東方短譚   作:黄身白身

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小悪魔故郷に帰る

 次々と投げかけられる久しぶりだねぇとの声に挨拶を返しながら、私は実家への道を急いでいた。

 本当に久しぶりの実家。何年、いや、何十年ぶりだろう。

 急な帰郷で連絡する間もなかったけれど、多分弟、私の大好きな弟くんは家にいるだろう。あの子は短期契約タイプなのだ。

 我が家は弟以外はみんな長期契約召喚タイプ、いわゆる「使い魔」をやっている。

 現に私はパチュリー様の使い魔として召喚されている。

 まさか休暇なんてものが与えられるとは思わなかったけれど。

 あれは三日前のこと。

 

「休暇を取れ」

 

 珍しく私を呼び出したレミリア様は、開口一番そう言った。

 

「咲夜と美鈴は少し前に取ったんでな、次はお前の番だ」

 

 と言われても、私は咲夜さんや美鈴さんとは身分が違う。お二人はレミリア様に雇われているという形だけど、私はパチュリー様に召喚された身なのだ。

 

「咲夜と美鈴とは違うって言われてもな、お前だって館の仕事を全くしないわけじゃないし、給料はきちんと出しているだろ」

「パチュリー様に全額渡してますよ」

「え」

「え」

「咲夜、ちょっとパチェ呼んできて、大至急」

 

 これはレミリア様が魔法使いの慣習を詳しく知らなかった事による誤解だった。

 使い魔に生活費を稼がせて自分は研究に打ち込むという魔法使いは決して少なくない。だから、私のお給料をパチュリー様が全額受け取っていても何もおかしくはないし、使い魔の私としても不満はない。

 

「お給料? 全額預かって、そこからこの子の生活費やお小遣いを出してるけど」

「お母さんか、お前は」

 

 とはいえパチュリー様はそこいらにいる一山いくらの平々凡々魔法使いとは違って、きちんと私の働きを私のモノとして認めてくれているのだけれど。

 

「でもレミィ、いいの? こんな時期に休暇なんて」

「例の噂か?」

 

 最近、得体の知れない魔物が幻想郷をうろついているという噂が広まっているのだ。噂を総合してみると、魂食らいの可能性もあるらしい。

 魂食らいとは吸血鬼には及ばないとはいえかなりの高位悪魔で、今のところ幻想郷では確認されていない。

 

「魔理沙もそれらしいものに会ったって言っていたわ。あの子、盗みや騙しはしてもそういう嘘はつかないわよ。……まあ、勘違いの可能性は置いておいて」

「なに、幻想郷に仇為すようなら、八雲紫に貸し一つだ。魂食らいごとき私一人で充分すぎる。お釣りのほうが多いくらいだ」

「それじゃあ、私からは何も言うことはないわ。小悪魔、ありがたく頂戴しなさい」

 

 そういうわけで休暇を与えられた私は、里帰りの真っ最中なのだ。

 家に着くと、予想通り弟がいた。

 何故か昼間っから飲んだくれている。

 どうしたの弟くん。

 

「なにやってんの」

 

 私に気付くと慌てて片付け始める弟くん。

 

「なんで、え、使い魔やってるって。あ、もしかして主ぶっ殺した?」

「休暇くれたのよ」

「休暇……いい主捕まえたな、姉さん」

「ぶっ殺して帰ってくるなんて思わないぐらいにはいいご主人様よ」

「マジか」

「ダウナー系美人だし」

「マジかよ」

「おっぱい大きいし」

「え、姉さんより?」

「脱いだら向こうの方が大きかったよ」

「超マジかよ」

 

 それで、弟くんはなんで昼間っから飲んでるの。

 

「……それが、聞いてくれよ」

 

 弟は短期契約タイプ、ざっくり言うと「願いを叶えてやるから魂寄越せ」ってやつだ。

 もらうのは魂とは限らないし、叶える願いも色々ある。

 一番オーソドックスなのは「三つの願いの代わりに死後の魂」というもの。

 その弟くんがなにやらヤケ酒。何やったのかな君。

 

「いいところに喚ばれたと思って契約取りに行ったらさぁ……」

 

 

 

「よくぞ我を喚びだした、貴様の願いを叶えよう。ただし、貴様の魂と引換になっ!」

 

