狩人少女はターフを走る   作:しがないヤーナム人

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第十六夜 大晦日

 日本の暦にして大晦日。

 バカタレの貴方は聖杯ダンジョン潜りを──それもストレス解消の意味合いでは無く、本来の意味である血晶石集めに勤しんでいた。

 聖杯文字はいつものアレこと、【9kv8xiyi】。物理、または刺突か重打の攻撃力を高める──具体的には、前者は27.2%、後者の場合は32.6%乗算される──効果を持つ血晶石を求め、守り人狩りをしていた。

 さて、なぜ今頃になっても尚集めていたのかというと、まあ単純に血晶石が足りなかったからであり、同時にそれ程貴方の製造してみた仕掛け武器が多かったのだ。

 ここ数ヶ月で増えたレース、練習以外の暇つぶしとしては、据え置き機やアーケードでのゲーム──急速に仲の深まった蝦塚からわざわざ家にまで行ってしている──やアニメーション鑑賞などの様々な物が追加されていたが、その中に仕掛け武器の制作があったのだ。

 とはいえその製造量は尋常ではなく、代表作のみを抜き出しても、流用部分ばかりの物なら〘仕掛け傘〙、完全な新規設計であり、かつ一応の成功作とよべる物では〘仕掛け直剣〙、彼からインスピレーションを受けた物であれば〘鉄血の鎚矛〙、挙げた三つ以外にも武器として扱える物ならば諸々諸々エトセトラ…………武器の体裁にもならなかったり、上手く変形機構を搭載できなかった失敗作なども含めれば凄まじい数になる事だろう。

 それ程製造しているのなら当然使用する事も目処に入れており、そうするのなら最高純度の血晶石は搭載する必要もある訳だ。

 移し変えれば良いというのは勿論正論ではあるが、貴方にとっては違う。

 一々武器に移し替える手間が面倒──つまる所貴方の悪い所である不精がここにも出た形であった。

 さて。

 

 ……まあ、至極当然の事ではあるが、そう簡単には手に入らない物だな。

 

 落ち着ける状況になった貴方は、がごんと音を立てて〘鉄血の鎚矛〙の先を下ろし、広い間の中一人言をぼやく。

 貴方の今持っている、血で赤黒く染まった刺々しいそれは、数日前に製造していた最新作であり、これが初陣である。

 特徴としてはその大きさ。そもそも片手で使うのを一切考慮していないだろうそれは貴方の全長すらも優に超える程で、メートルに換算すると二メートル行くか行かないかもある。

 人の持つ武器としてはまずまず気が狂っていると言わざるを得ない。

 申し訳程度の仕掛けとして炸薬による杭の発射機構、即ちパイルハンマー機構が搭載されているのだが、気がついた時に使う程度のお飾り状態であり、本命は両手持ちでのぶん回し。

 全力で叩きつけた際の威力は一周回って笑ってしまいそうになる程に高く、事実十二分に余力のあったはずだった〘守り人の長〙がミンチよりも酷い事になってしまっていた。

 それなりに耐久性のある長でこれなのだから、こんな物を狩人に当ててしまえば、床の染みになる事は考えなくともわかるだろう。

 欠点? 見なくてもわかる通り、バカデカいのとバカ重い事、それ故の酷いなんて物じゃない取り回し。加えて異常なスタミナの消費量。

 これを持っているだけでも一般アスリートウマ娘には高負荷の筋力トレーニングになり、人はそもそも持つ段階にもならない位には、重量があんまりにも糞なのだ。その事は人類代表──これでも薬品で強化していたのだが──の池内、ウマ娘代表のメジロライアンが示している。

 あのメジロライアンですら持ち上げた後は酷く摩耗した表情をしていたのだから、その重量っぷりが伝わってくる。

 そうなった原因は全てこの脳筋バ狩人がレースで得た賞金で購入したタングステンを後先考えずある限り全部ぶち込んで製造した弊害なのだが。

 ……まあ何、安心してほしい。これがあんまりにもあんまりな出来過ぎるだけで、他はまだ()()()()マトモである。

 強調した理由? 

