秘密結社のバイトの日常   作:ライ麦小麦

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押入れ中には夢がいっぱい詰まっている。

 

 

 

携帯で確認した天気予報によると本日は今年一の猛暑日になるとの事。現代の力であるクーラーに頼りたい所ではあるが電気代の明細書を確認するのが怖くなる。故の僕らの味方、扇風機先輩だ。

 

 

「なぁ博士。もうちょい横行ってくれない?」

 

「ラプちゃんこそ左によってよ。」

 

「…2人に挟まれて暑っ苦しいんですけど。」

 

 

「扇風機を誰が使うか」をかけたじゃんけんにて勝利を手にした僕であったが、風のおこぼれを狙おうと両サイドを陣取る総帥と博士。グイグイと当たる角の先やモフモフな尻尾、正直居心地がとても悪い。

 

 

だあぁああ!角やら尻尾がなんか凄い邪魔!」

 

「なっ!こよの尻尾を邪魔モノ扱いなんて!」

 

「おま!吾輩のこよりを悲しませやがって!このモフモフの良さが分からないのか!」

 

「そうだっ!そうだっ!こちとら毎日欠かさずケアしてるんだぞ!」

 

「大事なこよりの尻尾を邪魔と言われ黙ってる程吾輩はお人好しではない!このデリカシー無し男!」

 

「デリカシー無し男?」

 

「こより。お前の日々の努力は吾輩がしっっかり見てる。今日のお前は一段と可愛く見えるぞ。」

 

「───ラプちゃん。」

 

「───こより。」

 

「僕を間に挟みながらイチャイチャして室温上げんのやめてくれません⁉︎ただでさえこの部屋暑いんですからっ!」

 

「というかラプちゃん。いつも見てるってどうやって?尻尾のケアとかは他人にあまり見せていないのに。」

 

「いやこよりの部屋に置いてるカメラで……。」

 

「「えっ?」」

 

「えっ?」

 

 

総帥のとんでもない発言から変な雰囲気になりながらも、さらにギュウギュウと詰め寄られ、蒸し暑さに耐えきれず2人の間から颯爽と抜け出す。

 

 

「……あぁもう。扇風機は2人で使ってください。」

 

「扇風機の場所取りから身を引くような奴はたかが知れてるぞ?だからバイトは好きな女にも振られんだよ。」

 

「コンセントぶっこ抜きますよ?」

 

「すんませんでした。」

 

「……僕は台所に行ってアイスでも食べて来ます。」

 

「あっ。吾輩抹茶のヤツで。」

 

「僕はいちごで!」

 

「棒だけ持ってこようかな?」

 

 

家主である僕が扇風機まで取られ、ついでにと言わんばかりの2人の注文。それに従うのはなんだか癪に障る。ここは1発仕返しをするべきだろうか。

 

アレやこれやと何をするか考えている内にお目当ての冷蔵庫へ着くや否や2段目の冷凍庫を開け、箱詰めされたアイスキャンディーを一本取り出し袋を破り捨て、口へと運ぶ。

 

何か食べれば頭が冴えると思っていたが一向に悪戯の内容が浮かばない。やはり性に合わない事はするべきではないと結論づけた。

 

 

「そういえば総帥と博士はなんで僕の家に来たんですか?アジトの方が涼しさで言うと絶対幾分かマシですよね?」

 

「んっ?いやまぁそうなんだけどさ。今日はバイトに渡すもんがあってな。」

 

「僕にですか?」

 

「そそっ。博士、あれお願い。」

 

「ほいさ。」

 

 

総帥の合図と共に机に置かれた二つのもの。

一つはよく見るパソコンなどに差し込むUSBメモリー、もう一つは用途の分からないコインの形状をした黒い小さな機械。見た目が近いモノで例えると囲碁の碁石だ。

 

 

「渡すものってこの2つですか?」

 

「おう。まぁ厳密にはもう一つあるがそれは後々。じゃ博士、後の説明よろしく。」

 

「りょーかい。」

 

 

流れとか立場的に総帥が説明しないのかと尋ねると「説明はこよりの方が上手いだろ。」とのことだ。

 

事前に持ってきていたカバンから取り出されたのは家電量販店でよく見かける何の変哲もないただのビデオカメラ。博士は録画ボタンを押すと画面に僕が入り込むよう角度などを微調整しながらそれは机の上に置かれた。

 

