山を駆ける   作:モービルス

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駒鳥大学ワンダーフォーゲル部、通称「駒大ワンゲル」
現在駒大ワンゲルには、2年生が5人しか在籍していない。
3年生はおらず、しかも2年生の1人は幽霊部員である。
入学式も終わり、授業が始まろうとしているのにワンダーフォーゲル部には新入生が1人も来ていない。
このままでは、部の存続の危機である。
ということで、部員の広江、古早川、小林、岡崎の4人は、新入部員の確保に奔走するのであった。


第2話 新人勧誘(前編)

 彼、鮫島貴洋(さめじま たかひろ)は意気込んでいた。

 

 鮫島は駒鳥大学の新入生である。

 体格は160cm足らずと、男性にしては小柄であり、スポーツをしているようには見えない。最近購入したのだろう、黒縁メガネをかけており、『大学デビューした新入生です』と顔に書いてあるような出で立ちであった。

 今、彼の目の前は、様々なサークル勧誘の学生たちでごった返している。

 サークル勧誘では、ほとんどのサークルがビラ配りをしており、入部希望の新入生をサークルボックスまで誘導している。

 鮫島の両腕にも、たくさんのサークルのビラが抱えられていた。

 

(…大学ではとにかく運動部に入るんだ。運動部で、ノリが体育会系じゃない部がベストだ。それでいて、出来れば女子がいる部だ。高校の時のような惨めな思いだけは、もうゴメンなんだ…)

 

 鮫島は歩きながらブツブツ喋っている。ちょっとヤバい奴にも見えてしまう。

 

 彼は高校で文芸部に所属していた。

 しかし、部員は彼と後輩が1人いるだけであった。

 毎日の活動は、後輩とトランプやカードゲームをするだけであり、ダラダラと月日が流れていった。特に小説などの執筆活動をする訳でもなく、あっという間に貴重な高校3年間が終わってしまった。

 

 もう、高校の二の舞はゴメンだ。

 まぁ、あれはあれで楽しかったような気はするが… 

 いやいや、俺は大学で変わるんだ。

 できれば彼女でも作って、もう少しマシな人生を送りたい。

 そのためには文系サークルではダメだ、運動部に入るんだ。

 まずは運動部に入って身体を鍛えるんだ。

 けど、体育会系のノリは苦手なんだよなぁ。

 我慢できなくて、すぐに辞めるのがオチだ。

 どこかに、雰囲気ユルめの運動部がないものか…

 

 あれこれと悩んでいるうちに、今日もサークルの見学にさえ行けず、とぼとぼとアパートに帰宅する新入生、それが鮫島貴洋なのであった。

 

 

 

          ***

 

 

 

「おい、この部にはまともにビラ1枚も作れる奴はいないのか?」

 場所は変わって、ここは駒大ワンダーフォーゲル部の部室である。

 声の主は駒大ワンゲル部員の小林だ。

 小林には珍しく、声を荒げている。

 なぜなのか?

 

 

 今日は新入生確保のため、各部員がビラを作成してそれぞれプレゼンしたところである。

 …が、部室内の空気は淀んでいる。

 小林の前で、部長の広江、副部長の古早川、そして岡崎が正座している。

 3人とも、小林と目を合わさず俯いている。

 

「まず古早川ァ、このクソ雑魚パワポは何?真面目に勧誘する気あるんですか?」

 

 古早川が作ったビラは、派手な色彩の文字とネットのフリー素材を使った簡素なものである。オリジナリティは感じられず、ただただ目がチカチカして見にくい、そんなどうしようもないビラであった。

 古早川はというと、チッと舌打ちをし、窓の外を眺めている。こいつもどうしようもない奴だ。

 

「ザキさん(岡崎のあだ名)よぉ、自分は悪くないと思うんだけど、コレはちょっとアレだなぁ」

 

 岡崎が作ったビラには、『ZOZOの不思議な大冒険(著:荒川彦摩呂)*1』の主人公ZOZOが「お前は次に…『駒大ワンゲルに入ろう♪』と言う…」と言っている絵が大々的に描かれたものであった。あの荒川先生が描くZOZOに引けを取らない上手い絵であったが、これも著作権的にアウトであった。岡崎志葉、再起不能(リタイア)

 

「そして真美さん、このイラストは…親戚の小学生にでも描いてもらったのかな?」

「いや、私が描いた」と広江。

「これは…」

「ひどい…」

 古早川と岡崎がテンポ良くツッコむ。

 

 広江が作ったビラには、小学生が描いたような笑顔の人?が何人か描かれ、その下に『ワンダーフォーゲル部 部員募集中!』と書かれている。おそらく山に登っている楽しい雰囲気を描きたかったと思われるが、いかんせん絵が下手過ぎた。

 広江は部員の中では誰よりも体力があり、メンタル面も申し分ないが、絵心は絶望的なのであった。

 

 

