秘密結社のバイトの日常   作:ライ麦小麦

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皆んなの姉さん

 

 

休日、アジトの扉を開くとカタカタとタイピング音が鳴り響く。

 

 

「今日もお疲れ様です。"鷹嶺さん"」

 

「お疲れ様。海君」

 

 

話しかけたのはholoxの女幹部であり、鷹の翼を持つ " 鷹嶺(たかね) ルイ "だった。

 

 

「どうしたの?今日はバイトは休みのはずだけど」

 

「総帥に頼まれていた"スイギョウザ観察日記"を書かないといけないので」

 

「何その仕事」

 

「いつか労基って言葉で脅そうか迷い始めてます」

 

 

僕はスイギョウザが入れられている鳥籠の方へ歩き、小さくした餌を与えた。一体何処から餌を食べてるのか不思議でたまらないが詮索するつもりはない。

日記には今日も元気だったとだけ書いておこう。

ふと違和感を覚えた僕は鷹嶺さんへある質問をした。

 

 

「そう言えば他のメンバーはどうしたんですか?」

 

 

普段のワイワイしている面影が感じられなかった。

 

 

「沙花叉は寝てる。こよりは買い物でラプといろはは釣りに行ったよ」

 

「えっ?釣り?」

 

「魚が食べたいからって…"サメ釣ってくるわ!"って言ってた」

 

 

僕の知らないところでワイワイしているようだ。そう思いながら台所の冷蔵庫を開ける。

 

 

「鷹嶺さん、何か飲みます?」

 

「お水あったっけ?」

 

 

僕はお水の入ったペットボトル2つとり片方を鷹嶺さんへ渡す。

 

 

「ありがとう」

 

「鷹嶺さん何の作業をしてたんですか?」

 

 

鷹嶺さんのパソコンを覗くと、今月の売り上げやら何処かとの契約やらの資料をまとめていた。幹部という位を与えられている鷹嶺さんのクールかつ仕事が出来る「頼れる上司」という僕のイメージが見事に一致している。

 

そんな鷹嶺さんがミスを犯すという想像が出来なかった。

 

 

「あっ!間違えて資料をデリートしちゃった!」

 

 

ミスを犯さない筈なんです。本当なんです。信じてください。

 

 

「あぁー…やり直しかぁ」

 

「僕も手伝いましょうか?パソコンはからっきしですが資料をまとめるぐらいなら出来ますよ」

 

「ほんと?じゃあこれだけお願いしようかな?」

 

「分かりました」

 

 

僕は渡された資料を見ながら作業を始めた。

 

 

 


 

 

 

「だいぶ赤字ですね」

 

 

ホッチキスで資料をまとめているとholoxの悲惨な状況を目にする。窓ガラスの修理で資金が底をついていた。

 

 

「別の稼ぎ口を探さないと…」

 

「holoxは今まで何で稼いでいたんですかね」

 

「基本はこよりの薬で生計を立ててたけどね。最近、クライアントが失踪しちゃって…」

 

「失踪って…只事じゃないじゃないですか!」

 

「どうも他会社からの圧が原因らしいけど詳細はよく分からないよ」

 

 

そう言いながら頭を悩ませる鷹嶺さん。

そんな中でも僕お腹は空気を読まない。

空腹を感じるのもそのはずで時計の針を見ると1時を指していた。

 

 

「取り敢えずお昼にしようか。何か食べたい物とかある?」

 

「あっ自分、麻婆茄子食べたいです!」

 

「ナス沢山あるからね。美味しいのいっぱい作るから待ってて」

 

 

そう言うと、鷹嶺さんは台所へ向かった。

率先して料理に取り掛かろうとする姿で察せられるかもしれないが鷹嶺さんはとても料理が上手である。一人を除いてholoxのメンバーは料理が出来る。一人を除いて。その中でもこの人の料理は格別に美味しかった。

 

鷹嶺さんを追いかけ、台所で料理が出来るのを楽しみに待っていると、とある質問をしてきた。

 

 

「海君は一人暮らしだっけ?自炊とかしたりするの?」

 

「自炊はしないですね。基本インスタント系で済ませてます」

 

「インスタントばかりじゃ体に悪いよ。今度私が作りに行ってあげようか?」

 

 

直感で感じた言葉が口から出る。

 

 

「…もしかして生き別れた姉さん?」

 

「うんうん。違うよ?」

 

 

ペラッペラな会話をしていると部屋に広がる香辛料などのスパイシーな匂いが漂ってきた。匂いに釣られたのかとある人物の部屋の扉がガチャリと開く。

 

 

「おはよぉ…」

 

 

今起きたのだろうと分かる寝癖を付け、あくびをしながら出てきた沙花叉さん。

 

 

「おはよう沙花叉」

 

「おはようございます」

 

「良い匂い〜…歯磨いてくるぅ」

 

 

寝ぼけた口調で喋りながら沙花叉さんは洗面台へ向かった。それと同時に料理が完成したのかほかほかと湯気が立つお皿がテーブルへ並べられる。

 

 

「僕も運ぶの手伝いますよ」

 

「ありがと。じゃあそこのお皿を運んでほしいな」

 

 

頼まれた分のお皿を運んでいると、歯磨きを終えた沙花叉さんが戻ってきていた。

 

 

「ルイ姉〜私も食べるぅ」

 

「沙花叉ぁー、お風呂入らないと食べさせないって前に言ったでしょ」

 

「い、いやー昨日入ったから…」

 