 …………では、だ。火薬庫の極まった狩人がもし何かオーダー出来る権利を得たとして、そんなのが落ち着いた性能の狩り武器をオーダーするとお思いで? 

 つまりはそういう事だ。

 贔屓目無しに他狩人から見て落ち着いている出来だと言えるのは、前述した傘位であろう。

 まあ、こんな産廃も良い所のバカ重い何かはさておいて。

 貴方がそこそこ貯めていたタングステンを全ブッパした以上は使わざるを得ないし、何より貴方自身も割と気に入っている節もある。

 だからこそか。現在の貴方は時間を見ず、ただ血晶石集めに没頭していた。

 

 

 

 ──さてと。

 今回、貴方、もといダンテスファルサに対する発言がこんなにも荒れているのには理由がある。

 まず今が冬休みである事。過去の夏休みですらこんな調子でかつトレーニング漬けであったし、冬休みでもこのままだと流石にまずい。ワンアウト。

 次にここ数日ずうっとここに籠り通しだった事。アスリート面で見るのなら、一つ目がまだ良くともここで引っかかる。血晶石など後で幾らでも掘れるのだから、いい加減体裁だけでも良いから休め。ツーアウト。

 最後に友達を蔑ろにしている事。カフェから年越しを一緒に過ごそうと提案されているのにも関わらず、用事があって遅れると言っている訳だ。その内容がこれとは、少しだなんて物では無い程にどうかしている。スリーアウト、攻守交替。

 野球だったら某年の阪神を彷彿させるレベルで貴方はやらかしている。

 本音を言うのであれば、大晦日位は血晶石では無くカフェかタキオンか、駄目にしても川添トレーナーといて実に健全な年越しをしろと。仮にも現代の学徒なのだから学徒として青春してくれと。

 狩人の業務は一旦頭から消せ。消してくれ。

 幾ら何でも聖杯ダンジョンで年を越すのは頭狩人が過ぎると思うぞ、ダンテスファルサ。

 と、ふと思い出したように懐中時計を取り出す。

 狩人の夢、及び聖杯ダンジョン内ではスマートフォンが機能しない為、ここで行動する際にはわざわざ買ってきた懐中時計を持ち込んでいるのだ。

 よし、このままどうか考え直して欲しい。どうか頼む。貴方は他の狩人とは違って考えられる脳があるのだから──

 

 ……もう暫くは大丈夫か。

 

 ……は? 

 おい阿呆。これから先は地獄だぞ。本気でやるつもりか阿呆。

 

 まあ、良いだろうよ。もう少し粘れば出てくるかも知れないのだからね。

 

 まあ良いか、じゃないが? 

 …………はぁ〜〜〜……。

 本当に本当にこのボケナス狩人は阿呆が過ぎるにも程がある。仮にも約束事があるというのにそれを後回しにしてでも血晶石に傾倒しているだとか本当に学徒の自覚あるのか? 意味がわからない、全くわからない──

 …………よし、一旦落ち着こう。

 ……よろしい。

 貴方がそうするのなら、こちらにも考えが無い訳では無い。

 何が何でも強制的に参加させる。覚悟しろクソボケ。

 

 

 

 〘◆〙

 

 

 時刻は八時を回った所。

 美穂寮での年越しパーティに誘ったは良い物の一行に来る気配が無く、もう来れないのかなと思っていた頃。

 ふと私のスマートフォンから着信音が鳴った。

 表示されている文字を見ればそれはダンテスファルサさんで、少し驚く。

 忙しい事が終わったのかな? 

 私はそう推測し、「応答」を押す。

 

『あー、もしもし? ダンテスファルサだが』

 はい、何でしょうか……? 

