狩人少女はターフを走る   作:しがないヤーナム人

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めたくそボロッボロになりながら戦う女子ってなんかキません? 私はとても好きです。
後鎖に縛られて虚ろな目をしたイケメン系女子ってなんかグッとくる物ありませんか? 私はスッッッッッッッッッごく好きです。


二十一夜 あるいは、月光の英雄。

 月光の英雄。

 人差しの欠けた左手に聖剣を持ち、右腕は霞となって消え、右眼も失せ、身体も切り傷や打撲跡にまみれた姿。

 常人ならば最早勝ちようの皆無にも見えるその立ち姿とは裏腹に、戦況は全く英雄側へと傾いていた。

 

「『コンドル流星脚』ッ!」

 

 放たれたその直線的な蹴りを、英雄は敢えて前にステップする事で躱し、聖剣を右にやり斬り倒す。

 

「な、当たって──!」

 

 着地の隙を晒したエルコンドルパサーは回避出来ずもろに喰らい、危うく撃墜させられかねない体力にまで削られる。

 

「エル、回復しますよ! ……すいません、これでMPが切れました。もう魔法での回復は見込めません」

「ああ、わかったぜ……チクショウ、なんだよアイツ! あんな、覚醒でもしたように動きやがって!」

 

 ゴールドシップは悔しがりを見せる。

 狩人から英雄への面構えをした時から、ゴールドシップの相打ち覚悟の特攻やマリアの積極的な攻撃で、漸く傷を作れる程度。

 しかし前者のそれも、モンクの彼女が積極的に撹乱、ヒーラーの娘の防衛へ赴いているが為にどうにか与えられていただけであり、仮に彼女が倒されればマリアを除き各個撃破され、残されたマリアも妨害が無いまま狩られるだろう事は明白な事であった。

 

「……あれでもまだ、温い方だ」

「……は? いや、おかしいだろ、あんなのが、温い? そりゃあアイツは今片手だけどよ……」

「それでもさ。彼女は、あの狩人は、武器を振るう腕を右手としている。しかし今は利き手で無い方でそれを振るい、かつ本来は両手持ちであるあの聖剣を強引に左手で振るっている。そうするのに未だ慣れていない、という所だな。しかしそうでありながらあの奮戦。それが意味する事は、わかるね?」

 

 冷静に話すマリアとは対称的に、ゴールドシップは冷や汗を一雫流した。

 マリアが言った事は要するに、目の前に立つ英雄はあの高等技巧ともいえる剣技をしていながら、未だ無茶を筋力で通している状況なのだ。

 事実英雄の太刀筋は、歴戦の狩人にしてはやけに鈍く、おぼつかない。有しているはずの高い技量を活かせていないのである。

 だが、そもそもとして全長を超える光の大剣を、例え右手側であろうとも、例え筋力が極まっていようとも、片手で振るう事自体ですら有り得ない無茶苦茶であるのにも関わらず、そのハンデがある事は彼女らに一抹も感じさせていないのだ。

 もしも目の前の存在が適応してしまったのなら、それはつまり。

 

「立ち止まって考えている暇は、どうやら与えてはくれないらしいな!」

 

 マリアの声がゴールドシップの思案を断つ。前を見やれば、英雄は居合の構えを取っていた。

 腰溜めに構えられた翡翠の刀身は、今まで以上に強く煌めき。

 斬撃が、飛んだ。

 中段、腹の部分目掛け放たれたそれは、広範囲かつ無慈悲な速度。声を掛ける暇も無い。

 マジックバリアは通用しない。小手調べであろう一閃、そう、小手調べ如きにあえなく割られたのだから。

 刹那に判断した彼女は、マリアのようにステップで避けるで無く、咄嗟に伏せて避ける事を選んだ。

 

 なれば。

 

 一言漏らした英雄は、前に進みながらかがみ、回転しながら大剣を繰り煌めかせる。

 次なる光波は足首、下段の位置。狩人なれば必殺、詰みの一撃。通常は放たれる前に弾丸を打ち込むか、あるいはその前に退避する。

 しかし目の前にいる者はウマ娘。決して狩人の常識を知らず、何より英雄より劣れども肉体性能も低くは無い。

 白毛の彼女は防がない。放たれる攻撃全てが防御不可能である故に。

 白毛の彼女は退かない。退けば、相手有利の長期戦と化す故に。

 退けば老いるぞ、臆せば死ぬぞ。

 彼女は、決意を漲らせ。

 

