秘密結社のバイトの日常   作:ライ麦小麦

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楽しい自家栽培

 

 

「ねええ!やめてよその攻撃!」

 

「うわははは!博士!僕にも負けれない時ちゅうもんがあるんですわ!」

 

 

とある休日。

暇を持て余していた僕と博士はアジトにある据え置きゲーム機で遊んでいた。内容としてはよくある格闘ゲームで僕自身昔からやっていた馴染みあるゲームだったが博士の方は初めてやるらしく、操作が何処かぎこちない。

 

博士へ攻撃の仕方などあれこれ教えながらやっていくと自信がついたのか「海君に勝てるかも!」と言いだし今にいたる。

 

 

「大人気ない!こよ初心者だよ?接待とかないの!」

 

「僕、勝ちに貪欲なもんで…」

 

「あ“ぁああ”!」

 

 

画面から出る効果音と共に僕の勝利が表示される。

 

 

「たいありでしたあ“っ!」

 

「ありがとうございました」

 

 

勝利の余韻に浸っているとトコトコと何かが駆け寄ってくる音が聞こえてきた。

 

 

「ぽこべぇ?」

 

 

駆け寄ってきたのはとある人物のお供をしている可愛らしい狸の”ぽこべぇ“だった。見るからに焦っている姿を見て何かあったのだと気づく。するとついて来てと言わんばかりに別室へと移動し始めた。

僕と博士がぽこべぇについていくと焦りの原因であろう人物が目に入る。

 

 

「風真さん⁉︎」

 

 

そこにはholoxの用心棒、侍の ” 風真(かざま) いろは “が床に倒れていた。僕らはすぐに駆け寄り丁寧に体を起こす。

 

 

「大丈夫ですか⁉︎風真さん!」

 

「こ、これは!」

 

 

博士がこの現状について何か知っている様子を見せた。

 

 

「博士。風真さんに何が起きてるんですか?」

 

「ナスがきれたね」

 

「ナ、ナス?今ナスって言いました?」

 

 

風真さんが野菜全般が好きだというのは知っていたがこの場面でナスという単語が出るとは思ってもいなかった。

 

 

「最近、ナスを食べれてなかったからね。ナスメーターが空なんだよ」

 

「ナスメーター…」

 

 

溜まっていたら強いとかあるのかな。

必殺技ゲージみたいなノリで。

 

 

「風真に変な設定を加えるのやめてもらえるでござるか?」

 

 

そう言いながら風真さんは立ち上がる。

取り敢えず何事もなかったと理解し安心した。

 

 

「ただ物に躓いただけでござるよ」

 

 

床に置いてあるダンボールに指を差し、起き上がる風真さんの方へぽこべぇが近づいた。

 

 

「あ!ぽこべぇ!何処に行ってたでござるか?」

 

「多分、風真さんが倒れたから僕たちを呼びに来たんだと思います」

 

「そうなんでござるか?心配かけて申し訳ないでござる…」

 

 

謝る風真さんに対し僕らは「無事なら大丈夫」と言葉をかけた。

 

 

「でも最近、ナスを食べれていないのは事実でござるなぁ…」

 

「増えるのはお金じゃなくてもやし料理のレパートリーだけですもんね」

 

 

悲しそうに話す風真さんを見て深刻さが伝わってくる。確かに偏りのある食事は体に悪い。

 

 

「こうなったらつくるしかない!」

 

「何をですか?」

 

「ナスを!」

 

ナスを⁉︎

 

「自家栽培でござる!」

 

 

意気揚々と話す風真さん。

 

 

「ナス栽培キットでも買う気ですか?」

 

「畑を耕す気でござるよ?」

 

「思った以上にスケールがデカ過ぎて驚いてます」

 

「こよ、美味しい野菜食べたーい」

 

 

畑を耕す事自体、自分たちにいくつかメリットはあるが問題なのが何処でつくるかである。そんな問題に対して博士が案を出してくれた。

 

 

「アジトの裏庭に大きなスペースがあるよ。あそこなら敷地内だし、日光も当たって良いんじゃない?」

 

「うまく作れますかね?野菜を栽培とか難しいんじゃないですか?」

 

「ノウハウは山田さんから教わるから大丈夫でごさるよ」

 

「えっ⁉︎いろはちゃんあの山田さんと知り合いなの?」

 

 

…いったいどの山田さんなんだろう。

博士の反応からそうとう凄い人なのだろうと分かる。

 

 

「すみません。山田さんって何者なんですか」

 

