今日も今日とて宴会です。
美味しいお酒と美味しいお料理。歌い出す者踊り出す者、果ては弾幕ごっこを始める者。
博麗神社境内は今夜も盛り上がっています。
「飲んでるかー!」
「飲んでるぜー!」
「なんですか、これ。美味しいですね」
「あ、それは毒入りですので、お嬢様以外食べない方が。因みに二つで昏倒、三つで致死量です」
「げほっ」
「確かにこれぐらいじゃ死なないけど、流石に宴会に持ってくるのはどうなの」
「味は非常に良いと、藤原様に聞きました」
「すごいなこのメイド」
「それじゃあ、一つは食べられるわね。いただきまーす」
「妖夢、あれ止めなくていいのか」
「食べられぬ物など、あんまり無いんですよ」
「いいのかそれで」
さて。
そろそろお開きの時間が近づいていました。
霊夢は、あらかじめ準備していた巨大たらいの中身を確かめます。
たっぷりの水があります。
そして霊夢は、にとりを手招きました。
「にとり、そろそろ準備して」
「え、本当にやるの?」
「やるの」
「本当に?」
「なによ、文句が来たら私が引き受けるって。あと、成功報酬もちゃんと払うわよ」
「まぁ、そういうことなら」
にとりがたらいの横に陣取ると、霊夢は両手をメガホンのようにして叫びます。
「そろそろお開きよー!」
各所から非難の声が上がりました。
一番大きな声は萃香です。
とはいえ何人かの良識派(少数派)は、そそくさと身の回りのものを片付け始めます。
ブーイングする者もいます。
「よしわかった。あんた達の覚悟はよくわかったわ」
霊夢は右手をあげました。
「にとり、百数えたらやっちゃって」
覚悟という言葉と開始されたカウントダウンに何を感じたか、良識派が一気に多数派となりました。
例えば鬼や天狗達にとってにとりのカウントダウンなどまったく怖くないのですが、それを命じたのが霊夢であることがポイントです。怖いです。めっさ怖いです。
それでも飲み続けている猛者もいます。
猛者たちの考えは一致していました。
カウントダウンが百から始まるなら、二まではセーフ!
いや、一の「い」まではギリギリ大丈夫。「ち」を発音するまでは大丈夫! なんなら「CHI」の「H」までは大丈夫、ギリギリセーフ! いわばグレイズ! むしろボーナス!
「にとり、もういいからやっちゃって」
十二のところで霊夢のゴーサインが出ました。
「フライングぅっ!?」
水を操る程度の能力の面目躍如でした。巨大たらいに満々と湛えられた水が放出されます。
よく見るとたらいの中には「かわしろいんだすとりぃ」と書かれた機械が鎮座しています。機械と能力の合わせ技です。
大量の水が酔っぱらいたちを襲います。
「はははっ、水ごときなんだっての」
萃香は座ったまま水を受け、微動だにしません。やはり、にとりの力では鬼を流すことなどできないのです。ですが、それは主目的ではありません。因みに逃げ損ねた魔理沙と諏訪子様とルーミアは流されています。
目的は、酔っ払いを大水で流し尽くすことではないのです。そんなことは流石に無理だと霊夢もわかっています。
目的は別にあるのです。
「あ」
お料理やお酒が流されます。そうです、いくら酔っ払いといえども肝心の飲食物がなければ無力なのです。
強いて言えば萃香がしっかと握っている伊吹瓢の中にお酒が残っているのですが、どちらにしろ萃香はいつも飲んでいるので、状況はあまり変わりません。
お料理やお酒を流した水がたらいに戻ってきます。
「終わったよ、霊夢」
「御苦労様」
境内の宴会セットが綺麗さっぱり片付いていました。
なんと、この大量の水は境内を強制的にお掃除するためのものだったのです。
「なるほど、考えたわね」
