楠木「では、任務の内容について話そう」
部屋の空気がピンと張り詰めた。机の前に整列した四人のリコリスは、心なしか背筋を伸ばした。
春川フキ、乙女サクラ、蛇ノ目エリカ、篝ヒバナ。四人は静かに息を呑んだ。
楠木「お前達には三日後、都内の某公園にて行われるプリズムアタッキュアショーに出演してもらう」
フキ&エリカ&ヒバナ「「「・・・・・・・・・・・・」」」
サクラ「え?」
ヒバナ「司令」
楠木「なんだ」
ヒバナ「アタッキュアというのは日朝の女児向けアニメ『魔法銃士 プリズムアタッキュア』のことでしょうか」
楠木「その通りだ。国際的なテロ組織『メビウス×メビウス』からDAに直接犯行予告があってな」
サクラ(なんだその名前ダッッサ)
楠木「組織の中でも腕利きの戦闘員が六名、三日後のアタッキュアショーに敵役として出演するらしい」
フキ&ヒバナ&エリカ「「「・・・・・・・・・・・・」」」
サクラ「あの・・・・・・」
楠木「なんだサクラ」
サクラ「出演させとけば良いんじゃないっすか?」
フキ「サクラ、司令に対してその口の利き方は」
楠木「よせ、フキ」
フキ「はい司令」
楠木「サクラ、お前の気持ち分からんでもない。慣れないフリフリの衣装に身を包むのだ。恐怖を感じるのも無理はない」
サクラ「いえ、それもあるんですけど他にも色々と疑問が。『テロ』の予告じゃなくて、『出演』の予告だったのですよね?」
楠木「テロ組織のメンバーがアタッキュアショーに出演するのだ。テロが起きたらどうする?」
サクラ「ならそいつらがショーに出演する前に対処しましょうよ。自分たちはリコリスッよ。 テロが起こる前に未然に防ぐのが本来の――」
フキ「サクラッッッ!!!! さっきから司令に対して」
楠木「よせフキ」
フキ「はい司令」
サクラ「・・・・・・・・・・・・」
サクラ(自分が異常なんすかね?)
楠木「秘密裏に犯罪を処理するだけがリコリスの役目ではない」
サクラ「いえ、それこそがリコリスの役目だと思うっす」
楠木「これは君達にとっても大変貴重な経験となるだろう。恐らく、こんな任務は二度と無い。全力で『プリズムアタッキュア』を演じきることによって、得られるものもあるはずだ」
サクラ「無いっすよ」
楠木「サクラ、お前もしかして恥ずかしいのか?」
サクラ「その通りっす。こういう役はリコリコの千束とたきなみたいなヤツにやらせとけばいいじゃないですか。あーゆー女の子らしいフリフリした衣装はあいつらの方が似合うでしょ。こんなの本店所属のリコリスの仕事じゃないっす!」
楠木「その点に関してはすでにミカと相談済でな。残念だが、千束とたきなには同日、別の任務をこなして貰わねばならん」
サクラ「別の任務?」
楠木「あの二人はショーの当日、保育園の子供達を会場まで引率せねばならんのだ」
サクラ「・・・・・・・・・・・・え、あの二人も来るんすか。観客として?」
サクラの顔から血の気が引いた。
楠木「無論、ショーの最中は観客として待機していてもらう。テロリストが暴れ出したとき、誰かが子供達を守ってやらねばならんからな」
サクラ「だから、ショーを中止すればいいじゃないっすか!」
楠木「駄目だ。保育園の子とも達はアタッキュアショーを楽しみにしている」
サクラ「だからって!」
フキ「落ち着けサクラ。恥ずかしいのは私も同じだ」
サクラ「いや、違いますよフキ先輩。自分が言いたいのは」
フキ「見苦しいぞサクラ。建前ばかり並べるな、本音で話せ」
フキは大きく溜息をついた。
フキ「大丈夫だ。よく考えてみろ。あの類いの子供向けのショーはキャラの着ぐるみを着て演じるんだよ。顔は見えない。直接、リズムアタッキュアの衣装を着て戦うわけじゃねーんだよ」
サクラ「・・・・・・・・・・・・そうか、そうっすよね。顔見られる心配は無いっすよね」
楠木「いや、魔法銃士のコスプレをして戦ってもらう」
