東方短譚   作:黄身白身

16 / 29
早朝マスタースパーク

 にとりが面白いモノを手に入れたと聞いた魔理沙は、玄武の沢の外れにある河城秘密工房を訪れていました。

 

「やぁ、盟友。早速来たね」

 

 招かれた部屋の中には、大きな箱と小さな箱が一つずつ。

 大きな箱は前面にガラスが貼られていて、小さな箱となにやら紐のようなもので繋がっています。

 

「早苗のところで見たことがあるぜ。テレビとビデオデッキってやつだろ」

 

 すでに知っているものなので魔理沙の表情はつまらなそうです。

 

「やっぱり知ってたか。同じ物を見つけてね。修理したんだ」

「これ、中身のびでおてーぷ?とやらがいるんじゃないのか」

「それも見つけた」

 

 ほほぅ、と魔理沙の表情が興味津々となりました。

 にとりが背後の箱の中から取りだしたのは紛れもないビデオテープ。

 

「これをいくつか持っていた外来人を椛が見つけてね。向こうじゃ何の役にも立たないってんで、こっちで引き取ったんだ」

「へー」

 

 外来人がその後どうなったかは魔理沙も聞きませんし、にとりも言いません。

 白狼天狗達が久しぶりの御馳走に舌鼓を打ったという話もありますが関係ありません。多分、おそらく。

 テープには何か書かれています。

 古いものなのか所々の文字がかすれていますが、歴とした日本語です。

 

「天才……元気……テレビ……バズーカ?」

 

 天才とは気になる言葉です。

 あと、バズーカもかなり気になります。

 

「なんだろうね、この、傑作選て」

「中はもう見たのか?」

「まだだよ。せっかくだから試運転もかねて、一緒に見ようかと」

「待て待て、そういえば早苗に聞いたことがある。こういうものを見るときは芋の薄揚げとサイダーが必要だって。里までひとっ飛びして買ってくるぜ」

「ふふふふふ、落ち着きなよ盟友、河童に抜かりは無いさ」

「なんだって」

「私も早苗にその話は聞いたことがある、つまり、甘味付き平野水と芋の薄揚げは既に準備済みさ」

「でかしたにとり!」

「胡瓜もあるよ」

「それはいい」

「え」

 

 にとりが用意していたのはサツマイモの天ぷらでしたが、それは些細なことです。

 そして二人はビデオから再生される映像を観覧し始めました。

 

 

 

 無責任そうなおじさんが、寝ている人の枕元でバズーカを発射しました。

「天才たけしの元気が出るテレビ・早朝バズーカ傑作選ビデオ」が始まったのです。

 そう、それは、

「コーナー担当者が標的となった芸能人が寝ている部屋へと早朝に侵入、枕元で大音響のバズーカ(勿論本物の兵器のバズーカではない)を発射してたたき起こす」というとんでもない寝起きドッキリ企画なのです。たたき起こされた芸能人達のリアクションを楽しむのです。外の世界は怖いですね。

 その名場面集が編集されたビデオを、何故か外来人は持っていたのです。

 魔理沙とにとりは最初きょとんとした顔で画面を見ていましたが、バズーカでたたき起こされた人々の愉快な反応を見ている内にゲラゲラと笑い始めました。

 早朝バズーカは幻想郷の、少なくともこの二人の感性にピッタリフィットしたのです!

 盛大に笑った二人は、一つの野望を同時に抱きました。

 

「自分たちもやりたい」

 

 

「同じようなバズーカ作ろうか。音でビックリさせるだけならそんなに手間でもないよ」

「いや、外と同じじゃ芸がない」

「何か考えが?」

「早朝マスタースパーク」

「ひゅいっ!?」

「早朝マスタースパークで行く。勿論、出力は調整する」

「……誰に仕掛けるの?」

「……霊夢、と言いたいが」

「殺されるね」

 

 にとりは本気で震えていました。

 

「外のドッキリに理解のある奴から行こう」

「と、すると、あの人か」

「そう、東風谷早苗で行く!」

 

 翌朝は早いので、魔理沙はにとりの家に泊まることとなりました。

 

「ところで盟友、寝言やいびきはないだろうね?」

「私は寝付きはいいぞ。夜中に目が覚めた事なんて一回も無いぜ。眠ったら朝日が出るまでぐっすりだ。なんなら、朝日が出た後までぐっすりだぜ」

「それは駄目じゃないか」

「そういうにとりはどうなんだ、夢遊病とかないよな」

「ないない、私も一度寝たら朝までぐっすりだ」

 

