最近、「きつめの課題 無限不眠編」に突入してまして投稿が遅くなってしまいました。
今月はあと一話更新出来れば良いなと思っています。
目が覚めると視界に入ったのはholoxのアジトの天井だった。
現状を確認しようと周りを見ると掛け布団がかけられているあたり、どうやらベッドの上で寝かされているようだ。
もう少し視野を広げてみると試験管やら謎の実験道具が並べられている机を見て、今僕が居る場所は博士の部屋だと理解する。
そう確信してしいると横から声が聞こえてきた。
「海君!」
「博士…」
そこには包帯を握っている博士の姿があった。
すると博士は僕の方へ近づき
「おわああぁあ!」
よく分からない声を出してながら肩を掴まれ、ぐわんぐわん揺らされる。
「心配したんだから!」
博士はポロポロっと涙を出しながら僕へそう言ってきた。
そんな中、僕は思った事を言う。
「…こんな状況ですけど一言言って良いですか?」
「うえっ?何?」
「布団、凄い良い匂いがします」
「むふん!そうでしょお」
数秒後、赤面した博士が「恥ずかしいので出てもらえませんか?」と懇願してきた。
「他の方々は見かけないんですがどうしたんですか?」
沙花叉さんへの礼がまだ済んでいない。
「ラプちゃんといろはちゃんは学校でルイ姉とクロたんは強盗犯についての調査で出かけているよ。なんでもルイ姉が言ってたのが計画的な犯行の可能性があるとか」
「てことは鷹嶺さんか僕が狙われていたって事ですか?」
躊躇いがなかったのはそれが理由なのだろうか。
「詳しい事は帰ってから聞く予定だよ。こよは海君の治療の為お留守番ってところかな?」
「博士。面倒を見てくれて本当にありがとうございます」
感謝の意を伝え、僕は鷹嶺さんが作り置きしてくれたお手製のお粥を食べながら、僕が眠っていた間の出来事を博士から教えてもらった。
簡単にまとめると僕が気絶したのち、沙花叉さんが犯人を無力化。その後、鷹嶺さんが博士へ連絡しアジトにて傷の処置を施し、僕は丸一日眠っていたようだ。
病院ではなく博士に連絡するというのは信頼上の行動であったのだろう。
博士曰く、処置の内容は僕の細胞をうんたらかんたらで増やし、修復と再生、所謂、自己再生力を上げる回復薬のようなものを投与したらしい。お腹を見てみると傷は塞がり少しだけ跡が残っていた。正直、話が難し過ぎてよく覚えていない。分かったのは化学の力って凄いって事だけだった。
文化祭の方は残念ながら1日目は中止となった。
しかし、2日目…つまり今現在は学校の交渉により開催出来ているとのこと。僕らのクラスの出し物である演劇などは時短の影響で無くなり、出店と後夜祭がメインへ変更されたが2日目が残っただけでも御の字だろう。
お粥を食べている僕へ博士が少しばかり嬉しそうに文化祭1日目の事を話してくれた。
「僕らの出し物、結構人気だったんだよ?」
「そうなんですか?」
「売上一位とまではいかないけど五本指には入るぐらいかな?」
「喜んで良いのかよく分からないです…」
同好会、改名の危機へ一歩近付いた現実を噛み締めながら僕は博士へ質問した。
「僕はもう動いても良いんですか?」
「傷は塞がっているし動いても良いよ。…いやぁでもなぁ。こよは安静にしてた方がいいと思うけど…」
僕にはどうしても文化祭へ行きたい理由が二つある。
僕は携帯でとある名前を検索し、博士へ見せた。
「今年の来てくれるアイドルの方が僕の推しなんです」
「へぇ〜。海君、アイドルとか好きだったんだ」
「中学の時からハマってました。なので後夜祭だけはどうしても行きたかったんです」
そして僕は二つ目の理由を言う。
「それに総帥と一緒に回る約束をしてますので」
「えっ⁉︎ラプちゃんとそういう関係なの⁉︎」
「違いますよ!変な誤解をしないでください!」
どうしてそうなるんだ。
僕の願望を聞き、博士は顎に手を当て少しの間悩んだ末に結論を出した。
「…年に一度の行事だしね。うん!海君が行きたいなら行っておいで!」
「ありがとうございます」
「でも走ったりとか激しい運動は控えてよ!傷が開いちゃう可能性があるから!」
左右の人差し指をクロスさせバッテンを創りながらそう言う博士。
