秘密結社のバイトの日常   作:ライ麦小麦

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取り敢えずお風呂には入った方が良い

 

 

某日、暇つぶしにとholoxのアジトに足を運んでいた僕。クーラーの効いた涼しい部屋にてアイスを食べながらのんびりと過ごすという目論見だったが、そんな夏っぽい事よりも目が惹かれたのはソファーで眠る沙花叉さんだった。

 

 

「…なんか膨らんでますよね」

 

「…そでござるな」

 

 

目線の先は勿論沙花叉さん。

 

一見いつもと変わらない様に見えるが明瞭な違和感が当人の頭にあった。深く被られたフードに一つの膨らみ…その中に何かがあるという事は明らかであり、こういうモノは気になってしまうのが人の性だ。

 

 

「気になっている気持ちを紛らす為にチャキ丸の手入れをしていたけど…なんか磨き過ぎて発光し始めたでござる」

 

「いつしか音が鳴る様になるんじゃないですか?」

 

「かっこいい効果音が良いでござるな」

 

 

更なる進化に胸が躍るがそれよりも今はこの謎の凸だ。

 

 

「正直凄く捲りたいです」

 

「…風真も。でも了承なくフードを取るのは少し気が引けるでござるよ。ここは沙花叉に直接聞くのが得策じゃないかな?」

 

「僕は風真さんの意見に従いますよ」

 

「よし!そうと決まれば話題変更でござるな!海殿はこの夏で何かした?」

 

「───イチャコラ楽しそうにやってる線香花火を片手に持つハサミで切ることですかね」

 

「なんかとんでもない化け物が爆誕したでござるな」

 

「闇堕ちルートです」

 

「これ話題の選択間違えたかなぁ?」

 

 

そんな冗談混じりの会話をする最中、寝言を言いながら寝返りを打つ沙花叉さん。運が良いのか頭に被っていたフードがソファに擦れ、ぺらりと捲れてしまったではありませんか。

 

 

「お風呂入らなかったら普通髪ってゴワゴワになる筈なんじゃないんですか?」

 

 

フードの中から姿を現したお風呂に入っていないとは思えない露わになったサラサラかつ綺麗な白髪。

 

 

「沙花叉にそういった物理法則とかが効かないんじゃない?」

 

「…沙花叉パラドックス」

 

「沙花パラでござるな」

 

 

そして大本命、沙花パラの謎に満ちた凸の正体。

一体何が隠されているのかとドキドキしながら僕らは覗き込む。そしてソレが何なのか一瞬で理解した。

 

 

 

 

 

そこにあった───というより正確に言えば生えていたのだ。普通ならば生えるはずのない箇所から誰しも見た事があるであろうモノ…分類学上カビに近いと言われているソレが。

 

 

 

端的に言うと沙花叉さんの頭には…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───キノコが生えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「キノコが生えていた⁉︎」」

 

 

沙花パラが極みがかっている。

もう意味が分からない。

 

 

「えっ⁉︎頭にキノコって生えるもんなんですか⁉︎」

 

「いや知らないよっ!」

 

「これ沙花叉さんの活力奪って体乗っ取る系キノコじゃないですよね⁉︎」

 

「結構見た目乗っとる気満々だけど⁉︎心なしかさっきよりも大きくなっていて"やってやろう!"っていう意気込み凄いでござるけど⁉︎」

 

 

色合い的には毒キノコそのもの。

少しずつ大きくなるキノコをからこのままだと沙花叉さんの身が危ないと垣間見える中、僕はとある可能性について考えてしまっていた。

 

もしも…もしもだ。

このキノコが食用ならば…

 

 

「───食べれるなら食費が浮くんじゃ」

 

うおぉいそこっ!沙花叉使って節約しようとしない!おばあちゃんでもそんな知識知らないよ!」

 

「あの方々の知恵袋の守備範囲なめないでください!凄いんですから!」 

 

頭皮栽培なんておばあちゃんの知恵袋ブラックリスト入りでござるよ!それよりもコレを早く取らないと!」

 

「でも無理矢理引っ張ってなんかこう…大事な箇所が…」

 

「あぁ想像したくない!」

 

 

どのようにしてキノコを取り除くかと頭の中で模索し始めてから数秒後、金属が擦れる様な音が僕の耳に入る。

恐る恐る首を横へ動かすと、風真さんの手に握られているチャキ丸の刃が既に沙花叉さんへと向けられていた。

 

 

 

「か、風真さん?も、もしかして…」

 

……斬るしかない!

