秘密結社のバイトの日常   作:ライ麦小麦

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友人Aさん、7年間お疲れ様でした。


欲望の開放のさせ方が下手すぎるお侍。

 

 

「…て事で今回の議題を担当する風真いろはでござる!」

 

 

メンバーの中から抽選で選ばれた一人が世界征服に向けて何かしらの案を出すという突発的な恒例行事。

 

第何回目なのか既に数えられていないこの行事は会議程の堅苦しさは無く「こんなんやったら面白そうじゃね?」的なノリの談笑会の様なモノで参加自体は自由であった。現に今回の参加者は風真さんと総帥、そして僕を合わせての3人のみ。

 

まぁ神聖なる会議という題目の中でも「餃子を生物化」なんて案が出るのだからこの二つを比べてもあまり大差は無いのだろう。

 

 

「…この大喜利行事っていつまで続くんですか?」

 

「大喜利言うな。これも親睦を深める為の吾輩考案の大事なイベントなんだぞ?」

 

 

前回の議題担当者は沙花叉さん。

「粒餡、本当は潰してこし餡にして欲しいと思ってる説で世界征服」で案と餡をかけたそうだが場の空気にやられてしまったのか翌日、沙花叉さんは2日部屋に篭らせてしまうという親睦を深めるどころか相手に一生の深手を負わせる始末だ。

 

 

「…前回の沙花叉さんは気の毒でしたね。」

 

「ピンとこない侍の為にこよりが説明に入った時はもう吾輩泣きそうだったよ。」

 

「何のことでござるか?」

 

「無自覚っていうのがまたやるせないですね…。」

 

「まぁ話の脱線もここまでにして…それで?侍は今回どんな議題を持ってきたんだ?」

 

「説明でござったな。…っとその前に海殿のコップ空になってるね。麦茶入れてあげるでござるよ。」

 

「あっお気遣いありがとうございます。」

 

 

未だ溶けきっていない数個の氷が入ったガラスコップを握り、机の上に置かれた麦茶を注ぐ風真さん。ヒンヤリとしたコップを受け取り、喉の渇いていた僕はすぐさま半分程喉へと流し込んだ。

 

 

「それじゃあ今回の議題でござるけど、ズバリ癒しで世界征服!」

 

「癒しで世界征服ですか?」

 

「あまりピンと来てないでござるな?海殿の人間性的にそうなると思いましてスライドショーをこよちゃんに頼んで作ってもらいました!」

 

「いつからここは僕の人格を否定しようの会に名前が変更されたんですか?悪かったですね捻くれてて。」

 

「捻くれてるとは認めているんだな。」

 

「他とは違うってポジティブに思ってるんで。」

 

「それではこちらのスクリーンをご覧ください!」

 

 

一つのボタン操作で動かされた投影機により映し出されるとある一枚の写真。

 

 

「えっ?博士?」

 

「吾輩のこより!」

 

「総帥のじゃないですよ?」

 

 

スクリーンいっぱいに表示されたのは僕らが見知った博士が満面の笑みでピースをしている写真だった。

 

 

「今回二人に注目して欲しいのはここ!」

 

 

っと言いながらアップされた部位は獣人特有の耳。世間ではケモ耳と呼ばれる箇所であり、一定数から人気がある事は知っている。その為か段々と今回の議題の全貌が見えてきた。

 

大方ケモ耳で気が緩んでる隙に世界政府的な感じなのではないのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「ケモ耳を生やすでござる。」

 

 

 

 

 

「「えっ?」」

 

「ケモ耳を生やすでござる。」

 

「「却下で。」」

 

「なんでぇ⁉︎」

 

 

コーラの時もそうだけどケモ耳生やすって何。

 

 

「いやだってそれ風真さんの私欲ですよね?それに世界征服に観点を置いたとしても向かない理由は幾つか有りますが大きな問題は共通認識の違いですよ。」

 

「皆んなが皆んな同じ趣味を持ってるて訳じゃないしな。因みに吾輩は結構好きだぞ。こよりとか。」

 

「もしかして海殿はケモ耳が嫌いなんでござるか?」

 

「嫌いって訳じゃないんです。博士の耳を見ていると触ってみたいという気持ちが無いって言ったら嘘になりますし。」

 

