投稿が遅くなり申し訳ございません。
諸事情につき現状かなり多忙な為、空いている時間を見つけてはチマチマ編集をしていました。
今日までに話のストックを何個か制作したので今後の投稿区間が極端に開く事はない見込みではあります。多分
季節は夏。
受験生にとっての天王山と言われる季節だがそれに該当しない学生からすれば日頃の勉学から解放される至福の時でもある。
海やBBQ、夏祭りなど過ごし方の例を挙げてみればキリがない。僕自身も同上の該当しない者の1人な訳でこの莫大な休みをどう消化しようか頭を悩ませていた。
「暑いっすねぇ。総帥」
「吾輩太陽壊そうかな?」
「沙花叉さんなんて溶けかけてますよ」
「ぷえっ」
鷹嶺さんに買い出しを任された帰りの夜道を歩きながらもたわいも無い会話をする僕たち。夜とはいえ流石は夏。自らの立場をよくご存知だ。
「そういえばバイト。お店で何か雑誌を買ってたよな?何を買ったんだ?」
「えぇっ〜⁉︎海くんもしかしてぇ〜」
「健全な男子高校生なめないでくださいよ?」
沙花叉さんのそんな期待を裏切る為にも僕は先ほど買った物を袋から取り出す。所持者は僕な訳で説明など容易い。
「求人雑誌8月特別号です。一人暮らし故に出費が多いのでバイトを増やそうかなと…」
その瞬間───
「ふんっ!」
総帥ご自慢の角により貫かれてしまった。
「求人雑誌8月特別号くん!」
「お前っ!holoxっていう最高にダークネスな職場があるっていうのに!」
もしかしてブラックって意味なのだろうか。
「新人!これはどう思う!」
「いや〜もう浮気っすね!」
「浮気⁉︎」
「吾輩悲しいですよ!こんなかたちで裏切られるとは!価値観の違いってヤツですか⁉︎」
「本当に価値観の違いですよ!世間一般的に掛け持ちバイトの事を浮気って言わないでしょ!」
「あんな熱烈なアプローチを受けたのに!」
「志望動機の事ですか?」
「同じ屋根の下一緒に居た!」
「まぁ仕事場なんで」
「印鑑だって押した!」
「そりゃあ契約書にサインしないと…」
「ほらぁ!浮気じゃん!」
「だからどこが⁉︎」
何が「ほらぁ」だ。
お付き合いするまでの過程と少し似ているだけだろ。
「holoxのバイトを辞めるわけじゃありませんし…単発バイトってのも有るんですよ?」
「そんなっ!取っ替え引っ替えなんて!」
「やめてくださいよその言い方!それじゃ僕がただの屑男みたいじゃないですか!」
「現実じゃ無理だからってバイトで浮気するの見苦しいぞっ!」
「おっと喧嘩ですか?上等ですわっ!買ってやりますよ!」
「ガッハハハ!吾輩に勝てると思いで?バックには侍や博士…そして幹部が居るんだぞ!」
「えっ?沙花叉は?」
「絶対勝てる気しないので半額クーポンとかありますか!」
「諦めるの早くね?」
「ねぇ!沙花叉はっ⁉︎」
考えてみればholoxメンバーへの勝算など皆無に近いんじゃないか?もしも勇者パーティにでもなれば討伐される魔王に同情すら出来る。打算も何もかも思い浮かばない僕は降参の意味を兼ねて白旗を上げる様に総帥へ質問した。
「というか2人とも、僕についてきても大丈夫だったんですか?」
「んっ?なんで?」
「
僕が言い放った例の件というワード。無論、先日にアジトへ送られてきた封筒が関係している。端的に述べると書かれていた内容はシンプルなモノでアイドル事務所であるhololiveから指定された日時での会合の誘いだった。
呼ばれた理由として思い付く悲観的な内容から吉報という線は薄いのかもしれない。が、この願ってもいなかった機会を無下にするのは勿体ない故、設けられた場を利用し有効的な関係が結べれば我らがholoxの忘れかけていた野望…世界征服に利用出来るのでわっと見立てた総帥はこれを了承した。
名付けられたのが「外堀うめうめ大作戦」
一刻も早く改名させたい。
