ダイレクト・アタッキュア・ショー   作:川崎三文

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三話【大いなる誤算】

 青空の下、公園の芝生の上にはシンプルな屋外ステージが設置されていて、子供たちは会場の席に座った後もわいわいとはしゃいでいた。 

 

千束「おお、元気ですなー」

 

たきな「大人しくショーを見てくれれば良いのですが」

 

 保育士さんと手分けして子供達の誘導を終えた千束とたきなは、観客席に深く腰掛けると、ホッと全身の力を抜いた。

 

ミカ「お疲れ」

 

 飲み物を買いに行っていたミカとミズキが戻ってきた。ミカは二人にペットボトルのお茶を渡した。ミズキは缶ビールのタブを開ける。クルミはドローンで空から会場を監視していた。

 

???「こんな場所で再開するとはな」

 

 背後から聞き覚えのある声がして、振り向いたミカは目を丸くした。

 

ミカ「ジン!?」

 

千束「うわっ、サイレントジンだ。なんでいるの?」

 

ジン「お前達にこんな趣味があったとは」

 

千束「そりゃ、こっちのセイフだよ」

 

たきな「私達は子供の引率です」

 

ミズキ「お前これ系のオタクだったのかよ、殺し屋なのに」

 

ミカ「ジン!? まさか、お前も六人のテロリストの一人なのか?」

 

ジン「テロリスト? なんのことだ。俺は今回のショーの脚本と、本番の司会進行を依頼されただけだ」

 

ミズキ「引き受けてんじゃねーよ、そんな依頼!!」

 

たきな「じゃあ、今日のショーのシナリオはあなたが作ったのですか?」

 

ジン「脚本を書いたと言っただろう。不思議か?」

 

たきな「不思議ですよ。と言うより不自然です。どうしてジンさんに女児向けアニメの仕事の依頼が・・・・・・」

 

ジン「依頼者のプライバシーは聞かない主義だ」

 

たきな「そういうことじゃなくて」

 

千束(・・・・・・ジンさん、一人で女児向けアニメの動画見て研究してたのかな)

 

千束「相談してくれればよかったのに」

 

ジン「どういう意味だ?」

 

ミカ「しかし、意外な一面だな。昔のお前からは想像もつかんよ」

 

ジン「実は十年ほど前から殺し屋とシナリオライターを兼業していてな。最初は苦戦したが、打ち込んでいるうちに、作品の方も人気が出てシリーズ化しんたんだ。子供向けアニメらしくないテーマとシナリオが受けたらしい。話す必要はないと判断して、お前には黙っていた」

 

ジン「確かに、話す必要は無いな・・・・・・」

 

 千束は辺りを見回した。会場には大きなお友達もたくさん居た。

 

クルミ『十年前ってことは、もしかしてアタッキュアシリーズの脚本は全部お前が書いてたのか?』

 

 たきなが膝の上に置いていたタブレットからクルミの声が響いた。

 

ジン「ああ、脚本と構成はすべて俺が担当している」

 

クルミ『通りで・・・・・・』

 

ジン「シナリオライターはあくまで副業だ。本業は殺し屋のままさ」

 

 ジンは瞳と閉じて、しみじみとした表情になった。

 

ジン「殺しの仕事で体を動かしているとな、ふとした瞬間にインスピレーションや、象徴的な場面が浮かぶんだよ。それを形にしたい衝動を抑えられなかったんだ」

 

ミズキ「間違っても命の大切さとか説くんじゃねーぞ!!!!」

 

ミカ「まぁ、何を書こうがお前の自由だが・・・・・・」

 

ジン「ショーに来た以上、お前達も客だ。子供向けで退屈かもしれないが、楽しんでくれ」

 

千束「あの、余計なお世話かもしれませんが」

 

ジン「何だ?」

 

千束「シナリオはともかく、司会はたきなと交代した方がいいと思います」

 

たきな「余計なこと言わないでください、千束の方が向いてます」

 

