秘密結社のバイトの日常   作:ライ麦小麦

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部活は決めました?

 

 

虎の威を借る狐

権力のある人に頼って威張る人をたとえた言葉である。

 

そんな言葉が似合うであろう人物を噂で僕は知っていた。

自主性を重んじる我が学舎の代表───理事長という地位を肩書に持つ父の息子が思い浮かぶ。有名である事は承知の上で一つ歳が離れている所謂、上学年に当たる人だ。名前は知らない。

 

それ故今後もその人とは関わりが無いんだろうと思っていたが、そんな安易な考えは直ぐに壊されてしまった。

 

 

「カンパーイ!!」

 

「「おわーーー!」」

 

 

 

コーラを入れた結露のついたコップを片手に握る総帥と例の先輩、それを眺める僕の3人だけというなんとも言えない空気に部屋は包まれていた。

 

 

 


───数分前

 

 

 

「総帥は部活決めましたか?」

 

「部活?」

 

「一学年は部活に必ず入部しないといけないんですよ」

 

「そんなルールがあるのか」

 

 

何故このようなルールがこの学校にあるのかは分からないが従わなければいろいろと面倒な事になる。

 

 

「入部していない一年生は教頭先生の雑用をやらされますよ。印刷の手伝いとか、荷物運びとか」

 

「地味に嫌なペナルティーだなそれ」

 

 

それが理由だからか基本的に周りの同年代はサッカーや野球などの体育系。茶華道、写真といった文化系など多種多様な部活へ入部している。

 

 

「バイトは何処に入部してるんだ?」

 

「僕ですか?僕はゲーム同好会ですかね。ゲームは昔から好きなので。まぁ基本的に活動はしてないんですけど」

 

 

入部している人の過半数は幽霊部員と化している為、活動しているのは僕と部長ぐらいだった。

余談だがその部長は何をしたのか分からないが現在停学中らしい。そういえばこの前、部室を覗いた時にやけにパソコンやらなんやらと見た事ない高価な機材が揃っていたな……。

あの人、本当に何をしたんだ。

 

 

「じゃあ吾輩もそれで良いかな」

 

「あれ?総帥ってゲームとか好きでしたっけ?」

 

「別の所に入ってもすぐ辞めることになるしな。それに吾輩を舐めるなよ?巷では上Bのラプラスって言われてたからな」

 

「総帥の二つ名多くないですか?」

 

「多い方がかっこいいだろ」

 

「僕にも何か二つ名くださいよ」

 

「ふられの海」

 

「…それただの悪口ですよ?」

 

「ほれ。早く部室に案内してくれ、ふられの海」

 

「余計なこと言わない方が良いですね。学びました」

 

 

少し賢くなった僕は総帥を部室へ案内する事にした。

 

 

 


 

 

職員室から部室の鍵を受け取り、久しぶりに部室の扉を開く。

 

 

「…また豪華になってる」

 

 

前までには無かったゲーミングチェアが置いてあった。なんだよこれ。

もしかしたら扉を開けば物が増える摩訶不思議な部屋なのかもしれない。

 

 

「うおーー!カッコいい椅子だな!吾輩これに座る!」

 

 

総帥は間髪入れずにその椅子に座った。

僕は他に座る物がないか周りを見ると部屋の端にパイプ椅子が置かれているのに気がつく。僕は総帥と対面するようにそれに座った。

 

 

「せっかくなので何かやりますか?」

 

「おうっ。そうだな。例えば何があるんだ?」

 

 

僕は立ち上がり、ゲーム機などが収納されている棚を見る。

 

 

「うーん…色々ありますね。昔ながらの据え置きゲームとか携帯ゲーム機とか」

 

 

ガサゴソと漁る僕に対し総帥は回答する。

 

 

「この前、バイトと博士がやってたゲームはどうだ?」

 

「良いんですか?自分で言うのもなんですけど結構上手いですよ。自分」

 

「ふられの海に負ける気がしないけどな!ガハハ!」

 

「ボコボコにしてやりますよ!もう立ち直れないぐらいに!」

 

 