「海殿は山田さんをご存知ないのでござるか?」

 

「いやどの山田さんなのかが…」

 

 

そう聞くと「いつか会えるでござるよ」っとはぐらかされ、結局山田さんの正体は分からないままだった。

 

 

「材料とか道具はどうします?今のholoxにそれらを揃えるお金とか無いですよね?」

 

 

そう聞くと2人の目線が僕の方を見る。

 

 

「…なんすかその眼差し…」

 

「いや〜風真たちは無一文でござるからなぁ」

 

「頼れるのは海君だけ…」

 

  

目をキラキラとさせた2人の横目に自分の財布の中身を確認する。

 

 

「…また何日間か夜ご飯お世話になります」

 

 

2人の喜ぶ顔を見れただけでも御の字だろう。

 

 

 


 

 

 

あれから数日後、材料や道具などを揃え準備万端の状態で風真さんと裏庭に集まっていた。運が悪いのか博士は用事があるらしく来れないらしい。

 

 

「取り敢えず山田さんからマニュアルを貰ったでござるからそれを参考に…」

 

 

風真さんが表紙に"安い!うまい!早い!家庭内菜園"と焼き鳥屋のキャッチコピーのようなものが書かれ、国語辞典程の厚さのある紙の束を見せてきた。このこだわりを見せ付ける辺り本当に山田さんは何者なのだろう。

 

一枚目を捲ると目次と書かれ様々な野菜の育て方が載っており、終尾のページにはフロクとして"スゴロク"が付いていた。

 

 

「ナスとか人参とか…いろいろとありますね」

 

 

お目当てのナスの記載ページは16。僕たちはその内容に沿って作業を始めた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

「…出来た!」

 

 

最後の作業を終えた風真さんは喜びの声を上げ、壁にもたれかかる。

 

 

「結構時間がかかりましたね」

 

 

僕は終わった後の疲労感と空腹感が襲ってくる感覚により今にも倒れそうになっていた。改めて世の農家さんは凄いのだと理解する。

因みにナスだけ植えるのは寂しいという事で人参も一緒に育てることにした。野菜たち、絶対に美味しくするから覚悟しろ。

 

 

「それにしてもお腹すきましたね」

 

「風真、おにぎり作ってきたでござるよ?食べる?」

 

「食べます!」

 

 

僕が頷くと風間さんは自分の持ってきたバッグから竹の皮に包まれた二つのおにぎりを僕の手のひらの上に乗せた。

僕は一つを手に取り、口へ運ぶ。

ちょうど良い塩のしょっぱさと中の具である梅干しの酸っぱさが口の中に広がる。

 

 

「すんごく美味しいですよ!」

 

「本当!うれしいでござる〜。風真も一つ食べる!」

 

 

褒められたことに素直に喜ぶ風間さんを見てそのままでいてほしいと思った。もう一つの方のおにぎりを頬張り幸せそうな顔を見せる。

少し休んでいると何かを思い出したのか風真さんがバッグから一つの瓶を取り出した。

 

 

「これ、こよちゃんから貰った野菜の成長を促進させる薬らしいんだけど…」

 

 

緑色の液体の入った瓶を僕へ見せ、どこかで見たことある薬に既視感を感じる。よく見ると薬には"今回は本当に成長します!"と書かれていた。

 

 

「どうします?僕は使わない方が良いと思いますけど」

 

「…風真もそう思う…」

 

 

お互いの意見が一致する。

 

 

「危なそうだから別の所に置いておくでござるね」

 

 

風真さんは薬を手に持ち反対の方へ歩き出す。その瞬間、下にある石に躓いてしまう。

 

 

「「あっ」」

 

 

手に持っていた薬は放物線を描きながら地面へ落ち、パリンという音と共に割れてしまった。

 

 

ああああああ⁉︎

 

「もうここまでくると呪いか何かですね。大丈夫ですか?」

 

 

毎回博士の薬が関与してくるのはいったいなんなんだ。

2人の目線は薬がかかってしまった場所へ移る。やはり運が悪いのか、ちょうどナスを育てている場所と被ってしまっていた。

 

 

「おおー。ピンポイントにかかってますね」

 

「なんでぇ…」

 

「でも見た感じ何も変化はないですけど」

 

 

僕がナスの方へ近付く。

刹那、何かに足首を掴まれ、浮遊感を感じる。

 

 

「えっ?」

 

 

「海殿⁉︎」

 

 

自分の右足を見ると植物の根っこのようなものが絡みついており、今自身がいる高さは地面から3mほど離れていた。

 