「うわぁ〜…。厄介オタクですよ。」

 

「…総帥、携帯のパスワードとアラーム音何に設定してましたっけ?」

 

「えっ?こよりの誕生日と同者の囁きASMR生ボイス。」

 

「…それ博士に許可貰ってるんですか?」

 

「───ノーコメントで。」

 

 

顔を逸らす辺り、何かしら都合の悪い事でもあるのだろう。

 

 

「そういえば風真さん。何か僕に言ってましたか?」

 

「なにも()()()()ないでござるよ。」

 

 

一瞬身体中に悪寒が走った様な気がするがクーラーの冷気で体が冷えでもしたのだろう。

 

 

「まぁでもやってみたいって事を発表するのがこの場の趣旨だしな。実行するかしないかは今はどうでも良いんだよね、吾輩的に。」

 

「確かにそれもそうですね。」

 

「侍。ケモ耳を生やすって言ってたけど何か手段とかはあるのか?もしかしてカチューシャとかの様な模造品を使う感じ?」

 

「そう!風真が一番に悩んだのはその点なんでござるよ!幾つものケモ耳を吸った風真にとっては模造品では満足出来ない…それを解消するにはやはり本物が欲しい…。」

 

「…なんか欲望に忠実になってきましたよ?」

 

「なんなら今すぐにでもラプ殿の角をへし折ってケモ耳を生やさせたい!」

 

「なんか凄い具体的になりましたよ!」

 

「おい今とんでもない事言わなかったか⁉︎ もうやだよ!誰だよあいつ雇ったの!」

 

「いやまぁ総帥っすね。」

 

「あっ、吾輩か。」

 

「そんな風真の願いを叶える為にも…実はこよちゃんにとある薬を開発してもらいました!」

 

 

そう言いながらポケットから無色の液体が入った試験管を取り出す。このタイミングで出された薬故、効能について大体は想像が付いた。

 

 

「獣化の薬!効果は言わずもがな!飲む量によって見た目の変化は変動するでござる!」

 

「本当あの博士どういう頭脳してるんですかね。」

 

「流石吾輩のこよりだ!」

 

「いやだから総帥のではないですよ?」

 

 

博士が以前、亜人などが溶け込む現代社会において僕ら世代になると純粋な人間である方が珍しいと呟いていた。

 

外見になんらかの特徴が現れずとも遺伝情報などはしっかりと受け継がれるとの学説を一晩中熱く語っていた事を踏まえると、仕組みなど詳細は分からないがあの薬はそれらをなんらかの作用で活性化でもさせるのだろうか。

 

 

「残念ながら今の所効き目があるのは地球人だけ。地球の外から来たラプ殿には効果がないでござるよ。」

 

 

憶測だが、薬の効果を制限したのも風真さんなら()()()()()()()()()()()()と危惧した博士が予防線を張る為なのだろう。

 

 

「…まぁでもそれだったら今目の前にぴったりな実験材料が居るじゃん。」

 

「…なんで僕の方を見るんですか?」

 

「吾輩、一度バイトにこよりの実験に売られた経験があるからな。腹いせに無理矢理飲ませるの手伝っても良いぞ?侍。」

 

 

こればかりは僕が蒔いてしまった種。

実際、僕が総帥を売ってしまったのは事実であるが故に無理矢理飲まされたとしても文句は言えない。しかし抵抗せずにやられる僕ではない。風真さんの返答次第では角の一本や二本ぐらいは質を取る気だ。

 

 

「───無理に飲ませるのは武士のすることではござらぬな。刻んだ心得を忘れる程風真は落魄れちゃござらん。」

 

 

しょんぼりとした少しトーンの落ちた声でそう言いながら身に纏う羽織りに薬を仕舞おうとする風真さん。そんな哀しげな姿は僕の心を痛めるのに十分過ぎる代物だ。

 

 

「……風真さん。」

 

しかぁし!それは以前までの風真いろは!」

 

「風真さん?」

 

 

なんか流れ変わったぞ。

 

 

「ひっそりとholoX全メンバーケモ耳化計画を企んでいる風真にとって手段を考えている暇は無い!」

 