「エルゥ! グラスゥ! 全力でアイツに向かえェ!」

 

 彼女らが頷くと同時に、迫り来る光波を飛び越えた。

 途端、狂風の如く飛び交う光の斬撃。それが意味する物は即ち慣れの兆し。

 煽り文句を叩く暇は勿論ない。真剣な顔つきをして斬撃の隙間を潜り、躱し、時に飛んで避けて行く。マリアのような洗練された物では無いが、しかし直撃を受けずに上手く回避している。

 エルコンドルパサー、グラスワンダーも辿り着き、マリアも合流し、四人の息を合わせた一斉攻撃へと──。

 刹那、放たれる波動。

 三人は波動に吹き飛ばされ転がり、何とか避けたマリアも放たれたそれの勢いに体勢を崩されながら回避する他無く、即時の復帰は見込めない。

 左手のみで大剣を高々と掲げ、虚空から光の粒子を収束し、煌めきを帯びていく様はさながら力を溜めているかのよう。

 

 我が導きの、

 

 聖剣は見る者の目を眩ませる程に、強く翡翠色を輝かせ。

 

 ──月光よ! 

 

 光の、逆流。

 そう錯覚させる程の波動の激流が扇状に展開され、無慈悲に一帯を焼き尽くした。

 最上階はその激流に耐えきれず時計と一部の床以外が崩れ落ち、外が見えている有様。外は青ざめた血を彷彿させる空色をし、赤い月光りが差している。

 その光に晒され倒れ込んでいた四人。直に、霞となるだろう。

 

 ……良い、狩りであった。

 

 手向けのように呟いた英雄はそれらに背を向け。

 

「……まだ、私は戦える……!」

 

 ……否、否。

 まだ立ち上がる者が、たった一人いた。

 マリア。不退転の魂を、狩人の誇りを抱え、尚もこの化け物に勝とうとしていた。

 手から無くした落葉の代わりに偶然手元にあった蛍雪を掴み、よろめきながら立ち上がる様は不格好であり、英雄を前に大立ち回りをしていた一人とは思えない。

 しかし、それでも、貴方を見据える瞳には。

 『精神一到何事か成らざらん』。

 そう、決意を語っていた。

 なれば応えんと、貴方は月光を引き戻し聖剣を腰に据え、居合の体勢に入る。相手も発火ヤスリを摩擦し燃え上がらせた後に同様の構えを取り、さながら居合の試合。

 瞬間、動き。

 

「私は、狩る。何としてでも、何があろうと、君を狩る!」

 

 その言葉に瞳を見開き。

 互いの加速の業が。

 互いの刃の輝きが。

 大刀に燃ゆる炎が。

 聖剣に灯る月光が。

 刀身の風切り音が。

 一瞬にして、交差した。

 

 

 

 ぴしり、と。

 持っていた蛍雪の刃が零れる。

 しかし、それだけであり。

 対称に、月光の聖剣はその身に纏った光を失い、主である英雄はその剣を零し、膝を付いていた。

 手加減をした訳ではない。確かに全力で迎え撃った。

 ……ただ、英雄は。

 目の前の英雄は。

 貴方という、狩人は。

 

 結局、屑な狩人は、屑な狩人のまま、か。

 

 今のマリア──意志を継承した、一人の勇者とは違う。

 

 英雄のようには、成れず終い、だったよ。

 

 ただ強いだけの、独りよがりで、そして紛い物の英雄(魔王)であった。

 

 

 

 YOU HUNTED SMUG HERO.

 

 〘◆〙

 

 

 崩れ落ちた天井から見える空は青く、太陽光の差す時計塔。

 マリアはそこに、ただ一人立っていた。

 

 

 

 この狩りは、半ば賭けのような物であった。

 一つ。彼女が最初から本気で狩りに来るかどうか。

 彼女は千景か仕込み杖か、あるいはそうで無くとも、手に持った武器一筋に戦えば、今以上に強い。少なくとも後半に入る時点で二人は狩れていた。

 しかし、魅せるというのもあったが、それ以上に普段は武器を必要以上に切り替える悪癖があった。それはある意味、油断を晒している証でもあった訳だ。

 一つ。追い込まれてから貧者結晶の千景を持ち出さない事。

 前述されている様に、本来の扱う武器は技量か血質のどちらかを要求される武器。それを高水準で備えた武器──即ちは千景。彼女は何十年と暇だったのを活かし、無論宇宙悪夢的な入手難度を誇る貧者結晶を三つも嵌め込んだ刀を持っているのだ。

