秘密結社のバイトの日常   作:ライ麦小麦

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剣を持てば誰でも勇者

 

 

昼頃、アジトにてとある場所からの支給品であるノートパソコンを無表情かつ慣れない手つきで操作をする。

 

現在座っている机の向かい側には何やら難しそうな本を読む眼鏡をかけた鷹嶺さんの姿。タイピング音がうるさく感じるこの静かな空間でこそ作業の効率は上がると僕は考えている。

 

ふと今日までのノルマは既に終えている事に気が付いた僕はデータを保存した後、特にパソコンを使って何かをする訳でもない為、そっと畳むことにした。

 

 

「海君。何か面白い話して」

 

「…偶にくるこの地獄みたいな無茶振りなんなんですか?」

 

 

いつの間にか本に栞を挟み込みこちらを見つめる鷹嶺さんの姿。期待の眼差しを向けられた以上、応えるのが漢というモノだ。

 

 

「最近お隣さんの部屋からテレビの音が煩いと苦情が入りまして」

 

「ほう」

 

「その内容が"俺は10時にいつもは消灯。頼む少しは静かにしてくれ願望"という一文でして。そもそも僕、テレビ持ってないんですよ」

 

「確かに以前家に行った時には無かったね」

 

「だから僕はこう言ってやりましたよ。それは韻暴論(いんぼうろん)だって」

 

「5点」

 

「…自信あったんすけどね」

 

「全体的にキレが足りない」

 

「キレが足りないかぁ」

 

 

ズボンのポケットに入れていた小さなノートを取り出し、5/10と示された点数を少し落ち込みながら書き足す。そんな習慣的な行動をしているとふと込み上がってきた不安を僕は口に出す。

 

 

「…今回の企画、上手くいきますかね」

 

 

最初の段取りであるhololive事務所のバイトに受かるという項目は達成…参考理由などは分からないが何故だか採用という形になった。このパソコンも映像編集をする為と渡された代物だ。

 

しかし課される作業内容としてはどうしても在宅ワークで事足りてしまう。今回の企画を成功するには事務所に入る事が前提である為、流石にその辺りは対策されていた。

 

雇用される1ヶ月の期間内に本部へと足を運ぶ瞬間が数回程ある。会合までに間に合わせるとなればチャンスは2、3回程になるだろう。詰まる所、その数回によって今回の成否が決まる。

 

 

「かなり賭けにはなるけどね。それに付近に沙花叉さんがサポート役として待機してくれるらしいから色々と助けて貰いな?」

 

「あっ。沙花叉さん来てくれるんですね」

 

 

僕が直々、頭を下げて頼んだ際は「その日新台あるから無理っ!」って断られたのに。

 

 

「というか…さっきから気になってたんですけど…」

 

 

視線を鷹嶺さんから外しとある方向へと変える。目に入った異質とも言える堂々と床にある()()へと僕は近付く。

 

 

 

 

 

 

「なんでアジトの床に剣が刺さってるんですか?」

 

 

 

 

 

 

選ばれた勇者のみが抜ける魔王討伐を命じられそうなデザインをした西洋の剣。ゲームで出ればそれなりに強そうな見た目だが、生憎文字通り次元が違う。

 

自分の携帯で一枚写真を撮り、現在お出掛け中の総帥へとメールで送信すると数秒程で「欲しい!」っとの返答。

どうやらお気に召したようだ。

 

僕は徐にその剣を抜き取る。

深々と刺さっていそうに見えたが簡単に取れたことには少しばかりの落胆。それに見た目とは裏腹に軽いあたり材質はきっと鉄や鉛などでは出来ていないのだろう。

 

 

「…誰ですかこんな所にマス◯ーソードぶっ刺したの」

 

「あー。確か昨日沙花叉がハンガーラックとして使ってたヤツだね」

 

「他所様の勇者の剣を勝手にハンガーラック代わりはまずいでしょ!てか何処から抜いてきたんですか!」

 

「いや通販でポチッと…」

 

「夢がない!」

 

 

最近の通販ってこんなモノも売られているんだ。

そんな感心を露わにしているとある部屋の扉が勢いよく開かれ、何やら何処かで聞き覚えのある声と台詞が耳に入ってきた。

 

 

 

 

 

 

「こよりが現れたっ!」

 

 

 

 

 

 

「なんか出てきたっ⁉︎」

 

 

自らナレーションを入れ、独特なポーズで僕らの行く手を阻む博士が姿を現した。突然の事におどおどとしている僕を正気に戻す為か鷹嶺さんが軽く肩を叩く。

 

 

「海君!戦闘に入ったよ!」

 

「えっ?せ、戦闘⁉」

 

 

思いもしなかった流れにより一層僕の動揺は増える。

 

 

「なんで急にRPGゲームみたいなノリが始まるんですか⁉︎」

 