ミズキ「まー司会は元気なお姉さんがやるのが普通だわな」

 

ジン「今から台本を覚えるつもりか。またショーをする機会があれば考えておこう」

 

 そう言い残して、ジンは舞台セットの方に去って行った。

 

ミカ(何ごともなく終わればいいが)

 

 

 ※※※※

 

 

 フキ達は舞台裏で監督と打ち合わせを始めた。敵役の六人のテロリストは打ち合わせに現れなかった。

 

 敵を演じる役者の普段の姿や優しい姿をみると、安心感や親近感が生まれて、本番でも自然と気が抜けて演技に緊迫感がでなくなる。という監督の方針らしい。

 

 話を聞いていたサクラは「大丈夫なのか、この監督」と首を傾げた。

 

 打ち合わせの最後に、実際のショーで起きたハプニング映像をまとめた動画を見せられた。段差で転倒したり、ステッキや衣装の装飾品が壊れたり、舞台の仕掛けが正しく作動しなかったり、音響トラブルなどもあった。

 

監督「とにかくこの手のショーにトラブルは付きものだ。大切なのは間違えても動揺しないこと。観客にミスを悟らせないよう堂々と振る舞うことだ」

 

監督「どんなに入念なチェックを行っても、現場では必ずなにかしらのトラブルが起こる。アドリブが必要な状況に追い込まれることもあるだろう」

 

監督「このハプニング映像を参考に、あらゆるトラブルを想定してショーに挑んで欲しい」

 

 フキ、サクラ、エリカ、ヒバナの耳には、監督の言葉すべてがフラグに聞こえた。

 

 打ち合わせを終えて控え室に戻ると、完成したコスプレ衣装が届いていた。サクラは衣装に袖を通しながら悪態をついた。

 

サクラ「マジでショーの当日に届くとはな」

 

エリカ「衣装を作ってくれた人も、いろいろと忙しいんだよ、きっと」

 

ヒバナ「しかし凄いな、サイズぴったりだ」

 

フキ「問題はこのデザインだな」

 

 衣装を着用した四人は並んで鏡の前に立った。四人とも見事にフリフリの衣装で、フキの演じる初代のイメージカラーは赤、小さめのベレー帽を頭に乗せている。

 

 サクラ演じる二代目のイメージカラーはピンクで、全体的に花をイメージした装飾が目立つ。

 

 エリカ演じる五代目のイメージカラーは白で、黒い猫耳と尻尾を生やしている。それだけなら良くあるデザインなのだが、所々、小さく黒い蛇のような模様もあしらわれていた。

 

 ヒバナに至っては、体の部位ごとに衣装のベースとなる色が違う。右腕は緑、左腕は青、両足は黒、胴体は紫、頭は黄色、といった具合で、彼女の演じるガンバナヒーの、五人の魔法銃士が融合したという設定のためである。

 

 鏡に映る自分たちの恥ずかしい姿を見て、フキとサクラとヒバナは口をへの字に曲げたまま、わずかに頬を赤らめた。エリカだけは少し嬉しそうだ。

 

サクラ「これから、大勢の人にこの姿を見られるんすね」

 

エリカ「飛んだり、跳ねたり、恥ずかしいセイフを吐いたり、恥ずかしいポーズを取ったりするんだね」

 

ヒバナ「不謹慎だけどさ、開幕直後に暴れてくれねぇかな、テロリスト共」

 

サクラ「テロが起きなきゃ、ただの晒し者になって終わりっすね」

 

フキ「サクラ、先生は来てたか?」

 

サクラ「バッチリ来てました。千束とたきなも一緒っす」

 

エリカ(そっか、たきなも来てくれたんだ・・・・・・)

 

フキ「この状況、控えめに言っても公開処刑だな」

 

 どんよりとした沈黙の中、フキのスマホの着信が鳴った。

 

フキ「司令」

 

楠木「衣装は無事届いていたか」

 

フキ「はい、いま着たところです」

 

