狩人少女はターフを走る   作:しがないヤーナム人

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あけましておめでとうございます。
ちなみにですが、創作の仕掛け武器の幾つかは私の好きな作品から出しています。


二十夜 あるいは、月光の狩人。

 さて、ゴールドシップとマリア様、グラスワンダーとエルコンドルパサーが合流せずに時計古塔カインハースト──時計塔やら古城カインハーストやら医療棟やらが混じり合った、酷く歪で控えめに言って気持ち悪い設計の何か──を別手に別れて攻略している最中の事。

 時計塔層最上階、他ゲームで当たる所の玉座の間にて、貴方は欠伸をしていた。

 城の改装や獣──即ち敵対モブの設置に武器の選択、後は貴方が何やらどうこう言っていた事の仕込みも済ませているらしく、残るは四人を待つばかり。

 だがしかしだ。あの癇癪持ちで、かつ頭狩人な貴方が大人しく待てるだろうか? 否、絶対に出来る訳が無い。自明の理、火を見るよりも明らかな事である。

 そんな事もあって、貴方は暇潰しにと過去に製造した武器の一つ、〘エクスシア〙を取り出し眺める。

 能天使を意味する単語を名付けられたそれは、全狩り武器の中でも非常に珍しい左手持ちの形相。パイルハンマーのように腕部に装着する形式の武器のエクスシアは、刀身を展開する事で大剣、格納する事で銃として機能する、貴方の大好きな仕掛けがたっぷりと搭載された狩り武器である。

 大きさ故に取り回しが悪い事と銃の精度も威力もまるで役立たずな事が欠点ではあるが、貴方が定期的なストレス発散、もとい血に酔った狩人狩りに一度使って以来、お気に入りの一つとなっている。

 貴方が対勇者三人戦──実際はマリア様含め四人だが──で最初に使う武器で選ばれている辺り、それへの好みようが伺い知れる。

 

 ……おっと、漸く来たか。

 

 と、どうやら一行がエレベーターに乗り込んで来たらしい。エレベーターの稼働音が聞こえた貴方はひそりと中に忍ばせた眼を通し、中の様子を観察した。

 

 …………あ? 

 

 その時、貴方の瞳はある存在を認めた。

 白く血色の残る肌、軽く結われた銀髪の髪、金に煌めく瞳と鋭く優美な目先、仄かにピンクな唇、鋭くしかし整った鼻、左に掛かった、そして常人には有り得ない高身長と胸元に光る翡翠色のエメラルド。

 貴方の瞳が映した物を何度も疑う程に、完璧なる一致。

 三百六十度どこからどの角度でどう見ても、マリア様に酷似した川添麻里では無く、かつての古狩人、〘時計塔のマリア様〙であった。

 

 マ、マリア様ッ!? マリア様ァーッ!? なぜ貴方様がいらっしゃられる!? 

 

 そうと気付いた貴方の取り乱しようは、それはそれはとても面白い、失敬、凄まじい物であり、椅子から転げ落ちては発狂を起こし、また短期間で発狂しかけたのを、鎮静剤を三本も飲む事で抑え、しかしそれでも尚耐えきれず瀉血の槌を腹にぶち込んで漸く冷静さを取り戻したのだから、やはり貴方のマリア様に対するそれは気持ち悪……間違えた、一途であると言えよう。

 

 ああ待て、落ち着け、落ち着いて考えろ。……そもそもとして目標は狂人の役らしく負ける事であり、勝つ事では決して無い。なればよりこちらに好都合では無いか、違うのかね? 

 ああ、元を考えればそうでは無いか。勝つ必要など全く無い。後はただ、教わったように演じれば良い。

 

 どうやらそれで鎮静したらしい貴方は直後、エレベーターの稼働する音が止んだのを聞き、青い秘薬を飲み姿を隠す。

 長大で重々しく見える扉が開かれ、四人が時計塔層最上階に姿を現せば、ヤーナムの影を模した存在が現れた。

 勿論、戦わせる訳では無い。

 貴方を引き立てる為だけの、やられ役に過ぎない存在だ。

 貴方は右手に長剣を手に持ち、ステップを踏み背後を取って両腕を切り落とし、エクスシアの大剣で胴を貫き、残る長剣で首を撥ねる。そこで丁度秘薬の効果が切れ、貴方の姿を見せた。

 貴方にとっての味方すらも即殺するという悪行に一行が絶句する最中──マリア様は別とする──、ゴールドシップが口を開く。

 

「お前、よくも味方の事を、そうあっさりと叩き切れるもんだな!」

 

 ああ、よくやってくれた。その理想的な言葉を待っていたのだよ。

 貴方は彼女を褒めたい気持ちを堪え、散々読んだと見える台詞を紡ぎ始める。

 

 生憎だが、この狩人に味方などいるはずも無い。

 そう、居ないのだよ。味方も……そして、敵もね。

 ……ハハハハハ、クハハハハハ……! 

