東方短譚   作:黄身白身

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(創想話投稿分から少し修正しています)
 
 
 
 


古明地シアターへようこそ

 

 ようこそいらっしゃいました。

 古明地シアターへようこそ。

 ああ、誰かと思えばおねいさんか。あはは、ようこそようこそ。

 うん、さとり様の能力は知ってるよね。その能力を応用して、トラウマじゃなくて、記憶そのものを見せるのさ。それも、ただの記憶じゃない。物語になっている記憶だよ。

 ほら、お話を聞いたり劇を見たりする、あれのもっともっと凄いやつだと思えばいいのさ。

 あたいとお空も当然見たよ。すごいのなんの。さすがはさとり様だね。

 おねいさんも、物は試しってんでそれを見に来たんだろう?

 わかるよ。この前は魔理沙が来てたもの。

 はい、一名様ご案内。

 ん? ああ、最初の一回は無料サービスだって。とりあえず、やってみなきゃわかんないし、絶対もう一度来させる自信があるからさ。

 

 

 

 …………

 何も考えるな。

 無理だ。もう考えている。そうだ、こうやってとりとめもないことを考え続ければ、逃げる方法を考え……考えた。聞かれる。違う、これは違う。俺は逃げない。逃げない、逃げない。飯を持ってくる女に隙は……違う、考えてない。女、胸元が……そうだ、ゲスなことを考えた方がまだマシ逃げる方法なんかよりも違う今俺はゲスなことを女の胸が腰が尻がそうだ考えろ逃げ違う逃げない……

 

「何を無駄なことを。いえ、別に逃げようと考えるくらいでどうこうするつもりはありません。実行しなければいいのですよ。あら、ゲスなこととやらを私で考えるのですか。お燐はもういいんですか? いえ、そんなのは嫌がらせにもなりません。だって実行できないでしょう? ああ、参考までに言うと貴方の考えた内容の何十倍ものゲスな目に遭わされてきましたよ、私達は。さとりとはそういうものでした。誰が何をしても止める人なんていません。そういう存在でしたから。その意味だと、今は多少マシなんですかね」

 

 本当はわかっている。逃げる方法なんてない。地底から抜け出したとしても、地上も似たような世界。いや、食われないだけここのほうがましだ。

 

「それがわかっているならお願いします。そうですね、この前のなんでしたっけ……そうです、ああ、それです、それ。似たような名前が多くて」

 

 俺の思い出した……覚えている話を女は気に入っている。……俺はその話を思い出す。できる限り精密に、詳細に、はっきりと

 

「オリジナルはもう結構ですよ。そうですね、主人公をもっと格好良くして活躍させてください。ええ、待ちますよ。三日くらいでお願いします。無茶ですか? 違うんですか? できますよね? やってくれます? そうですね、面白い結末であればハッピーエンドでもバッドエンドでも気にしませんよ」

 

 

 

 さとり様がまた外の人間を拾ってきた。

 さとり様が拾う人間には条件がある。

 面白い物語を知っていること。きちんと覚えていること。

 きちんと覚えている人が物語を思い出せば、さとり様はその物語を観劇することができるらしい。人間のレベルによっては、まるで自分がその世界にいるように思えるらしい。 とはいえ、人間の記憶力には限度がある。

 しばらくすると徐々に物語を忘れ出すのだ。

 そこであたいたちは知恵を絞った。人間が元気でいられれば、物語を忘れにくいんじゃないかと思ったんだ。 

 美味しいご飯を出したり、身体をキレイにしたり、お酒を飲ませたり。

 そりゃあ、自由に放すことだけはできなかったけれど。だって、さとり様のものだし。

 第一、自由にしたら死んじゃうよ。地霊殿から博麗神社まで、ただの人間が辿り着けるわけがないんだ。

 物語を忘れた人間は、いつの間にかいなくなってる。

 そして、少しすると新しい人間がやってくる。新しい人間は新しい物語を知っている。 さとり様が喜ぶので、あたい達も嬉しい。

 そんな人間にも色々いる。

 あたいに盛ろうとしてくる人間もいた。

 お空が燃やした。

 さとり様は最初怒ったけれど、理由を知ると謝ってくれた。人間に対する管理が甘かったと。これからは二度とこんなことができないように待遇を考えると。

 けれど、それで人間が物語を忘れないようになるのなら、あたいとしては特に拒んだりはしないと思う。だってそれはさとり様のためになるのだから。

 そう考えたところで、さとり様は今度こそ本当に怒った。

 

「貴方たちは、そんなことをするためにここにいるんじゃないのよ」

 

 今度は、あたいが泣いて謝った。怖くて泣いたんじゃない。嬉しくて泣いたんだ。

 そうしてあたいたちはしばらくの間、一緒に泣いていた。

しばらくすると、さとり様は新しいことを始めた。

 なんでも、パロディとか二次創作とか言うらしい。

 同じ物語を何度も楽しむのではなく、さとり様のリクエストによって物語の筋を替えるというのだ。

 そんなことのできる人間を、さとり様は見つけてきたのだ。

 さとり様はとても楽しそうに物語をリクエストしていた。

 リクエストされた人間はとても苦しそうだったけれど、仕方ない。地底においてさとり様の庇護下にあるのだから、それくらいは我慢して欲しい。

 里で管理者たちの庇護下にあるわけでもないのにきちんと三食食べられて、屋根の下で暖かい寝床を与えられるのだから、贅沢を言ってはいけない。ちょっと自由に動けないくらいじゃないか。

 それでも不平を言う人間はいる。

 しかも、一つのお話のちょっとした変更に三日や四日もかけているのだ。もう少し頑張ってくれてもいいんじゃないかと思う。お話なんて、早いものだと一刻もあれば終わってしまうのに。

 そのうえ、だんだんつまらない物語ばかりになっていくなと思っていると、ある日いきなり何も考えなくなってしまう人間もいる。

 まあ、外の人間というのはそういうものだとさとり様は言う。

 さとり様が言うのだからそういうものなのだろう。あたいたちは、里の人間や巫女や魔法使いしか知らないのだから

 またしばらくするとさとり様は、更に新しいことを始めた。これは、さとり様の能力の変化とも言える。

 なんと、人間の作って考えた物語を、第三者に見せることができるというのだ。

 まず、あたいとお空が見せてもらった。

 凄かった。

 人形遣いの人形劇とか、講釈師の講釈とか、そんなモノじゃなかった。

 本当に自分がその場にいるような感覚なのだ。

 いろいろな妖怪や人に見せるとみんな驚いていた。

「外の世界で言うVRじゃの」と言ってたのもいるけれど、意味がわからない。

 勿論、驚くだけじゃない。とても、楽しんでいた。

 地上の噂によると、さとり様の評判も上がっているらしい。あたいも嬉しい。

 古明地シアターは、大人気のアトラクションになったのだ。

 酷使された人間たちの交換ペースも上がっていったのだけれど、これは地上の管理人との交渉で、ある程度の追加ができるようになったらしい。

 物語に詳しいだけじゃない、二次創作?に慣れた人間を連れてくると約束していたのをあたいは聞いた。

 明日、そんな人間が沢山集まる集会……なんでも、そくばいかい?とか言うものがあるらしい。そこから人間を密かに連れてくるというのだ。

 今からとても楽しみだ。

 

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