ダイレクト・アタッキュア・ショー   作:川崎三文

3 / 6
2.5話【ニコの履歴書】

 むかーしむかし、一柱の神が病みました。

 

 世界は始めから、どこまでも不平等に作られていました。神々の間にも格差がありました。

 

 それは、世界の誕生と同時に生まれた三柱の神も同じでした。

 

 創造神ヤグラと破壊神テロン、二柱の神は大きな力を持って生まれてきました。

しかし、最後の一柱、維持神ニコは小さな力を持って生まれてきました。

 

 神というのは名ばかりで、ニコの仕事は、創造神と破壊神がその力を自由に行使した後の、面倒な後始末と調整ばかり。その上、たまたま力を持って生まれただけの破壊神と創造神からは、いつも見下されていました。

 

 ニコはいつも思っていました。

 

『創造神は気楽でいい。好き勝手に創造するだけだ』

 

『破壊神も気楽でいい。好き勝手に破壊するだけだ』

 

 ニコはいつも言われていました。

 

『お前は一切、戦わない』

 

『お前は一切、生み出さない』

 

『『お前はいつも気楽でいいな』』

 

 それでもニコは働きました。やりたくない仕事ばかりやさらされました。仕事の量も、仕事の内容も、仕事の時間も何一つ、自分の意志では決められませんでした。

 

 創造神が気まぐれに「創造したい」と思えば、その瞬間に調整の仕事が生まれ、破壊神が気まぐれに「破壊したい」と思えば、その瞬間に後始末の仕事が生まれました。

 

 力ある者達の間に挟まれ、ニコは心をすり減らし、ストレスから血を吐いて、働いて働いて働きました。ヤグラはポンッと創造し、テロンはボンッと破壊して、余った時間で自分を磨き、趣味や娯楽も楽しみました。その間もニコは、働いて働いて働きました。

 

 神の報酬は人間達の信仰心です。しかし、ニコに対する信仰心は、創造神と破壊神の二十分の一以下でした。

 

 それでもニコは働きました。神という立場上、仕事から逃げ出すわけにはいかないと考えていたのです。この頃のニコは真面目でした。

 

 ニコはいつも言われていました。

 

『お前は一切、戦わない』

 

『お前は一切、生み出さない』

 

『力の弱さを言い訳にして何もしない』

 

『お前のような神が多くの信仰を得られるわけがない』

 

 ニコは理解していました。テロンとヤグラの言葉は、どうしようもなく正しい。その絶対的な正しさゆえに、ニコはその言葉に反論することも、その言葉から逃げることも許されませんでした。

 

 力を持って生まれた神の、正しい言葉をありがたく受けとめて、やりたくもない仕事をやり続けなくてはなりませんでした。

 

 ニコにとってそれは、永遠に終わらない地獄でした。彼女に残された唯一の道は、壊れることだけでした。

 

 ニコはいつも思っていました。

 

『私だって、大きな力があれば、破壊したい』

 

『私だって、大きな力があれば、創造したい』

 

『力を持って生まれていれば。力を持って生まれていれば。力を持って生まれていれば』

 

 気付けば、ニコは叫んでいました。気付けばニコは病んでいました。

 

『力無き神として生んでくれなど、誰にも頼んだ覚えはない。消えたい、消えたい、消滅したい』

 

 ある日ニコは、無駄だと分かっていながらも、自ら命を絶とうとしました。しかしできませんでした。創造神がいる限り、破壊神がいる限り、彼らの作り出す『仕事』が存在する限り、勝手に消滅することは許されないのです。本人の意志など考慮されません。

 

『お前の命は、お前一人だけのものでは無いのだぞ』

 

『お前が死ねば、私達は悲しい』

 

 大きな力を持って生まれた二柱の神は、いつもニコにそう言いました。

 ニコはこの言葉が一番嫌いでした。この言葉を聞くと、怒りでどうにかなってしまいそうでした。

 

 自らの意志では消滅できないという点では、創造神と破壊神も同じでした。彼らもまた、彼らを生んだ世界が存在する以上、自分たちの意志で消滅することができないのです。

 

 創造神は言いました。

 

『私達もまた、お前と同じ悩みを抱えて生きているのだ、ニコ』

 

