某日、壁に画鋲で貼られている紙を見て大きな溜息を吐く。
このholoxにとある怪物が二人居る。
名前をここでは総帥とシャチにしよう。
長い人生の中で人から手を借りることは何度かあるだろう。その多くは自分の力だけではどうしようも出来ない状態の時である。
その状態を創り出した原因は物理的に不可能な事だったからか、はたまた苦手な事だからか。
後者の場合、まだ一人で改善出来る可能性があるが前者に関してはどうする事も出来ない。
怪物という単語であやふやにしていたが、ここで言う怪物は
溜息の原因である紙には「掃除お願いします」と可愛らしシャチとクロワッサンのイラストが書かれていた。簡単に言えば怪物から地獄への招待状ということであり、正直言って行きたくない。そもそも誰が好き好んで地獄へ行くんだ。
しかしここで行かなければ後々「ぽえぽえ〜」だの「かつもく〜」だの文句を言われるのもめんどくさい。
そう思っていると肩を叩かれる。
僕が後ろを振り返ると例のシャチが立っていた。
「丁度良いところいた!」
「
holox掃除屋のインターン、シャチの ”
沙花叉さんから仕事内容を詳しくは聞いたことないが普通の掃除とは違うと言っていた。
「何か用ですか?夜ご飯はまだですよ」
「今はそれどころじゃないよ!」
っと慌てる沙花叉さんを見て何かあるのだと気づく。
「大事なものがみつからないんだよ!」
「大事なもの?」
「こんぐらいの大きさの箱なんだけど…」
手で大きさを表すようにジェスチャーをする。サイズは小学校の時に使ったお道具箱のような大きさだった。
「もしかして部屋を掃除してほしい理由って…」
「そう!探し物を見つける為!」
「断ります」
「おい!おい!なんでだよ!」
「あんなゴミの海から物を見つけるなんて無理でしょ!大航海始まっちゃいますって!」
前に一度だけ沙花叉さんの部屋掃除をやった事があるがもう二度とやりたくないと思うほどの破壊力を持っている。
「なっ!女の子の部屋をゴミの海とかいうなよ!可哀想だろ!オブラートに包め!オブラートに!」
「…ゴミ箱?」
「もっと酷い!」
「あれはもはや才能の域ですよ」
「だから掃除してほしいんだよぉ!」
「無理ですよ!勘弁して下さい!」
ギャーっと叫びながら逃がすまいと僕の服を掴む手を必死に解こうとしたがびくともしない上に、突拍子もなく沙花叉さんがなきだしてしまった。
「お願ぃいい!沙花叉をみすてないでえええ!良い子にするからあぁ!」
「ちょっと!泣かないで下さいよ!僕はサンタクロースじゃないんですよ⁉︎」
「掃除しないとルイ姉に怒られるんだよぉ!」
「今までサボってた貴方が悪いんでしょ⁉︎」
すると横の部屋からひょっこりと博士が顔を出した。
「あっ!海君が女の子を泣かせてる!」
この人、毎回タイミングが悪い時に現れるな。
「博士!助けて下さい!沙花叉さんが部屋を掃除してほしいって…あっ!逃げやがった!」
掃除というワードを言った途端、出していた顔がヒュッと部屋へ戻ってしまった。目線を沙花叉さんへ変えるとまだ泣いている。
「分かりましたから!探し物見つける手伝いしますから!泣かないでください」
「ぽぇ〜〜…」
僕は近くにあったティッシュを沙花叉さんへ渡し涙を拭かせた。
「流石にずっとは探せないので2時間だけは手伝ってあげます」
「…うんっ」
ズビッと一枚のティッシュで鼻をかませる。
「取り敢えず、部屋へ向かいましょう」
そうして僕と沙花叉さんの大航海が始まるのであった。
「えっぐ…」
開口一番、僕の口から沙花叉さんの部屋を見て今にも孵化しそうな勢いで出てきた言葉である。辺り一面、紙や缶、袋に詰められた物たちが散乱し床が見えない状態だった。
よく見ると不自然に開いたスペースが目に入り沙花叉さんの軌跡であろうと理解する。僕は先駆者の道を辿る事によりベッドのところまで着くことが出来た。
「確かこの辺りのはずなんだけど…」
ガサゴソと辺りを散策する沙花叉さん。
「…僕はどの辺りを探せば良いんですか?」
「じゃあ沙花叉は右側の方を探すから海くんは反対側をお願い」
「分かりました。大きさの他に特徴ってありますか?」
「えーっと…色が黒色かな。」
僕はゴミを退かしながらお目当ての物を探す。しかし見つかるのは食べ終わった空の弁当…何かよく分からない箱など多種多様なゴミばかり。憎き黒光りのアレが出ないことを祈るとしよう。
「汚過ぎません?」
「ドストレートに言わないでよ!匂うって言われた沙花叉の心の傷にジャリジャリって塩を塗らないで!」
「匂う?そんなこと言われたんですか?」
「あれっ?沙花叉匂わない?」
「いや僕、花粉症で鼻詰まってるんで匂いとか今はよく分からないです」
匂うなんてそうそう言われない気がする。
「匂うって言われる理由で心当たりとかありますか?」
「───…あー」
っと何かに気が付いたかのように声を出す。
「オフロハイッテナイ…」
「えっ?」
「お風呂入ってない…です」
「あーーー…えっ?どのくらいですか?僕も偶に忘れる事有りますし」
「最後に入ったのが何日前だっけ…」
「いやいやいや!お風呂ぐらい入って下さいよ!多分部屋掃除よりも難易度低いですよ!」
「やあだ!めんどくさい!」
ぷくーっと頬を膨らませながらそういう沙花叉さん。
「めんどくさいじゃないでしょ!お部屋汚いとお風呂入らないダブルパンチで印象がノックダウンだわ!」
「うるさい!沙花叉は先輩だぞ!敬えよぉ!」
今度メンバーで無理矢理にでもお風呂に入らせた方が良いかもしれない。関わりはそれなりにあったがお風呂に入ってないのは気がつかなかったが僕が駄目なのか?