 

「……うん、しっかりと映ってるね!じゃあ海くん!渾身の変顔、お願いします!」

 

「えっ?変顔?」

 

「こよたちを笑わせる勢いで!」

 

「なんでまた急に。」

 

「びびってるのか?バイト?」

 

「舐めてもらっちゃあ困りますよ総帥!今世紀最大の見せたりますわ!」

 

 

普通ならば唐突にそんなことを言われれば萎縮してしまうのだろうが僕は一味も二味も、卵かけご飯に醤油をかけるかかけないか程違う。

 

日頃からどんな無茶振りにも対応出来るようアンテナを張り巡らせている僕からすれば変顔など容易なこと。温めに温めた自信作をお披露目しようではないか。

 

 

「───…。」

 

「んっ。ありがとう。」

 

 

ビデオカメラの録画ボタンが押され、停止されたことを確認した僕は顔に込めた力を抜き普段の表情へと戻す。

自分なりにはやり切ったと達成感を感じるが……なんだろうこの気持ち。

 

 

「あの言われた通りにやりましたが……これ、変顔に何の意味があったんですか?」

 

「えっ?意味なんてないよ?こよの気分。」

 

「コンセント、ハサミで切りますよ?」

 

「ほんとすんませんでした。」

 

「吾輩的にはもう少し口角を上げた方が良かったと思うぞ?」

 

「変顔の改善点を指摘されるのってこんなに屈辱的なんですね。」

 

 

変顔をすることは容易だが恥ずかしさが微塵も無いわけではない。なんなら意味もなく僕の羞恥がカメラ内にただただ保存されただけだと考えると普通に恥ずかしい。

 

 

「自分の恥ずかしい姿がカメラに収められてしまった…っとお困りのそこの貴方っ!」

 

「ナチュラルに僕の心読まないで下さい。」

 

「実はこのカメラ!事前に少しばかり細工をしてまして。」

 

 

机の上に置かれていたビデオカメラを手に取り、先ほどまではこちら側から見えていなかった部分を見せつけられ、細工の正体であろう何かがくっ付いている事に気がついた。

 

 

「……さっき渡された機械と同じヤツですね。」

 

「じゃ、撮ったヤツ一旦見てみようか。」

 

 

ビデオカメラに映し出された録画映像。

自分の変顔をやる数十秒前が映し出され、しっかりと撮られていたことを再度理解するが違和感に気がつくのに然程時間はかからなかった。

 

 

「……あれ?僕の醜態が映ってないですね?」

 

 

映っていない、という言葉よりもその部分がくっきりと無くなっていると表す方がしっくりくる編集されたような映像。

 

 

「お気付きのようでっ!こちらカメラなどの機器で映し出される映像にラグを生じさせ、リアルタイムで任意の部分を遠隔で編集出来る装置となっています!」

 

「因みにさっきのやつを編集したのはアジトにいる幹部だぞ。」

 

 

「それって僕の醜態がアジトに行き渡ってるって事なんじゃ」っと頭をよぎったが、これ以上深く考えるのは虚しいだけだからやめておこう。

 

 

「要するにテレビの生放送の様なモノをどんなカメラでも出来るようにする機械って事ですか?」

 

「簡単に言えばそう!」

 

「総帥、あの人ほんと何なんです。」

 

「ご都合主義を具現化したような人物だからな。こよりが造る物はなんでもありなんだよ。あんま深く考えるな。」

 

 

この機械の仕組みや製法などは予想も付かないが諸々の機能を説明され、漠然とだが自分の役割が分かってきた気がする。

 

 

「何に使うかってのを簡潔に説明すると、バイトの次の仕事はこの機械をカメラに付けてる間にお目当てのデータをUSBメモリーに保存するって感じだ。」

 

「海くんは社員用のパソコンにUSBメモリーを差し込むだけで大丈夫。中に入ってるプログラムが勝手にファイルデータをコピーしてくれるから数十秒間だけ待つだけだよ。」

 

 

淡々と今回の役割を言葉に並べる2人。

今更だが僕がやろうとしていることはあまり誇れることではない。

 

明るみに出ることのない裏の界隈へ既に足を踏み入れている僕が簡単に戻れる訳で無いのに、いざ自分の手を汚す番となれば線を引こうとする。

そのあたり、以前僕が総帥へ発した「覚悟している」という言葉が烏滸がましいと感じてしまう。

 