 

 貴方は不敵そうに笑い、

 

「来る!」

 

 金属の鍔迫り合う音が鳴り響いた。

 先程までの地点には風塵が巻い、相対するは左手にエクスシア、右手に長剣を持ち交差させる貴方、そしてマジックバリアを展開したゴールドシップ。

 

 あぁいしてるのさぁぁ! 君達をねぇぇぇ! ハァーハハハハァッ! 

「そうか、じゃあ、今ここで負けちまえ! それが愛されてるアタシからの望みだよッ! アタシは、裏切ったアンタのを許さねぇっ!」

 

 演劇の舞台は、幕を上げた。

 

 

 〘◇〙

 

 

 時の刻まぬ時計塔。

 そこに、四の人影が舞っていた。

 一人は、貴方。器用に武器を持ち替えながらも、らしくなく大袈裟に、大振りに狩り武器を振るう。

 

「隙を見せたな!」

 

 一人は、ゴールドシップ。目の前の敵がするように魔法製の武器を振るい、隙を見せたように舞った貴方を串刺しにせんと手元を滑らせ聖槍を突き出す。

 

 残念だが見間違いさ! 見間違えた貴公には水銀弾の土産をくれよう! 

 

 外した彼女は聖槍を手元に戻そうと引き戻し、それを見切った貴方は、グラスワンダーの魔法を喰らい指を焼いた左手の代わりにレイテルパラッシュに持ち替え、水銀弾を肩目掛け叩き込む。

 放たれた弾丸に目論見通り体勢を崩され、膝を付かされたゴールドシップを狙い、首を切り飛ばさんと変形後のノコギリ槍を取り出し横に振るい。

 

「そうはさせない」

「すまねぇ、マリア!」

「ゴルシ先輩、回復します!」

「すまん、助かった!」

 

 動けない彼女をカバーするように後ろから走り、襲い掛かる刃を弾く影。

 それは、時計塔のマリア。かつて、心弱きが故に井戸底に捨てた落葉を手に持ち、貴方を討ち取ってみせようと乱舞する。

 銃を撃つよりも弾く方が早いと貴方は判断し、武器を槍から蛍雪に持ち替え迎え撃った。

 一度二度、三度と、密度の多い猛攻を繰り返す落葉を弾く。

 弾き、弾き、流すように弾き合う。その度、落葉の焔、金属の火花が舞い散っていく。

 なるべく、一人ばかりに注目するな。

 自分自身で忠告した貴方は次の一撃を潜り避け、左手を斬る意思を膨れ上がらせ、

 

「見誤ったな」

 

 貴方の右目に短剣の突きが出され、燃え上がった。

 

 ぐ、あぁっ!? 

 

 無意識の油断を晒し激痛で悶えるが、そうしている場合では無いと強引に堪え、蹴りを叩き込み下がらせ、投げナイフを投擲して鎮静剤を摂取しつつ下がり、

 

「『コンドル』──」

 

 左斜め後ろ、上方向……休む暇も無い! 

 そう判断した貴方はエクスシアを取り出し大剣を展開して脚を切り飛ばさんと旋回する。

 が、どうやら相手はそれ以上に一枚上手だったらしい。

 

「──『流星脚』ッ!」

 

 振り下ろされた脚は貴方の頭部では無く凶刃(きょうじん)を狙っており。

 エクスシアの刃が、叩き折られた。

 

 チィッ! 

 

 思わず舌打ちを漏らしながらも、武器を仕掛け傘に切り替え徒手空拳の彼女に鉄板を殴らせ、微かに猛攻の落ちた瞬間傘を畳み上から下へと逆袈裟に払う。

 と、彼女と交代するように、貴方に休息などくれてやらんとばかりにゴールドシップが槍を持ち突撃してくる。

 マリア様と茶髪は殆どが残り、覆面の娘は四分の三、白毛の奴は半分。

 なれば、仕留めるなら、白毛からだ。

 これまでの経験則から数を減らした方が早いと判断し、貴方は蛍雪を手元に走り込んで来る彼女に合わせ、

 

 一つ覚えを!