そんな第一責任者的存在の総帥がこんな場所に居ても良いのだろうか。
「安心しろバイト。吾輩たちただのサボりだから」
親指をグッと上げる2人。
多分駄目そう。
ふと耳に入る祭囃子の音…辺りを見渡してみると視線の先にある境内から光が漏れ出していた。それが提灯によってのモノだとといち早く気が付いたのは総帥のようだ。
「おぉ!夏祭りか!」
『桜神社』っと書かれている社号標。
人混みの数に憂鬱な気持ちになる僕とは裏腹に総帥は屋台の方に興味津々のご様子。
「行くか⁉︎行くよな!じゃあ行くぞ!」
「三段活用みたいに言うのやめてください」
「ラプラスってやっぱ子供っすね」
妙なテンポで刻まれたリズムと共にいつでも行けると準備万端。しかし僕はそれを拒否する。
「僕は行きませんよ?カップルのプルプル現場観るくらいなら家に帰ってプリンの下にあるあのよく分からないヤツをプッチンしてた方がましです」
「なんだよプルプル現場って」
「いつにも増して海くんの周りへの嫉妬が凄いわ」
「それに買い物袋の卵が割れたら大変です。僕は近くで待機してるので2人で楽しんできてください」
総帥は不貞腐れた顔をしながら「バイトが言うなら…」っと呟き、沙花叉さんと共に神社の中へ入って行った。
2人を見送ったのち近くに設置されていたベンチに僕は座り込む。
座ると同時に謎の疲労感が自分を襲う。
首をガクンっと傾け上を見上げると、視界を謎の引力に吸い寄せられるかの様に周りに立ち並ぶ家屋よりも雲一つ無い夜空が惹きつけた。
その中でも一際目立っていた一つの流れるように線を描く白い光。姿を見せたと思うと直ぐに消える一瞬の現象…今の季節を思い出し僕は腑に落ちた。
「───彗星かぁ」
目を惹きつけたのもなんとなく納得出来た。
何気に自分の目で見たのは初めての経験でもあるし、僕から…というか僕らからすればタイムリーなモノが多く連想できる印象が根強くある。
願い事を3回言えば叶うやらなんやと迷信など謳われる中…僕の中での一番はやはり───
「───隣。良いですか?」
突然の呼びかけに戸惑いはしたものの動揺を押し殺し、自分の喉から声を押し出した。
「大、丈夫ですよ」
弱々しい言葉を返すと共に僕は隣に座る人物を見つめる。
その人物は顔が見えない様にかフードを深々と被り、なんとなく少し他の人とは違う…総帥と似たオーラ的なモノを感じる。これがカリスマ性というものなのだろうか。
声からして女性だと分かったが、少しの異変を感じ取った僕は目線を下へと向けると右足を労っている事に気がつく。
「いてて…サンダルで靴擦れしちゃって…」
「大丈夫ですか?」
そう言葉を投げかけることしか出来ない無力な僕だがどうやらそんな親切は不要な様だ。
「ふふんっ!こんな時の為にと思って絆創膏を用意しているんですよ!」
自慢げな態度をしながらうさぎのイラストが描かれたごく普通の絆創膏を鞄から取り出し見せつけてきた。
「可愛いでしょ?」
「へぇ〜最近はそんな感じのやつも売ってるんですねぇ」
「一個いる?絆創膏のお裾分け」
「…そんなワード初めて聞きました」
いつの間にか自分の片手に置かれた絆創膏。人の優しさを無碍にするのは自分のポリシーに反するので自分の財布の中に入れることにした。
「…余計なお世話なら申し訳ないですが…何故この時期にフードを?」
「んっ?あぁ。私の職業柄あまり目立っちゃダメなんだ。まぁ変装みたいなもんよ」
「それ暑くないんですか?」
「めっっっっちゃ暑い!!」
「いや暑いんかい」
「本当は来る予定は無かったけど…ここの神社に知人が居てね。仕事の合間で足を運んだんだ」
どうも本来の目的は祭りを楽しむ為ではない。
一つの話に区切りがついたわけだが更なる話題も浮かばない僕は必然的に黙ってしまう。そんな状況を見兼ねたのか隣の女性がとある提案をしてくれた。
「ねぇ。じゃんけんしようよ」