 …ということで、結局小林が作ったビラを配布することとなった。

 小林が作ったビラには、背景に南アルプスの北岳が模写されており、正面には『高みを目指そう!』

と筆で大きく描かれている。筆で力強く描かれた『高みを目指そう!』というフレーズが、皆の心を射止め、全員一致で採用された。

 ビラもポスターも作成し、準備はできた。

 あとは、しっかりと勧誘するだけだ。

 

 

 

          ***

 

 

 

 そして今日は新勧1回目の日である。

 

 駒大ワンゲルの新勧には、3人の男子新入生が来ていた。

 

「いやー、山の飯って美味いっすねぇ!!」

「酒があったらもっと最高っすねぇ!!」

「広江部長って美人ですよねぇ、彼氏とかいないんすか?」

 

 新入生の名は、岩崎、井手本、島村の3人だ。

 実は3人は学内で新勧クラッシャーと言われており、今回も飯が目当てであった。

 

 新入生の相手は主に小林と広江がしており、古早川と岡崎は飯を作っていた。

 

 案の定、岩崎、井手本、島村の3人は食べるだけ食べて帰ってしまった。

 彼らの口からは、入部の"にの字"も出なかった。

 

「こんなことが続くのか…あぁ、めんどくせぇ…。早く山に行きてぇ…」

 新入生が帰った後、皆で部室の掃除をする中、古早川がぼやいた。

 

 

 

          ***

 

 

 

 勧誘を始めてから、2週間が経過した。

 しかし、駒大ワンダーフォーゲル部の状況は芳しくない。

 というか、まだ1人も新入部員が入っていない。

 

 今日は日曜日、今は午後の昼下がり。

 古早川、小林、岡崎の3人は部室でゲームをしながら珈琲を飲んでいた。

 普段飲んでいるインスタントコーヒーだが、なんとなくいつもより苦く感じる。

 まぁ1人くらいは入るだろうと思っていた古早川は、多少の焦りを感じていた。

 

 その時、部室のドアが開いた。

 

「おぅ、広江かー?」

 

 広江が来たと思い古早川がドアの方へ振り返ると、そこには1人の男が立っていた。

 

 男はかなり太っており、今日は晴れていて気温も高いので顔から汗を垂らしていた。

 見た目は…なんというか、秋葉原にいそうな太ったオタクといった、ベタな見た目をしている。

 貫禄があるため、正直、新入生には絶対見えない。ちなみにメガネ。

 

「えぇっと…あっ、新入生ですか?」

 古早川が尋ねる。

 新入生ではなくOBだったらマズいので、敬語になってしまう。

 

「はい、ワンダーフォーゲル部に興味があるので来ました」

「おぉーーマジか!?ほら、座って座って!お菓子もあるよ!」

 古早川が新入生をコタツに座らせる。

 新入生が座り、古早川、小林、岡崎がコタツの周りから囲む形で対面した。

 

 新入生がぼそぼそと話し出す。

「私は1年の大和田俊夫(おおわだ としお)と言います。自分はこの体形のとおり、体重が90㎏あってですね、毎年健康診断に引っかかってしまうんですよ。太ってたらいいことないし、早死にしたくないので、何とか痩せたいと思いまして。ネットで調べたら、登山のような有酸素運動がダイエットに効果的だということでしたので、大学から登山を始めようと思い、ここへ来た訳です」

 

 なんだか、サラリーマンが自身の健康のために登山を始めるような理由であった。

 

「なるほどな。まぁ、頑張れば瘦せると思うよ。ところで、大和田は高校では何部に入ってたんだ?何か運動とかしてた?」

 古早川が『高校では何部に入ってた?』という、新勧お決まりの話題を出す。

「この体形ですからね、運動なんてしたことないですよ。高校では、プラモデル同好会に入っていました」

「プラモデル同好会?」

「はい、プラモデルを制作して、ひたすら眺めるのが活動内容です」

「へぇ…」

 古早川がやれやれといった表情をする。運動経験…無し、か。

 

「あの、山はどういう山に登るんですかね?自分でも登れますか?走ったりするんでしょうか?」

 大和田の素朴な疑問に対して、小林が大和田をじっと見てから答える。

「もちろん、やる気があれば君にだって登れるさ。我が駒鳥大学ワンダーフォーゲル部は、近所の低山をはじめとして、山陰地方最高峰の伯耆大山、それに次ぐ氷ノ山に登る。そして、この部活動のハイライトと言える夏合宿では、長野県の南北アルプス、つまり3000m級の山へ登ることを目標としている」

 小林に続き、岡崎が眼鏡をクイッと正してから答える。

「登山の基本は、一歩一歩ゆっくり歩くこと。走ったりはしない。そもそも、荷物が重くて走ることなんてできないんだよ。そして始めは辛くても、歩荷トレーニングなどして、身体を徐々に鍛えていく。これで、3000m級の山にもチャレンジできるようになる。実際、僕も入部前は登山なんてやったことなかったけど、トレーニングを重ねて南アルプスに登ることができたんだ」

