投稿されていないと思ったら投稿日2025に予約しちゃってました。あの本当に許してください。
「…自販機にエナドリがある。」
そう呟きながら見つめる普段のバイトとは違うと認識させる自分の首に吊るされたネームプレート。面接を含めれば2度目となるhololive事務所内の潜入は初めよりも緊張が増していた。
課される自宅ワークで事足りる業務内容ではあるものの、リモートでの解決が不可能だと認められれば特例で事務所内へ足を運ぶ事が出来る。
自分の場合、用意した台本は支給品の不良。
事前に用意しておいた同じ種のパソコンで偽造をし、修理を頼むというモノ。想定外であったのが学生へ向けた新人育成という項目が有るからか社内での作業が許可が降りたという点。
今日起きた出来事を頭の中でまとめながら目の前の自販機にお金を入れ、150円と提示されたお茶のボタンを押す。ガタンと落ちてきたお茶を取り出し、自販機の横に設置されていた椅子に座りながらお茶の蓋を開ける。
落ち着ける姿勢に成れた事だし現状までの情報を再度整理する事にしよう。取り敢えず分かった事といえば
───ここは戦場だ。
流石は大手。「多忙」っという字がピッタリと合う緊張感が走る職場。デスク周りに置かれた資料の山、そして空になった栄養剤の瓶。見ているだけでなんだか胃がキリキリとする。
先程すれ違った社員らしき女性の方なんて「残業!残業!」っと独特なリズムの歌を口ずさみながらステップを踏んでいた。極め付けに
「おいっ!また窓ガラスが割れたぞっ!」
「変えの窓ガラスを持ってきてっ!確か予備が未だ残ってるでしょ!」
「チーフ!予備の窓ガラス!在庫残り一枚です!」
「残り一枚⁉︎くそっ!なんとか今日はこれで乗り越えるしかない!」
すみませんここってアイドル事務所で間違っていませんよね?なんで窓ガラスがまた割れたみたいな物騒な言葉が日常的に飛び交ってるんだ。
「もうやだ帰りたいです。」
定期連絡の為にと少し前からずっと耳に当てていた携帯へ向けて放った言葉。
『いやそんな弱音沙花叉に言われても…。』
電話の相手はサポート役として近くに待機してくれているという沙花叉さん。何やら背後がガヤガヤとしている様だがあまり気にしなくて良いのだろう。
「一応、頼まれていた社内の見取り図、監視カメラの位置は一通り確認し終えました。」
『お疲れ様。何か不審な点とかあったりする?』
「事務所の作りとしては至って普通の会社って感じです。強いて言うならバイトとして雇用された人たちが利用する作業部屋的な場所に僕以外が居ない辺りですかね。」
コレに関しては僕が特殊なだけだと思っている為、然程気にしてはいない。
「…にしても本当にデカいですね。holoxのアジトよりも綺麗だし…心移りしそうですわ。」
『今海くんの所持ばくばくポイント49だからね?』
「…それ無くなるとどうなるんですか?」
『跡形もなくお掃除します。』
「以後言葉には気を付けます。」
『宜しい。』
きっとサポート兼僕自身の監視の意味合いを成しているのだろう。徐々に減ってく所持ポイントを聞くなんて真っ平ごめんだ。
「それと検討していた資料室の方ですが社員が持っているIDカードがないと入れない仕様でした。」
『やっぱそう簡単には入れないかぁ。』
「正直、今日の進展は望めないと思います。ここは一度アジトに戻った方が良いですか?」
『引き際とかの見極めは海くんに一任しているから任せるよ。でも平然を装い自然体で居ると案外気付かれないものらしいけど…うおっ!ペカった!』
「…沙花叉さん本当に僕の付近に居るんですよね?」
『えっ⁉︎うん大丈夫!大丈夫!ちゃんとホールに居るから!あっすみませ〜ん!箱お願いします!』
「本当に居るんですよね⁉︎」
『じゃ沙花叉こっから忙しいから!』
「えっ!あっちょっ!」
突然切られた電話により呆気に取られ僕の耳に入る一人分の足音。聞き覚えのある声がしたと同時に視線を後ろへと向けると工具箱を持ったAさんの姿があった。