 

「……あぁまぁなんだ。別に無理やりって訳でもないからさ。吾輩たちはバイトにこういう事をするって提示してるだけ。やるやらないはバイトの意思だし吾輩たちはどんな結果でもそれを尊重する。」

 

 

挙げ句の果てに何かを察した総帥に気を遣わせる始末。優柔不断な自分の性格が昔から嫌いだ。

 

 

「……他人の意見に流されるだけで即決出来ないっていうのはやっぱ情けないですね。」

 

「んや?迷うってのは普通の事で大事だと思うぞ?吾輩たちだって当初はバイトがhololiveに潜入するとかは考えてなくてな?サーバーを通じて外からデータをチラッと見ようとしたんだよ。なっ?博士。」

 

「いや〜それがもんの〜〜すごい凄いセキュリティがそこら中に張り巡らされてるし、厄介なのことにセキュリティの更新速度が異常だしで大変だったよ。」

 

 

博士曰く、1人でに考え歩くような挙動を見せ流石の博士でも今からでは時間が足りなかったらしく、賞賛の意味を込め、ついたあだ名は覇王らしい。

 

 

「そんなこったで悩みに悩んだ末、吾輩らの失敗をバイトに押し付けてるだけってこと。実際、内部からって考えも上手くいくかも分からないしな。まっ情けない者同士仲良くしようや。」

 

「えっ?ま、まってラプちゃん!なんかこよが負けたみたいな言い方してるけど負けた訳じゃないからね⁉︎じ、時間があればあんなの突破できるから!まだ負けてないから!」

 

「……こいつ本当可愛いよな。あぁそれとなバイト。」

 

 

総帥は立ち上がり、座っていた僕を見上げるような状態になる。

 

 

「頼んでる張本人が言うのもなんだが他人の意見に流されるのだって自分の考えを持っての事なら別に構わないが、何も考えずに流されるのだけは駄目だ。遅かれ早かれ他人のせいにしていつか後悔すると思う。だからバイト、自分自身の意見や意思を常に考え待ち続けろ。」

 

「信念ってやつですか?」

 

「そんなもんだ。んでそれを最後まで貫く奴ってのはな?」

 

 

先ほど持ってきたアイスの袋を破きながら総帥は語った。

 

 

「大方最強なんだよ。」

 

「……なんか最後の子供っぽい言葉使いで今までのが台無しになった気がします。」

 

「お前さっきまで悩み込んでいたのになんでこういう時は元気になるんだよ。あらを探そうとするな、あらを。」

 

 

悩みが完全に晴れたという訳ではないが先ほどより少しばかり思考がクリアになった気がした。

 

 

「てかお前まだ16歳とかだろ?そんな若造が一丁前に大人ぶんなよ。やりたくないことはやりたくないとか子供みたいに駄々をこねるのが今のバイトにはお似合いだ。」

 

「ラプちゃんは自分の意見を通すために毎回駄々をこねるからねぇ。子供みたいに。」

 

「ねぇ博士!今いいとこだから!バイトに吾輩の大人っぽいとこを見せるチャンスだから!」

 

「へいへい。こよはお口でもチャックしてまぁす。」

 

「ったく。まぁバイトは色々と考えろ。その後にどんな結果があるかは知らないが吾輩みたいに強くなれるぞ?」

 

「最強では無いんですか?」

 

「馬鹿、それは通過点だよ。…てか本当に今日は暑いなぁ。」

 

 

僕が持ってきたアイスを舐めながら扇風機の前で長い髪を靡かせ呟く総帥。熱中症の可能性という観点からも冷房をつけたいところだが生憎、現在我が家のクーラーは調子がすこぶる悪い。

 

アジトに移動するという線も考えられるが、わざわざ足を運んでくれた客人である2人へのサービスが何も出来ていないというのは僕のポリシーに反する。何かしらのおもてなしをしたいという侍魂が頭を駆け巡る中、とある秘策を思い出した。

 

 

「……あっそういえば。」

 

「ん?海くんどうしたの?」

 

「あぁいや、以前の文化祭で使われていたかき氷機なんですが他クラスの方が処分に困っていたらしく、総帥がやりたがるかなって思って譲ってもらっていたんです。」

 

「おいおいおいおいおい!吾輩がそんな幼稚な物に惹かれると思ってんのかぁ⁉︎でっ!どこにあるのそのかき氷機!」

 

