秘密結社のバイトの日常   作:ライ麦小麦

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2人合わせてmiComet (feat やぎにぐ。)

 

 

 

「…なんか焦げ臭くないですか?」

 

「…言われてみれば?」

 

 

壁の補修後、穴の空いた部屋を離れた僕とAさんが共に廊下を歩いていると、ふと鼻に入り込んだ何かを焼いているような匂い。香りの元を探ろうと匂いを頼りに辿り着いたとある一室。Aさんは躊躇う事なくドアノブを握り、一室の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

「…にぇ?」

 

 

一難去ってまた一難。

 

何故か部屋の真ん中で七輪で焼肉を焼くhololiveのタレントさくらみこさんの姿が目に入った。面接の際に偶然出会い、白熱した手に汗握るあの戦いは今でも忘れない。

 

 

「おっ!うみくん久しぶり〜。」

 

「…ご無沙汰してます。」

 

 

しかし今、そんな事を考えてる暇はではないだろう。

横に立つAさんから只ならぬオーラを感じる。先程から僕の冷や汗と鳥肌が止まらないのはまごうことなき隣の方の所為だ。

 

 

「みこさん。」

 

「は、はいっ!」

 

「毎回言ってますよね?焼肉は七輪じゃなくてホットプレートでやってください、と。」

 

「えっ?そこ?」

 

 

問題だったの焼く道具の方だった。

 

 

「社内で七輪を使うと火災探知機が作動しかねません。」

 

「い、一応換気はしてるよ?」

 

「社内でやることに問題が有るんです。あと私の分も残しておいてください。カルビ有りますか?」

 

 

…割り切っているというか多分半分は諦めているんだろうな、この人。一人で対処しきるには限界があるんだろうし。

 

 

「で、でも案を出したのはみこじゃ!」

 

「───主犯は…まぁだいたい想像できます。後でいろいろ言っときますので火傷等には気を付けてください。申し訳ないんですが上山さん。()()()()を見張ってもらっても大丈夫ですか?」

 

「えっ?僕がですか?」

 

「私は未だ仕事が残っていますので。それともこの後予定でも?」

 

「あっ、いや。そういうわけじゃ…。」

 

 

監視の無い中、タレントの方と二人だけとなれば相応のリスクが生じる。その可能性も視野に入れている人である事は十分に理解出来るが故の疑問符を浮かべていると何かを察したのかAさんが口を開く。

 

 

「…あぁ成程。付近には警備員の方も控えてますし、これから来る人との関係性を考えるとまぁ大丈夫かと。」

 

「これから来る人?」

 

「来たら分かります。みこさんも構いませんか?」

 

「みこは全然良いよ~。うみくんの分も有るわけだし。」

 

「本人もそう言ってますし。何かありましたらそこにある受話器の内線を使ってください。」

 

 

そう必要最低限の事だけを伝え、部屋を後にしたAさん。

もくもくと焚かれる七輪の煙の方へと歩き出し、周りに置かれた焼肉道具を凝視する。

 

 

「…なんというか随分本格的ですね?」

 

「ん?あぁあいつ、焼肉にこだわりあるからにぇ。うみくん何飲む?お茶かオレンジジュースしかないけど。」

 

「すみません。お茶をお願いします。」

 

 

そこそこ値段のしそうな道具やらを見るとこだわりがあるという言葉も納得がいく。用意された肉の部位も目を見張るものがある。

 

 

「というかなんで社内で焼肉を?」

 

「いやぁほら。みこたちアイドルでしょ?個室の店探したり予約したりが大変でさ。どうせなら楽な社内でやっちゃおうってのが魂胆よ!」

 

「…えぇ。」

 

 

…僕、今度Aさんに会ったら缶コーヒーでも買ってあげよう。

 

 

「というか!みこお腹空いたし、もう焼いちゃおうか!」

 

「あれ?でももう一人の方が…。」

 

「さっきビルの入り口に着いたって連絡してきたしもうちょいで来るでしょ。うみくんは何から食べたい?」

 

 

…確かある程度七輪の網に焼き目を入れた方が美味しいと聞いたことがあるし、先に食べた方が良いのか?いやいいに決まってる。僕の腹の虫がそう言ってる!

