狩人少女はターフを走る   作:しがないヤーナム人

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カフェ<<<<タキオン<<<(略)<<<(ゴルシライン)<<<<<<<ダンテス君
ダンテス君≦(最速の機能美)<クリモトェ≦カフェ<<<<<(越えられない壁)<<<<<タキオン
悲しいね、ダンテス君。


第十二夜 勝負服

 時は進んで十一月後半。『デイリー杯ジュニアステークス』も辛勝ながら一着に入り、初のG1である『朝日杯フューチュリティステークス』を視野に入れていた頃。

 

「さて、今日は勝負服を決めようか!」

 

 声に喜色を乗せて、トレーナー室の中、貴方のトレーナーはそう言った。

 勝負服。

 それはウマ娘の晴れ着とも言える特別な衣装であり、レースではG1などの大舞台で着用される物。

 オープンウマ娘となり、次走にG1クラスを控えるウマ娘に贈られるそれは、主に着用するウマ娘と担当するトレーナーの希望を反映された物になる事が多い。

 また、年度代表ウマ娘に選ばれるなどの栄誉に値される物を受けた際に、特別仕様の勝負服が贈与される事もある。二つの勝負服があるというのは、ウマ娘にとって大変な誉らしい。

 大抵は誰がどう見ようと走るのには適しているとは到底言えないような外観──例えば私服のようであったり、または貴族然としていたりだ──なのだが、どうにも不可思議な力が湧き、普段以上に高いパフォーマンスを発揮できるのだとか。

 全く訳が分からない。

 …………いや、ヤーナムと比べれば……まだマシな部類、なのだろう。

 ああ、少なくとも炉の搭載された金槌や回転ノコギリの付いた槌鉾などの長物をどこからともなく手元に現わさせている時点で、ヤーナムの方が余程狂っている。想いや何やらで強化されるとかの理論がつく分、まだ何とでも言えよう。

 五十歩百歩と言えば、それはそうだが。

 まあ、これは一旦置いておくとしてだ。

 それらに則って考えると、貴方の着ようとする勝負服など当然たったの一つしか無い。貴方の普段使いしている『狩人の狩装束』一式である。

 灰に染まり、全身を覆うように仕立てられたそれは着る者が理性ある狩人である事を示し、獣を狩れど決して獣などに堕ちないという信念を表す物。正しく貴方に相応しい代物という他無いだろう。

 というよりも、これ以外の物を着るつもりがさらさら無いのが貴方の本音といった所か。

 この装束は初めて拾った時からずっと着続けていて、貴方が貴方足りえる所以、端的に表すのなら数少ない『(よすが)』なのだ。それを暇つぶしとはいえ大舞台の場で切り離そうなど、到底出来るはずも無い。

 そのこともあって、勝負服は徹頭徹尾変える気など無かった訳である。

 とはいえ、ここまで張り切っている様子を見せる彼女を見ると、流石の貴方でもいたたまれなくなる感情の一つくらいはあるのだ。

 

 ……貴公。

「ん、どうした? もしかしてあんまり思いつかないとか? 大丈夫、それなら私が幾つか考えてあるから! 豪華客船に乗ったつもりでいてほしいな!」

 ……ああいや、そういう事では無くて、な。……既に、完成されているの、だよ。

「……へっ?」

 

 ふんすふんすと随分意気盛んな彼女に、貴方は本当に、本当に珍しく申し訳なさそうに告白する。そうすると、彼女は不意を突かれたように固まった。

 

「えー……えっ? 本当?」

 あ、ああ。更に言えば現物だってある。……一応、見てみるかね? 