「博士は行かないんですか?」
「行きたいのは山々だけど…報告書とかが…」
チラッと見た机の上に束になった紙が置かれているのを見て全てを察した。本当迷惑かけてすいません。
「じゃあ気を付けて行ってきてね」
僕は頷き支度をする為、洗面所へと向かう。
目的の場所へ着き、顔を洗おうと目の前の鏡を見る。
「吾輩参上!」
「ぽえぽえ〜?」
っと顔に黒色のペンで落書きをされていた。
「誰か縄持ってきてください!一狩りしてきます!」
「だから激しい運動は駄目って言ったでしょ⁉︎」
学校に到着した僕は身軽になる為にも荷物を置こうっと教室へと向かう事にした。
中へ入ると見知った人物が紙パックのリンゴジュースを飲みながら暇そうに窓の外を眺めている事に気がつく。僕の存在に気が付いたのか飲み終えたであろうリンゴジュースをゴミ箱に捨てこちらへ近付き、話しかけてくる。
「おぉ。バイト。傷はもう大丈夫なのか?」
「一応、塞がってはいます」
「アジト戻ったらお前がボロボロになってた時は驚いたぞ?」
「いやぁちょっと見栄を張っちゃって…」
「幹部から詳細は聞いてるよ。ありがとな。幹部守ってくれて。偶にはかっこいい事すんじゃん!」
「いつもカッコいいって言ってくださいよ」
「ところで幹部には会ったのか?」
スルーされてしまった。
「アジトに居なかったのでまだ会ってないですね」
「後で幹部にお礼言っとけよ。一晩中様子を見ててくれたんだから」
「…そうだったんですか?」
「一番近くに居たのに "何も出来なかった" って言って責任感じちゃってんだよ。だからメールでも良いから無事って事を早く知らせてやれよな」
周りを心配させるというのはこんなにも言葉にし難い嫌な思いになるのだと痛感する。僕が落ち込んでいると察したのか総帥が話題を変えようとしてくれた。
「まぁ辛気臭い話はこれぐらいにしようか」
パンっと手を一度叩く。
「吾輩はずっとお前の事を待っててお腹が空いてんだ」
すると総帥は僕の腕を引っ張り、勢いよく教室を出る。
「こっからは楽しい時間だ。文化祭回るぞ!」
廊下を走りながらいつもの返事をする。
「返事はyes my darkだ!」
「yes my dark」
「うわぁ美味しそう!」
クレープの屋台に置かれているメニュー表を見ながら総帥がそう言う。
「クレープですか?色々とメニューがありますよ。苺とかバナナとか…何これ?あの日の初めてのキス味?」
「甘酸っぱいってことか?じゃあそれで良いや」
その味が気になったのか即答だった。
「あっ。じゃあ僕も同じ物でお願いします」
「申し訳ないんですが、そちらの商品告白が失敗した方は注文できないんですよ。話は聞いてます」
「バイト。ここジャンケンで勝てばもう一個貰えるらしいぞ!」
「分かりました総帥。最初はグーがからぶって相手の顔面に当たってもお咎めなしって事ですね」
「やめとけよ。バイト」
なんで僕の苦い思い出を知っているんだ。
「…なんでそんな驚かないんですか?」
目の前には白い布の様なものを見に纏い、僕らを驚かせようとしている人物が急に現れたとしても総帥は微動だにしなかった。
「いやだってあんまし怖くないから…」
「あっ!ほら!総帥がそんな事言うからお化け役の人泣いちゃったじゃないですか!」
「いやだって…何というか…ねぇ?」
「まぁ確かに…」
「こちとら文化祭で出せるだけの費用で頑張ってんだ!そっちが怖がらなかったら急に出てきたヤバい奴みたいになっちゃうって!こんなの続いたら悲しさの心の受け皿何枚数えても足りないわ!」
「僕だったらあそこの角に大きな音が鳴るようにしますね」
「吾輩はあそこになんかしらぶら下げるな」
「改善点を上げるな!こっちが虚しくなるだけだよ!」
「「恨めしいですか?」」
「お前らもう帰れ!」
「コルク弾で倒したものが貰えます」
説明を受け、僕らはコルク銃を渡される。どうやら弾は10発のようだ。
「吾輩、あのでっかいぬいぐるみが欲しい」
「あれをコルクで倒せますかね?」
総帥はぬいぐるみへ狙いを定め、コルク弾が放たれる。それは見事命中したが、ポンっと音が鳴っただけでぬいぐるみはびくともしなかった。