楠木「サイズは」

 

フキ「ジャストです。四人とも問題ありません」

 

楠木「そうか、なら私から伝えるべきことはもう何もない」

 

エリカ(早っ)

 

楠木「各々、三日間の練習の成果を出し切って、全力で子供達を楽しませろ」

 

サクラ「司令、ひとつ確認したいことが」

 

楠木「何だ、またお前か。細かいヤツめ」

 

サクラ「制服を着用していないリコリスは発砲を許可されていません。テロリストが暴れた場合、私達はアタッキュアの衣装のまま銃火器による反撃を行って問題ないのでしょうか?」

 

楠木「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ヒバナ(え、なんすかこの過去イチ長い沈黙)

 

楠木「何事もなくショーが終わるのを祈るしかないな」

 

「「「「楠木司令!!!!」」」」

 

楠木「む? たった今ラジアータがハッキングされたようだ。忙しいので切る」

 

 楠木司令は一方的に通信を切った。

 

エリカ「こんな防御力ゼロの衣装で、テロリスト相手に素手で戦うなんて無理だよ! 私達普通の女の子なんだよ!」

 

サクラ「フツーではないと思うっすけど」

 

ヒバナ「大丈夫、エリカは絶対に私が守るから」

 

 ヒバナはエリカの肩をガシッと抱いた。

 

フキ「もしもの時は、これまでの知識と経験をフルに活かして対処するしかねーな」

 

サクラ「限度があるっす」

 

 突然、フキが何かを悟ったような笑みを浮かべた。

 

サクラ「どうしたんすか? フキ先輩」

 

フキ「いや、大嫌いなヤツの言葉を思い出してな」

 

フキ「『トラブルを楽しむのが千束流』。アイツと組んでいた頃、よく言われたよ」

 

サクラ「だから、ドラブルにも限度があるっすよ」

 

フキ「『どうにもならないことに悩んでもしょうがない。受け入れて、全力。だいたいそれでいいことが起こる』アイツはそう言っていた」

 

エリカ「ねぇフキ、さっきから現実逃避しようとしてない? もしかして一番メンタルやばい?」

 

フキ「腹くくるぞお前ら。人生ってのは、計画通りにはいかないもんなんだよ」

 

ヒバナ「それはちゃんと計画を立てて計画通り行動したヤツが言うセイフだろ」

 

エリカ「今回は楠木司令が計画を立てずに、行き当たりばったりで行動したから、私達こんな目にあってるんだよ?」

 

サクラ「作戦当日に武器の使用不可は予想外だったっすねー」

 

ヒバナ「気付かなかったアタシらにも落ち度はあるけどな。つかサクラ、お前なんでさっきの質問をもっと早くしなかった」

 

サクラ「実際に衣装に袖を通したのが当日だったからっすよ。みんなもそのせいで気付かなかったんじゃないっすか?」

 

 その時、コンコン、と誰かがドアをノックした。

 

フキ「どうぞ」

 

 ガチャ。

 

スタッフ「みなさん、本番三十分前です。そろそろ舞台裏に移動してくださーい」

 

「「「「はーーーい」」」」

 

 四人はニッコリと不自然な笑顔を貼り付けて答えた。

 

サクラ「はぁ・・・・・・。受け入れて前に進むしか無いんすね、理不尽を」

 

ヒバナ「ねぇ、いい加減、気持切り替えようよ。自信持とう。力を合わせれば武装したテロリスト六人くらい、素手でどうにかなるって」

 

エリカ「ふふ、なんだかヒバナが言うと説得力あるよね」

 

サクラ「一番ガタイがいいからな」

 

フキ「おし、かましてやるか。お前ら、DAの略は?」

 

サクラ&エリカ&ヒバナ「「「Direct Attack」」」

 

サクラ「・・・・・・」

 

サクラ「楠木司令とフキ先輩、それ言わせとけば何でも許されると思ってませんか?」

 

フキ「行くぞ」

 

 最終話に続く。

 

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