「あ、ああ、うん……」

 

 先程とは打って変わり、呆けたような声色になる川添トレーナー。貴方はそれにいたたまれなくなるが、それでも貴方の意志を曲げようとは思う事は無かった。

 基本的に唯唯諾諾と頼みを聞く貴方でも譲れない物の一つはある。それがたまたまこの装束だったという訳だ。

 

 それでは持ってくる。……すまないな、色々と。

「ああ、うん。大丈夫、大丈夫だよ」

 

 貴方は謝罪した後にトレーナー室を出、貴方の件の教室……には向かわず、周りを見渡し誰もいないのを確認し、貴方はすかさず〘青い秘薬〙を飲んだ。

 青い秘薬とは、元を辿れば医療教会にいた医療者の、上位に値する者が実験、それもヤーナムに住まう民衆へと用いた薬。

 ただし実験は実験でも、アグネスタキオンや一般科学者のように命の安全が保証された物では無く、同行させる方法も外道も良い所な物。それはこの秘薬の主作用──脳を麻痺させる麻酔効果と、医療教会が秘密裏に立て、今は悪夢に鎮座している〘実験棟〙の惨状を見れば、数秒経たずして理解出来るだろう。

 だが、どんな薬にも大抵は副作用という物がある。青い秘薬の副作用とは、即ち服用した者の存在を薄れさせるという物であった。

 主作用のろくでもなさに反した副作用のそれはあまりにも役立つ物であり、故にこそ狩人は遺志によって意識を保ち、副作用のみを利用する為に服用するようになったのだ。

 それは貴方とて、例外では無い。

 閑話休題。

 普段はこのような使い方をしない──主に迂闊な狩人の背後を攻撃して体勢を崩させ、そこから内臓攻撃に移る際に捕捉されない為に使う──のだが、今回は有り得ないほど平和的な物。

 まあ、だからといって性根が綺麗になっただなんて事は一切無く、実情は教室に戻る一手間がただっただ面倒でしょうがなかっただけで、深夜徘徊を代表とする校則に背くような行為はこれまでにも平気でやっていたし、何ならこれからもやるつもりである。

 さて、そうして秘薬を服用し、存在を薄れさせ透明となった貴方は件の装束を血の遺志から取り出して着替える。

 装飾代わりに仕込み杖を右腰、千景の本体と鞘を左腰、尾の付け根辺りにエヴェリンを据え、自己流に勝負服を整えた貴方は扉を三度叩いた。

 

 準備が出来たが入ってもいいかね? 

「えっ、早くない?」

 まあ、少し急ぎ目に動いていた故にな。

 

 息をするように嘘を吐く貴方は、返答を返される前にドアノブを捻り再びトレーナー室へと入る。

 

 ……さて、どう、だろうか……? 

 

 貴方はやや心配になりつつも、感想を聞く。

 

「……良い! 良いと思うよ、本当に! カッコイイし、とてもセンスが良い!」

 ……! そうか、それは良かった! これは長年、愛用していたので、どうしても譲れない物だったのだよ。

 

 瞳を輝かせて賞賛する彼女に安堵し、やはりこれで無くてはならないと貴方は思い、これを勝負服として登録する事に決めた。

 

 

 〘◇〙

 

 