「そ、それより探し物は見つかったの?」
話を逸らされた。
「…見つかってないです」
「ここら辺に置いといてたんだけどなぁ」
「そんなに大事な物なんですか?」
沙花叉さんの必死さから探し物の重要性が垣間見える。その後も手当たり次第探したてみたが一向に見つからず、探し始めてから1時間半経過していた。見つからないと半ば諦めていた頃、僕の足にコツンと何かが当たる感覚…下を除くと探し物らしき箱が目に入る。
「もしかしてこれじゃないですか?」
僕はその箱を持ち上げ、沙花叉さんの方へ見せた。
「うん!ソレっ!ソレだよ!ありがとう!」
僕は箱を沙花叉さんへ渡す。沙花叉さんは余程大事な物だったからか喜びながら受け取ってくれた。
「そういえばその箱の中身っていったい何なんですか」
「ぽぇ?」
「ぽえじゃなくて」
「ぽえぽえ〜ぽえ〜」
急に言語能力が落ちた沙花叉さんはぽえ〜と叫びながらその箱を持ち部屋から逃げ出した。そんなに僕に見られたくなかったのかと思うと少しばかり心が傷ついた。沙花叉さんを追いかけるように部屋を出ると偶然もう1人の怪物に出会う。
「「あっ」」
お互いの存在を気付き声を出した瞬間、僕は総帥が居る方向とは逆の方へ走り出したが、腕を掴まれてしまった。
「おい待てや!なんで逃げようとするんだよ!」
「1日に二つの汚い部屋は体が持ちません!今HP残り1で魔王に挑むみたいなモンですよ!」
「新人の部屋よりかはましな方だろ!てか汚いゆーな!吾輩泣くぞ!」
「比べてる者のレベルの差が酷いんですよ!離してください!」
「ご飯まだぁ?」
総帥と小競り合いをしていると言語力を戻した沙花叉さんが現れたが手にはあの箱は持っていなかった。
「ラプラスと海くんは何をしているの?」
「バイトに吾輩の掃除を手伝わせようとしているだけだ!」
「えー!駄目だよ!海くんはこれから沙花叉の部屋を掃除するって言ってくれたんだから!」
「えっ?言ってない!そんなこと言ってない!」
何故か記憶が改ざんされている沙花叉さんが目の前にいた。あの一瞬で何があったんだ。
「吾輩だって約束してるもん!」
「総帥は見栄張らなくて良いですから!」
すると総帥から引っ張られている腕と逆の方を沙花叉さんが引っ張る。
「やあだ!やだやだ!沙花叉の部屋の方が汚いんだから優先度はこっちの方が高いでしょ!」
「それ自分で言います?」
僕の前で怪獣バトルが繰り広げられていた。
引き裂かれそうな自分の体を労わる。
「あの、僕を引っ張る意味ってあるんですか?」
「無いけど、離したら負けな気がするから離さない!」
「おいおいおい新人!引く力落ちてるんじゃないか?離したって良いんだぞ!」
「ぜっっっったい離さない!」
「これなんの勝負をしてるんですか?って痛い!痛い!痛い!」
お互い負けまいと引く力が増す。
このままでは体がどうにかなってしまうと思った矢先、隣の部屋から「ご飯できたよ〜」と声が聞こえてきた。瞬間、2人の引っ張る力が弱まる。
「「うわーーい!」」
2人は喜びながら隣の部屋へ小走りで向かった。
「…嵐の様に去っていった…」
疲れからか自分のお腹から空いていると分かる音が出る。僕も隣の部屋へ行くと既に他のメンバーが座っており机の上には6人分のお皿が並べられていた。空いている席に座りメンバー全員で食材に携わってくれた方々へ向け言葉を出す。
「いただきます」
「そう言えば結局あの箱の中身って何だったんですか?」
皿の上の料理を食べている手を止め沙花叉さんへ質問した。
その質問に総帥が割って入る。
「箱?何の話をしてるんだ?」
「いや、沙花叉さんの大事な物らしくて…」
「あーー…それってこんぐらいの大きさか?」
なにやら覚えがある様子の総帥が沙花叉さんと同じようなジェスチャーをする。
「お前知らないのか?あの箱の中身」
総帥の言葉に焦りを見せる沙花叉さん。
「ちょっ、ちょっと中身なんてどうでも良いでしょ?」
「…総帥その話、詳しく…」
「えっとね…あの箱には…」
「ねぇーーーー!やめてよ!」
っと総帥の口を手で塞ぐ。
「はふぉにはふぁふぉふぉが」
「ちょっと!邪魔しないでくださいよ!今僕は沙花叉さんの話を密談しようとしてるんですから!」
「話題の当人がいる目の前で密談もくそもないだろ!」
「むーー!むーー!」
「えっ?なんて言いました?」
「むーー!ぷは!」
沙花叉さんの手をどかした総帥の怒号が飛ぶ。
「お前!吾輩を殺すきか!あと近付くなら風呂入ってからにしろ!」
「おい!それ沙花叉が匂うって言いたいのか!」
ぎゃいぎゃいと言い争う2人を無視して僕は再び食べ始めた。
中身は秘密です