 

 

「ほれほれ!お主は何から食べたい!」

 

「みこさんノリノリですね。」

 

「そりゃあやぎにぐやで⁉︎テンション上げてかないと!さっ!何から焼く⁉︎」

 

「やっぱまずは王道のタn」

 

 

そんな僕の要望を遮るかのように開かれた背後の扉。

そしてこの時、僕はようやくAさんが言っていた言葉を理解した。

 

 

「いやぁ…お気に入りのジュース売り切れちゃってて…探すのに苦労したよ。」

 

「おせーよ!()()()()()!もうみこのお腹ぺこぺこだっての!」

 

「ごめんごめん。代わりにこれ買っt」

 

 

瞬間、僕の存在に気付いたからから声の主の言葉が止まる。お互いの目線が合い、少しの静寂が訪れた。

 

 

「…も、もしかしてもう一人の方って。」

 

「にぇ?そりゃあ皆さんご存知()()()()()()さんですぜ!」

 

 

誤算だ。

そりゃあ職場なのだから通っていたらいつかは会うに決まってる。逆に今まで合わなかったのが奇跡なぐらいだ。ただみこさんと焼肉をやる関係など知りもしなかった。

 

正直、星街先輩には悪いが今は時期が悪い。ボロが出ない内に此処はどうにかしてこの部屋から出たいところ。

 

 

「あっ…あはは…それじゃあ人数も揃ったということで僕はこの辺で…。」

 

「えっ?タンは?タン食べたいんじゃなかったの?」

 

「自分のタンに信用が出来ないんです!」

 

「いや別にうみくんのタンは食べないよ⁉︎みこをなんだと思ってるの⁉︎」

 

 

星街先輩のたつ横をそろーりと抜け出そうとしたが、買い物袋を持つ手で出口を塞がれてしまう。

 

 

「…海君。一緒に焼肉食べよっか?」

 

「ハイ。」

 

 

 


 

 

 

 

「…へぇ夏の期間だけ短期バイトねぇ。」

 

「お金が欲しくて…。」

 

「前に言ってたバイトは嘘ってこと?」

 

「嘘ではなくて掛け持ちって感じです。はい…。」

 

「…まぁでも先輩に会いたいが為に後輩が法を犯したかと思ってびっくりしちゃったよ。」

 

「あっ、いや別に星街先輩に会いたいから応募した訳じ」

 

「んっ?」

 

「…ホシマチセンパイニアイタカッタデス。」

 

「よし合格。」

 

 

くそ。悔しいけどこの人には恩義やらなんやらで逆らえないが故に、星街先輩に向けられた携帯のカメラレンズを見ながら歯を噛み締める。

 

 

「あ、すいちゃんが後輩いびりしてる。」

 

「まぁ私先輩ですから。」

 

「先輩って肩書きそんなに大事なの?」

 

「みこちは分かってないなぁ。後輩に慕われる先輩という甘美な響きの良さときたら。」

 

「…いやぁあの目は慕ってるのかなぁ?」

 

 

そう言いながら僕の方を凝視するみこさん。慕っているっていうのは間違ってはないけどこういう形のものはお望みじゃない。

 

 

「まっ。詳しい事は後で聞くとして今は焼肉と向き合いましょうか。」

 

「やぎにぐ!」

 

 

すると星街先輩は机の上に置かれていた二つのトングを両手に持ち、片方を僕へと渡しながらとある事を聞いてきた。

 

 

「…海君。私が教えた事は未だ覚えている?」

 

「初めは薄味のタンから。火の通りが早い為、気持ち軽めで。」

 

「ロースやカルビは?」

 

「ロースはタン塩同様火の通りが早いので炙る様な焼き方。カルビは焼き具合の配合をしっかりと把握。」

 

「ホルモンなど。」

 

「強火でカリッと。部位などで焼き方は変わってきますが一番大事な心得は焼き方などのこだわりを押し付けず、焼肉は食材に感謝を込めて皆んなで楽しむモノであるべし。」

 

「…ふっ、衰えてないね。」

 

「誰から学んだと思ってるんですか。」

 

「…二人とも何してるの?」

 

 

互いの手ががっしりと掴まれ、トング片手に持つ。

 