「今日そういう回だからっ!」

 

「そ、そういう回?」

 

「さぁ海君!剣を構えて!」

 

 

あたふたとする中、僕は言われた通りに剣を両手で持ち、昔プレーしたゲームでの記憶を頼りにそれっぽく構えてはみた。

 

 

「こ、こんな感じですか?」

 

「よし!こよりの攻撃が飛んでくるよ!」

 

「えっ?テンポ早くない?」

 

 

どうやら相手のターンの様で既に博士は攻撃のモーションに入っている。どのような攻撃をされるのかと思い、博士の手元を見ると握られていたのは西洋の剣や盾、将又(はたまた)魔法の杖でもなく…

 

 

 

FPSゲームで出てくる様な機関銃が握られていた。

 

 

「かかってこい!」

 

 

 

 

 

 

 

「ずるいって!あれはずるいって!」

 

 

 

 

 

 

僕は博士に指を刺しながら駄々を捏ねた。

 

 

「飛び道具かぁ。こりゃ不利だね海君」

 

「飛び道具って!何であの人だけ文明結構進んでるの⁉︎こういうのって普通弓矢とか魔法使うでしょ!時代設定どうなってるんですか⁉︎」

 

「最近の魔王軍も本気出してるのかな?ほら。働き方改革的な」

 

「あんなの向けられたら勇者白旗上げるしかないじゃないですか!文明の差に完敗ですよ!」

 

「飲み物は?」

 

「乾杯!」

 

「8点!」

 

「今じゃない!」

 

 

点が取れた事に対しては嬉しかったが今ではない感覚が凄まじく、もどかしい気持ちに苛まれてしまった。

 

 

「ふはははっ!科学の力を思い知れ!」

 

「どうするんですか鷹嶺さん!絶対勝てませんて!科学の力思い知らされちゃいますって!」

 

「いや諦めるのはまだ早いよ海君!」

 

 

どうやら何か秘策があるようだった。

 

 

「相手は所謂マヨネーズ属性!」

 

「マヨネーズ属性って何⁉」

 

「その剣にはその属性に有効な特性がある!」

 

「と、特性?」

 

「触れれば勝ち」

 

「「えっ?」」

 

「触れれば勝ち」

 

 

2度間髪入れず発せられた鷹嶺さんの言葉と共に一瞬、場が静まり返る。

 

 

 

 

 

 

 

「いやずるい!ずるい!ずるい!」

 

 

 

 

 

 

 

数秒の静寂の後、そう言いながら涙目の博士が僕らに指を指す。なんか勝てる気がしてきた。

 

 

「なんだか自信が出てきました!」

 

「おいおいおい!そんなの聞いてないよ⁉」

 

「まぁその代わりこよりの属性以外はダメージ0だけどね」

 

「こよに対して効果抜群過ぎでしょ!マヨ属性絶対倒す剣じゃん!」

 

 

この剣の設定…退魔ならぬ退マヨの剣なのかな?

 

 

「い、いや。当たらなければただの剣!勝つなんてこよからしたら造作もない事!」

 

「それって実弾なんですか?」

 

「いや?スポンジ製のやつ。だから安心して当たってね!」

 

 

博士の言う通り当たって初めて発動する特性故、近付けば有利なのは僕だがそれをやってのけるのは至難の業。

だとすれば…。

 

 

「あっ!背後の風真さんがなんか凄い感じの姿にっ!」

 

「うぇっ!いろはちゃんが釣られたな!な姿に⁉︎」

 

 

ぐるんっと背後を振り返る博士。

無論、なんか凄い感じの姿をした風真さんなどは居らず、僕の放った言葉が嘘だと気が付いた時には既に僕の勝利は確定していた。

 

瞬間、博士はこちらへ錆びついたネジの様にギコギコっと顔を向ける。

 

 

「ず、頭脳?」

 

「まぁ頭脳です」

 

 

ガクンと膝を崩す博士。

よっぽど僕に手の内で転がされたのがショックだったのだろう。なんというか少しばかり達成感を感じてしまった。

 

 

「…こよが…海君に頭脳で負けた?」

 

「純粋さが仇になりましたね」

 

「こよに嘘なんか付いて期待させやがって!この鬼っ!鬼畜っ!悪魔っ!ケチャップ!」

 

「最後の別に悪口じゃないですよね?…いやでも…そこまで言われるとなんだか心が痛みます…」

 

「海は心に5のダメージを受けた」

 

「うるさいですよ。鷹嶺さん」

 

 

勝ち方がまずかったのか博士の落ち込み具合はかなりのモノだった。自分で言って悲しくなるが心へのダメージは僕の比ではない事は分かる。だって負のオーラ的な何かを放ちながら体育座りしているんだもん。

 

 

「…マヨ飲みます?」

 

「…うん」

 

 