 しかし、ニコは知っていました。

 

 力を持って生まれた彼らは、死にたいなんて思ったことは一度も無いし、毎日消えたいと願うニコの気持など全く理解できなかったのです。それどころか、消えたいと願うニコの思いに、一抹の興味すら抱いていませんでした。

 

 その点において、テロンとヤグラに悪意はありません。ただ純粋に興味が無いのです。仮に興味を持ったとしても、ニコの苦しみを理解することはできないでしょう。

 

 力を持った二柱の神は、常にこう考えているからです。スケールの大きさ、強弱が違うだけで、ニコも私達も、同じことに悩み、同じことに苦しんでいるのだ。私達は同じ神なのだから。

 

 ニコは二度目の自死に挑みました。

 

 そして、その残酷な理を、再度身をもって体験しました。

 

 この日を境に、ニコの目からハイライトが消えました。

 

 気付けばニコは壊れていました。

 

 それから時は流れに流れ、抵抗することを諦めたニコが死んだ魚のような目でわずかな信仰を回収していると、ふとあることに気付きました。

 

『人間達の中にも、自分と同じような悩みを抱えている者達が居るのか』

 

 ニコは思い切って、超絶美少女に変身しました。

 

 そして人間達の前に姿を現し、自らの悩みを打ち明けました。

 

 人間達はニコの苦しみを肯定しました。ヤグラとテロンの言葉は正しい。

 

 しかし、彼らの正しい言葉で壊れたニコも、また正しいと。

 

 人間たちと交流する中で、ニコの考えは日に日に歪んでいきました。

 

 ゲームやアニメの影響も受けました。

 

 バランスが取れちゃいない。神である自分が本当の意味でバランスの取れた世界を作らなきゃいけない。

 

 ある日を境に、ニコは働かなくなりました。

 

 そして気付いたのです。驚くべき真実に。

 

 創造神と破壊神の活動が続く限り『仕事』が無くなることはありません。『仕事』が存在する限り、ニコは死ぬことが許されません。しかし、『働かない』という選択肢はありだったのです。

 

 創造神と破壊神は驚愕しました。

 

『え、あいつ働かなくてもいいのかよ・・・・・・』

 

 そうです。ニコが働かなくなった分、創造神と破壊神に働かせればよかったのです。彼らは大きな力を持って生まれたのですから。

 

 しかし、ヤグラとテロンは神としての仕事を放棄したニコに、ふつふつと怒りを募らせていきました。

 

『どうしてこんな誰にでもできる仕事を、私達がしなければならないのだ』

 

 ニコの無職生活も、永遠に続くというわけではなさそうです。

 

 一方で、働かなくなってからのニコの思想はどんどん過激になっていきました。

 

 すべてを無に返せばいい。創造も破壊も、二度とできないような無の世界をつくればいい。

 

 そうだ、始めからそうすればよかった。一人で穏やかに消えることが許されないなら、創造神と破壊神のせいで、世界が存在するせいで、安らかなる消滅が許されないなら、世界を消してしまえばいい。

 

『もう二度と、働きたくないから。あそこには戻りたくないから』

 

 安楽死。小さな力しか持たないニコは、自分の本当の望みに気付きました。

 

 私の悲願が叶うとき、真にバランスの取れた世界が生まれるのだ。私の存在しない世界。私が唯一安らげる世界が。

 

 しかし一方で、創造神と破壊神から与えれていた気の遠くなるような長時間労働のせいで、ニコは一番大切なことを忘れていました。自分が大した力を持っていないことを。

 

 ある日、エナジードリンクに含まれるカフェインのせいで気持が大きくなっていたニコは、すぐに自分の考えを人間達に話しました。

 

 人間達は思いました。『RPGのラスボスは正しかった』と。

 

 やがて、ニコと人間達は力を合わせて、宇宙の消滅を目的とした恐ろしい組織を結成しました。

 

『スペース虚無虚無ワゴン団』

 

 大した力を持っていないと言えど、それは創造神や破壊神と比べた場合の話で、ニコは人間達から見ればかなり大きな力を持っていました。

 