フキ「なにぃ!!」
サクラ「フキ先輩落ち着いて、司令の前っす」
フキ「はい司令」
サクラ「自分は司令じゃないっす! 落ち着いて、深呼吸しましょう」
ヒバナ(こんなの、取り乱すなって言う方が無理だろ)
サクラ「はい、すってぇー」
フキ「すぅーー」
楠木「ちなみに、ミカとミズキも来るそうだ」
フキ「ブフォーーッ!」
楠木「日頃の訓練の成果を見せる、またとない機会だ。ミカにリコリスとしてではなく、人として成長した姿を見せてあげなさい」
サクラ「それもう任務じゃなくて、あたしらのお遊戯会じゃないっすか」
フキ「・・・・・・・・・・・・」
フキ(先生の前で、フリフリの衣装を着てアタッキュアショー。観客の中には千束とたきなも居て・・・・・・全裸で踊るより恥ずかしいじゃねーか)
フキ(消えたい。明日消えたい。念のため明後日も消えたい)
フキは錯乱した。
サクラ「だいたい、この中で見た目がアタッキュアっぽいのエリカだけなんすけど」
楠木「確かに、エリカだけはギリ、アタッキュアだな」
エリカ「ギリ!?」
サクラ「分かってるならメンツ変えましょうよ。あたしらには向いてませんって」
楠木「サクラ、大切なのはアタッキュアと外見が似てるかどうかじゃない。心だ。アタッキュアを演じたいという熱意が大切なのだ」
サクラ「あるわけないじゃないっすかそんな熱意! ゼロっすよ!! 一番大事な部分がごっそり欠けてるんすよアタシらは!!!!」
楠木「サクラ!!!!」
サクラ「はい!?」ビクッ。
楠木「DAとは何の略だ。言ってみろ」
サクラ「Direct Attackです」
楠木「そういうことだ」
サクラ「・・・・・・いえ、どういうことっすか?」
サクラ「フキ先輩も何とか言ってくださいよ」
フキ(そうだ、明明後日も消えよう。三日連続で死ねば何とかなるだろ)ブツブツ。
サクラ「フキ先輩?」
楠木「作戦については以上だ。何か質問は?」
ヒバナ「司令」
楠木「なんだ、ヒバナ」
ヒバナ「私の体のサイズに合うフリフリの衣装はあるのでしょうか?」
楠木「心配するな。お前達の衣装は、その道のプロに依頼してある。アラン機関の援助を受けた天才にな」
※※※※
オフィスとして借りている高級タワーマンションの一室で、吉松シンジは優雅に食事を取っていた。
黒を基調とした落ち着いた調度の部屋には、クラシックやジャズではなく、ギャリギャリ、カカカ、ガタガタガタガタというミシンの音が響いていた。
食事を終えたシンジがナイフとフォークを置いてワイングラスを手に取ると、彼の真正面に作業机を構えて、嫌がらせのようにミシンをダカダカ動かしていた姫蒲もスッとその手をとめた。
シンジ「美味しかったよ姫蒲君。君にはコックの才能があるよ」
姫蒲「調理の道を選んでいたら機関は支援しましたか?」
シンジ「選ぶ? 支援する才能は神のギフトだ。選択肢はない。君にはその才能の結晶、コスプレ衣装を世界に届ける義務がある」
姫蒲「・・・・・・・・・・・・」ガタガタガタガタ。
姫蒲は衣装づくりを再開した。
シンジ「アタッキュアショーには間に合いそうか?」
姫蒲「状況次第です。お約束はできません」
二人の声はミシンの作業音に半ばかき消されていたが、二人の間では日常的なのことなのか、会話は問題なく成立していた。
姫蒲「できれば、次の潜入に使う看護師のコスプレ衣装を優先して作成したいのですが」
シンジ「駄目だ。ショーを優先しろ」
姫蒲「・・・・・・・・・・・・」ガタガタガタガタ
シンジ「君ならできるよ」
吉松シンジの秘書、姫蒲。類い希なるコスプレの衣装作りの才能を見出され、アラン機関による支援を受けた。姫蒲が潜入や偽装に用いる衣装はすべて彼女の手作りで、デザインから縫製、仕上げの加工まで、わずか半日で仕上げてしまう。
アラン機関から支給された特別なミシンを使用しているとはいえ、彼女もまた化け物なのだ。