「…急に?」
「負けた方がラムネ買ってくるで!喉乾いたし」
そう言いながら今座る位置とは反対に設営された屈強なお兄さんが1人で切り盛りしているラムネの屋台を指差す。
「いや自分で買ってくれば…」
「じゃん!けん!」
「えっ!あっちょっ!」
「ぽん!」
僕が咄嗟に出したグーに対し相手はチョキ。どうやら勝敗は僕の勝ちの様だ。
「ありゃ。負けちった」
「会話のキャッチボール、グローブなしでやるタイプですか?」
自分の負けをあっさり認めたのか屋台の方へ歩き出し、数秒後には二つのラムネ瓶を持って先程の場所へ戻ってきていた。
「ほれ」
「ありがとうございます。あっお金…」
「良いって。私の奢り」
「…良いんですか?」
「ほらほら!ぐびっと!」
蓋に挟まっているビー玉を下に押し出すと同時にシュワシュワと炭酸の泡が溢れ出してしまった。ラムネを開ける際はいつもの事だと気にせず僕は飲み口に口をつけ、それを喉に流し込む。
「どうっ⁉︎」
「…美味しいです」
「先輩冥利に尽きるよ」
「どういうことですか?」
「なぁんでもない」
そしてまたお互い喋らず静かな時間が過ぎる中、僕は再度首を傾け上を見上げ始める。
祭りの来訪者なモノなのだろうか。静かな空とは正反対の周りから聞こえる子供たちの騒ぎ声。
今は炭酸の音すらうるさく感じた。
「星に何か思い入れが有るの?」
「えっ?」
「さっきから感慨に浸っているような顔をしていたから」
やはり自分は顔に出やすいタイプらしい。
「…感慨。まぁ確かに思い入れは有りますよ」
「ほう?どんなの?」
手に持つラムネを一口飲み話し始める。
「比喩的な表現になるんですが昔…と言っても一年ほど前、彗星の様な人が身近に居たんです」
「へぇ〜…」
「当時、星の様に輝いていたあの人に憧れて色々真似したりしてました。歌い方とか立ち振る舞いとかを。今じゃもう"住む世界が違う"と感じる程に遠い存在ですけどね」
「よくお喋りな事で」
…いつもなら初対面の相手との会話は上手くできない僕ではあるが、今日に限ってそんな様子は一ミリもなく少しばかり安堵感も感じていた。それも何処となくあの人に似ているからだろうか。
声のトーンや喋り方など───
ヒュッと喉が締まる。
一瞬にして僕の思考が止まった。
僕は隣に座る人物を知っている。
故に知人。
そう知人なのだ。しかし立派な角や耳…刀などは持たず、此処に普通なら居るはずのない人物。
僕は確認の為にも横を向きその名を口にする。
「───星街先輩っ?」
横に座る女性は徐にフードを外し、よく似合った水色のサイドテールを
「よっ。久しぶり。海君」
───"
歳が一つ上の中学時代の先輩に当たる人。
hololive所属スターの原石
───現役のアイドル様だ。
「いやー偶然ってあるもんですねぇ。それにしても…へぇ〜〜〜。海君すいちゃんに憧れてたんだぁ」
「…もうお婿に行けない」
鏡を見なくても分かる。
自分の顔が真っ赤な事を。
本人曰くスタッフと岐路を辿っている際、椅子にべったりと座り込んでいる僕を偶々見かけ正体を隠しながら僕の反応を楽しんでいたらしい。
「まさか本人が居るとは思わないじゃないですか…」
「あっプレイリストにすいちゃんの曲入ってる」
「ちょっと!勝手に見ないでくださいよ!」
いつの間にか取られていた自分の携帯。僕はそれを奪い返し星街さんへ威嚇する。
「なんだかんだ言ってちゃんと聴いてくれてるんだね。先輩嬉しいぞ!」
「い、いやそれは…」
「赤くなってらぁ」
「煩い!それよりもこんな所で油売ってても良いんですか?確か次のLiveあと数日でしたよね」
「Liveの日まで把握してるとな⁉︎先輩涙出ちゃうよ」
…これ以上何を言ったとしても墓穴を掘る自信がある。
「…久しぶりに中学時代の人と会いましたよ。少し感動してます」
「あれっ?同期とも会ってないの?」