「おい!本当に倒れるのか⁉︎あれ!」
「まぁ大きいのは無理だと思うんで僕はあの小さいお菓子の箱でも狙います」
同じようにお目当ての物へ、コルク弾を飛ばす。
しかし突如下から現れた壁によって弾は防がれてしまった。
「おかしいだろ!なんで壁が下から出てくるんだよ!」
「ワッハッハ!こっちも商売なんでね!」
「バイト。holoxに雑用係とか欲しいよな」
「奇遇ですね総帥。僕もちょうど思っていた所です」
「…おニ方?コルク銃を俺に向けるのはやめてもらって…い、痛い!痛い!ちょっ!撃つのやめて!」
「バイト!ハート作るぞ!ハート!」
「いやちょっと恥ずかしいです…」
「じゃあフュー○ョン?」
「少しハートの形変わっただけじゃないですか!」
「なんだよ!合体とかめっちゃかっこいいだろ!角お前にやるからさ!」
「自分のアイデンティティ大事にしてください!他人に容易くあげちゃ駄目ですよ!」
「いいから早く!映え〜な写真撮るぞ!」
「…あれ風真さんですよね?」
たこ焼きの屋台に着くと同時に目線の先にたこ焼きを焼く風真さんの姿があった。
「あー。そういえばあいつ手伝うとかなんとか言ってたなぁ」
僕らに気が付いたのか風真さんが手を振る。
「ラプ殿〜。海殿〜」
「こんにちは風真さん」
「海殿は元気そうで何よりでござるな!」
「侍。たこ焼きくれ!」
「はいはい待っててくださいね。ラプ殿」
そう言いながらたこ焼きを焼き出す。
慣れた手つきで次々と完成させ、あっという間に6個入りのたこ焼きを2人分作り上げた。
「うおー!美味そうだな!」
総帥は「いただきます」っと言ったのち箸で一つ摘む。
「あっ総帥、出来立てを一口で食べちゃったら…」
「あっっっつ!!」
言わんこっちゃない。
「ワハハっ!」
「ふぇー、舌がヒリヒリするぅ」
「そんないっきに食べるからでござるよ。風真がふーふーしてやろうかぁ?」
「その子供扱いやめろよ!」
「ラプ殿は子供でしょ?」
「どう見ても立派なレディだろぉ!」
「ん?」
「ん?じゃねーわ!よく見せてやるからこっちこい!」
「やーい!捕まえれるなら捕まえてみろでござる!」
「まてや!この侍!」
くるくる追いかけ回る2人を見ながらたこ焼きを一つ食べる。
「うん!ダシが効いてて美味しい!」
僕が思っていた以上に時間はあっという間に過ぎていった。
気付けば空は夕日により橙色へと変わっており、遊び疲れた僕らは部室へと戻る。夕日の光が部室に射し込む中、僕は総帥へ質問した。
「文化祭楽しんでますか?」
「おおん。あたぼーよ!バイトの高校に潜入した甲斐があったってもんだ!」
総帥はヨーヨー釣りで釣り上げた物を返事をするかの様にタポタポと上下に動かす。
「なら良かったです」
「この後はライブとかの後夜祭だろ?」
「そうですね。僕の隣の席の上島くんが歌います」
「吾輩、上島くんと話した事ないから分かんないんだけど」
少しの沈黙の後、何かを思い出したのか総帥が口を開く。
「そういえば、バイトに見せたい物があるんだよ」
「僕にですか?」
「ちょいと待ってな」
そう言いながら総帥は部室から姿を消す。
数分後、学生服からメイド服へと着替えた総帥が僕の前に現れ、よく見ると手を後ろにやり背後に何かを隠しているようだった。
「見せたい物ってそれの事ですか?」
僕は総帥の衣装へ指を指す。
「それなら一度見てますけど…」
「着眼点が甘い。羊羹みたいに甘いよバイト君」
「和菓子みたいで悪かったですね」
すると総帥は腕を前に出し背後で隠していたであろう物が僕の前へ出される。発祥の地は確か日本。調理された米をオムレツのように包む料理の名を僕は知っている。
「オムライス…ですか?」
ラップで包まれたオムライスが乗った皿を総帥によって机の上に置かれる。
「形は不恰好だが味は心配するな」
不恰好だと総帥は言うが、上にかけられている焼かれた卵が少し歪なだけで普通のオムライスと何ら変わりなかった。
「…総帥が作ったんですか?」
「博士に手伝ってもらったが基本的には吾輩だぞ」
総帥はラップを外す。
「メイド喫茶ならやっぱこれだろって思ってな。楽しませてもらったお礼としてお前に食わせてやりたかったんだよ」