※※※※
楠木「というわけだ。お前達は午後の訓練には参加しなくていい。本日よりショーの練習を開始しろ。連絡は以上だ。解散」
資料が届くまで待機を命じられた四人は司令室を出て会議室Bに向った。
フキ「サクラ」
サクラ「何すか、フキ先輩」
フキ「名前だけならお前が一番アタッキュアっぽいよな」
ヒバナ&エリカ「「乙女サクラ」」
サクラ「言われると思ったっす」
四人が去った後、楠木司令はデスクに腰掛け溜息をつくと、少し間を置いて「あっ」と呟いた。
秘書「司令」
楠木「ん? 何だ」
秘書「テロリスト達はどうしてアタッキュアショーへの出演をわざわざDAに予告してきたのでしょうか? テロを行うにせよ、純粋にショーで子供たちを楽しませたいにせよ、予告など出さない方が成功率は上がるはず。なのになぜ」
楠木「正確には、奴らは元テロリストだ。すでに組織から足を洗っている」
楠木「送られてきたメッセージを予告状だと判断したのは上の人間だ。が、私はそのメッセージをあいつらなりの招待状であると解釈している」
秘書「招待状ですか? DAをアタッキュアショーに招待して元テロリスト達にどんなメリットがあるんですか?」
楠木「これがそのメッセージだ」
楠木は秘書にタブレットを渡した。画面に目を落とした秘書の顔がみるみる動揺に歪んでゆく。
『俺たちは凄腕のテロリストだ。プロに近い素人じゃない。何人もの命を奪ってきた。たくたんの罪の無い人達の経済活動に打撃を与えてきた。
だが先日、自分たちは改心した。たくさん迷惑をかけた分、いっぱい反省した。
ほんとうにごめん。悪かったよ。もうしない。
六人でこの気持を形にできないかと話し合った結果、罪滅ぼしとして、何かみんなが喜ぶことをしよう、そうだ、子供向けのショーなんてどうだろう、いいね という結論に至った。
どうか信じて欲しい。改心の証として、日頃からお世話になっているDAの皆さんが監視している前でアタッキュアショーを行い、子供たちに笑顔の花を咲かせてみせよう。
生まれ変わって、獣から天使になった俺たちの心を、ショーを通してどうか保護者の皆様とDAの皆様自身の目で確認して欲しい。その上で、偽装した戸籍で日本に永住することを認めて欲しい。
正規の手順を踏んで、裁判にかけられたり、刑務所にぶち込まれたりするとグレてまたテロリストに戻ってしまう可能性があるので、逮捕だけはおすすめなしない。その場で射殺なんてもってのほかだ。
是非、ご家族や友人、恋人を誘って遊びに来て欲しい。くれぐれも武器など持ってこないように。ラブ&ピース。ではDAの諸君、会場で会おう。獣から転生した六人の天使より』
秘書「・・・・・・・・・・・・」
楠木「泣かせる話じゃないか」
秘書「罠ですよ」
楠木「マニュアル通り受け取るな、相手の思考の裏を読むんだ」
秘書「イタズラですね」
楠木「違う、これは情報戦だ」
秘書「場所と日時、書いてないじゃないですか」
楠木「・・・・・・・・・・・・」
楠木「イタズラだという証拠はあるのか?」
秘書「仮に本物だったとしても、内容が無茶苦茶です。彼らの要求がすでにテロです。本人達にその自覚がないのが怖いです。なにより、どうしてこの情報をフキ達に伝えなかったのですか?」
楠木「さっき溜息をついた時に思い出したからだ」
秘書「・・・・・・司令」
楠木「過ぎたことを悔いても仕方がない」
秘書「ちなみに、司令が三日後にショーがあると判断した根拠は?」
楠木「従兄弟が子供を連れて旅行に来ていてな。三日後に都内某所で行われるアタッキュアショーに行くと言っていたのだ。私には関係の無い話だったのだが、テロリストのメッセージを読んだ瞬間、ピンきた」
秘書「・・・・・・司令」
楠木「いかんな、切り替えねば。我々は我々にできることをしよう」
秘書「・・・・・・・・・・・・」
秘書「はい!」
二話に続く。