 喚ばれて出て行くと、金髪の少女がキノコを握りしめてこっちを見ていた。

 

 

 そういえば魂食らいみたいなのに会ったって魔理沙が言ってたと、パチュリー様仰ってたなぁ……

 

「君、キノコで召喚されたの?」

「いや、俺もヘンだなとは思ったんだけど」

「まさかと思うけどそのキノコ女、白黒衣装だった?」

「うん。あれ、なんでわかるの。姉さん知り合い?」

「いや、知り合いというか……そっか、アレならやりかねないわね……」

 

 

「別に無い」

「え」

「お前、魂とか取るんだろ。断る」

「ふははは、我の力を理解してないようだな。いかなる望みも……」

「いらない」

「え」

「そりゃあ欲しいものはあるし欲しい力もある、望みは沢山ある」

「ならぱ」

「だけど、欲しいものは自分で手に入れなきゃ意味がないぜ」

「待て、では何故我を喚んだ」

「キノコ召喚チャレンジ」

「は?」

「キノコ召喚チャレンジ。流石私だ、ばっちり成功したぜ。アリスに自慢しなきゃな」

「え、あの……」

「あ、もう帰っていいぜ。こっちの用事は済んだから」

「貴様の望みを」

「だから、ないって」

 

 金髪少女は首を傾げた。

 

「あ、もしかして、望み叶えないと帰れないとか?」

「……」

「なんか、ごめん」

「あ、ああ、いや」

「喚びだした私以外の望みじゃ駄目なのか?」

「まぁ、別にそれでも」

「じゃあ、そうしてくれ。そういうのが好きな奴はいると思うぜ。じゃ、がんばれよ」

「えー」

「しょうがないなぁ、適当なの見繕ってやるよ」

 

 

「あー、アレはそういうこと言う。しかも選りに選ってアリスに自慢とは、パチュリー様泣くぞ……ムカつく」

「やっぱり知り合いかよ……」

「まあね。でも、帰ってきてるって事は誰かの願い叶えたのよね」

「それがさ……」

 

 

 金髪が紹介した、竹林そばの小屋に住んでいた女を訪れる。

 

「へぇ、魂と引換に望みねぇ」

「そうだ。死後の魂と引換に貴様の望みを叶えよう」

「いいよ」

「ならば望みを言うが良い……ん?」

「望みは、そうだなぁ……」

「んんん? ……いや、待て」

「なによ」

「貴様の魂が見えないんだが」

「あ、やっぱりそうなるのね」

「やっぱり」

「私の魂ってどうなってるのかな」

「どうって……な、なに、貴様……不死人か!」

「あはは、昔ちょっとした薬飲んじゃってね。でも、死んだら魂あげるからさぁ」

「死なないだろ、貴様!」

「望み叶えてよ」

「取れない魂で契約できるか!」

「ちっ」

「こいつ、舌打ちしやがった!!」

 

 

「……髪は白かった、黒かった?」

「白かったけど……え、なに、また姉さん知り合い?」

「もんぺの子ね」

「知り合いかよ……」

 あれ、本気の不死人だから、魂なんて取りようないわよ。

「あ、あとさ」

「なに」

「竹林に行く途中、なんかデッカい魂と一緒に歩いている人間がいてちょっと怖かった」

「……刀二本持ってる子?」

「また知り合いかよっ!」

 

 

 人里へ行くとなんか人の良さそうな女がいたので声をかけた。

 

「え、望みを叶えてくれる、ですか?」

「ただし、貴様の魂と引換だがな」

「えーと……」

 

 女の後ろになんか出て来たよ。二人。いや、二人? 違う、いや、これ、え、待って、二柱?