「風真さん⁉︎」

 

「海殿が飲んだそのお茶!実は先程と同じ薬をほんのり入れていたのでござる!どうせみんな耳が生えるんだから遅かれ早かれでござるよ!」

 

「戻ってきて⁉︎僕らの風真さん!」

 

 

いつもと違う雰囲気の気迫により自分の鳥肌が一気に立った事を実感する。holoXの裏でその様な計画が進行している実体を知っている人はどれ程居るのだろうか。

 

 

「ふっふっふ〜!意外と用心深い海殿は味や臭いの変化に敏感っ!だからこそ無味無臭の薬を作ってもらい、氷で味が薄まったとでも言えばなんの変哲もないただの麦茶でござろう!」

 

「いや普通ケモ耳の為にそこまでしますか⁉︎」

 

「───武士には己の魂すらも賭けなればならぬ時があるでござるよ。」

 

「なんかかっこいい雰囲気で言ってますけど全然かっこよくないですからね⁉︎なんなら既に大事な武士の魂麦茶に入れた薬と一緒に溶かして失っちゃってますからね⁉︎博打も甚だしいですよ!」

 

「吾輩はかっこいいと思うぞ?」

 

「あ、あれ?な、なんか頭が痒くなってきたんですけど…。」

 

「そろそろでござるな。」

 

 

壁にかけられた時計を見ながらそう呟く風真さん。

次第に痒さとは違った形容し難い不快感が全身を襲う。

 

 

「な、何これ!なんか頭がムズムズする!」

 

「…まぁお前もそういう時期だよな。分かる。分かるぞ〜バイト。手が疼くんだよな?」

 

「なんか総帥に無性に腹が立ってきたのも薬が関係してるんですか?」

 

「全然関係ないでござるな。」

 

 

瞬間、頭部から今までに感じた事ない鋭い痛みが走る。

 

 

 

 

「───いっ!」

 

 

 

 

突然の衝撃に抗えず僕は頭を抑えながら床へ座り込む。

少しばかりボヤける視界と薄らと聞こえる二人の声、未だズキズキと痛みはするが少しばかり和らいできた。

 

フラつきながらも近くにあったテーブルを支えに立ち上がり、目線を二人の方へと向ける。

 

 

「…これ本当に体に害がないんですか?」

 

 

そんな疑問を投げかけてみたものの、何故だか二人と目線が合わない。何やら僕の頭上に行っている様だが。

 

 

「…お二方?僕の頭の上なんか見てどうしt…。」

 

 

普段なら自分の癖っ毛が手に絡みつくだけなのだが手に当たる普段感じないはずの柔らかい感触の凹凸。

総帥が気を利かしてくれたのか丁度近くに置かれていた手鏡を僕へと渡し、鏡に映し出された僕の姿を覗き込む。

 

 

「…なんすかこれ。」

 

「いやまぁ、十中八九あれだろ。」

 

「…。」

 

「でも良かったですね風真さん。この薬本物ですよ?」

 

 

そう、確かに僕の頭には薬の効果であろう耳は生えてはいた。

飲む量で見た目への影響度は変わってくると言っていたが少量ならばこの程度なのだろう。

 

 

「…違う。」

 

 

ポツリと呟きながら拳を握り、プルプルと震え出す風真さん。僕の肩を掴むやいなや自身の思いを包み隠さずぶつけだした。

 

 

 

 

 

 

 

風真が吸いたかったのは()()()()じゃないっ!

 

 

 

 

 

血涙のような物を流しながら放たれた言葉通り、僕の頭に生えてきたのはもふもふとしたケモ耳ではなく、ふわふわなパンの耳だった。

 

 

「おぉ、綺麗に耳の形をしてるなぁ。バイト、そのパン食べて良い?」

 

「なんで人の頭に生えたやつ食べたいと思うんですか?まぁ僕も人のこと言えたもんじゃないですけど。」

 

「いやどうして二人とも平然としてられるでござるかっ⁉︎頭にパンの耳が生えたんでござるよ⁉︎なんかもっとこう…リアクションが!」

 