「…料理出来ないって信じてたのに…」
総帥はこちらを見ながらドヤ顔で言う。
「これでお前との差が出来ちゃったってわけ!ガハハッ!」
「僕を置いてかないでくださいよ!一緒に足並み揃えよって約束したじゃないですか!」
「んな約束した覚えはない。吾輩は高みでお前の事を待っててやるよ」
悔しいが先に行かれてしまったのは事実であり何も言い返せない。目線を変えると電子レンジで温めたのかラップを外したオムライスからは湯気が立ち上がっていた。
「早く食べたいだろ?ほれ。これスプーンな」
見透かされたかのように渡されたスプーンを手に持つ。
いざ実食と行こうとした時、とある違和感に気がつく。何かが足りないと思い部室の隅にあるマヨネーズを見て違和感の正体が判明した。
「オムレツの上にケチャップがかかってないですね」
「あー、ラップするからかけてなかったんだよ」
すると総帥はポケットからケチャップを取り出し僕へ渡してきた。普通ならここで受け取り、自らかけるだろう。
でも今、この場面で、自分でかけるのは違うと悟る。
せっかく目の前にメイド服を着た総帥が居るんだ。頼む事は一つ。
「総帥。僕は更に美味しくなる不思議な言葉を所望です」
僕はケチャップを受け取る事を拒否した。
瞬間、何かに気が付いたのか総帥がこちらを見る。
「…萌え萌え的なアレが欲しいのか?」
「萌えっとキュンなアレが欲しい感じです」
そう言うとノリノリに「任せろ!」っと言いながらケチャップを握る。
一呼吸を入れたのち、台詞を唱え始める。
「美味しくなぁれ!もえm…いや吾輩はこれじゃないな」
しかし総帥はケチャップを出すのを一度やめる。
そして僕の方へ近づき、耳元で囁かれる。
「…」
「っ⁉︎」
反射的に囁かれた耳を塞いでしまう。
総帥の方を見るとその顔はニヤついていた。
「照れたな?」
「あんな事、耳元で言われたら誰でも動揺しますって!」
「ガハハッ!」
自分で見ずとも顔が赤くなっていると分かる。
負けた気分になっている僕を横目に総帥は勝ち誇った顔をしながらオムライスにケチャップでクロワッサンを描く。
恥ずかしさを和らげたいからか僕はそれに対しての疑問を問う。
「毎回思ってたんですけどそのクロワッサンのイラストって何ですか?」
「クロワッサンちゃうわ!吾輩の角!」
「あっそれ角だったんですね」
そう思いながら総帥の角が描かれたオムライスをスプーンですくう。口へ運ぼうとした時、総帥からある提案をされた。
「あーんで食わせてやろうか?」
「…いや自分で食べます」
「断るのかよ」
「何されるか想像も出来ないので」
「うわぁ。警戒心maxっときましたか。まぁ気にせずぶち壊すのが吾輩だけどな」
「あなたただ僕で遊びたいだけでしょ!」
僕の訴えに聞く耳を持たず、スプーンですくったオムライスをこちらへ向ける。
「ほら。あ〜ん」
近くにある総帥の顔を見ないように目を瞑りながらスプーンに乗った物を食べる。
「どうだ?」
「美味しい…」
「どぅあぁぁろぉ!」
卵で包まれたチキンライスはしっかりと味が付けられていて、お店で出されてもおかしくない程の味だった。
「なんか…どっかで食べたことがある味がします」
「そりゃあ再現したからな」
「再現した?」
「いや、気にすんな」
僕はオムライスを数分で平らげ、気が付けば後夜祭が始まる時間となっていた。
後夜祭は体育館内で行われる為、使った食器を洗った後、僕らはそこへ向かおうとした。
しかし総帥が足を止め、僕へ告げる。
「吾輩はやる事があるから先に行っててくれ」
「こんな時間にやる事ですか?もう後夜祭始まっちゃいますよ?」
基本的には生徒は体育館へ集合する時間。やる事とはいったいなんだろう。
「なんなら用事が終わるまで待ちますけど」
「いや大丈夫だ。遅くなると思うからバイトは先に体育館に行って席を取っといて欲しい」
そう言いながら夕暮れの校舎へ戻る。
いつもなら待ってて欲しいと言うのにと不思議に思いながら見た総帥の後ろ姿は、いつもと雰囲気が違っていた。
次回で文化祭の話は終わりでございます。
それとあおさの味噌汁にはまっております。