 言葉の通り二人とも、夕食(サツマイモの天ぷら)を食べるとぐっすりと眠ってしまいました。

 翌朝、と言ってもまだ辺りは真っ暗です。

 

「いくぞ、にとり」

「オッケー」

 

 二人は静かに守矢神社へと向かいます。

 一度でも来たことがある建物ならば、魔理沙は大体の内部構造を覚えてしまいます。流石プロの泥棒(幻想郷方言で「借りたものを死ぬまで返さない人」の意)です。

 

「あっちが早苗の部屋だ」

 

 二人は足音を殺して進みます。

 ここにいるのは早苗だけではありません。八坂神奈子さまも洩矢諏訪子さまもいらっしゃいます。気付かれるわけにはいきません。

 

「よし」

 

 早苗の部屋の前に着くと、魔理沙がゆっくりと襖を開けました。

 

「!!」

 

 瞬間、にとりが悲鳴を飲み込みました。

 魔理沙も必死で叫びをこらえています。

 早苗が寝ていました。

 それは当然です。早苗の部屋です。

 ですが、そこに加えて人影が二つ。

 いえ、神影です。

 神奈子さまと諏訪子さまがいらっしゃいました。

 二柱は、早苗さんを挟むように枕元に座っています。

 そして、頭を垂らして早苗さんの寝顔を眺めているのです。

 幸せそうに、ニコニコと微笑みながら。

 その微笑みはとても温かいものでした。

 ニコニコと、無言で眺めています。

 早苗さんの寝顔を。

 一歩ズレれば微笑ましい光景かも知れませんが、とても大きい一歩です。大きすぎる一歩です。ちょっと二人の感性では埋められない一歩です。

 はっきり言うと、怖い。

 魔理沙とにとりは怖すぎてちびりそうでした。

 ゆっくりと、魔理沙は下がります。

 ゆっくりと、にとりも下がります。

 ゆっくりと、物音一つたてないように細心の注意を払って魔理沙は襖を閉めます。

 気付かれたらヤバい。何がヤバいのかわからないけれどとにかくヤバい。

 生物としての本能が全力で警告を告げていました。

 ゆっくりと部屋を離れ、ゆっくりと境内を離れ、ゆっくりと神社を離れ、更に離れたところから全速力で二人は飛びました。

 全力全開です。

 二人は特に打ち合わせたわけでもないのに同じ場所に向かって飛んでいました。

 本能的に、幻想郷で一番安全だと思われる場所に向かって飛んだのです。

 そうです、博麗神社です。

 神社に着いた二人はそこで気付きました。

 霊夢はまだ寝ているのでは、と。

 早苗が寝ていたのですから霊夢が起きているはずがありません。

 二人はやはりこちらでもゆっくりと霊夢の寝所へと向かいました。

 魔理沙は念のため、早朝マスタースパークの準備をしています。

 襖を開けたところで、魔理沙は固まりました。

 にとりはもう泣きそうです。

 霊夢が寝ていました。当然です。

 霊夢が寝ている布団の両端に、紫と萃香がいました。

 枕元に正座して微笑んで、頭を垂れて霊夢の寝顔を眺めています。とても幸せそうです。

 魔理沙は人生最大の注意力を払って静かに襖を閉めました。

 そして二人は寝所から離れます。

 境内から離れます。

 博麗神社から離れます。

 そしてやっぱり全速力で飛びました。

 二人とも泣いています。泣きながら、今度はそれぞれの家に向かって飛びました。

 もう早朝バズーカはやめよう。

 早朝バズーカなんて忘れよう。

 早朝バズーカなんて嫌いだ。

 そう心の中で叫びながら二人は飛びました。

 

 魔理沙は自宅に辿り着きました。

 精神的に疲労困憊です。

 ベッドに辿り着いたところで気絶したように眠りにつきました。

 その日魔理沙は、ご飯も食べずに眠り続けたのでした。

 

 魔理沙は早く寝すぎたのです。

 そんなに早く寝たら、夜中に目が覚めても仕方ありません。

 夜中に目が覚めてしまいました。

 そして、それをとても後悔しました。

 ベッドサイドには、幸せそうに微笑むパチュリーとアリスが座っていました。

 魔女二人はとても幸せそうでした。

 

 





にとり(枕元で厄神様が幸せそうに微笑みながらクルクル回ってるぅぅうう!!!!)





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。