 

「あ、神奈子様、諏訪子様」

「変な気配がしたと思ったら、おまえ、ウチの早苗に何する気だい」

「なんだ異国の悪魔か。おいおい、木っ端悪魔ごときが早苗に手を出すかね、いい度胸だねぇ」

「よし、滅そう。最近、闘神としちゃあ怠け気味だったからちょうどいいさ」

「いいねいいね。久しぶりに祟り神の本能が疼くよ」

「す、す、す、すんませんしたーーーっ!!」

 

 

「良かったね、瞬殺されなくて」

「マジで怖かった……あの、念のため聞くけど姉さん、まさか」

「宴会でご一緒したことあるわね」

「姉さん、どこで使い魔やってんのぉおおぉっ!!??」

 

 

 やっぱり金髪も白髪も緑髪も駄目だ、女は赤髪か黒髪がいい。

 金髪なんてぺったんだったし、白髪は控えめで緑髪は割とおっぱい大きかったけど。

 ほら、いた。

 いかにも本の虫という雰囲気の深窓の令嬢っぽい。住んでいる家も名家って感じだ。おっぱいはないけれどそこは我慢。

 

 

「あー」

「え、まだ話はこれから」

「あのね、なんとなくわかった」

「なにが」

「魂に先約あったでしょ」

「なんでわかるの」

 

 

「異国の悪魔だかなんだか知らないけど、ウチのシマで予約済みの魂持っていこうなんて面白いことしてくれるじゃないの」

「え、予約、済み?」

「阿求さんは転生予約済みなんでね、それに触ろうとするって事はウチらと事構えるって事でいいのかな」

「あの、ウチらと申しますと」

「これ見てわかんない? わりと万国共通だろ、これ」

「あ、鎌」

 

 

「死神よね」

「やっぱり知り合いかよ……」

「おっぱい大きかった?」

「とても」

「うん、やっぱり知り合いだ」

 

 

 死ぬかと思った。ひたすら逃げた。

 気が付くと、変なところにいた。なんだこれ。空間の歪み? 空間転移? なにこれ、なんかスキマ開いて目玉が見えてるんですけど。

 なんかいる。

 え、金髪の女性が二人。

 誰。誰なの。

 

「貴方が、最近この辺りをうろついている悪魔さん?」

「あの、もしよろしければなんですけれど、望みと引換に、とか……」

「いらない」

「あ、そうですか、そうですよね、そりゃそうですよね、はい、それじゃ、失礼します」

「お家に帰してあげるわよ」

「ありがとうございますぅうううっ!!!!」

「紫様に何をするかっ!!!!」

 

 

「嬉しすぎて、抱きつこうとしたら九尾に思いっきり殴られた」

「喜びすぎ」

「二人ともおっぱい大きかったし」

「それはそう。紫さんも藍さんもスタイルいいものね」

「名前まで知ってるのかよ……」

「君、運が良かったのよ」

「どこが」

 

 嘘じゃない。

 たまたま今回の弟くんは外れ、ある意味当たりばかり掴んだけれども、幻想郷には普通の人間もいる。弟くんにうっかり魂を売ってしまうような人間もいただろう。

 もしそんなことになっていれば、八雲の本気の怒りを買っていたかも知れない。

 一歩間違えれば私も血族故の共同責任、それどころか使用者責任でパチュリー様にも迷惑をかけていたかも知れない。

 

「行き先はきちんと調べてからにしなさいな」

「ううっ、だけど、新しいところ世界開拓するにも魔力が尽きてきて……」

 

 しょうがないわよねぇ。可愛い弟くんだもの。

 長期契約で家にいないことの多い両親だったから、弟くんを育てていたのはほとんど私だ。はっきりいって溺愛している。パチュリー様の次に好きだ。

 筆下ろしまで面倒見てあげた弟くんだもの。ここは一つ、姉としてなんとかしてあげようじゃないの。

 

「君が行ったところは幻想郷。並みの悪魔じゃ太刀打ちできないわ」

 

 弟くんの残存魔力では新たに別の場所を開拓するのは難しい。

 だけど、幻想郷と同じ世界なら?

 そう。幻想郷の外の世界なら、新たな魔力はほとんど消費しない。

 

「幻想郷からちょっとずれた座標で行きなさい」

 

 そこなら、今や神すらいなくなる世界。悪魔にとってはやりたい放題だ。

 さすがに幻想郷に影響が出るほどだと困るけど、弟くんの力ではせいぜい国が一つ滅びる程度で済むだろう。

 私達は人間の堕落や不幸が好きなだけで、全滅させたいわけじゃないのだから。

 がんばってね、弟くん。 

 

 




 この後、弟くんはがんばりました。
 色んな事件が起こりました。
 挙げ句の果て、日本の首都が京都になっちゃいました。
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