『ああ、今になって漸く忙しい事、と言うのが終わってな。酷い遅れ様ではあるが、そちら側に行く事は大丈夫か?』

 ……ええ、はい。大丈夫かと。

 

 私はダンテスさんの問い掛けに承諾の意を示すが、どうも違和感がする。

 何か返事がいつもよりも柔らかくて、語尾が何か変で……。

 そこまで考えて、私は思い当たる。

 ああ、違う。この人はダンテスファルサさんではあるけど、でも違う。

 ダンテスさんの近くにいつもいる、「それ」だ。

 

 ……貴方、さては中身が違いますね……? ダンテスさんにしては語尾がおかしいですから。

『……あー、しまったらしいな。はぁ、やはり誰かを騙すのは難しい物だな』

 

 やっぱりそうだった。

 それにダンテスファルサさんなら、あの場面で「クククッ」と笑うはずだし。

 私がそう考えている間にそれは「それでは、なるべく早く行く。開けて貰えると幸いだ」と言い残して、電話を切った。

 ……間に合うのかな。

 私はそう考えつつ、寮長のヒシアマゾンさんに外の道を一時的に開けてもらうように頼み込む。

 ヒシアマゾンさんは急に一体とでも言いたいような顔をしたけども、最終的には「九時までだからね」と言って開けて貰えた。

 私はそれに感謝の言葉を返し、ダンテスさんを待つ事にした。

 ──ダンテスさんはどこの寮にも属していない。

 私は一度フジキセキさんやヒシアマゾンさんにも聞いてみたのだけど、その生徒は居ないと言っていた。だから、どこで寝泊まりしているのかは知らない。もしかしたらシービーさんかマルゼンスキーさんのように個別に家を持っているのかも知れないけれど、だとしたらあそこにいた意味もわからない。

 本人に聞いてもあまり話したがらないから本当に知らない。

 もしかしたら彼女の言う「工房」で寝ているのかな? 

 ……そんなまさか。

 ──と、考えている内。

 

「着いたぞ、カフェ」

 

 嗅ぎなれた、でもいつも以上に強い匂いが匂ってくる。

 思わず私は前を見ると、そこにはダンテスさんがいた。

 私は思わず声を出して一歩退く。

 

「……あー、驚かせてしまったな。申し訳ない」

 ……いえ、少しだけですので。それにしても、早いですね。もう少し掛かると思っていたんですけど。

「まあ、こういうのは早い方が良いだろう?」

 

 ダンテスさんはそう言って、いつもしないはずの微笑みを見せる。

 それを見て、確かに今中身が違うのだと私は察した。

 それに、匂いも強い。

 ダンテスさんはいつもある匂いを漂わせている。ただそれは、香水と言うにはあまりに自然的で、でも身体本来の匂いというにはあまりに不自然的というような、とても形容しにくい匂いを纏っている。

 そんな匂いであるけれど、無理やりにも言葉にするのなら……。

 ──月の匂い? 

 月に匂いが無いのは、知っているのけれど、それ以外に形容し難いというのがあると私は思っている。

 その月の匂い? というのが、今日は特段強い。だから今の中身は違うのだろうと私は考えていた。

 

「まあ、カフェの言う通り、今のこいつはこいつでは無い訳だ。故に、すぐ返すさ」

 ああ、はい。

「……申し訳ないな、この阿呆があんまりにも阿呆で」

 いえ、大丈夫ですよ。私も〘お友達〙が見える友達が出来て嬉しいですから。

「……そうか、それは……良かった」

 

 まあ、せめてこいつの世話を頼む。

 そう言い、「それ」はダンテスさんの身体から離れていった。

 

「……一体、どこに……?」

 こんばんは、ダンテスさん。

「……マ、マンハッタンカフェ? おかしい、さっきまでは確かに血晶石を集めていたはずだがね……」

 さあ。もしかしたら白昼夢だったりじゃないでしょうか? 後は、そうですね。もうそろそろ年越しパーティも盛り上がってきましたから、早く行きましょう? 

「否、しかしだな……ああ、わかった、わかった。引っ張るな、少しだけ待ってくれ」

 

 漸くいつもの様子を見せてくれたダンテスさんに、私は安堵のため息を漏らした。




もう止めて! クソザコの胃袋HPはもうゼロよ!

ちなみにですが、鉄血の鎚鉾は変形前はサブアームで持ち手の後部を支えてる感じです。

感想評価お気に入りをして頂けたら、ダンテス君がもっと仕掛け武器を作るようになります。

ウマネスト回

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