 

「何これ⁉︎根っこ⁉︎」

 

 

何処から出ているのかと思い、周りを見渡すと土の中からそれは伸びていた。片足で吊るされ逆さまになっている為か目に圧力がかかるのを感じる。

 

 

「風真さん!助けてください!」

 

「今助けるでござる!」

 

 

啖呵を切った風真さんが愛刀チャキ丸を鞘から抜きこちらへ走る。それと同時に土の中から一本、また一本と大きな根っこが姿を表し、風真さんの方へ襲いかかった。

 

 

「風真にそんな攻撃通用しないでござるよ!」

 

 

正確によけ、当たりそうになれば斬る。

用心棒として雇われたというのが納得出来る身のこなし。

 

辺りを見れば斬られた根っこが数多と転がっていた。

順調に僕までの距離を詰める風真さんに対し、僕は限界を迎えそうになっていた。

 

 

「風真さん…助けてもらう身なのであまり、要望したくないんですが」

 

「どうしたの?」

 

「早く助けてもらわないと口からさっきのおにぎりが…うぷっ」

 

「ちょちょ!ちょっと!」

 

「口からおにぎりが世界へ羽ばたきそうです」

 

だめだめだめ!おにぎりにこの世界はまだ早すぎるでござる!

 

 

そんな会話をしていると、土の中から根っことは別のものが現れる。そのフォルムたるやナスであったが…普通のサイズの約10倍ほどの大きさをしていた。

 

 

「ナス!こんな立派な姿に成長して!」

 

「いやこれ成長した姿じゃなくて進化した姿でござる!違う生物に!」

 

 

目の前にある成長した野菜に感動する僕と敵対視する風真さん。双方の意見がどうにも食い違ってしまった。

 

 

「きっとこのナスが本体!」

 

 

っと言いながら刀を構える。

 

 

「やめてください!僕の野菜を傷つけないで!」

 

「助けて欲しいのか欲しくないのかどっちなんでござるか⁉︎」

 

 

瞬間、僕を掴んでいる根っこの動きが変わる。…投げ飛ばす気だ。予想は的中し、遠心力を感じながら風真さんの方へ飛ばされる。

 

 

「ちょっと!これはまずいでござる!ぽこべぇ!!

 

 

お供の名を叫ぶ風真さんの前にその名を持つ狸が現れる。

 

 

「ぽこべぇ!大きくなって!」

 

 

主人の願いを聞いたぽこべぇが体を大きくなり、僕はぽこべぇにぶつかる。大きくなったぽこべぇが衝撃を吸収してくれた為、風真さんに当たることはなかった。

 

 

「ありがとう!ぽこべぇ!あとは風真に任せるでござる!」

 

 

風真さんが本体へ向かって走り出す。

先程よりもさらにスピードを上げ、僕が気が付いた時には本体の目の前に居た。

 

 

「まって!」

 

 

───っと言ったときにはズドンという轟音と共に砂埃がまっていた。衝撃により立った砂埃から風真さんが姿を表す。

 

 

「峰打ち?でござる」

 

 

自信がないように峰打ちと言った。

そして風真さんの背後に倒れ込んでいる大きなナスが目に映る。

 

 

「当分ナスには困らないでござるな」

 

 

 


 

 

 

「やったー!風真が一番でござるな!」

 

「いやそのマスは初めに戻るですよ」

 

「ええええ⁉︎」

 

「なんでこよも巻き込まれてるの?」

 

「博士のせいで大変だったんですからスゴロクぐらいやっても良いじゃないですか」

 

 

今僕たちはフロクのスゴロクで遊んでいた。

 

 

「海君は吊るされていたんだっけ?」

 

「吊るされていなくても何も出来なかったですよ」

 

「こう殴ったりとか!」

 

 

キレのあるパンチの動きを博士が見せてくる。

 

 

「風真は頼ってくれて嬉しかったでござるけどね」

 

「いざとなった時には助けてよ?」

 

「善処します」

 

 

それはそうと問題なのは

 

 

「あの大量のナスをどうします?」

 

 

僕はダンボールに詰めた切り分けられたナスの使い道を聞く。

 

 

「良い食べ方とかありません?風真さん」

 

「風真は生のまま食べるのが好きでござるな」

 

「holoxってそのまま食べるのが流行ってるんですか?」

 

 

マヨネーズしかりナスしかり…

 

 

 

 

 




ナスのお浸しをめっちゃ食べてた時期がありました。
あれほんと美味しいですよ。
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