僕は2人分のコントローラーを手に取り、総帥へ渡す。手加減はしない。

テレビと据え置きのゲーム機の電源をつけ、格闘ゲームと言う事でそれぞれキャラを選び、戦闘開始のボタンを押す。

いざ勝負!っとお互いが向き合った瞬間、部室のドアがガラッと開く。

 

当然、2人の目線は音のした方へ向けられる。

 

そこに立っていたのは髪を琥珀色に染め、顔の頬にガーゼを貼った見知らぬ男性が立っていた。身長は170後半ぐらいだろうか…よく見れば耳にはピアスをつけていた。

 

 

「あれ?久しぶりに来たけど…もしかして君たち新入部員?ここの部長、今来てる?」

 

 

 


 

 

「ほら先輩!グラスのコーラ空じゃん!そそぐぞ!」

 

「およおよ!ありがとぉねぇダークネスさん!」

 

 

机の上にはパーティー開きをされたポテチと2Lの大きなコーラが置かれていた。どれも部室の中にあった物である。

 

先程述べたように総帥がコーラをそそいでいる人は理事長の息子であり普通ならば関わるタイミングなどない人物だ。

名前を聞くと知れ渡っているだろっとかいつままれてしまった。知らないから聞いたのに…まぁあまり興味も無いし呼び方は適当に先輩でいいや。

顔に貼ってあるガーゼで隠しているのは自転車で転けた時の傷らしい。

 

 

「先輩は元からこの同好会に入っていたんですか?」

 

「そうだけど基本的には顔を出さないから幽霊部員ってところだよ」

 

 

まさか噂の人がゲーム同好会に入っているとは思いもしなかった。話し方が上手いのか既に総帥と打ち解けている。しかし先輩と会話をしていくにつれとある疑問が深まった。

 

 

 

 

先輩の噂による人物像との違い…

 

 

 

聞いていたものとはまったくもって別人。威張った様子も自分の地位も自慢する事ないその真っ直ぐな姿勢。違和感を感じている僕を先輩は見て何かに気が付いたのかとある質問をする。

 

 

「ええっと…海君だっけ?その眼差しは周りが流してる俺の噂を鵜呑みにしている口だな?」

 

「えっ。いや別に…」

 

「こんな見た目だからか誤解されやすいんだよ」

 

 

先輩はそう言いながら自分の髪をいじっていた。

 

 

「すみません。正直、噂から先輩の良い印象は持っていませんでした」

 

「いいって!俺ら面識とか無かっただろ?印象付けるものがそれしか無いんだったら仕方ないしね」

 

 

そう言いながら僕の肩をポンポンと叩いてくれた。

その時、僕はある事を思い出しクリアファイルに入れていたとある紙を一枚、総帥へと渡した。

 

 

「田島さん。これ入部届です。これを書いてクラス担任に渡せば無事入部した事になります」

 

「これ書けば良いだけか?」

 

「他に提出する物は特にないですよ」

 

 

いつものやり取りをしている僕らを見て疑問に思ったのか

 

 

「…君たち同学年だっけ?」

 

「そうですけど?」

 

「同学年にしては距離感が…なんか上下関係が構築されているような気がする。上司と部下みたいな」

 

 

つい癖で使った敬語で怪しまれてしまった。

 

 

「こいつは昔からこんな感じだ。誰に対しても敬語を使う人なんて珍しくないだろ?」

 

「確かにそういう人も居るしな。親の影響なのか分からないけど深読みしようとする癖があるんだよ。嫌な思いさせてたらごめんな?」

 

「いや、全然大丈夫です」

 

 

先輩への謝罪の返答をすると総帥が僕の袖をくいくいと引っ張り"シャーペン貸してくれ"っと言われたので筆箱の中の一本を総帥へ渡した。  

 

 

「それにしても俺の噂ってどんな感じなんだ?"恐喝してる"ていうのは聞いたことがあるけど」

 

「例えば…危ない集団との関わりがあるとかですかね」

 

 

すると先輩はお腹を抱え笑い出す。

 

 