 

 

あっ。

この人本気だ。

 

 

「いやそれ大丈夫なんですか⁉︎」

 

「風真の腕を舐めてもらっちゃあ困るよ!海殿!」

 

 

自信に満ち溢れた目。

誤りなど犯さないと信用するにはそれだけで十分過ぎる代物だ。

 

しかし僕らには声を大にし煩くしてしまったという徹底的なミスがあった。運が悪い事にむくりと目を擦りながら起き上がる沙花叉さん。これにより僕らは頭に生えているキノコを斬るというタイミングを失ってしまったのだ。

 

 

「ん〜っ?あれっ?海くん来てたの?」

 

 

寝ぼけながらも目の前の人物が誰かと認識出来る程に意識は覚醒している。咄嗟に刀を鞘に納めたおかげか僕らが何をしようとしていたかはバレていない。隠そうとしない身振りから自分自身の頭にキノコが生えている事に気づいてないのだろう。

 

 

「さ、沙花叉おはよ〜」

 

「ん〜…おはよぉ…いろはちゃん…」

 

「ぐ、ぐっすりと寝てたでござるな?」

 

「うーんちょっと寝不足でね…。昨晩ラプラスと夜通しゲームしてたから…」

 

「へぇ…」

 

「うぅ…顔でも洗お…」

 

 

それは非常にまずい。

 

洗面台になど行けば否が応でも鏡を見てしまう。キノコが頭から生えているなど知ったら何をするか分からない。ここは気が付かれず、かつ穏便に済ませたいところ。

 

僕は風真さんへアイコンタクトで意思の疎通を試みる。「足止め」というメッセージを伝えたところ、親指と人差し指で丸の形を作ってくれた。

 

 

「さ、沙花叉!!」

 

 

そう言いながら洗面台へ向かおうとする腕を掴む。

 

 

「どうしたの?いろはちゃん?」

 

「スイカ割りやろ!」

 

「す、スイカ割り⁉︎」

 

 

…本当に伝わったのかな?

 

 

「えっ?いや…顔洗ってから…」

 

「スイカ割りすれば大丈夫だから!」

 

「いや魔法の言葉みたいに言ってるけどスイカ割りにそんな効力ないでしょ!」

 

大丈夫だからっ!!沙花叉そのままでも可愛いからっ!

 

「えっ⁉︎…い、いろはちゃんがそんなに言うなら…」

 

「…チョロマタフロハイレ」

 

「おいそこの一般市民C!聞こえてるぞ!」

 

 

半ば強引だが何とか洗面台へ行かせないという目標は達成。風真さんのことだ。何か意図があってのスイカ割りの提案なのだろうっと結論付ける。

 

 

 


 

 

 

床に敷かれたビニールシート。

その上に載せられた一つの大きなスイカ。

ご丁寧に用意されたスイカ割りセットの様だが僕はとある疑問を声を大にして叫ぶ。

 

 

 

 

なんでスイカの隣に僕らを置くんですか⁉︎

 

 

 

 

腕と足を縄で縛られスイカを挟む様に僕と沙花叉さんは配置されていた。頭の情報処理が終わらない一方、いつもこの様な状況になれば素早くツッコミを入れる筈の人物がやけに静かな事に違和感を覚える。

 

 

「ちょっと!沙花叉さんも何か言ってくださいよ!」

 

「…ふふっ…いろはちゃんに…叩かれる…ふひ…」

 

「あ、あれ⁉︎なんか満更でもなさそう!」

 

「い、いやぁなんというか…いろはちゃんに叩かれるのは…そのぉ…嬉しいというか…寧ろありがとうございます?」

 

「いやこれ叩かれるとか生優しさものじゃないでしょ!」

 

 

命中でもすれば脳天がかち割れるだろ。

 

 

「まぁ落ち着きなさいよ一般市民C君」

 