 

 突きを繰り出す。

 経験則から辿り、的確に神経部を狙ったそれは命中するが、しかし。

 

「肉を斬らせて──」

 

 な、に。

 確かに、腕の神経部分を斬ったはず。

 …………ああいや、違う。

 糞、失策した。

 そういえばそうではないか、今見えるこれは。

 貴方は自身の失策を悟り、彼女はブラフであった聖槍から魔法の長剣へと持ち替え。

 

「骨を、断つッ!」

 

 貴方の右腕は、宙を舞って霞となった。

 

「ジャスト! やっぱりコイツ、やってやがったか!」

 

 そう叫ぶ彼女は、どうやら貴方の戦い振り、肉体に現れる変化から欠損機能を察したらしい。

 握っていた蛍雪は遠くに飛び、今や時計塔の扉の部分、グラスワンダーが控えている所にまで飛んでいった。栗毛の彼女は既にそれを手に取り、いざ近づけば、たとえ力不足であろうと切り伏せてみせると構えを取っている。

 誰も彼もが、貴方を狩る。貴方を倒し、勝ってみせる。

 そんな漆黒の意思を、瞳の中に携えていた。

 

「もう貴方に勝ち目はありません、大人しく降伏して下さい」

 ……クハハ。

 それは無理だな、申し訳無いが。

 

 右腕は飛び、片目は潰れ。

 あばらは砕け、左手も、引き金を引く為の指を消し飛ばしている。

 正に、満身創痍の様相。

 通常の貴方なら、もう諦めていた事だろう。

 この狩りは運が無かった、そう思って。

 だがしかし、今は違う。

 酷い話だが……過去の話に反駁するようだが、勝ってしまいたくなったのだ。あの、諦めてばかりの貴方がだ。

 一人はヒーラー、一人は擬似クリモト、一人は純魔で一人はあのマリア様。

 しかもあれらとは異なる、ヤーナムの影共や失敗作達とは違う、三人とも素人ながら息の合った戦い。

 かつてない程の逆境であり、だがしかしローレンスのような不条理さも、ロマのようなくだらなさも感じない。

 これ程までに楽しい狩りは、久々だったのだ。

 故にこそ、少し欲張りになってしまったのだろう。

 もう演技をするのも良いだろうと、貴方は肩の力を抜く。

 

 やはり……さ。

 

 ポツリ、と貴方は一人ごちる。

 自身がする本来の狩りは、攻撃を待ち、躱し、それに由来するカウンターアタック。

 積極的に前へ攻め込む戦い方はそもそもとして柄では無く、故にこそスタミナの摩耗も激しく、普段は現れない失策の芽が増えるのも当然の摂理。

 そんな内心を、たった一言で締め括る。

 

 やる物でも無いな、性に合わない事は。

 

 そう貴方は言い切った後、左手にとある武器を持つ。

 それは、ぼろ切れを纏った一つの大剣。

 血晶石は三つ全て嵌め込まれているものの、その様相は今までの物とは違い、傷ついた部分の一つも無い。

 

 こんな武器、本来は頼りたくなど無かったのだよ。

 嫌な過去を、重ねてしまう。

 

 ぽつりぽつりと呟き、貴方は聖剣を持ち上げ刀身を見やる。

 本来狩人がやるように撫でる事は叶わず、しかし光が纏われる。

 それは翡翠色の、神秘の光波。

 過去にいた教会の狩人、ルドウイークが秘した輝きの正体。

 導き。

 かつて、翡翠色の光を纏った聖剣と共に、古の狩人ルドウイークが見出したカレル文字。

 虚空の瞬き舞うは光の粒子。かつて彼はそれを小人と見え、導きと名付けた。

 故にこそルドウイークは、心折れなかった。ただ狩りの中でなら。

 それは、今の貴方とて変わりない。

 

 示したまえ、神に立ち向かいし英雄らよ。

 誇り高き気高さを。

 内に秘めし信念を。

 心折れぬ芯の強さを。

 その全てを、証明せよ。

 

 目の前に立つのは今や、〘獣狩りの上位者〙では無い。

 

 導きの月光に……欺瞞の神に、勝ってみせろ!

 

 〘月光の英雄、ダンテスファルサ〙

 

 ──聖剣の遺志を継ぎし、英雄である。




余談ですが、選ばれたのがアイリーンの場合は慈悲の刃、ゲールマンの場合は葬送の刃になっていました。
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