 

「な、なるほど~。自分でも登れるような気がしてきました~」

 先輩たちの言葉に納得する大和田。

 

 だが、まずはそのお腹の贅肉を落とさなければ、低山と言えど油断はできないがな、と思う古早川。

 

「あれっ、ここにゲーム機がありますね、部室でゲーム出来るんすか?」

 大和田が先ほどまで小林と岡崎がやっていたゲーム機を見つける。

「ああ、よく、というか毎日、小林と岡崎がやってるよ」と古早川。

 

「あっ!?コレ、プレステ2じゃないですか!やっぱプレステは『2』が一番面白いっすよねぇ!しかもソフトは神ゲーの『連邦VSジオンDX*2』じゃないですかっ!!」

 大和田が歓喜の声を上げる。

「大和田くん…キミ、"分かってる"ねぇ…」

 岡崎が眼鏡を光らせながら、ニヤリと笑う。

 

「ダイエットしながら、みんなでゲームも出来るのか…!よしっ、決めました!自分、駒大ワンダーフォーゲル部に入部します!」

 大和田が声高に入部を宣言する。

「え…いいのか!?こんなすぐに決めちまって…」

 古早川が困惑している。

「ハイッ!入部します!」

 

 小林と岡崎が二人でハイタッチを決める。

 

 

 駒大ワンダーフォーゲル部に、やっと1人、新入生の大和田が入部した!デブだけど!

 

 

*1
ZOZO一族と宿敵GEOとの闘いを描く大長編マンガ。主人公ZOZOが波紋の力やスタンドパワーを使ってなんやかんやで大冒険を繰り広げる物語。現在1~8部まで刊行されている。岡崎のお気に入りは、第4部『ツケ払いは二ヶ月で』編である。

*2
『機動戦士ガンダム』に登場するモビルスーツが、地球連邦とジオン公国にわかれて戦う3Dアクションゲーム。BGMは原作のものがPCM音源で流れ、雰囲気を盛り上げている。稼動から相当の年月が経過した現在も、これをVSシリーズ最高傑作だと推す声は少なくない。この頃のゲームは思い出補正も加えて神がかってるよなぁ。(遠い目)




【登場人物】
〇2年生
・広江 真美(ひろえ まみ)
駒鳥大学地域学部2年生。
元気いっぱいの駒鳥大学ワンダーフォーゲル部部長。
というか元気があり余り過ぎて、男性陣に被害が及んでいる。
部員の中では誰よりも体力があり、メンタル面も申し分ない。
暴力的でキツめの性格だが、根は優しい。
かなりの美人であり、しゃべらなければモテる。しゃべらなければ。
好きな山:伯耆大山(鳥取県)

・古早川 仁(こばやかわ じん)
駒鳥大学農学部2年生。
駒鳥大学ワンダーフォーゲル部副部長。
登山以外のことに対してはまるでやる気が無いが、登山に対しては並々ならぬ情熱を持っている。
よってワンゲルの登山以外の行事は、全て面倒くさいと考えている節がある。
山行計画を考えるのはほとんど古早川であり、色んな山の山行ルートの新規開拓を目指している。
意外にも、後輩の面倒見が良かったりする。
好きな山:氷ノ山(鳥取県)

・小林 権座(こばやし ごんざ)
駒鳥大学農学部2年生。
駒鳥大学ワンダーフォーゲル部渉外担当。
駒大ワンゲルのまとめ役。そして保護者のような存在。
渉外担当であり、他大学との交流活動を主な仕事としている。
非常に落ち着いた性格であり、何故か常にサングラスをかけている。
好きな山:北岳(南アルプス)

・岡崎 志葉(おかざき しば)
駒鳥大学農学部2年生。
駒鳥大学ワンダーフォーゲル部会計担当。
駒大ワンゲルのブレイン。若しくは参謀。
部の会計を担当しており、備品管理も兼任している。
部室で珈琲を飲みながらゲームをやるのが彼の何よりの楽しみである。
好きな山:燕岳(北アルプス)

〇1年生
・大和田 敏夫(おおわだ としお)
駒鳥大学工学部1年生。
身長170cm、体重90kgを超す巨漢。
見た目は秋葉原が似合うオタク。
意外と冷静な性格。
果たして彼はまともに山に登れるのか!?

・岩崎、井手本、島村
新勧クラッシャー三兄弟という異名を持つ三人組。
たぶん物語にはもう出てこない。
彼らがひょんなことから駒大アメフト部に入部し、
最初はイヤイヤ練習しながらも、苦難を経て、
最終的にライスボウルを目指すようになるのは、また別のお話。

・鮫島 貴洋(さめじま たかひろ)
駒鳥大学の新入生。
高校では文芸部に所属しており、ダラダラと高校3年間を過ごす。
大学では運動部に入る計画であり、行動力の無い自分を変えたいと思っている。
だが、引っ込み思案な性格であるため、サークル選びで二の足を踏んでいる。
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