「誰がモブだ」

 

「考えてみ?流石のいろはちゃんも沙花叉たちが居るって事で手加減くらい…」

 

 

そんな期待を裏切る先程と同じ金属が擦れる音。僕らは冷や汗を流しながら首を前へと向ける。

 

 

「…なんか風真さん、刀持ってません?」

 

「ん〜…か、刀に見える棒かもよ?」

 

 

試し斬りの為か近くに置いてあった林檎を手に持つソレで一瞬にして真っ二つにする。間違いなく本物の刀である事が証明された。そしてスイカ割りのルールを忠実に守る様に一枚の布で目を覆い一言

 

 

「さっ!スイカ割りをやるでござるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

「「まて!まて!まて!まて!」」

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたでござるか?」

 

「"どうしたでござるか?"じゃないよ風真いろは!なんだその手に持ってる物!スイカ割りやったことあるのか⁉︎他の人から見たらただの切腹現場だよ!」

 

「そうですよ!刀なんて下手すりゃスイカを斬るじゃなくて僕らをkillなんですよ!」

 

「それに目隠ししてるいろはちゃんを誰が誘導するの!」

 

「風真の方向感覚?」

 

「「うわっ!不安しかない!」」

 

 

 

 

 

───いや待て。

 

本題をすり替えてはいけない。

僕らの目的は沙花叉さんの頭に生えているキノコを取ること。

 

確かにこの状況なら違和感なく、どさくさに紛れて対象を斬ることが可能…風真さんはコレを見越してスイカ割りと称したのだろう。きっと僕も縛られているのは沙花叉さん1人だと不自然になるからだ。

 

そんな名案に関心していたのも束の間、僕らの方へと歩み寄る風真さんの一刀目が振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

───僕の頭上に

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉおおっ⁉︎」

 

「あれ?手応がない…」

 

「風真さん!もっと左!左!」

 

おいっ!こっちの方に誘導するな!沙花叉を斬らせる気かっ⁉︎」

 

「そうだけどそういう事じゃない!」

 

いやどういう事だよ!沙花叉になんの恨みがあるの⁉︎

 

「これも優しさなんですって!」

 

「どんな優しさだ!いろはちゃん!右だよ!右!」

 

「違います!左です!」

 

「えっ。えぇ〜〜…」

 

 

2人同時に喋りかけたせいなのかアタフタとし始めクルクルと回り出し、そして覚悟を決めたのか刀を構え歩き出した。

 

しかし歩き出したのは僕らとは真反対の方角。

 

 

「いやなんで僕らとは反対方向に歩き出すんですか!」

 

「そっちじゃないよ!こっち!」

 

「えっこっち?」

 

「いやそっちは外!外出ちゃいますって!」

 

 

なんかもう修正不可能な場所まで歩いてしまっているんだけど。

 

 

「おい!何処に行く!風真いろは!」

 

「…もう見えない所まで行っちゃいましたよ」

 

 

止めようにも手足は縛られている為動かせない。

きっと何かを斬るまで止まらない暴走状態だ。

 

 

「───沙花叉たちいつまで縛られた状態なの?」

 

「誰か帰ってくるまでじゃないですか?」

 

「ぽえぇ…」

 

「……お腹すいk」

 

「煩いよ。海くん」

 

 

こういう場面では「急がば回れ」っということわざが使えるのだろうか。よくよく考えてみれば誰しもキノコの一つや二つぐらい頭に生える事ぐらいあるだろう。後ろめたさなんてない。回りくどい事はせず正直に伝えるのが1番だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…沙花叉さん。頭にキノコ生えてます」

 

 

 

 

 

 

 

 

「───えっ?マジ?」

 

 

 

 

 

数分後、角にチャキ丸が刺さった状態の総帥と目隠しをしたままの風真さんが一緒に帰ってきた。因みにその日食べたシチューの中によく分からないキノコが入っていたがそれはまた別のお話。

 

 




昔おばあちゃんに「スイカを割って良いのは割られる覚悟のある奴だけ」っと教え込まされました。
今思うと平然とスイカを割っていたおばあちゃんは一体何者なんでしょうか。

因みにスイカは塩をかけて食べる派です。
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