東方短譚   作:黄身白身

32 / 32
にゃんにゃんは優しい




母と子

 

 あら、もしかして私をお捜しで?

 はい、はじめまして。その通りですわ。

 よくこの場所がおわかりになりましたわね。

 ああ、確かに。

 今の幻想郷でどこにも属していない墓地と言えば、この辺りにしかありませんわね。ええ、ええ、ですから私もよく顔を出すのです。なるほど、それを見越したと。

 貴方様は……ああ、お噂はかねがね。

 うふふ、何を驚いていらっしゃるのですか。貴方様が私について調べるように、私にも里の奇人を調べることができるのです。失礼、奇人は言い過ぎでしたか。

 ですが、変わり者であるとは言われておりますわね。あら、素直にお認めになられる。 ええ、ええ。知っておりますとも。

 里一番の才人であると、上白沢さまの寺子屋では「出藍の誉れ」とまで言われていたと。 まあ、そのようなご謙遜を……

 はぁ、そうですわね。確かに貴方様の才は人の才。霧雨のご息女や御阿礼の子、貸し本屋の小娘、そして巫女たちとはまた違う才。

 それは〝程度の能力〟と呼ばれることもなく、純然たる人間の能力としての才。

 ですが、決して捨て鉢になるようなものではありませんわ。才とは純然故、才と呼ばれるのですから。貴方様の才には霧雨も御阿礼も小娘も、博麗も守矢も及ばないでしょう。

 はい。はい、それはもう。

 わかっております。その優れた才は幻想郷の人里では使えぬ才だと。いえ、使えぬのではなく、早すぎる才と言うべきでしょうか。

 その才を認められる者も、有効に扱える者も、里のために働かせることができる者もおりませぬ、この幻想郷には。

 才だけでは口に糊することすら難しい。それが幻想郷というもの。

 それでも貴方様は自らの才を信じて、才を磨き伸ばし続けることを自らに課した。

 お母様も貴方様の才を信じて、お父様亡き後も支え続けた。麗しき家族愛だと思いますわ。

 そのお母様が亡くなったのですね。貴方様の背負う桶の中から、気配を感じます。

 ああ、わかります。だからこそ私を探したのだと。

 お母様の死を認めたくない、いえ、覆したい。それが貴方様の想い、いえ、お母様への愛。

 はい。誤魔化すことなく言いましょう。

 可能ですわ。

 お母様を蘇らせること。

 

 本当によろしいのですか?

 念のためにうかがいたいのですが、お母様をお母様として蘇らせたいのですよね。

 どうされました? 今、何かを言い淀みに……

 まさかお母様を一人働かせ、自分は才を磨くと称して閉じこもっていたいと。

 あら、どうされました? 今までそのようにして過ごされてきたのでは?

 うふふ、先ほども申しましたが、私も里を調べることくらいできますわ。

 ああ、勘違いなさらぬように。

 別にそれは良いのです。貴方様とお母様の関係に口を出す気など毛頭ありませんわ。

 ですが、ただ……

 いえ、これは私の想像なのですが。

 お母様の死後の安寧を捨ててまで貴方様の面倒を見させると。有り体に言えば、死んだ後までこき使うと。

 いえいえ、良いのです。そうだと仰るのならそれはそれで別に良いのです。

 ただ……蘇ったお母様が何と仰るか、そこまでは私にはわかりかねます。

 これまで通り貴方様の面倒をみるのか、あるいは、永劫の労苦を憎み恨むのか。

 うふふ、ごめんなさい。

 お母様と貴方様の関係を考えれば答は見えてますわね。お母様は死ぬまで貴方様の栄達を信じていたのでしょう。貴方様は才を磨き続けているのでしょう。ならば、答はわかっています。

 貴方様は、生前のお母様を裏切ることなどなかったのでしょう?

 疲れ切ったお母様に詰られ、カッとなって手を上げたことなど一度もなかったのでしょう? ましてやそれが死因だなんて。

 あら、どうしました?

 寒いのですか? 顔色もお悪いような。

 まあ、そうですか。きちんと弔うと。

 はい、ではこの話はなかったことに……、ええ、ええ、聞かなかったことにしておきますわ。

 それでは、ごきげんよう。

 

 

 






「うふふ、そんなことはしませんわ。善とやらを騙……いえ、語る方々に目を付けられるのは面倒くさいものですから」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。