「まぁコーラ咲かせるぐらいの科学力ですし、最近頭にキノコ生えてた人もいるのでこの位が普通なのかなって。遺伝がなんたらって言ってましたし僕のご先祖様は愛と勇気だけが友達の方か、パン工場のおじさんだったんじゃないですか?」

 

「あれぇ⁉︎やっぱ風真がおかしいの⁉︎」

 

「良いじゃないですか。パンの耳もケモ耳も似たようなもんですよ。」

 

「ベクトルの大きさが一緒でも向きは全然違うでござるから!」

 

「んっ!うぉっ!うんまっ!バイトのパンの耳!」

 

「えっ?って、あぁあっ!片方食われてるっ!」

 

 

総帥の手に握られた頭部に生えていたはずのパンの耳。痛みなどは無いがなんと言えない喪失感を感じながらももう片方を目一杯手で覆い隠した。

 

 

「侍もどうだ?結構いけるぞ?」

 

「えっ?じゃ、じゃあ風真も…。」

 

「あれ⁉︎ケモ耳はどうしたんですか⁉︎」

 

「実は風真も小腹が空いてきたんでござるよ。」

 

 

ジリジリとお腹を空かせた二人が僕の耳を狙いに歩み寄る。短い付き合いだが自身の耳に愛着なようなモノが既に湧いていた。一つだけでも守りたいという思いは無駄にしてはいけない。

 

 

「いや待ってください風真さん!見た感じ僕のパンは食パンの耳だと思うんです!」

 

 

自分で言ってなんだけど、言葉の並びがもう訳がわからない。

 

 

「総帥の角、なんかクロワッサンみたいじゃないですか?」

 

「誰の角がコルネットだっ!」

 

「多分出来上がるのはサクサクっとした美味しいパンの耳に違いませんって!」

 

「いや待て食パンの耳も十分美味いだろ!」

 

「僕はクロワッサンの方が好きなんですよ!」

 

「もうそれバイト個人の感想じゃん!」

 

「サクサク…美味しい…クロワッサァ〜ン…。」

 

「お、おい侍?なんだその目…あとなんだよその薬…そ、それ吾輩に効かないんじゃないのか?」

 

「試してみないと分からないでござろぉ!」

 

「いやこっち来るなよ!吾輩、主人だぞ⁉︎用心棒にとって魂みたいなもんだろ!」

 

「───武士には己の魂すらも賭けなればならぬ時があるでござるよ。」

 

もしかしてそれ言っとけばなんとかなると思ってる⁉︎

 

 

ギャーギャー騒ぐ二人を横目にふと手鏡を持っている方の掌から違和感を感じる。持ち手部分を凝視してみると10文字ほどの字が書かれた一切れの紙がテープで貼られていた。

見た所、書かれている文字は博士の字。

 

自身の気持ちが簡潔に書かれた内容を読み、風真さんの方へと目線を変えた。

 

 

「───吸われる側も満更じゃなかったんですね。」

 

 

意図的にパンの耳が生える薬と変えた辺り、博士も嫉妬の様な感情を抱いたのだろう。

 

 

「なんか言ったでござるか?海殿。」

 

「いえ、何も。風真さんも罪な人ですね。」

 

「んっ?」

 

「ケモ耳の良さが海殿には分からないん

でござるか人と獣の耳のコンビを言い表すのならば

お米とお味噌汁ピザとコ一ラ!照合の相性の抜群さは

偶然とは言い難い亜人に生えた繊細かつ柔らかく綺麗

な動物特有のあのふわふわした可愛らしいお耳!

外的に見せる表情とは裏腹に感情に正直なぴこぴこと

動くギャップの破壊力!癒しの最高峰と言っても過言

ではないそれらは目の保養どころかその風景だけで

風真ならご飯3杯ぐらいは食べれるでござるよ!

視覚で楽しみ触感で愛でそして臭覚で体をケモ耳

の成分で満たす!風真が命名したケモ耳の幸せ

スパイラルを体感してないなんて勿体無い!

さぁ海殿も一緒に永遠の幸せスパイラルの世界へ

飛び立とう!そして共に風真がこっそりと企んでいる

全holoXメンバ一ケモ耳化計画を成し遂げるでごさるよ!

勿論、成功した暁にはそれ相応のケモ耳成分を」





なめこ
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