 救いようのない負の感情を抱き続けてきたニコは、『きょむきょむエナジー』と呼ばれるエネルギーを生成できるようになっていました。このエネルギーを注がれた人間は、怪人となり、常人を遙かに超えた身体能力や、異能を発揮できるようになるのです。

 

 このような力を与える儀式を、団員たちは『きょむきょむ』と呼ぶようになり、『スペース虚無虚無ワゴン団』は割とすぐに『きょむきょむ団』と略されるようになりました。

 

 きょむきょむ団は活動を開始しました。社会からはじき出された人間、闇落ちの素質のある人間、あるいはすでに闇落ちしている人間に力を与え『きょむきょむ団』は順調に勢力を拡大していきました。

 

 しかし、大きな問題もありました。結成したものの、どうやって宇宙を消滅させれば良いのか、ニコを含めて誰もその方法を知らなかったのです。

 

 『スペース虚無虚無ワゴン団』結成から五年目、ニコは一度だけプライドを捨てて、敵である破壊神に「どうすれば宇宙を消滅させることができるのか」とメッセージを送りました。「そこまでは俺も知らねーよ」という返事が帰ってきました。

 

 ニコは途方に暮れましたが、怪人となり万能感を得た怪人たちは、そのうちなんとかなるだろう、と気楽に構えていました。

 

 そうこうしているうちに、創造神と破壊神も『きょむきょむ団』に対抗するべく、その辺の人間を適当に選んで力を与えるようになりました。

 

 『魔法銃士 プリズムアタッキュア』の誕生です。

 

 呼び名は初代が考えました。

 

 ぶっちゃけ、創造神と破壊神からすればニコも怪人達もいつでも潰せる雑魚に過ぎなかったので、人選も、与える力のさじ加減もかなり杜撰なものでした。

 

 では、なぜ創造神と破壊神は直接ニコを叩かないのか。

 

 同期だからです。

 

 同期は互いに殺し合うことができないのです。いつでも潰せる雑魚というのはレベルの話で、直接潰すことはできないのです。

 

 かと言って、力を与えすぎても器たる人間はすぐに壊れてしまいます。

 

 こうして、『きょむきょむ団』と『アタッキュア』の長い戦いが始まりました。

 

 『きょむきょむ団』の活動内容は二つ。

 

 一つは一般人をワゴンに引きずり込んで、『きょむきょむ』して、目のハイライトを奪い自分たちの仲間にすることです。

 

 『アタッキュア』の主な活動目的は、この『きょむきょむ』を阻止することです。

 

 そして、あわよくばニコの尻を叩いて、働くよう促すことです。

 

 アタッキュアに一回尻を叩かれる度に、ニコは一ヶ月間、神々の元で労働しなくてはなりません。

 

 きょむきょむと呼ばれる儀式の具体的な内容は、ケーキ作りなどに使用するクリームの『絞り袋』に『きょむきょむエナジー』を詰め込んで全身の穴という穴に注ぎ込む、というものです。

 

 『きょむきょむエナジー』の見た目は焦げ茶色の生クリーム、つまりはう○こなので、儀式の描写が下品、お下劣だと保護者から苦情がきて、一話の放送以後、きょむきょむのシーンはカットされるようになりました。

 

 『子供たちにスカトロ描写を見せないで!!!!』

 

 二話以降、きょむきょむ団のワゴンに連れ込まれたモブは、目のハイライトを失い、全身焦げ茶色のクリームまみれになってワゴンから出てきて怪物化する、という描写に省略されています。

 

 きょむきょむ団の二つ目の活動は、どうすれば宇宙を無に返すことができるのか、ワゴンに乗って世界中を巡り、その方法を模索するというものです。

 

 『アタッキュア』との戦いが始まって十年経った今でも、その方法は見つかっていません。

 

 十年間続く戦いの中で、アタッキュアサイドは何人もの犠牲者を出したましたが、敵サイド『スペース虚無虚無ワゴン団』は一度も壊滅しておらず、組織を維持し続けました。 

 

 宇宙の消滅という目的こそ達成していないものの、維持神ニコは、自分の領分の仕事だけはきっちりとこなしていたのです。

 

 『きょむきょむ団』と『アタッキュア』の戦いは続きます。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。