いつもと違った雰囲気が漂う学校。
それもそのはず、今日は文化祭当日。
あと数分で始まるという事でどのクラスも自分達の出し物の確認やワクワクから盛り上がっている中、僕らゲーム同好会だけ空気が重かった。
「良いですか?怒ってはないんです」
「ハイ」
僕の目の前に正座をしコヨーテの耳をへにゃんとした博士。
「勿論、僕もなるべく博士の意見も尊重したいです」
「それはまたお優しい事で…」
「でも!僕!マヨネーズASMRは駄目って言いましたよね!なんで僕らの出し物の名前、メイドカフェからマヨネーズASMRに変わってるんですか⁉︎」
「よ、妖精の仕業かなぁ?」
「コヨーテの仕業だよ!」
どうやら気が付かないうちに企画書の内容を変えられていたらしい。
その証拠に教室の隅に置かれたマヨネーズの詰められたダンボールとパンフレットに書かれた出し物の名前が物語っていた。
「あぁ…もう駄目だ」
部長すみません。ゲーム同好会はマヨネーズASMR同好会かセンシティブ同好会に名前が変更かもしれせん。
「しかし、よくもまぁあのよく分からない企画内容が通りましたね」
「ず、ずのー」
「博士。文化祭終わったらマヨネーズ、一週間禁止でお願いします」
「があ"あ"ああ!」
いよいよ何が目的か分からなくなってしまった僕らの出し物。先輩のクラスからの助っ人も困惑していた。
「…取り敢えず今更、変更も出来ないと思うのでメイドカフェとマヨASMRを同時並行で運営しましょう」
僕がそう提案したその時、
もともと接客をしてもらう予定では無かったが運が良い事にサイズがピッタリな物が見つかったらしく「吾輩も着る!」との要望。時間にも余裕があった為僕はそれを了承していた。
「どうだ?似合う?」
総帥は着ている服を見せびらかす様にくるっと回った。
「…悔しいですけど似合います」
「なんだよ悔しいって!」
思ってた以上に似合っている総帥を前に一つ問題があった事に僕は気がつく。
「総帥。接客なんて出来るんですか?」
「我輩をなめるなよ。ガキンチョの心なんて簡単に掴めるんだよ」
「…ちょっと心配なんで試しに僕をお客様だと思って総帥なりにやってみてくれませんか?」
「腰抜かしても知らんからな」
それほどの自信はどこから来ているのだろうか。
僕は用意されている椅子に座る。それと同時に総帥が歩み寄って来た。
「じゃあお願いします」
僕が合図をする。
「へいらっしゃい!お客さん!今日は何にするんだい!」
「まてまてまて!」
開始早々、僕の嫌な勘が当たってしまった。
「なんだよバイト。良いとこで止めやがって」
「ここはラーメン屋じゃないんですよ!コンセプトはメイドカフェ!ラーメン屋の大将は今は出さなくて良いんです!何で勝負するつもりだったんですか⁉︎」
「うちの決め手は自家製の豚骨スープだよ!」
「ラーメンの話じゃない!あとわりと本格派なの何なんですか⁉︎もしかして味玉追加注文とかある感じですか⁉︎」
「あるよ!」
「あるのかよ!」
「まぁ文句言う前に食ってみなよ」
そう言うとコトッと机の上に湯気の立ったラーメンの入ったどんぶりと箸、そしてレンゲが置かれた。今何処から出したんだ。朝から食べるには重すぎる食事ではあるが昨日の夜から何も食べていない僕のお腹は正直者であり、目の前の物を求めていた。
「…出された物はしっかり食べる主義なので…」
「ツンツンすんなって」
始めに僕はレンゲでスープをすくい飲み込んだ。
「…普通に美味しいの腹立つなぁっ!!」
僕はすかさず麺を啜る。
しっかりとしたコシの有る太麺と絡み合う豚骨ベースのスープ。トッピングで乗っかっている分厚めの焼豚もほろほろとしており食べ易い。
正に絶品という言葉から箸が止まることを知らず、気が付いた時にはどんぶりに入っていた物は空っぽになっていた。
「これアジトの近くのラーメン屋の人がくれたレシピを元に作ったんだよ」
「僕、多分常連になります」
「…思いついた!ラーメン食べてる時にASM…」
「絶対駄目です」
何を考えているんだこの博士。
今のところ僕らが今、提供出来るであろう物は風真さんのUber GOZARUとラーメン、マヨASMR…いやまて何なんだこの手札は。風真さんだけが唯一の救いってどういうことだよ。
頭が痛くなっている僕へ先輩からの助っ人が僕へ質問してきた。
「…結局、ここの出し物ってなんなの?」
そんなの決まっている。
僕らは声を合わせて解答した。
「「「メイドカフェです」」」
校内のスピーカーから実行委員によって文化祭の開催が告げられた。
僕らの文化祭は二日間。1日目は屋台などの出店が主体となり、2日目は演劇や後夜祭がある。来校する殆どの人は2日目のアイドルが目的であるだろう。
「以外と繁盛してますね…」
僕らのメイドカフェ?に興味を持った人が多いおかげか席が一瞬にして満席になっていた。なんでだよ。
こんな状況になる事を想定していなかった僕らにアクシデントが起こる。
「…あれ?紙皿が少ないよ?」
資材の不足。もう少し多めに発注しておけばと後悔する。
知り合いのクラスから分けてもらえないかと頼んでみたが「こっちも余裕がない」っと断られてしまった。博士はマヨネーズ、総帥は接客、風真さんはGOZARUってて、沙花叉さんは…あれ?あの人何処いった?