「まぁ簡単には会えませんからね。高校は離れてますし魔界なんて申請だしてから通行許可が降りるまで時間がかかりますから」
「ほ〜ん。じゃあ
とある友人の名が耳に入る。
「…何かあったんですか?」
「悲報とかそういう類のモノじゃないから安心しな」
嫌な想像から心臓がドクッと脈打ったが星街さんの言葉に胸を撫で下ろす。
「詳細は自分で聞いてもろて…。それを踏まえてさ。今度地元戻ってくれば?お姉ちゃんも会いたがってたし」
「…なんか浦島太郎状態になりそうで怖いんですよね。ほら。同窓会行ったら誰も自分の事覚えておらず気まずくて途中で帰る的な」
「例が生々しいな。一年ぐらいじゃ皆んな変わんないよ」
「星街さんは相変わらず野菜食べれないんですか?」
「うっせ」
図星だったのか肩を軽く叩かれてしまった。
「そういえば最近バイト始めたんだっけ?」
「えっ?まぁはい」
「なんのバイトしてるの?」
「ば、バイトですか?えぇっと…」
───まずい。
今一番聞かれたくないランキング第3位「なんのバイトしてるの?」。一見特段困る要素のない素朴な質問だが僕からすれば手汗ダラダラ刮目ものだ。
馬鹿正直「せかいせいふくっ!」なんて口が裂けても言えないし、holoxという名を使うと今後の会合に支障をきたす可能性だってある。ならばここは嘘も方便…知恵を振り絞る時だ。
「…YMD製造工場です」
「YMD製造工場⁉︎」
やっぱ僕って嘘が下手だ。
「えっ⁉︎何⁉︎YMDを製…はっ⁉︎何それ実用的なのモノなの⁉︎すいちゃん見たことも聞いたこともないって!」
「そりゃYがMしてD的なモノですから鑑賞用から改造用…あとご、ご飯のお供に…」
「なんなんだよYMDって!なんか響きが危ない薬みたいだよ⁉︎」
「YMDのおかげで友達が出来ました!」
「友達が出来たの⁉︎」
「高収入!」
「高収入⁉︎大丈夫そのバイトっ⁉︎」
「最高にダークネスです!」
「いや駄目だろそれ!」
誰か助けて。
口下手なせいで方向性がえらいことになってしまった。日頃他力本願な自分を悔やみながらもどうにか弁明しようと頭を回す。
そんな中、耳に入る携帯の着信音。
微動だに動かない自分の携帯…つまるところ鳴っているのは星街先輩の携帯だと悟る。本人がそれに気が付いたと同時に着信の内容を確認したのか少し焦りを見せ始めた。
「あぁ〜。海君ごめん。今から仕事だぁ…」
そう言いながらフードを再度深々とかぶる。
「私はおいとまするけど…海君はどうするの?」
「僕は待ち合わせをしているので残る予定です」
「…夜道をか弱い女の子1人で歩かせるんだぁ」
「いや近くにスタッフさん待機してますよね?それに"星街すいせい熱愛報道!"ってデタラメな記事を描かれるよりかはマシだと思います」
「海君は本当に勘弁…キツイです…」
「うわぁ凄い。辛口で1蹴り。僕ご自慢の豆腐メンタルがズタボロになってアツアツの麻婆豆腐完成するところでした」
「あっ車来た」
道路側から一回のクラクションが鳴り響く。どうやら送迎の車が迎えに来たようだった。
「ほんじゃもう行くわ」
手を振りながら颯爽と走り街灯のない暗闇へ消える姿を眺め、また遠くへ離れていくような虚無感に苛まれる。
そんな中、星街さんは振り返り声を出す。
「海君!」
「なんですかっ?」
「またねっ!」
何か言い返そうとした頃には既に星街さんの姿は無かった。
…誰しもが口にしたことがあるなんの変哲もないその言葉。その場で結ぶ軽く思われがちな口約束。「また会えるかも」っと子供じみた発想かもしれないが…ただ無性にその口約束が嬉しかった。
「またね…っか」
───もう少しだけこの場でゆっくりしていたいな。
「大変だよ海くん!ラプラスが近所の子供にカブトムシだと間違われて連れてかれちゃった!」
もうやだ帰りたい。
えっ?もう9月終わってたんすか?