「あっ。上山さん。」
「…Aさん。」
面接の際に担当してもらったスタッフの方。バイトである僕を何かと気にかけてくれており、「優秀な人材として花開けば本気で取りに行きます」っと笑顔を向けられた時には少しばかり背筋が凍ったのを思い出す。外堀でも掘られているのだろうか。
「作業の方は捗っていますか?」
「お蔭様で順調ですよ。今はひと段落ついたので一休みしている所です。Aさんは何をしているんですか?」
「実は上階の方でトラブルが有りまして…補修の作業に…。」
その為の工具箱か。
「…以前から思っていましたがAさんの仕事量、かなり多いですよね?」
「いやぁ恥ずかしながら現状人手が不足していまして、普段率先してくれる方々は今は窓ガラスに手一杯。」
「あぁ…窓ガラス…。」
「他のスタッフ方も自分の仕事から手が離せませんし…。」
すると何かを思い付いたのか僕の顔を見ながらとある提案をする。
「…もしかして今、手が空いていたりします?」
「えっ、一応空いてはいますけど…。」
「上山さんが宜しければ手伝って頂くことって…。」
色々とツッコミ所が有るのだろうが特に断る理由も思い付かない上に社員との良好な関係は築いて損はしないだろう。
「勿論構いませんよ。」
「本当ですか!助かります!」
「具体的に何をすれば良いですか?」
「まずは板材などを運んでほしいのでソレを取りに行きましょうか。私が案内します。」
「…壁に穴が空いてる。」
もうこの程度では驚かないぞ。
板材など使えそうな道具を一通り持ってきた僕らは上階へと上がり、例の現場である一室へと入る。真っ先に視界に入ったポッカリと空いた穴の向こう側に広がる青色の景色。
この付近だけやたらと風通りが良いと思っていたが、これが原因か。
「…ハハッぽっかりと空いちゃってまぁ…。」
…この人も苦労してるんだろうな。
顔は笑っているのに目が全然笑ってない姿を見てそう僕は感じる。
「…ところでAさん。」
「はい。何ですか?」
確かに壁に穴が空いているという一大事に意識が集中するのだろうが、僕は目線を変え、丁度Aさんが立つ横辺りを指差しながらとある質問をする。
「なんでタレントの方が正座させられているんですか?」
綺麗な正座をさせられているピンク色のパーカを着こなし、毛先が少し赤い人物。
テレビでの活躍を日頃から見てきた僕だからこそ hololive0期生メンバーであり、親しみを込め呼ばれている名は
「元凶です。」
「えっ?」
「壁に穴を開けた元凶です。」
「───そうですか。」
「は、はろ〜ぼ〜…」
もう深く考えるのは辞めよう。ここはこの場の空気感に流れるまま、流れるままに…。
「さっ。作業を始めましょうか。一旦は木材での補強で。」
「ま、待ってよ!えーちゃん!」
作業をし始めようとするAさんを遮るように言葉を投げ掛けるロボ子さんはどうやら弁明したい様子だ。
「…なんですか?ロボ子さん?」
「い、いや確かに穴を開けたのはボクだけど!これには事情が!」
「ギルティ。」
「未だ何も聞いてないよね⁉︎」
必死そうに何かを伝えようとするものの取り合ってくれない姿は少しばかり可哀想に思えてしまう。
「え、Aさん。少しぐらい話を聞いてあげても…。」
「上山さん。」
するとAさんは僕の肩にポンと手を置きながらとある事を伝えた。
「彼女たちを甘やかしてはいけません。カフェラテ位の甘さで接するのが最適なんです。」
「…あれ?それ結構甘めなんじゃ…。」
「
「もっと甘くしてどうするんですか。そんな甘々だったら胃もたれしちゃいますよ。」
「…今なんて言いました?」
「うぇ?早起きは三文の徳の三文は大体150円ぐらい?」
「柚子胡椒にコショウは入ってないって所ですか?」
二人ともそんな事絶対言ってない。
「いやさっき海君って…。何故僕の名前を知っているんですか?」
「あぁ、そんな事…。」
ロボ子さんは少し考える素振りを見せたと思えばとある事を語り始めた。
