秘密結社のバイトの日常   作:ライ麦小麦

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マヨラーのサガ

 

 

「何やってるんですか…」

 

 

いつもの様にholoxのアジトへ来ていた僕の目の前に縄によって椅子に縛られた総帥とコヨーテの耳と尻尾を持つ、holoxの頭脳 “博衣(はくい) こより” がスプーンを持つ姿があった。

 

 

「ラプちゃん!あ〜ん」

 

「おいしいよー」

 

「あっ!海君!こんこよ〜」

 

 

僕の声を聞き気が付いたのかスプーンを持つ手で手を振ってきた。

 

 

「こんこよー…じゃなくて!なんで総帥縛ってるんですか⁉︎今結構凄い光景ですよ!」

 

「こよはラプちゃんに“これ”の美味しさを教えてるだけだよ!」

 

 

そう言うと卵黄、油、酢などを原料とする半固形状のソース───世ではマヨネーズと呼ばれる代物を見せてきた。

 

 

「マヨネーズ?もしかしてさっきスプーンで食べさせていたのって…」

 

「マヨだよ」

 

「博士、ソースって知ってます?」

 

「知ってるに決まってるでしょ!」

 

「えっ?」

 

「えっ?」

 

 

見つめ合う僕と博士。

 

 

「博士。マヨネーズって僕の中ではソースなはずなんですけど…」

 

「えっ?」

 

「えっ?」

 

 

なんだこの気まずい空気。

 

 

「マヨはソースじゃないよ!ラプちゃん!マヨネーズは?」

 

「飲み物です」

 

「よくできました!はい!あ〜ん」

 

「おいひぃいー」

 

 

目の焦点が合っていない総帥をみて事の重大さに気がつく。

僕がおかしいのかと思い、自分の携帯でマヨネーズと調べてみたが僕の知識は間違えていなかった。

 

 

「おいしいー」

 

「マヨネーズを飲むって何ですか」

 

「そのままの意味だけど?」

 

「ぅおいしいー」

 

「ほら見てくださいよ!博士が洗脳まがいな事してるから、総帥がおいしいーbotみたいになってるじゃないですか!」

 

「洗脳なんてしてないよ!」

 

 

会話の節々に歪んだ笑顔の状態で「おいしいー」と言い続ける総帥…なんかのホラー映画のワンシーンと言っても差し支えなかった。

 

 

「そもそもなんで総帥にマヨネーズを食べさせてるんですか?」

 

「それはラプちゃんがマヨネーズの美味しい食べ方を聞いてきたから…」

 

「椅子に縛っているのは?」

 

「逃げようとしたから…」

 

「マヨネーズをそのまま飲ませようとしてきたらそりゃ誰だって逃げますよ!なんかのb級ホラー映画ですか⁉︎」

 

「おいしいー」

 

 

僕は総帥をこのままにするのは流石に可哀想だと思い、身動きを自由にさせる為縄を解きながら疑問に思ったことを問い出す。

 

 

「こんな時に役立つ薬とかないんですか?明らか精神の状態がおかしくなってると思うんですよ」

 

「こよを便利な何かだと勘違いしてない?でもその要望なら叶えられるよ!」

 

「ほんとなんでも出来るなこの人」

 

 

そういうと共に白衣の中から青色の液体が入った試験管を何処かで聞いたことある効果音が鳴りそうな勢いで出す。

 

 

「じゃじゃーん!洗脳状態なおせーる薬ぃ!」

 

「毎回思うんですけどいつも都合の良い薬を持ち歩いていますよね」

 

「ふふん!こよはholoxの頭脳だからね!」

 

「…博士は総帥がこうなることを予測してたんですね」

 

「ヒュー…」

 

 

うまく鳴らせていない口笛から図星なんだろうと理解する。僕は博士からなおせーるお薬を受け取り総帥へ飲ませた。すると博士の口から「思い出した!」と発せられる。

 

 

「新薬の研究が後少しで終わるんだよ」

 

「最近研究室に篭っていたのはそれが理由ですか?」

 

 

僕の問いに頷く博士。

よく見れば博士の目の下にクマの様なもの。以前から忙しいイメージがあったがholoxが財政難になってから更に多忙になった気がする。博士の努力や頑張りから学ぶ事は山ほどあるが、頑張り過ぎて体調を崩してしまうのではないかとヒヤヒヤする事も多々あった。

 

 

「偶にはゆっくり寝てくださいね」

 

 

僕はそう労いの言葉をかける。

 

 

「確かに最近はしっかりと寝れてないなぁ」

 

「寝不足は体に悪いですよ」

 

「分かってはいるけど自分がやりたい事だから…それに気力なら誰にも負けない自信があるからね!」

 

「確かに博士には敵いませんわ」

 

「何?珍しく心配してくれたの?」

 

 

毎回心配しているつもりだったが僕の思いが届いていなかったらしい。

 

 

「そんな心配をしてくれる様な海君には特別なものを上げよう!」

 

「特別な物?」

 

「ほれ口をお開け」

 

