。まるで、二年前の災禍じゃないか。誰かの嘆きが聞こえる。二年前、ビクビクトライアングル事件の事だ。あの時は何ひとつ、誰一人、助けられなかった。
レイピアを握り締め、レスカはまっすぐ、正面を睨みつける。ドレス用、装飾目的で作られたもの。頼りになるとは言い難いが。少し離れた所で皆が固唾をのんで見つめている、耳を傾けている。こんな時ダ・サイダーなら。ううん、アタシがしっかりしなきゃ。
「どうなってるジャン?」
どこから現れたのか。ヘビメタコが目を丸く、スルリと腕に這い上がって、そこで初めて、息をする事すら忘れていた事に気付く。
「どうもこうも。ダ・サイダーとベッピーンは?」
「ピンピンしてるジャン、むしろ怒り心頭!ベッピーンと、ダーリンを宥めすかすのに骨を折ったジャン」
「でしょうね、安心した。ようやく・・・コッチに集中できるわ」
「レスカ、震えてるジャン」
「はん!アンタ本当、嫌な事ばっかり言うわね」
分かってるわよ、ビビってる。でも、アタシだって勇者の端くれなんだから!
遂に。逆風がレスカの髪を吹き散らし、中庭に着陸する。ゆっくり・・・宇宙船のハッチが開いて中から男が、予想通りにあの時の手下の一人だ。レスカに気付くと一瞬、驚いたように、しかしすぐに嘲笑へと変える。
「止まりなさい。正面ゲート以外からの立ち入りを許可した覚えはありません。ここを何所だとお思い?即刻立ち去りなさい」
しんと、耳が痛くなるほどの静寂。出来れば・・・コレを抜く羽目にはならないで。レイピアを握る手に汗がにじむ。カフェオレとして、穏便に。だが。二ヤリ、と嘲笑する。やっぱり、ダメか。レスカは祈るように、鞘を握る手に力を込める。こんな事なら・・・いや、ダメだ。せっかく築き上げた平和を、緑の芝生を汚したりしたくない。
その時。
風?頬に感じた感覚に目を向けるとそこには。レスカのすぐ脇を抜け、振り返りもせずに男のすぐ前へ、進む背中が見えた。危ない!一歩踏み出すと同時にまさか?という思いがその一歩を踏みとどまらせた。だって、まさか、こんな所で!
しゃらん、と音がする。誰もが固まり、見ると。軽く手を上げている、その腕に重なったバングルが鳴ったのだ。今回も・・・その答えはすぐに顕れた。
それを合図に男は、能面のような感情のない顔を晒したかと思うと途端に、踵を返してもと来た道を・・・何もかもが、狂言だったという何よりの証拠じゃないか。レスカは唇を噛み締め、ヘビメタコはそれに気が付いて不安そうな目を向ける。
うらはらに、中庭からは割れんばかりの歓声が湧き上がる。アララ城は再び元の晴れ渡る青空を取り戻し、たちまち現れ、危機を救った英雄を讃え、取り囲む。
まるでお芝居。観客はヘビメタコと、レスカの二人きり。その、視線に気が付いてか、ようやくこちらを振り返る。わずかに首を傾げると、金の髪が肩に流れる。
「もしかして、余計なお世話だったかな?カフェオレ姫」
気がついた時には抜き身の剣を、相手の眉間に合わせていた。一瞬にして凍りつく場に、我に返った所で取り返しなんか付かない。
あと、ほんの数ミリ。