「え〜っと本名、上山海、歳は16歳。以前はこの街周辺に住んではいたものの進学先の関係上、一人暮らしを余儀なくされた。家賃などは学校側が少し負担してくれてるのかな?嘘をつくのと人との会話をするのは苦手な方で、それと寝る時に体が少し上に上がる癖があり、好きな食べ物はオムライs」
「待て待て待てっ!怖い!怖い!怖い!」
「えーちゃんも今日は5時間しか眠れていないよね?」
「よく分かりましたね。まぁ今日は何処かの誰かさんのお陰で更に睡眠時間が削られそうですがね?」
「スイマセン。」
…なんでだろう。ロボ子さんがとても小さく見える。
しかしながら流石と言ったところ。
鷹嶺さんから事前に言われていたhololive内で注意すべき事柄に逸れている「一部のタレントへの過度な接触」。
一部に該当する人物であるロボ子さんの流暢に語られた僕の素性は情報戦において優位に立てるアドバンテージを所持している事を物語っていた。
なんせ彼女は───
ロボットなのだから。
「あっ。左腕取れちゃった。」
自称高性能を謳う彼女の底は予想が付かない。総帥たちが警戒するのも無理はないだろう。
「それにしても…一眼見ただけで私の睡眠時間を言い立てるのは凄いですねぇ。圧巻です。」
「まぁボクはロボットだからね。人の顔とか仕草を見ればある程度の体調の状態や癖なら把握出来るし、覚えた事は基本忘れないから。うみ君の素性とかはすいちゃんから聞いたヤツかな。」
…絶対有る事無い事言われてそう。
「確かに履歴書で確認しましたが出身はすいせいさんと同じですね。」
「それなりに親しい関係だったの?」
「まぁ友人との関わりが深い人だったのでそれなりには。」
「友人?もしかして───。」
何かを伝えようとしたタイミングで鳴り響くAさんの携帯の通知音。内容を確認したと同時に少し複雑そうな表情を見せる。
「…すみません。別途の仕事が入ってしまったので一旦席を外します。作業の方は…全然進んでいませんが一度止めてもらって大丈夫ですのでそちらの椅子で休憩していてください。」
「じゃ、じゃあボクもぉ〜…。」
「ロボ子さんはそのままです。」
「はいっ!」
以前正座を強いられるロボ子さんを後ろ目にAさんは設置されているデスクへと向かう。部屋には3人居るものの、対面するタレントとバイトというなんとも形容し難い空気感が一室に漂っていた。
「…えっと、ロボ子さん。」
この空気感をなんとかしようと重い口を先に開いたのは僕であった。
「ん?なに?」
「ロボ子さんは僕の事、どれほど知っているんですか?」
やはり気になるのは自分とholoxの関係性を知っているか。
「ん〜…。数量で表すってのは難しいなぁ。別にボクは全知全能ってわけではないし知覚しないと把握出来ないってのは君もボクも一緒だよ。」
「…そうですか。」
もしもを危惧していたがその言葉に安心…
「───でもね?」
「…っ。」
「ここ数年のうち、急に君の詳細がぽっかりと抜けてる箇所が幾つかあるんだよ。まるで後から塗り潰されてるかのように。」
「…。」
「だから個人的に君に興味はあるんだよ?」
過剰な接触はよせという意味がようやく分かった。言わば僕は歩くの情報源、一挙手一投足でholoxの情報が筒抜けになる可能性があるという事。
ぽっかりと抜けてる箇所はholoxで活動している時のモノだろう。きっと博士の配慮の賜物だ。そう思いながらも一刻も早く話題の変更をする為に僕は行動した。
「そ、そんな事よりもさっき言いびれた壁を壊してしまった事情っていうのは?」
「えっ?」
「ほ、ほら!僕が共感してロボ子さんの肩を持てばAさんだって分かってくれるかもそれませんし!」
「…共感してくれるの?」
「僕の守備範囲なめないでください。まずは経緯から教えてもらっても?」
「…ボク、室内の空気を一度入れ替えようと思ってね?」
「はいっ!思いまして!」
「窓に手をかけて開けようとして。」
「開けようとして!」
「左手で窓を持ったら。」
「たら!」
「ロケットパンチ出ちゃった。」
「出ちゃっt」
ん?