 元々接近戦を得意としている彼女がそれを持てば、どうなるのかは考える余地も無い。

 その為、月光の聖剣を持ち出された事は大ダメージであった。だが最悪の事態では無かったのだ。

 一つ。最後に、不意打ちをしなかった事。

 狩人は、隙があれば攻撃を加える存在。狩るべき獣は勿論の事、大物、狩人、そしてそれらが礼儀正しく待っていようと。

 西部ガンマンの様な勝負に付き合う義理も人情も無いにも関わらず、彼女はわざわざ引き受けたのだ。律儀に立ち上がるのを待ち、ヤスリの発火を待ち、構えを取るのも待ち。

 彼女は狩人の癖に甘く、何処までも甘い性格であった。

 

 

 

 

 良かった……勝つ事が出来て。

 マリアはふぅと息を吐き、下を見やる。と、ふと瞳にある物が入る。

 それは星見盤。かつての時計塔での戦いで得た戦利品であり、古臭さはそのまま、丁寧に手入れが施されている事が伺える。

 時計塔へと掲げれば、止まっていた時計の針は動き出して観測者に秘密を漏らし、彼女──尾耳の狩人の秘する何かが見えるだろう。

 彼女の近況からするに、恐らくは別の時計塔か狩人の夢か、あるいは、彼女の現状か。

 ……しかし。

 

 彼女は……尾耳の狩人は、大丈夫か? 

 ……まあ、過去の時よりは特段に。

 そう、か。なら、良かった。

 

 そう聞いたなり、マリアは掲げようともしなかった。

 そのまま壊れる寸前の木椅子に座り。

 

 ……秘密は、甘いものだ。何度も何度も、ずっと味わいたくなる程に。

 だからこそ、誰であろうとも見てはならないのさ。

 例えそれが……私だったとしてもね。

 

 ポツリ呟いて、ただ目を閉じた。

 それきり、開く事は無かった。

 

 

 〘◆〙

 

 

 さて、大騒動を引き起こした元凶の一人、もとい脳髄筋肉バ狩人の方に戻る。

 良い幕切れであったなとやったら満足げな様子で配信を切り、オンにしていた機能を全てオフにして現実側に戻る。

 と、正座して大人しく怒られているゴールドシップが見えた。

 説教をしているのは生徒会の挨拶で見た事があるウマ娘。黒髪の尖った耳が印象的な彼女はエアグルーヴ。耳はしっかりと後ろに絞られており、彼女の内心を事細かく表している。

 と、貴方の方にも視線が向けられる。どうやら貴方にも言いたい事があるらしく、その表情から見るに十中八九良い側であるとは受け取れない。

 ……これは……怒られる方だな。

 貴方はそう判断し、一度正座の体勢を取る。

 

 まあ、まずは話を聞いて頂きたい。

「言い訳は聞いてやろう。それで、何だ」

 

 怒気の籠った声に怯む事無く、至って平常な面構えで貴方は言い訳を並べ立てる。

 

 まずこちらは本来普通にやるつもりだったのだよ。そこは留意してもらいたい。それがこのゴールド何とかというウマ娘がだな──。

「な、お前ェ!」

 だが事実だろうよ。……という訳で、まあ……後は任せたぞゴールドシップ! 

 

 ゴールドシップを鮮やかに売って貴方は逃げ出した。流石上位者狩人。やる事に人の心を一抹も感じられない。

 尚全く罪逃れ出来た訳でも無いので、

 

「おい待てダンテスファルサぁ! 貴様も同罪だぁぁぁっ!」

 クハハハハハッ! 止まれと言われて止まる悪役がいるのかね、えぇ!? 

 

 当然ながら凄まじい形相のエアグルーヴに追い掛けられるが、煽り倒しながら全力逃げ。

 ……まあ、後でたっぷりとツケを払う事になるので……まあ、良しとしよう。今はバ狩人らしく脳筋しているのを見ていよう。

 

 

 

 

 この後ゼンノロブロイに見つかった。捕まった。本気で怒られた。

 

 癪に障る事を言われたので衝動的にやってしまった。それと同時に面白そうだからこんな事をやった。今はその事を猛烈に反省している。だからその怒りを鎮めて欲しい、頼む。

 

 帽子を取って五体投地で謝っていた貴方は、そう供述している。




〘Othuyeg〙さん、誤字報告ありがとうございます。
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