 

「…いや本当に何してるの?」

 

「みこさんはお皿の準備を。」

 

「みこち。タレは用意した?」

 

「にぇ?いやまぁ用意してるけど…。」

 

 

瞬間、僕らは行動に移す。

テーブルに置かれたタンを見事とも言えるコンビネーションで網へとのせ完成した完璧とも呼べる焼き加減のソレをみこさんの皿へと渡した。

 

 

はっっっや⁉︎なにその技術!どこで身に付けてきたんだよ!」

 

「あっ。もしかしてみこさんはネギ塩付けて食べる派でしたか?」

 

「…すいちゃん野菜苦手。みこちも合わせて。」

 

 

星街先輩やholoXとの焼肉なら何度か経験があるがそれ以外となるとみこさんが初めてかもしれない。そういえばholoXの時に披露した際、総帥や鷹嶺さんはみこさんと同じ反応をしていたな。

 

 

「海君、料理は下手だけど焼肉を焼くのは上手くなったよねぇ。」

 

「星街先輩から焼肉の焼き方上手い奴はモテるって聞いてめっちゃ頑張りましたから。」

 

「星街家式、焼肉スタイル免許皆伝者。」

 

「いやモテる為の要素とかだったら焼肉の焼き方以外で沢山あると思うよ⁉︎若干すいちゃんに騙されてない⁉︎」

 

「えっ?星街先輩、僕を騙していたんですか?」

 

「ダマシテナイヨー。」

 

「騙してないらしいです。」

 

「純粋過ぎんだよおめーーは!もうちょい人を疑うぐらいしろよっ!」

 

「流石は我が後輩、器の大きさが違いますわ。みこちも見習ったら?」

 

「あんだぉ!みこが小さいとでも言いたいのか!言っとくけどすいちゃんよりはデカいからな!」

 

「…おい今何処見ながら言った。」

 

「毎回焼肉ばっか食べて体重増えてダンスに影響が出てもみこ知らないからな!」

 

「みこちこそ行きつけのお店でコッソリチーズバーガーを二個も頬張って。最近お腹周りが増えたんじゃないの?よっ、ぷにち。」

 

「誰がぷにちだ!」

 

「…あっすみません。お二人とも次何食べますか?」

 

 

 

 

 

「「タン!」」

 

 

 

 

 

「レモンもかけときますね。」

 

 

近所に迷惑のかからない程のボリュームで言い争いをする二人を横目に頼まれた部位を平然と焼いていく。

机の上に乗せられたお肉を焼きながら僕は双方へとある質問をした。

 

 

「お二人って仲が良いんですか?」

 

「にぇっ?いやまぁ同じ高校だし、それなりに…。」

 

「事務所も一緒となると否が応でも関わりが深くなるからね。」

 

「うみくん、否が応でもってなに?」

 

「魔王の親戚みたいなもんです。あっ、これ焼き上がりました。」

 

「はへー。うみくんありがと〜。」

 

「みこち、あ〜ん。」

 

あっちゅ!おめー焼きたてを口へダイレクトに入れる奴が居るか!」

 

「美味しい?」

 

「美味しい!」

 

 

網の上に乗せられたお肉をトングでひっくり返しながら二人のやり取りを観ていると何故だか総帥と風真さんを思い出す。

 

 

「あっ。そういえば星街先輩。」

 

「おん?なにさ?」

 

「高校入ったら部活やるって意気込んでいましたけど。何か良いところは見つかったんですか?」

 

「いや〜それがさぁ。ピンと来るものが今の所なくて。すいちゃん的には目新しさが欲しいようなそうでない様なぁ…。」

 

「因みにみこも入部してない!」

 

「みこさんはやりたい部活動とか無いんですか?」

 

「う〜ん。やりたい事といっても特には…。みこはすいちゃんと居るのが一番楽しいからなぁ。」

 

「…星街先輩、あの人あれ素で言ってるんですか?だとしたら半端ないですね。」

 

「でしょ?すいちゃんのお気に入り。」

 

「…あんだぉ。」

 

 

間髪なくハッキリとそういう言葉を言う純粋な性格。星街先輩が気にいるのも無理はないと思っているとお返しのように僕へ同じ系統の質問を投げかけられた。

 