「…今手が空いているのは僕だけか」
紙皿なら近くのコンビニにも売っているだろう。
僕はそう思い、博士に出かける身を伝え、学校の外へ出た。僕の高校から一番近いコンビニまで歩いてかかる時間は約20分。遠いのか近いのか分からない距離だ。
横断歩道の信号が赤に変わった為、僕はその場に止まる。その絶妙なタイミングで僕の携帯が鳴っている事に気が付く。携帯に表示されている番号を確認し、あちらからかけてくるとは珍しいと思いながらも僕はその電話に出ることにした。
「…急に連絡なんてどうしたの?」
電話の相手は中学時代の同級生。
メッセージなどでのやり取りはあったものの、声での会話は卒業以来だった。
『いや…何してるかなって』
「学校…っというか文化祭だよ」
『えっ!文化祭⁉︎…聞いてない』
「そっちの学校から僕の所は距離があるから難しいかと思って…」
無理に来てもらうのもなんだか心苦しい。
『…言ってくれれば皆んなで行ってたよ』
「…それはごめん。今度、何かあれば誘うよ」
『うん』
「…皆んな元気にやってる?」
『皆んな元気だよ。偶にはこっちにくれば良いのに…』
「バイト始めたからあんまり時間作れないんだよね」
僕がそう言うと電話の相手は狼狽した。
『バ、バイト⁉︎だから
ふと前を見ると信号が青に変わっていた。
「じゃあ僕はやる事あるから切るね。また今度」
『えっ!ちょっと!』
電話を切る為、僕は携帯の画面をタップした。
友人だとしても久しぶりの会話となるとやはり緊張する。
…今度の休日は久しぶり同級生に会いに行こうかな。
そう決心しながら横断歩道を渡ると僕の右側からバイクのエンジン音が近付いて来ている事に気が付く。
横を見ると
「むすこおおお!」
「た、鷹嶺さん⁉︎」
見覚えのないバイクに乗った鷹嶺さんが凄い勢いでこちらへと近付いてきた。学校での僕と鷹嶺さんの関係は親子という設定ではあるが学校外でその設定を守る必要は無いと思うんですよ僕は。
僕の前でバイクを止め親指でタンデムシートを指差しながら僕へこう言った。
「乗りな!」
「か、かっこいい…」
素直にそう思った。
鷹嶺さんのおかげで予想していたよりも随分早く目的地であるコンビニに着く事が出来た。
「鷹嶺さんバイクを運転できたんですね」
「どうも爪を隠してた鷹です」
鷹嶺さんが迎えに来てくれたのは総帥から「手伝ってやれ」と連絡が来たからのこと。
「わざわざ来てもらってありがとうございます」
「お礼なんていいよ。私も文化祭に行く予定だったから近くに居たんだよね」
「そうなんですか?だったら是非、僕たちのメイドカフェに来て、マヨネーズの音を聞きながらラーメン食べてください。味玉付きで」
「…どういうこと?」
「僕にも分かりません」
この誘いを一度聞いて「あぁ成る程」っとなる人は果たして居るのだろうか。
僕らは雑貨品などが置かれているコーナーまで歩き、お目当ての紙皿を見つけた。ついでに横にあった紙コップも念の為、買うことにしよう。
「ジュースでも飲む?」
「いや僕は水があるので…」
瞬間、鳴り響く轟音。
僕と鷹嶺さんは反射的に耳を塞いでしまった。
平日の午前中だったからか、その音のせいだからか…やけにコンビニの店内BGMが煩く聞こえた。
初めて聞いたのは小学生の頃だっただろうか。
競争でビリになった思い出だからよく覚えている。
火薬による衝撃波によって聞こえる音。
発砲音だ。
本当に関係ないんですけど梅おにぎりが最近のマイブームです。