「嘘ですよ!昨日"今日お風呂入らなーいぽーえぽえぽえ!"って言ってましたもん!」

 

「おいばらすなよ!それに最後のは言ってないし悪意あるだろ!」

 

「入ってない事は否定しないんかい」

 

 

沙花叉さんは分が悪そうに「はぇ〜…」と言う。

 

 

「私のご飯が食いたきゃお風呂に入りな!」

 

「やあだ!やあだ!いや…いやなのかな?」

 

「いや僕に聞かないでくださいよ」

 

 

お風呂に入りたくない欲よりもご飯を食べたいという欲の方が勝っているからか、何かを悟ったように僕の方を見ながら本当に嫌なのか確認する。

 

 

「食べたいんだったら入れば良いじゃないですか」

 

 

「ぽぇー」と言いかなが、沙花叉さんはお風呂場へ向かい「沙花叉が出るまで待ってて!」と要求される。

 

 

「…沙花叉さんが出るまで我慢しないといけないんですか?」

 

 

目の前に広がるご馳走を前にそれは拷問でしかなかった。今にも僕の腹の虫が暴走してきそうだ。

 

 

「待ってるだけなのも退屈だから料理でも作ってみる?」

 

「僕がですか?」

 

 

僕の返しに頷く鷹嶺さん。

いわく経験してみるのも良いかもしれないとのこと…台所に立つのは久しぶりであまり乗り気ではないがここで断るのもなんだか味気ない。

 

 

「自信のほどをお聞かせください」

 

「旨さで気絶させてやります」

 

 

 


 

 

 

「あれぇ…」

 

 

完成した物を見て唖然とする鷹嶺さん。

 

 

「何だろうねこれ」

 

「…食べ物だったやつですね」

 

 

フライパンから皿に移したものは真っ黒になっていた。

 

 

「違うんですよ!よく焼いた方が良いんじゃないかって!」

 

「焼きすぎて真っ黒けじゃん!」

 

 

…いや違う。

見た目が悪いだけで味は美味しいかもしれない。僕はそれを箸でつまみ口に入れる。

瞬間、僕は床に倒れ込む。

 

 

うおおおお!

 

「海君⁉︎どうしたの!」

 

「あ、あやうく気絶するところでした」

 

 

気合いでどうにか気絶しないですんだ。

 

 

「美味しいのか美味しくないのが分からないのが怖い!」

 

「し、刺激的な味です」

 

 

故に味は美味しくない。もう何を食べているのか分からないほどだった。

自分の料理の下手さに絶望する。なんかもう嫌になってきた。

 

 

「さ、さあ次は鷹嶺さんの番ですよ…」

 

「えっ⁉︎私⁉︎」

 

 

僕は皿に乗った何かを指差す。

しかし鷹嶺さんは少し遠慮気味になっていた。

 

 

「だ、大丈夫です。愛はマシマシでも黒めなんで」

 

「なんでラーメン屋の注文の仕方みたいに言ってんの!黒いのが一番駄目なんだよ!」

 

「この黒いのも愛ですよ」

 

「愛情過多で胃もたれするわ!」

 

 

その時、タイミング良くお風呂から上がった沙花叉さんが姿を表す。

 

 

「お腹空いたぁ」

 

 

沙花叉さんの目線は机の方を向く。

 

 

「さすがルイ姉!どれも美味しそう!…んっ?なんか混じってない?」

 

 

異様なオーラを放つ僕の手料理がやけに目立っていた。

僕は気にせず椅子に座る。

 

 

「早く食べましょう」

 

「何で海くんは顔色が悪いの」  

 

「気にしないでください元からこんな感じです」

 

 

僕の手料理にはいっさいふれず3人とも椅子に座り「いただきます」と言いながら合掌する。すかさず手を伸ばしたのは鷹嶺さんの麻婆茄子だった。唐辛子の辛さと山椒の痺れのある辛さの中に水々しいナスがマッチしており、ご飯がとても進む。 

他にもナスのお浸しや、毎度お馴染みのもやしナムル、どれもこれも絶品な物であり、必然的に残るのは僕の料理だった。

 

 

「あの…これ僕が作ったものなんですよ」

 

 

取り皿僕の手料理を乗せ、沙花叉さんへ渡す。

 

 

「えぇ…」

 

「姉さん!沙花叉さんが僕の料理を食べてくれない!」

 

「あらそう、可哀想に」

 

「姉さんこの料理、沙花叉さんに売ってくださいよ」

 

「私、相手にメリットがあるものしか売りたくないんだけど…」

 

 

鷹嶺さんの特技が営業であったことを思い出す。間近で見た事はないがかなり優秀な様だ。

 

 

「沙花叉ぁ、これ美味しいよ」

 

「えっ?でも黒いよ?」

 

「これはね愛なの」

 

「愛?」

 

「そう愛で出来てるの」

 

「ルイ姉の愛…うへへへ」

 

 

照れているが鷹嶺さんの愛とは言われてない。

 

 

「これ食べてくれる?」

 

「うん!たべりゅ!」

 

 

ちょろ叉クロヱの爆誕であった。

その時、僕のポケットに入れていたスマホの通知音がなる。宛先は総帥からで一枚の写真が送られていた。

 

 

「…今日の夜ご飯はカジキマグロらしいですね」

 

「「えっ?」」

 

 

大きなカジキマグロを持った笑顔の風真さんとドヤ顔の総帥の写真を見ながらそう思うのであった。

 




海君の手料理は海君が全て食べました。
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