 貴方は激怒した。必ず、この装束に難癖を付けた邪智暴虐の糞袋野郎をこの世から除かねばならないと決意した。

 ──こんな前置きは置いておくとして、しかし貴方が癇癪を引き起こしているというのは確かであった。

 というのも、貴方が二日前に見せたあの装束、もとい勝負服がその機能に適していないと判断されたからである。

 とはいえ、別にそれが時代遅れが過ぎるという意味合いでも血なまぐさいという事でも無く、ましてや貴方に対する陰湿な嫌がらせな訳も無い。

 貴方の勝負服にある問題点を端的にいえば、地味。

 その一点に尽きた。

 さて、レースは確かにウマ娘の欲求の一つたる闘争本能を満たす為の舞台ではあるが、同時に興行の場というのも兼ね備えている。

 故にこそ格好がカインハーストの貴族を思わせるような、やたらと彩られた芸術的な服装が多いのだ。

 幼少のウマ娘らはそれを着て走るウマ娘を見て、カッコイイと、あるいは可愛らしいと思い、その派手な勝負服を渇望する。

 そして成熟して学園に入り、G1を控えた時、自身の持つ夢、あるいは希望、あるいは憧れを元に勝負服を形成する。そしてそういう物は決まって彩りがあり、美に満ちている。

 そしてそれを見て憧れた次世代のウマ娘が似た物を渇望し、学園への入学を求める。

 URA、及び繋がりを持つ学園は、こうして成り立っているのだ。

 だがそれらと比べ、貴方の装束はどうだろうか。

 灰色に満ちており、物々しく、どこか陰気。

 元が闇夜に紛れて獣を狩る為に仕立てられた服とは言え、それは酷く夢や希望の欠片一つすらをも感じさせないのだ。

 全く目を引かれないと言う事は無い。しかし、彩りというのがあまりにも無い。

 故に、勝負服として適していなかったと見なされた。

 ……と、ここまで長々と取り繕ってきたが、一纏めに括って言うと要は「大人の事情」である。

 目は引かれるけど、パカプチ化した時に目立たない。

 デザインは悪く無いのだけど、大衆へと売りに出す以上色が欲しい。

 金銭の入りを憂慮したURA本部は、これからの展開力とインパクトに乏しいと判断し、そしてこれを不適としたのだ。

 ご丁寧にそれを告げる手紙にも原因は書かれていたのだが……まあ、貴方が癇癪を起こしている時点で、つまりはそういう事である。

 

 さぁ〜て誰だこれを蝋封した節穴目玉の糞畜生は。女か? それとも男か? まあ、どれでも良い。そいつが誰だろうが、本気で重打をする事に変わりは無いのだからねぇ、クックック。

「まあまあまあまあ落ち着いて落ち着いて、ね? だからそれを下ろそう?」

 

 随分と脳に血が上っていた貴方は、一般人の目の前でありながら狩り武器の一つ〘小アメンの腕〙を担ぎ、青筋を立てて犯人を探し出そうとしていた。流石に目の前で武器を出す程阿呆では無いのか、一応いつもの教室内──手紙を読んだのもそこである──で出したのだが、まあ殆ど変わりない。

 後から来た川添トレーナーは勿論止めるが、言葉如きで脳筋思考な貴方を止められる訳も無い。

 怒り心頭の貴方は上位者オーラを多々撒き散らし、普段は殺意に爪を向ける腕も静まり返っている。心做しか怯えているようにも見えるのは、気の所為だろうか。

 ……これに耐えられるトレーナーは何者か、だって? 

 …………さぁ? 

 きっと過ごしていく内に上位者への耐性でも得たのではなかろうか。違うのかもしれないが、だとしても世の中には知る必要の無い物が星屑の数程ある。

 さておき。

 

「ちょっと待ってよ、ダンテス!」

 ……はぁ。さっさと節穴野郎を叩き潰したい故、なるべく手短にしてくれるかね? 

 

 言葉では止められないと見た川添が、貴方の左腕を掴み訴える。主でありマリア様に酷似している人物にそうもされれば引き摺ってまでともいかず、溜息を吐いてトレーナーの側を振り向く。

 

「あ、あのさ、私も同じのを読んだけど、それって別に勝負服を全部変えろって話じゃないと思うんだよ。だからさ、認められるようにある程度装飾を付ければ良いと思うんだ。そうしたら大元を変えずに済むと思うしさ?」

 …………ああ、そうか。

 

 貴方は感嘆するように声を漏らし、そこで漸く絞り切っていた耳を戻した。

 原因があくまでも地味であるの一点だけなので、多少改変を入れれば良いだけなのだが、何故それが思いつかなかったのか。

 脳筋だからか、それともバ狩人だからか。恐らく両方だろう。

 

「だからさ、そこら辺を一緒に考えていこうか」

 ……ああ、そうだな。申し訳なかった、迷惑を掛けて。

「良いよ、大丈夫大丈夫。学生の内は多少迷惑を掛けたってまだ問題無いからね」

 

 貴方は直前までの行動を謝り、川添麻里に連れられてトレーナー室へと移動していった。




ダンテス君は頭ヤーナムな狩人の中だとそれなりに理性的だけど、一般人の中だと間違いなく頭おかしいし短気。

感想評価お気に入りをして頂けたら、処刑隊の格好をしながら全力ダッシュしてきます。
ダンテス君が。

〘リア10爆発46〙さん、〘geardoll〙さん、誤字報告ありがとうございます。

ウマネスト回

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  • そんな事よりヤーナムしろ
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