1年と半年ほどですかね。休載というか精神状態が芳しくなく、小説を書くのがままならない状況でした。一応、前半の最初の方は2014年内に書いていたのですが、そこから筆が進まず、といったところでした。長らくの勝手な休載、本当に申し訳ないです。失踪も考えましたが、やはり、物語の区切りがつくところまで続けるのが道理というものでしょう。
前置きが長くなりましたが、今回は1年と半年ぶりということもあって描写や何かが違ってきていると思います。そこも合わせて、お楽しみいただければと思います
「ーーーキミ、本当に人間か?」
それが、医者から告げられた二回目の検診の結果だった。
完治まで数ヶ月はかかると見込んでいた怪我は、数日の療養で綺麗さっぱり治っていた。
「どう見てもキミの怪我は数日で治るようなものじゃない……何を使った?魔法か?奇跡か?それともなんだ、神の力とかか?」
この医者こと
しかし、貪欲に知識を吸収するだけではなく、彼はその知識を活用できるだけの技能もあったのだ。そのため、表だって治療を受けられない者は彼のところを訪れることが多い。
今回の件も、彼にとっては興味深いものだったらしく、何度も資料を読み返してはメモをとったり、こちらに質問を投げかけてくる。
早く解放してはくれないだろうか。
「まあ、でも、治って良かったね、キミ。もしかしたら、もしかしたかもしれないからね」
けらけらけらと冗談めかしく言うが、実際は安堵しているところもあったらしく、笑い終わると、一息入れ、こちらを振り向き、
「じゃ、退院ってことでいいけど、なんでいきなり治ったか知りたいし、後遺症があるかもしれないから、定期的にここには来てもらうよ?」
そう言うと、彼は帰れと促すようにデスクへ振り向いた。
†
まさかこんなにも早く退院できるとは煌貴自身も思っておらず、手持ち無沙汰で困っていると、ポケットの中の、今では物珍しがられてもおかしくはない旧式の二つ折り携帯が振動した。取り出してみると、蒼甫からのメールが2通、来ていた。
『志倉のオッサンから連絡をもらった。無事に退院できたそうじゃないか。おめでとう。』
『とまぁここまでは形式的なものだ。大方予想より早く退院したから暇してるだろ?スキルアウト共が最近、幅を利かせてるらしいから、リハビリがてらちょっと仕置をしにいかないか?添付した座標にて待つ』
端的だが、的確であった。煌貴は旧式の携帯をポケットに入れなおすと、最低限の装備だけでも調達しようと、寮に向かうのだった。
†
自室に戻ってきた。由季はどうやら出かけているようで、お気に入りの靴が無かった。好都合だと思い、壁に立てかけてある、元々好んで使用していた竹光−しなりや重量感、リーチの全てが煌貴に合っているためである−を手に取る。2,3ほど型の構えを取ると、なんとなく、安心感が湧き出てきた。入院ということ自体が初めてだったため、なんとも言えない侘しさが心にはあったのだ。
竹光をバットケースに入れると、煌貴は立ち上がり、おもむろにマスクをし、また街へと出かけようとする。
「…あれ、鍵……空いてる?嘘っ、かけ忘れてた⁉︎」
と、由季の声が聞こえた。まずい、退院予定に合わせて顔を見せようと思っていたというのに。
「……っていうか私、鍵落としてる!あぁ〜もう、管理人さんに言って再発行してもらわないと……」
なんて思考していたら案外あっさりと引き返していった。因みに煌貴たちの住む寮はキー・ロック式である。古式ではあるが、個々の防犯意識を高めようという魂胆である。一応、鍵意外の防犯設備は充実していると思うので、セキュリティ全体としては普通である。しかし、稀にそれをかいくぐって部屋に侵入する輩がいるというものだから、万一のことがあってはならないと由季は判断したのであろう。幸いなことに煌貴にとっては見つからずに寮を抜け出すことに成功できたわけだが。