 

持っていたのはマヨネーズだった。

 

 

「僕の優しさにマヨネーズをぶっかけないでもらえます⁉︎」

 

「大丈夫!これはラプちゃんにあげた物とは違うサブマヨだから!」

 

 

何が大丈夫なのか分からないしマヨネーズにサブがある事に驚きを隠せない。不気味に思えるニッコニコな表情をしながら歩み寄る博士を見て僕は後ずさる。

 

 

「こよは優しいからね!今回は直接いってみよう!」

 

ちょ、直接⁉︎博士!優しさのベクトルを変えてよ!お願いだから!」

 

 

部屋の広さには限界がある。

いつしか背中が壁に付く事は容易に予想出来るが早くもその時が来るとは思いもしなかった。

 

 

「さぁ!もう逃げられないね!」

 

 

瞬間、博士は僕の口にマヨネーズを向けマヨネーズを持っている方の手に力を入れる。しかし出てきたのはマヨネーズではなくプスっという弱々しく空気が出る音だった。

 

 

「ありゃ?きれちゃってる…」

 

 

幸運にもサブマヨの方は空だったようだ。

 

 

「博士って頭は良いですけど偶に抜けてますよね」

 

「こよがバカって言いたいの⁉︎」

 

 

そんなこと一言も言ってない。

 

 

「うーん、これ以外のサブマヨは持ってきてないからなぁ…残念だけど今日は新しい世界を見せれないね」

 

 

後少しで新たな世界を見るところだったようだ。

 

 

「この世界にまだやる事が沢山あるので見るのはだいぶ先で大丈夫です」

 

 

横を見ると先ほどの薬が効いたのか総帥がむくりと起き上がってきた。

 

 

「あれ?吾輩何をしてたっけ?」

 

 

どうやらマヨネーズを飲まされていた記憶は無い様子…起き上がる総帥を見て疑問に思った事を博士に聞いてみた。

 

 

「不思議に思ったんですけど、博士はどんな方法を使って総帥にマヨネーズをもったんですか」

 

 

あの総帥を縛り上げるのは容易なものではない。逃げ足は早いし捕まえるだけでも高難度である。

 

 

「方法?そんなの簡単だよ」

 

 

そう言うと博士は総帥の方へ歩み寄り、こちらには聞こえない声のボリュームで総帥の耳にボソボソと何かを囁いた。

 

 

「…」

 

きゃああああ!

 

 

総帥の叫び声が部屋中に響いた。博士いわく、総帥は耳が弱いらしく、特にasmr的なモノは必中らしい。つまりは弱点を利用しての捕獲方法を用いたのか。

博士は倒れ込んだ総帥を縄で縛り担ぎ上げる。

 

 

「それじゃこよは実験の続きをしないとだから!あっ!ラプちゃんは借りてくよ」

 

「あっご自由に」

 

「おいこら助けろよバイト!」

 

「すみません自分の身が最優先なので」

 

「お前絶対許さないからな!」

 

 

捨て台詞を言いながら総帥は博士に部屋へ連れられ、静まり返った部屋で僕は帰ることを決めた。

 

 


 

 

うっすらと意識のある感覚に陥っている僕はこれが夢だと判断する。明晰夢ってやつなのかな?

 

周りを見渡せば一面真っ白の部屋だった。

家具などの装飾品はいっさいなく、逆にこの部屋の不気味さをより引き立てている。僕が呆然と立っていると肩を誰かに叩かれ、後ろを振り返ると見知った顔の人が立っていた。

 

 

「総帥?」

 

 

ぽつんと立っている総帥へ声をかけたが反応が返ってこない。僕は総帥へ近づき、肩を触ろうとした瞬間、総帥の体が溶け始めた。

 

 

───溶けはじめた⁉︎

 

 

どろっと溶ける見た目に既視感を感じる。マヨネーズやこれ。

 

 

「バイトぉ…お前もトロッとしよう…」

 

「うわっ!何だこれ!」

 

 

とろっとなんてしたくない。

夢とは分かっていても動揺はする。瞬間、肩にべちょりと何かが当たる感覚があった。

 

 

「ひっ!」

 

 

情けない声を出しながら後ろを向くと

 

 

「うみくん…」

 

「博士⁉︎」

 

 

そこには博士の声をもつ何かがいった。

 

 

「新しい世界を見せてあげるって言ったでしょ…」

 

「マヨネーズを愛し過ぎたあまり体が変形した悲しきモンスターになってるよ!博士!」

 

「さぁ…」

 

 

博士だったものが僕に覆いかぶさろうとする。

 

 

「ちょっと!まって!」

 

 

 


 

 

 

 

おうわああぉあ!

 

 

 

けたたましくなる時計のアラームとともに僕は目を覚ました。安心からか自分が汗をかいてることに気がつき不快感が僕を襲う。

時計の針を見ながら

 

 

「…新手のマヨラーに襲われたって言うか?」

 

 

学校への言い訳を考えるのであった。

 

 

 




マヨネーズはうまい!
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