 

かき氷機という言葉は魔性。

僕でもその言葉を聞けばテンションが三段階ほど上がりワクワクドキドキするのに総帥がワクワクしないはずがない。

 

 

「確か押入れにしまっていたはずなので出してきますね。」

 

 

普段は使わない押入れではあるが小物などをしまうにはもってこいの場所。お目当てのかき氷機は手前に置いたという記憶を鮮明に覚えている為、容易に見つかるだろうと押入れの扉をスライドさせる。

 

 

 

 

 

 

「こんこよぉ〜〜。」

 

 

 

 

 

 

押入れを閉める。

一瞬不思議なものが見えたと背後を振り向きその人物がいる事を確認し、僕は再度開ける。

 

 

 

 

 

 

「こんこよぉ〜〜。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

博士が2人⁉︎

 

 

巷で噂だった博士複数人説って本当だったんだ。

 

 

「あっやべ、忘れてた。」

 

「えっちょ、これ何処からツッコめば良いんですか⁉︎」

 

 

博士が2人居ること、そして僕の押入れに2人目の博士が居ること、押入れが改造され、近未来チックになっていることなど様々な情報が脳内を埋め尽くす。そんな事はお構いなしの様子でパタパタと手で風を仰ぎながらトコトコと歩いてくる総帥の姿。

 

 

「何してんだよバイトぉ!かき氷機は未だk……博士が2人⁉︎

 

 

この反応を見る辺り、総帥もこちら側の人物。

 

 

「じゃあいつもの2倍可愛いって事ですか⁉︎うひょおお!最高だぞこよりぃいい!」

 

 

違った。ただの厄介オタクだ。

 

 

「ラプちゃんは放っておいて順を追って説明するとあそこに居るのはこよのクローンだよ。」

 

「えっ?く、クローン?」

 

「そそっ。あっ勿論オリジナルは僕だよ?あの子は人工知能を搭載してるから1人でに喋れるし自分で考えて行動もできる。趣味思考は僕とほとんど同じ。制作した経緯だけど人手不足の解消が名目かなぁ。」

 

「……現にマヨネーズそのまま飲んでいるので趣味思考が一緒である事はなんとなく納得できます。」

 

「いやよく見ろバイト!あのクローンこよりが飲んでるのカロリーオフのマヨネーズだぞ!やっぱ最近は人工知能もカロリーも気にする時代なんだなっ!」

 

「人工知能なのに小賢しい!」

 

「……話を続けると最近のアジト、というかラボ内の回線の方が少し悪くてね?システムのエラーが多いと困るという訳で海くんの部屋を第二のラボとして改造しちゃってるところかなぁ。」

 

「いやおかしいですからね⁉︎なんでそれで僕の押入れを第二のラボにしちゃうんですか⁉︎」

 

「成り行き?」

 

「成り行きで人の押入れ改造しないで⁉︎ここ賃貸!」

 

 

えっ引っ越す時の修理代とかってこれ僕が払うの?いやでもアップグレードしたとすれば逆に感謝……されるわけがないどうしてくれるんだ。

 

 

「まぁそうカッカしなさんなよバイト。押入れの中にコヨーテ型ロボット、一度は夢見た景色だろ?」

 

「そりゃ夢見てましたけど!夢叶えて欲しかったですけども!」

 

「更にこの季節にぴったりの冷房も完備!」

 

「……自分のクローンにクーラー機能?」

 

「うわほんとだ。クローンこよりの近くなんか涼しいぞ。」

 

「因みに冷気は口から出ます!」

 

「いやそれはビジュアル的にどうなんですか?」

 

「おいバイト!しかもこのクローンかき氷機能も搭載されてるぞ!」

 

「ふっふっふっ!子供も大人も楽しめるかき氷機能も完備!一味違うのがフワフワ食感のかき氷を生成するところ!」

 

「因みに何処からかき氷を出すんですか?」

 

「口からだけど。」

 

「だからそれはビジュアル的にどうなんですか⁉︎」

 

 

その後の話し合いの結果、クローンこよりと押入れのラボについては一時保留。博士のクローンは一旦僕が預かることとなった。

 

そして後日、アジトへ行った際に風真さんから「口角はもう少し上げた方が良いでござるよ」っと言われ、その日の夜は涙で枕を濡らした。




今後どうするかは考えている最中です。
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