†
日が少し落ちてきた頃、煌貴は珍しく眼鏡をかけた蒼甫と落ち合った。
「やはり来たか。…ん?今日の獲物は珍しく鈍器か?」
「まぁ、鈍器といえば鈍器だが、想像してるものとは違うと思うぞ」
バットケースを開けて中の竹光を見せると、ああ、と言った顔で蒼甫は頷いた。
「さて、例の連中だが、どうやらここの廃屋を根城にしているらしい。ま、とっととやろう、ぜ…ッ!」
思い切り地面を踏み鳴らし、左手に力を込めると、渾身のフックをコンクリート壁に見舞う。するとそこを中心にガラガラと音を立てて廃屋は崩れていった。廃屋と言っても掘建小屋に近いもので、そこまで広くはないが、中に人がいたようで少々のうめき声が聞こえた。
「オイオイ、ちとやりすぎじゃないか?」
「うむ、この時間は稼ぎに向かっていると思ったが……アジトを留守にはしなかったか」
と、感心していると、背後で発砲音が聞こえる。どうやら、気付かれたらしい。
煌貴と蒼甫はその場から飛び退くと、辺りに気を配る。二人ともかなりの武術の使い手であるため、気を読むことは容易い。ましてや相手はスキルアウト……ただの不良連中だ。武装しているとはいえ、殺意を漏らしながら近づいてくるようでは、どうぞ返り討ちにしてくださいと言っているようなものだ。
「なめられたものだなぁ、オレ達もよぉ」
と、何故か殺意のある方向とは真反対の方向から声が聞こえる。
「いやぁ、まさか、暗部の奴が引っかかるとはなぁ……!」
「嘘の情報をそれとなく広めて罠にかける作戦、まーた上手くいきましたな」
「時にリーダーよ、あいつらは殺してもいいのか?」
「あぁ、存分にやりな…お前らぁ」
現れたのは、そう、煌貴の家を襲撃した連中の一人、特に印象強かった制服姿の女子の着ていた制服を皆着用しているのだ。
「んん〜?なんだぁ、もしかして……凪の奴が仕留め損なったって奴かぁ?こりゃ面白ぇ奴がかかったなぁ!」
リーダー、と呼ばれた蒼甫と同じくらいの背丈の巨躯の男は、豪快に笑っている。会話を聞いている限り、どうやらあの連中の仲間で間違いなさそうだ。
「リーダーばかりを気にしていると、死ぬぞ」
背後に悪寒、竹光を抜き、迫る銀閃に合わせる。相対するは白を基調とした腕に青のラインが入った、ブレザーを着た少女。両腕から20cmほどの細い刃が見える。
「凪のように、簡単にいくと思うなよ」
3合ほど打ち合ったところで、竹光に変化が現れる。明らかに、打ち合った箇所に亀裂が入っている。長年愛用しては来ていたが、これほどまでに壊れるのは初めてだ。
「このブレードは、目には見えないほど微細に、高速に振動している。……手の内は、見せた。さ、今度は、夜翔流を見せてよ」
やるしか、ないのか。竹光を垂らし、力を抜く。その状態から、瞬時に軸足である左足に力を込め、駆けた。瞬息の間、竹光が、両肩を穿った。と同時に、喉に竹光を突き立てる。
「まだやるかい?」
「得物がボロボロの状態でありながら、戦闘不能状態にまで持っていくだけの技量には参ったよ。他の人とも遊んでやるといい。彼らもずっと待っている」
そう言うと、少女は突如喀血し、ひゅうひゅうと声を漏らしながらも、苦悶の表情を浮かべることなく、やがてぴくりとも動かなくなった。
煌貴は、竹光をその場に置くと、少女の使っていたブレードを慎重に取り外す。1本あれば、充分だろう。幸いにもブレードは、改造された小刀であったため、柄があり、持つことができた。
そうして、後ろを振り返ると、いつのまにか制服姿の連中は、消えていた。
それだけではない。蒼甫も、消えているのだ。ひゅうと、一陣の風が吹く。辺りに気を巡らせながら、臨戦態勢に入る。その時は、悠久にも感じた。刹那、静寂を切り裂き、轟音の弾丸が飛来する。その数、無数とも言えるほど。捌ききれない。完全に、虚を突かれた。煌貴は、ブレードを、投げた。