「なんだよそれ!根も歯もない噂だな!ただの学生の俺が関われるわけないだろ!休日にはボランティアにも参加してる善良生徒だぞ?」

 

「自分で善良生徒って言うんですね」

 

 

総帥の方を見ると僕達の会話に興味が無いのか僕の貸したシャープペンシルを2回ノックした後、線を引き、僕へ質問してきた。

 

 

「なぁ、私の出席番号なんだっけ?」

 

「…ラプラスさん俺の話、興味ないよね?」

 

「ん?いや興味はあるぞ?どんどん話してくれ」

 

 

先輩は"俺、一応年上なんだけど"っと不満の声を上げていた。

総帥は気にせず紙に線を3回引く音が聞こえた後、芯が折れたのか1回ノックする。

 

 

「取り敢えず俺は帰ることにするよ。部長も居ないんじゃ俺の用事は果たせないからね」

 

 

先輩は椅子から立ち上がり、扉に手をかけ"じゃあまた!"と出ていってしまった。

 

 

「よし!書き終わった!あれ?あいつ帰っちゃったのか?」

 

 

総帥は先輩が帰ってしまった事に気がついたのか、机の上に置かれていたコントローラーを手に取る。

 

 

「続きやるぞ!」

 

「そう言えば闘っていた最中でしたね」

 

 

自分用のコップに入っていたコーラを飲み干し、コントローラーを握る。

 

 

「泣いても知りませんよ?」

 

「バイトごときに泣かされる我輩じゃないからな」

 

 

そうして戦いの火蓋が切られた。

 

数分後、意外にも勝敗はあっさりと決まり、結果は僕の勝ち。

しかし事態は急変、負けた事がよほど悔しかったのか机を叩こうとする総帥とそれを阻止しようとする僕とのラウンド2が始まっていた。

 

 

「総帥!もうやめて!僕が悪かったから!」

 

「うるさい!吾輩にドンをさせろ!ドンを!

 

「それ以上"この机"を叩くのやめてください!壊れちゃいますって!」

 

 

僕は総帥の腕を掴んでいた。

学校の備品を壊したとなると弁償をしないといけないのは僕ら。そんなお金は今持ち合わせていない。

 

 

「うおおお!離せ!お前をドンしてやろうか!」

 

ドンしてやろうか⁉︎

 

 

総帥を止めるのに必死になってしまい下の階が丁度、職員室であった事を忘れてしまっていた。上の階が騒がしいと気がついたのか、外から廊下を走る一人分の足音が聞こえてくる。

扉が開くと

 

 

「何やってるの!」

 

 

博士が飛び出してきた。

 

 

「あぁ…」

 

「なんで残念そうなんだよ!」

 

「この際、博士でも大丈夫です!総帥を止めるの手伝ってください!」

 

なんだよそれ!もっと喜べ!

 

「ドンが!ドンが溢れ出る!!」

 

「まずいですよ!総帥がなんか変な物質に変わりかけています!」

 

 

ドンが溢れ出るって一体なんだ。

 

 

「ラプちゃんがこの机を叩けなくさせれば良いんだよね!」

 

「まぁだいたい合ってます!10点満点中5点ぐらいです。どうにかしてください!」

 

 

博士は何かを思いついたのか総帥の標的である机を掴み、二階にある部室の窓から校庭の方へ放り投げた。下からドンっと地面に当たった音が聞こえる。

 

 

何やってるんですか⁉︎

 

「こうすれば叩けなくなったね!」

 

「違う!そういうことじゃあない!」

 

「あぁドンがぁ」

 

 

ドンが溢れ出たのかぐでぇっと倒れ込む総帥。

机の行方が気になった僕は恐る恐る外を覗き込む。

校庭には放り投げた机と

 

 

先輩が倒れていた。

 

 

先輩⁉︎

 

「くそっ!あと少しであのスカートがっ…!」

 

「博士、今度は外さないよう僕がやります」

 

 

先輩、机が落ちてきても気がつかないその集中力、別の事に使ってください。

 

 

 




円周率に自分の電話番号混ぜ込んでもバレないって最近気付きました。
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