一本取られたわね、と言うようにレミリアが笑っています。その横では(これ、お屋敷でも使えないかしら?)と顎に手を当てて咲夜が考えています。
「さっ、お開きお開き」
どうしても続けたいなら他所で二次会やりなさい、と霊夢が凄みます。
ひでぇぜ……と呟くびしょ濡れになった魔理沙に、タオルを手にしたアリスの人形がわらわらと集まります。
ウチまで飲み来るか? と周りを見回す神奈子様。
ちょっと食べ足りないわね? 帰ったら何か食べましょうかと笑う幽々子。
それぞれ、三々五々に散っていきます。
にとりと霊夢が、その姿を見送っていました。
その二人に対応するように、最後まで残る二人がいます。
アリスとパチュリーでした。
二人はなにやら深刻な顔をしています。
「どうしたの、魔女が二人揃って」
「毎回毎回、後始末も大変だと思ってね」
「ふふっ、楽しい宴の終わりに野暮なこと言わないの」
「……そうね、野暮だったわね、ごめんなさい」
そうして二人も去って行くと、
「さあ、にとり、最後の仕上げお願い」
最後の仕上げは、皆が帰ってから行われるのです。
それは、秘密の儀式なのです。
にとりにも他言無用が義務づけられています。他言したら退治されます。
他言しなければ今期神社に奉納される胡瓜の半分がにとりの懐に入るのです。奉納畑は秋姉妹の覚えもめでたく、とても美味しい作物が取れるのです。胡瓜だって例外ではありません。デリシャスキューカンバーです。
にとりが妖力を込めると再び機械が動き始めました。たらいの水がふわりと浮いて、井戸へと流れていきます。
井戸へゴミを放っているわけではありません。井戸に向かうのは水だけです。汚れの類は全てたらいの中に残っているのです。
因みに、大きなゴミはあらかじめ機械で濾過されているので、たらいの中身は細かいゴミだけです。
「じゃあ、私は帰るね」
にとりはたらいの中の機械を取り出すと、万能リュックに入れて背負います。
「ええ、また次の宴会はよろしくね」
「うん、わかったよ。胡瓜よろしくね」
にとりを見送った霊夢は、たらいを覗き込みます。
たらいの中に残っているのは、お風呂の残り湯に混ざっているようなものだらけです。
霊夢はお札を取り出すと、念を込めて叩きつけました。
ジュッと焼けたような音がして、妖気を帯びていたゴミが消えていきます。
妖気を帯びていないモノが残ります。
因みに今日の宴会に来ていた人間は早苗、魔理沙、咲夜の三人です。
そして、流されたのは魔理沙だけです。
つまり、今、たらいの中に残っているのは、魔理沙のモノです。
ぶっちゃけ、髪の毛です。金髪です。魔理沙の毛です。
流されたときに数本抜けた髪の毛が回収されていたのです。
「うふっ」
霊夢は懐紙を取り出すと、丁寧に髪の毛を回収します。
そして畳んだ懐紙の表に書き込みます。
※月△日 宴会にて
「うふっ」
霊夢のコレクションが増えました。
「うふふふふふふっ、まーりさっ、うふっうふふふっ」
クスクス笑いながら部屋に入ると、壁の裏に隠してあった金庫を開きます。
その中にはいくつもの、綺麗に畳まれた懐紙が。
〇月×日 玄武の沢にて
☆月■日 温泉にて
◎月@日 永遠亭入院室にて
……………
懐紙は、とても沢山ありました。
後日……
「にとり」
「アリス、なんか用?」
「宴会を主催したいのよ。そこでお願いがあるんだけど」
「あー」(全てを理解して諦めた顔)
「レミィ、ウチでも宴会を主催する必要性があると思うのよ、貴女の偉大さを万人に知らしめるためにも」
「ほぉ、パチェからそんな提案が出るとはね。いいじゃないか。時には民草を楽しませるのが支配者の器量というものだ」
「まずは準備のために河童を招きましょう」
「なんで?」