どうにかして元気付けようと試行錯誤していると…

 

 

 

 

 

 

「沙花叉が現れた!」

 

 

 

 

 

 

先程の博士がして見せた独特なポージングと共に颯爽と現れた沙花叉さんであるが現状を更にややこしくするのは物凄く面倒くさい。ならここは気が付いていないフリをするのが得策。

 

 

「…博士。立てますか?」

 

「おいおいおい!無視するなよ!沙花叉を!」

 

 

しかし失敗した。

 

 

「やっぱこれ戦わないといけないんですか?」

 

「まぁエンカウントしちゃったからね」

 

「ふふふっ!博衣こよりは我ら四天王の中でも最弱!魔王の右肩甲骨辺りだと言われたこの沙花叉がお相手しよう!」

 

「…なんかさっきよりも設定凝ってきましたよ?」

 

 

なんだ四天王って。

あと右腕じゃなくて右肩甲骨辺りなんだ。…それって凄いのかな?

 

 

「沙花叉は5のダメージを受けた」

 

「さぁ剣を構えな!海君!」

 

「沙花叉は5のダメージを受けた」

 

「いや僕持ってるのマヨ特攻の剣なんですけど…」

 

「沙花叉は5のダメージを受けた」

 

「ちょちょちょっと待って!ルイ姉!なんでさっきから沙花叉ダメージ受けてるの⁉︎」

 

 

何故か毒攻撃を食らったかの様に会話の節々にダメージを受ける沙花叉さん。相手は心当たりがない様だが、僕には思い当たる事が一つある。

 

 

「…いやまぁ。シャチだからじゃないですか?」

 

「ぽえっ?シャチだからって?」

 

「えっと…陸上なので…デバフ的な…」

 

「沙花叉は5のダメージを受けた」

 

 

 

 

「───…もしかして干からびてる⁉︎」

 

 

 

 

どうやら沙花叉さんは自分の置かれた状況を把握した様だ。

 

 

「沙花叉は5のダメージを受けた」

 

「いやだっ!沙花叉こんなかっこ悪い負け方したくない!ねぇ!助けてよ海くん!!」

 

「いや僕にどうしろって言うんですか?」

 

「名前海でしょ!出してよ海!」

 

「そんな神の御業みたいな事"はいどうぞ"のノリで出来るわけがないでしょ!」

 

「じゃ、じゃあせめて海君の剣で!」

 

「だからこの剣じゃマヨ属性以外は倒せないんですって!」

 

「なんだよマヨ属性って!」

 

「僕も知りませんよ!貴方魔王の右肩甲骨辺りの人なんでしょ!もっと意地ってモノを見せて下さい!」

 

「沙花叉は10のダメージを受けた」

 

「あああぁあ!ダメージ増えてる!」

 

 

ぐわんぐわんっと僕の肩を揺さぶる沙花叉さん。

他の方法で倒すにしても僕の持っているモノはマヨネーズ属性意外には0ダメージの退マヨの剣だしどうしようもない。

そんな事を思っているといつの間にか鷹嶺さんによるダメージの報告の声は聞こえなくなっていた。

 

すると鳴り響く自分の携帯。

表示された番号を拝見し総帥からのモノだと把握する。通話開始のボタンを押すと共に電話越しから聴こえる総帥の活気溢れる声が耳を通り抜けた。

 

 

『おぉバイト。吾輩の右肩甲骨辺り倒した?』

 

 

全てを知っている様な口ぶり。

僕は少し間を置きとあることを総帥へ質問した。

 

 

「…これもしかして総帥が考えたシナリオですか?」

 

『ガハハっ!よく出来た設定だろっ!博士と新人にはアドリブって無茶振りしたけどなっ!』

 

 

…どうやら全て仕組まれていたらしい。

そうなのかと疑問をナレーション役の方へと向けると親指をぐっと上げ肯定のサイン。

 

 

『バイトなら何かしら吾輩に合図を送ってくれると思ってな?』

 

 

合図───きっと僕が送ったあの写真がそれに該当するのだろう。大方、博士と沙花叉を配置させタイミングを見計らい僕へと電話…手に踊らされていたのは自分の方だったと思うと無性に腹が立つ。

 

 

「…鷹嶺さん。ナレーションお願いします」

 

「───…こうして魔王ラプラスは討たれ、世界に平和が戻ったのであった。めでたしめでたし…」

 

『えっ?ちょっと鷹嶺さん!吾輩まだ色々と用意してるんだけど⁉︎勝手にエンドロール流して終わらせようとしないでくれません⁉︎ねぇっ!ちょt』

 

 

何か最後に言いたそうにしていたが切ってしまったものは仕方がない。僕は机の上に置いていた私物などを鞄にしまい、深くは考えずに帰路を辿ることにした。





卵焼きはしょっぱい派です。
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