「…すみません。もう一度流れ聞いても良いですか?」
「えっと暑いから窓を開けようとして。」
「はい。」
「左腕で開けようとしたら。」
「はい。」
「ロケットパンチ出ちゃった!」
??????
えっ。どう共感すれば良いの?
「ろ、ロケットパンチって僕的には必殺技ポジションという認識なんですが…。そうぽろって出るモノなんですか?」
「そうしない為に普段は指定した動きで作動するよう組み込んだんだけど。」
「コマンド的なアレですか?」
「コマンド的なソレ。」
「因みにどんな動きが設定されているんです?」
「えっとねぇ。腕を前に出して何かを握った時かな?」
「いや普段頻繁に使う動作をコマンドにしてどうするんですか⁉︎」
「だって忘れたら大変じゃんかっ!」
「浅はか!携帯のパスワードが四桁全部同じ数字ぐらい浅はか!さっき覚えた事は基本忘れないって言ってませんでした⁉︎」
「メモリー気になって夜も眠れないなんてやでしょ!」
「そんなロボット事情知りませんよ!というかその動作握手したら作動しますよね⁉︎善意の気持ちで手を握ったら相手の手が吹っ飛んで来たって意味が分かりませんよ⁉︎」
「その相手は絶対忘れないでしょ?この腕をお前に預ける的な?」
「預けられた側絶対困惑しますよ⁉︎赤髪のシャン◯スかなんかですか⁉︎もはや呪いのそれですって!」
そんな戸惑いを露わにする僕を見たからか、部屋に一人の笑い声が響き渡った。
「ろ、ロボ子さん?」
「はぁ〜ご、ごめん!君の反応がつい面白くて。いじり甲斐があるねぇ?」
「…あまり嬉しくないんですけど?」
「んー?良いことだと思うよ?ボクは。」
なんとも言えないむず痒さが僕を襲う。
「さっ。そろそろえーちゃんも戻ってくるだろうし、補強作業ボクも手伝おうかなぁ。」
そう言いながら正座を崩し、立ち上がる。
「にしても暑いねぇ?」
「…まぁ今日は猛暑日って言われてますからね。」
「ロボットのボクでも流石にショートしちゃうよ。クーラーでも付けよっか?」
「出来ればお願いします。」
ロボ子さんは机の上に置かれたクーラーのリモコンを握り腕を前に出す。
───あれ?
「ロボ子さん!まっt」
「えっ?」
僕が口を開いた刹那、物凄い風圧の後、パラパラと落ちてくるクーラーだったモノの破片。そして壁に突き刺さったロボ子さんの左腕。
「…あっ。」
瞬間背後から感じた凄まじい圧。
振り返りると立っていたのは目が光の反射でレンズにより隠されたAさんの姿。
「…ロボ子さん?」
「ひっ!え、えーちゃん?」
「…すみません。飲み物買ってきます。」
「どうぞ。出来れば10分ほど。」
「ま、まってうみ君!きょ、共感は!」
「…麦わら帽子が似合う男になってからですかね?」
「だからシャ◯クスじゃないって!作品全然違うって!」
後ろから何か聞こえた様な気がしたが僕は扉を開け、自販機へ向かった。
カラオケに行くと毎回ハモってくれる友人が居るんですが、以前なんでそんなにハモるのか聞いてみたら
「お前は今までハモった曲数を覚えているのか?」
って返されてなんか別の意味で悪の帝王が誕生した瞬間を目の当たりした気分です。
DIOじゃなくてDUOなんかい。