 

「そういう海君こそどうなんよ?部活動の方は。」

 

「そりゃあ楽しいですよ。ゲーム同好会。この前の文化祭なんてメイドカフェでマヨネーズASMR聴きながらラーメン食べさせるってやつやりましたもん。」

 

「…まってすいちゃんの耳に一回もゲームとメイド要素無かったけど?」

 

「ラーメン美味しそう!」

 

「えっみこちにとって重要なのそこ?」

 

 

ふと忘れようとしても思い出してしまう口の中で広がった血の味。痛くもないはずの体から纏わりつくような謎の不快感が押し寄せながらも、僕は頭をふり、少しだけ自分を落ち着かせる。

 

 

「というかゲーム同好会ならみこたちの所にも似たようなのあったよにぇ?」

 

「ん?あぁ4人組のやつね。」

 

「えぇっとなんだっけ?」

 

 

みこさんは腕を組み、首を傾げながら頭の中の記憶を呼び起こそうと必死な姿を見せる。

 

 

「げ、ゲー。」

 

「「げっ?」」

 

「ゲー、ゲーマー……わがんない!

 

 

わがんないならしょうがない。

 

 

「すいちゃんもそういう同好会が有るって事しか分からないなぁ。誰が入部してるかとかの詳細は知らないのよね。」

 

 

星街先輩の通う場所は所謂マンモス校、部活や同好会の数は計り知れない為その全てを把握するのは至難故、二人の素振りはなんら不思議ではないのだろう。

 

しかし最近の部活動のマンネリ化は否めないが故に少し変わり映えが必要だとこの前部長が呟いていたな。…他校との交流も視野に入れてみるか?

 

 

「───あっ星街先輩。カルビはAさんが食べるので何枚か残してください。」

 

「…もしかしてAちゃんにバレてた?」

 

「後で話があるって言ってました。」

 

「…はい。」

 

「ほら星街!ピーマン食べるか!」

 

食べない!

 

 

 


 

 

気が付けば外は暗く時計の針は9時頃を指していた。

用事があるとみこさんの方は一足先に帰宅、星街さんの方というと絶賛Aさんからお叱りを受けているとの事だ。

 

僕はというと焼肉の余韻に浸りながらも見ていたのは携帯に送られた「迎えにきたでござる」っという風真さんからのメッセージ。付近に居るとの事で辺りを見渡してみると、向かいの道に手を振る人影。

 

近づくにつれ見え始めたシルエットに少しばかりの僕は安堵した。

 

 

「お疲れ様。海殿。」

 

「お迎えありがとうございます。風真さん。」

 

「ん?なんか焼肉の様な臭い?」

 

「…気のせいだと思います。」

 

 

誤魔化しながらも風真さんの方へ視線を向けると何やら片手に持たれた大きなモゾモゾと動く風呂敷。

 

 

「…一応聞きますけど、袋の中身は?」

 

「仕事をサボってたスロ叉でござる。」

 

「あまり深くは触れませんね。それと風真さん、今更ですが迎えに来なくても良かったんですよ?アジトから此処まで来るの大変でしたよね?」

 

「こんな暗い中一人で帰らせるなって!ってルイ姉に頼まれたでござるよ。」

 

「…おふくろ?」

 

 

…そうは言っているものの隠しきれていない手に握られた色紙を見る辺り、こっちの方がお目当てなのだろう。

 

 

「そういえば風真さんはhololiveの箱推しでしたよね?中でも星街すいせいさんを推しているとか。」

 

「よく覚えているでござるな。」

 

「機会があればですけどタレントの方のサイン、貰ってきましょうか?」

 

「えっ⁉︎良いの⁉︎」

 

「了承されるかは分かりませんが頼むだけ頼んでみます。」

 

 

僕の提案を聞き、機嫌が良くなったのか手に持っている袋をブンブンと振り回していた。偶に聴こえてくる「ぽえっ」っと言う声は幻聴に違いない。

 

 

「むふー!貰えたら肌身離さず生活するでござる!お風呂場にも持っていく!」

 

「それふやけません?」

 

 

喜ぶ風真さんの横顔を見ながら僕らは帰路を辿った。

 

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