東方短譚   作:黄身白身

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……私は、あのコソ泥が嫌いだ


悪魔の嫉妬

 いつものようにけたたましい騒音と共に、図書館へと姿を見せる半端魔法使い。

 名前なんて呼びたくない。

 人間、で充分だ。でなければコソ泥だ。

 私はあの人間が嫌いだ。

 顔なんて見たくもない。それでも、パチュリー様の使い魔として恥ずかしくない態度でいなければならない。

 

「盗んでるんじゃない、死ぬまで借りるだけだぜ」

 

 ふざけるな。人間が短命だからって調子に乗るな。百年だろうが百秒だろうが、無断で持っていけばそれは窃盗だ。

 

「あ、そうだ。これ、よくわからないんだが教えてくれ」

「なによ」

「この本のここ、この理論だと、こっちの理論と食い違ってくるぜ」

 

 うってかわったその態度。何故かパチュリー様は人間の疑問に答えている。

 何故ですか、と直接聞いたことがある。どうしてあんなコソ泥の疑問に親切丁寧に答えてやる必要があるのか。

 気付いてないの? と呆れ顔のパチュリー様。

 一見いつもの無表情だけど、これは呆れ顔。

 これが呆れ顔だとわかるのは、私とレミリア様くらいだろう。もしかすると、美鈴さんも。

 そしてため息と共に、

 

「質問をしっかり聞いて考えてみなさい。視点が一種独特なのよ、あの子。少なくとも、こんなふうに魔術体系を捉えて疑問を持つ魔法使いを他に知らないわよ、私は」

 

 言いながら嬉しそうなパチュリー様。

 何も知らないど素人が適当に言ってもたまには的をぶち抜くでしょうよ。と言いたいのを私は飲み込んだ。

 それはみっともない嫉妬だから。

 嫉妬は悪感情。それはいい。私は悪魔だ。悪感情はお手の物。

 だけど、あれに嫉妬していると思われたくない。みっともない嫉妬をしていると思われたくない。貴女にだけは思われたくない。

 貴女の使い魔は、貴女の寵愛を受けている人間ごときに嫉妬しています。

 そんなうすらみっともないこと、言えるわけがない。気付かれたくない。

 パチュリー様には、知られたくない。

 

 

 

「だったら、私の前で言えばいいさ」

 

 レミリア様は楽しそうに笑っている。

 ワインを片手に優しく笑っている。

 私とレミリア様しかいない部屋。テーブルの上にはカナッペと枝豆。そしてワイン。

 俯き加減に館を歩いていた私。そんな私を見かけたレミリア様に半ば強引に引きずり込まれた、二人だけの無礼講。

 

「なんで、あんな、コソ泥を」

 

 そして私のみっともない愚痴。

 

「そこは、まあ、私も思わないでもないが」

 

 しかし、とレミリア様は肩をすくめた。

 

「私でもわかる。確かにあれの才能は本物だよ」

「才能なんてどうでもいいです」

 

 レミリア様が大声で笑った。

 

「いいじゃないか、嫉妬。大いに嫉妬すればいい。霧雨魔理沙なんぞなにするものぞ、だ」

「どさくさに紛れて、それは貴女の本音じゃないですか」

「当然だろう、私だってパチェに惚れているもの」

 

 ニヤリと独特の挑戦的な笑み。笑みとは本来攻撃的なもの、レミリア様が正真正銘の由緒正しき大悪魔だと、とてもよくわかる笑い方。

 私がただの人間ならこの瞬間に生存を諦めるだろう、そんな笑い方。

 

「そうですね。あの人間がいなくなっても貴女がいるんですね」

「私に嫉妬してもいいんだぞ、特に許す」

「あの人間を殺してやろうとか思いません?」

「百年くらい待っていれば済む話だ。勝手に死んでくれるだろうよ。わざわざ手を下してパチェに嫌われる必要はあるまい」

「あれが人間やめて本物の魔女になったらどうするんですか」

「いいね、その時こそ同じスタートラインだ。正々堂々勝負するさ。そうだ、お前も参加しろ」

 

 その頃には巫女はいないから始末の邪魔は入らない。とは絶対に言わない。

 レミリア様はいつもまっすぐだ。

 少なくとも、私達に対してはまっすぐでいてくれる。それがとても嬉しい。

 外の世界で吸血鬼として生まれた。スカーレットとして生きてきた。妹様を連れて生き延びた。生き延びて幻想郷へやってきた。生きていくために八雲紫を始めとする重鎮たちと渡り合った。

 少し考えれば、まっすぐを貫いてこられなかったことぐらい簡単に想像出来る。世界はそんなに優しくない。

 それでも、私達の前ではまっすぐでいてくれる。

 だから私達は、レミリア様の前ではまっすぐに生きている。

 まっすぐに生きていけるから、私達はここに、紅魔館にいる。

 まっすぐとは、正しいという意味ではない。無論、善という意味でもない。

 悪魔には悪魔の、妖怪には妖怪のまっすぐがある。人間とは異なるだろうけれど。

 私達は、まっすぐだ。

 

「とはいえ、私に一日の長があることは認めてもらいたいな」

 

 ほら来た。パチュリー様のこととなると絶対これを言い出すのだ、我らが館主は。

 

「なにしろ、私とパチェは同じ棺桶の中で一夜を過ごした仲だからね」

「はいはい」

 

 知ってます。パチュリー様に聞きました。

 私が召喚される前の話ですよね。凄腕の吸血鬼ハンターチームから身を隠すために一つ棺桶の中に閉じこもって震えて隠れていたんでしたっけ。

 あと、フラン様も一緒にいたんですよね。三人揃って一つ棺桶ですよね。

 

「おっと、一夜じゃないな。五日間だ」

 

 五日間閉じこもってたんですよね。その五日間、チームを狩り続けて壊滅に追い込んだ美鈴さんが凄いですよ。

 チームの唯一の生き残りと激闘の末に友情結んだってどういうことですか、それ。

 で、その二人の友情というか行きすぎた友情を見ていたパチュリー様が、羨ましくなって私を召喚したんですよね。

 パチュリー様は私を使い魔として可愛がってくれました。

 あのコソ泥さえ現れなければ……

 私は元々、パチュリー様のために、パチュリー様のためだけに召喚されたというのに、私はそのためだけに召喚されていたはずなのに……

 ……あれ? パチュリー様の選択肢にレミリア様は無かった? つまり、その時から、パチュリー様はレミリア様に対して友情以外は感じていな……

 あれ、これって、レミリア様が私に嫉妬する流れでは。

 

「気付いたか」

 

 レミリア様はやっぱり笑っている。

 さっきの笑いとはちょっと違う。明確に私に向けて笑っている。

 待ってください、私は悪くないと思います。待ってください。

 

「……百年経って、邪魔者がいなくなったら、真っ向勝負しようか」

 

 




フラン「お姉様に色目使ったら殺す」
パチュリー「滅相もございません」
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